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第三章 第二節 目覚め
3 理由
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「どうしてそう思うのです?」
「あの時と一緒なんだよ。マユリアが言ってただろ?共鳴ってやつだ。それから、初めて会った時な。あんたはいなかったが、あいつが初めて俺を見に来て視線をぶつけてきやがった時、あの時と同じで体から全部力が奪われちまったみたいで動けねえんだよ」
そのことはミーヤから聞いていた。聞いてマユリアに報告の後、触れぬことにしてあったのだ。
「なあ、あっただろ?」
「何があったのですか?」
逆にキリエがトーヤに聞く。
「質問に質問返しはなしだって言うぜ?」
苦笑するようにトーヤがそう言ってから、それでも何があったかを話す。
「寝てたら誰かが俺の中に入ってきやがった。それで目が覚めたんだが、そいつが俺の体を使って外を見たり聞いたりしようとしてやがった」
「誰かが、ですか」
心臓が喉から飛び出るほど驚きながら、キリエは顔には出さず尋ねる。
「そうだ。誰かが俺のことを道具にしようとしやがった」
「それでどうなりました?」
「俺の体を使うなって怒鳴りつけておん出してやった」
「それはいつ頃の話ですか?」
「なんか1つ目の鐘が鳴った後ぐらいじゃねえかなあ。半分以上寝てたが遠くで鐘が鳴った少し後な気がする」
「そうですか……」
キリエは確信した。あの時、いきなりシャンタルが叫んだ時、あれはトーヤにはじき出された衝撃で叫んだのだと。
「なあ、どうなんだよ?」
トーヤがもう一度そう聞いてキリエの顔を見るが、心の中の動揺を表に出すことはない。いつもの鉄の仮面、侍女頭の顔だ。
「不思議なことがあるものですね」
「まいったな……」
トーヤが苦笑する。
「ってことは、なにかあったが言うつもりはねえってことだな。まあいいや、聞くだけ無駄だな」
ふっと上を向き直して言う。
「黒い棺を見せようと思って来たのですが、その状態では無理でしょうかね」
「いや、行ける……と言いたいとこだが、ちょっとの間無理だな」
「でしょうね」
「すまねえな、あんたも忙しいだろうに。時間作って来てくれたんだろ?全く、なんでこうなるかな……」
ふうっとトーヤがため息をついた。
「なぜなのですか……」
「え?」
キリエがつぶやくように言う。
「なぜあんなことを?」
「何がだ?」
「単にシャンタルを見捨てるだけなら、あんなことを言わずとも、助けず黙って姿を消せばいいだけでしょうに」
トーヤは答えなかった。
「もしもお金のためなら、それこそ割り切って助ければいいだけのこと。ひどい言い方をすれば、お金だけのためならば、お金を受け取って逃げればいいだけではないですか?この国を出て二度と戻らぬ決意ならば、そうすればいいでしょう」
「ミーヤだな」
トーヤが苦笑する。
「ええ、シャンタルを助けられぬ時は二度とこの国には戻らぬと言ったそうですね」
「言った」
「ということは、戻りたいと思っているということですね?」
「あいつ、おしゃべりだな……」
ふうっとそう言うとキリエから顔を背ける。
「ならばシャンタルを助ければいいだけのことでしょう」
「あんたらと一緒だよ」
向こうを向いたまま言う。
「あんたらだって、託宣ってのを無視してあいつを沈めなきゃいいだけじゃねえか」
「そうですね……」
キリエが認める。
「じゃあなんでなんだ?なんで大事なシャンタルを沈める?」
「それは託宣があるからです。従わなければこの世界がどうなるか分からぬからです」
「先のことなんてな、誰にもどうなるか分からねえんだよ」
トーヤがキリエを向いて目を合わせて言う。
「だから、託宣に従ったからその通りに世界が動いたかどうかなんか分からねえんだよ。だったらあんたらも自分で道を選べばいいじゃねえか」
「簡単に言いますね」
キリエが苦笑する。
「この国はずっと託宣に従って動いてきました。託宣が全てです。ですから、やめるという選択肢はないのです」
「そっちこそ簡単に言うよな」
トーヤが上半身を辛そうに起こした。
「寝ていた方がいいのではないですか?」
「こっちにも意地があるからな。あんたが座ってるから俺も座るよ。対等で話したいからな」
ようやっとというようにソファに背をもたせて座り直す。
「ちいっとばかり行儀悪いのは許してもらうぜ。もっとも、いつもうるさく言う世話役は今姿が見えねえけどな」
そう言ってふっと優しい顔になって笑った。
「あんたらは託宣に従って動くと言った。自分らの考えはねえのか?俺はそこが気に入らねえ。自分らで決めずに俺に選べと言う。俺があいつを見捨てないだろう、そう思った上でな。そういう意味で信じてただろ?なめてるよなあ」
さっきとは違う、皮肉をこめた笑顔になった。
「だからな、俺は決めないことにしたんだ。あんたらと、シャンタル本人が決めればいい。はっきり言って辛い。あんな人形みたいなやつでも黙って湖に沈んで死んでいくのかと思うと辛くて仕方ない。助けてやりたい。でも決めたんだよ、俺は自分が決めない、とな」
今度は苦しそうな顔で笑う。
