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第二章 第六節 奇跡

 9 定期航路

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「ほらな、俺の言った通りだっただろ?」
「疑って悪かったなあ……まさか、そんな生き物が本当にいるなんてな。てっきりトーヤの作り話かと……」
「おい……」

 2人のやり取りを聞いてアロが大きな声で笑った。

「いやあ、いいですなあ、お二人は本当に仲がよろしい。良い友人を持つこと、これに勝る宝はございません」
「ええ、俺も本当にそう思ってます。このダルは、見た目はひょろっとしてるしちょっと頼りないように見えますが、芯は一本通ってますし頭もいい。こいつ以上の宝はめったにないと思ってます」
「おい、おいおいおい……」

 ダルが困ったように顔を赤く染める。

「本当に素晴らしい。お二人の友情に乾杯したくなりました。今準備させます。おい!」
「あ、ちょっと、俺、酒が全然飲めなくて」

 家の者を呼ぼうとするアロを止める。

「なんと、全然ですか?少しぐらいは」
「いえ、トーヤは本当にだめなんです。前に俺の村で間違えて俺の酒を飲んでしまってえらいことになりました」
「それは、惜しいことですなあ……」
「本当に、飲めないって人生を損してますよねえ……」
「ええ、まことに……」

 あまりに2人に気の毒そうにされ、トーヤが頭をかく。

「アルディナにはそういう方が多いのですかな?そう言えば私が訪問した先にもそのような方がいらっしゃいました」
「いやあ、どうでしょうね、俺の知ってる中にはほとんどいなかったように思いますが」
「まあ飲めぬからと言って何か問題のあるということもなし、ですが、楽しみが一つ少なくなるというのは少しばかりさびしいですな」
「ええ、まあ、そのぐらいです」

 これと言って何もない会話を続けながら、ちょうどこの頃と接穂を探していたところだった。

「本当にアルディナについてお詳しい」
「いやいや、そんなに長くいたわけでもありませんし、このぐらいですよ」
「いや、俺が見るに、今、この国であなたほどアルディナについて詳しい方はいらっしゃらないと思います」
「そ、そうですかな、いやあ、ははははは」

 持ち上げられて心底うれしそうだ。
 そういう表情はリルとよく似ていると思った。いや、悪い意味ではなく感情に素直なのだ。

「でしたら、この先アルディナとの間に海路を開かれて定期便の先駆けなんか考えられてはいかがですか?」
「え、定期便?」
「ええ、これから必要になっていくのではと思いますよ」
「先駆け……」

 よし乗ってきた。トーヤは半歩分ずずっと体を乗り出して続けた。

「やはりこういうのは誰か勇気のある方が名乗りを上げないと進まない話だと思います」
「いや、いやいやいや……」
「その点ではオーサ商会会長であるあなた、アロさん、とお呼びさせていただきますね、そのアロさんほどふさわしい方はいらっしゃらないかと」
「いやあ……」

 またずずっと半歩分乗り出す。

「いかがです?本当に考えてみては」
「定期便、ですか、いや……いやあ、どうでしょうなあ……」

 考えるのも無理はない。
 海路で一月、だけならそれぐらいの長さの航海をする船はいくらもある。シャンタリオから東にはそういう船はもっとたくさん走っている。
 途中、寄る港がないということは確かに大きい。だが、それ以上に神域が違うということが思った以上に大きな壁となっているようだ。理由は分からないがそれが2つの大陸の間の行き来を活発にしてこなかった。

「これから時代は変わっていきますよ。俺がその証拠です」
「え、トーヤ殿が?」
「はい。俺が、アルディナ生まれの俺が嵐でシャンタリオに運ばれ、おそらくは神のご意思で宮の手伝いをさせていただくようになる。これは、これからの世界が、2つの神域が、交流を深めていくことの証左しょうさではないかと」
「いや、いやいやいや……」
「宮も変わりつつあります。このダルがその印かと」
「え、俺?」

 ぼーっと聞いていたダルはいきなり話に引っ張り込まれて驚いた。

「そうだよ。マユリアもおっしゃってただろ?今までは宮は衛士、街は憲兵と分かれていたがこれからは両方をつなぐ存在が必要になる、と。それで架け橋として虹の兵が生まれたんじゃねえか」
「言われてみれば、そうかな……」
「娘の手紙にもありました。その名付けに一役買わせていただいた、と」
「そうです。リルさんの考えをマユリアも素敵だ、とほめていらっしゃいました」
「いや、いやいやいや、これは、参りましたな……」

 アロが丸い顔をさらに丸くするように破顔した。

「これは、世の中が変わっていくという神のご意思かと思います。いや、無理にとは申しませんよ?ですが、他のまたどこか、オーサ商会と同じぐらいか、もしもあるのならもっと大きなどこか、もしくは外の国の誰かが思い付いて早く動いたら……いやあ、惜しい、非常に惜しい……」

 アロはトーヤの言葉を聞いていて焦りを感じてきたようだった。
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