「だから、あいつを助けるには理由がいるんだ。その一つは金だ。そしてもう一つはあいつが助けてくれと頼むことだ。頼まれたら助けてやるしかないだろ?」
「あの時と一緒なんだよ。マユリアが言ってただろ?共鳴ってやつだ。それから、初めて会った時な。あんたはいなかったが、あいつが初めて俺を見に来て視線をぶつけてきやがった時、あの時と同じで体から全部力が奪われちまったみたいで動けねえんだよ」
そのことはミーヤから聞いていた。聞いてマユリアに報告の後、触れぬことにしてあったのだ。
「なあ、あっただろ?」
「何があったのですか?」
逆にキリエがトーヤに聞く。
「質問に質問返しはなしだって言うぜ?」
苦笑するようにトーヤがそう言ってから、それでも何があったかを話す。
「寝てたら誰かが俺の中に入ってきやがった。それで目が覚めたんだが、そいつが俺の体を使って外を見たり聞いたりしようとしてやがった」
「誰かが、ですか」
心臓が喉から飛び出るほど驚きながら、キリエは顔には出さず尋ねる。
「そうだ。誰かが俺のことを道具にしようとしやがった」
「それでどうなりました?」
「俺の体を使うなって怒鳴りつけておん出してやった」
「それはいつ頃の話ですか?」
「なんか1つ目の鐘が鳴った後ぐらいじゃねえかなあ。半分以上寝てたが遠くで鐘が鳴った少し後な気がする」
「そうですか……」
キリエは確信した。あの時、いきなりシャンタルが叫んだ時、あれはトーヤにはじき出された衝撃で叫んだのだと。
「なあ、どうなんだよ?」
トーヤがもう一度そう聞いてキリエの顔を見るが、心の中の動揺を表に出すことはない。いつもの鉄の仮面、侍女頭の顔だ。
「不思議なことがあるものですね」
「まいったな……」
トーヤが苦笑する。
「ってことは、なにかあったが言うつもりはねえってことだな。まあいいや、聞くだけ無駄だな」
ふっと上を向き直して言う。
「黒い棺を見せようと思って来たのですが、その状態では無理でしょうかね」
「いや、行ける……と言いたいとこだが、ちょっとの間無理だな」
「でしょうね」
「すまねえな、あんたも忙しいだろうに。時間作って来てくれたんだろ?全く、なんでこうなるかな……」
ふうっとトーヤがため息をついた。
「なぜなのですか……」
「え?」
キリエがつぶやくように言う。
「なぜあんなことを?」
「何がだ?」
「単にシャンタルを見捨てるだけなら、あんなことを言わずとも、助けず黙って姿を消せばいいだけでしょうに」
トーヤは答えなかった。
「もしもお金のためなら、それこそ割り切って助ければいいだけのこと。ひどい言い方をすれば、お金だけのためならば、お金を受け取って逃げればいいだけではないですか?この国を出て二度と戻らぬ決意ならば、そうすればいいでしょう」
「ミーヤだな」
トーヤが苦笑する。
「ええ、シャンタルを助けられぬ時は二度とこの国には戻らぬと言ったそうですね」
「言った」
「ということは、戻りたいと思っているということですね?」
「あいつ、おしゃべりだな……」
ふうっとそう言うとキリエから顔を背ける。
「ならばシャンタルを助ければいいだけのことでしょう」
「あんたらと一緒だよ」
向こうを向いたまま言う。
「あんたらだって、託宣ってのを無視してあいつを沈めなきゃいいだけじゃねえか」
「そうですね……」
キリエが認める。
「じゃあなんでなんだ?なんで大事なシャンタルを沈める?」
「それは託宣があるからです。従わなければこの世界がどうなるか分からぬからです」
「先のことなんてな、誰にもどうなるか分からねえんだよ」
トーヤがキリエを向いて目を合わせて言う。
「だから、託宣に従ったからその通りに世界が動いたかどうかなんか分からねえんだよ。だったらあんたらも自分で道を選べばいいじゃねえか」
「簡単に言いますね」
キリエが苦笑する。
「この国はずっと託宣に従って動いてきました。託宣が全てです。ですから、やめるという選択肢はないのです」
「そっちこそ簡単に言うよな」
トーヤが上半身を辛そうに起こした。
「寝ていた方がいいのではないですか?」
「こっちにも意地があるからな。あんたが座ってるから俺も座るよ。対等で話したいからな」
ようやっとというようにソファに背をもたせて座り直す。
「ちいっとばかり行儀悪いのは許してもらうぜ。もっとも、いつもうるさく言う世話役は今姿が見えねえけどな」
そう言ってふっと優しい顔になって笑った。
「あんたらは託宣に従って動くと言った。自分らの考えはねえのか?俺はそこが気に入らねえ。自分らで決めずに俺に選べと言う。俺があいつを見捨てないだろう、そう思った上でな。そういう意味で信じてただろ?なめてるよなあ」
さっきとは違う、皮肉をこめた笑顔になった。
「だからな、俺は決めないことにしたんだ。あんたらと、シャンタル本人が決めればいい。はっきり言って辛い。あんな人形みたいなやつでも黙って湖に沈んで死んでいくのかと思うと辛くて仕方ない。助けてやりたい。でも決めたんだよ、俺は自分が決めない、とな」
今度は苦しそうな顔で笑う。
「だから、あいつを助けるには理由がいるんだ。その一つは金だ。そしてもう一つはあいつが助けてくれと頼むことだ。頼まれたら助けてやるしかないだろ?」
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