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第二章 第六節 奇跡
3 オーサ商会
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「俺も聞いてみたいなあ。トーヤから聞くだけだとどこまで本当か分かんねえし」
「おいおい、俺がホラ吹きみたいに言うなよな」
「みたいにって、みたいじゃなくてそうじゃねえか」
「ひでえなあ」
2人のやり取りを聞いて女性2人が笑う。
「ちょうど明日、父が面会に来るように申してました。よかったらお二人がお話をなさりたいとおっしゃっていたとお伝えしますが」
「いいなあ、ぜひとも頼みたい」
「あ、俺も」
「分かりました、では明日、そう伝えておきますね」
リルの実家は「オーサ商会」という王都でも有名な大商人の家らしい。宮からも近く、家族もちょくちょく面会にやってくる。ダルの世話役に抜擢されたと手紙を届けたら、その話を聞きたくて早速面会の約束を取り付けてきたのだ。
リルは、自分だけ仲間はずれにされているような気分で部屋に入ってきた時とは違い、ご機嫌で鼻歌でも歌い兼ねないぐらいの軽い足取りで侍女の控室に戻っていった。
「では私も戻りますね。ご用があったらまた呼んでください」
ミーヤもリルの後を追うように戻る。
「なんにしてもそのオーサ商会か?そことつなぎを取るのは悪くねえと思う」
「うん、そうだな。他にも入用な物を売ってもらえたりするかも知れない」
「そんで、ゆくゆくはダルがその跡取りに……」
「またそう言ってからかうだろ。リルさんが上に兄が2人いるって言ってたじゃないか、そんなことありえないよ」
冗談というものはあまりしつこく言うものではない。このあたりでやめておく。
「そんで手形だが、宮から頼んでもらうってのは変かな」
「うーん、なんで宮から出てないんだってならないか?」
「そこなんだよなあ……」
トーヤは天井の方を見るようにしていてふと思い付いたことがあった。
「あいつのだけ出してもらうってことには……」
「え、シャンタルのだけかい?」
「そうだ。なんか身の上話、例えばこっちに来て親が病かなんかで亡くなったとか、はぐれたとかで手形がない子供を元いたアルディナに連れ帰って親戚に渡してやりたいとか、そういう話作って頼めねえかな」
「それは……」
「ありないことじゃねえぜ?俺のは宮から出してもらって、その護衛?それで送っていく役目に就いたってことにできねえかな」
「うーん、できないことはなさそうだけど、信じてくれるかな?」
「そのへんだよな……」
トーヤはさらに天井を見つめる。まるでそこに試験の回答が書いてあるかのように。
「隊長……」
「へ?」
「隊長なら、いけないか?」
「隊長って?」
「ルギだよ」
「ルギ?」
「うん、あいつな、シャンタル宮……なんとか隊ってのの隊長なんだよ」
「え、そんなすごい人だったの?」
「みたいだな」
「まだ若いだろうに」
「23だっつーてたな」
「すごいなルギ……」
「まあなんかマユリアの肝いりみたいので宮に入ったみたいだし、そんだけ実力も信用もあるんだろうな」
とりあえずリルの父親に一度会っての話にする。それにルギにも別口で手形のことを聞いてみてもよさそうにも思える。
「それと、船が数年に一度あっちに行くって行ってたよな」
「うん」
「次はいつ行くんだろうな。うまくその船に乗せてもらえば、いや、オーサ商会のでなくとも何かあっち行く船に紹介してもらえるってこともできりゃかなり楽になる」
「遠いんだろ?」
いきなりダルが言い出す。
「そりゃ遠いよ。さっきも言ったが海を渡るだけで一月だ。そこからアルディナの神域でもシャンタルの神域でもない『中の国』をいくつも通ってさらにどのぐらいだ?俺は、来る時はあっちこっち寄って『仕事』もしながらだったから半年ぐらいかかったが、まあそのぐらいかかる」
「遠いな、本当に遠い……」
「船での話だからな。『中の国』のあたりをまっすぐ馬やラクダで突っ切れば一月ぐらいだってのも聞いたことはあるんだが、俺はそこ通ったことないし、本当のことは分からん」
「ラクダって?」
「砂漠って知ってるか?」
「いや、知らない」
「このあたりにはないみたいだもんなあ」
トーヤが思い出すように話をする。
「海岸の砂あるだろ?あればーっかりみたいな場所があるんだよ」
「え、海のそばに?」
「いや、逆だ。海なんかなんもねえ、そんなとこに砂ばっかり広がってる大地があるんだよ。そこは馬では行けない、砂に足を取られて歩けねえからな。ラクダは歩けるから馬の代わりに使うんだ。そういう動物なんだよ」
「え、嘘だろ?」
「本当だって」
「本当かなあ……」
ダルが信じられない目をしてトーヤを見る。
「本当だって~」
「だってなあ、今までもいっぱい嘘ついてるからなあ、この海賊上がりのお兄さんはよ」
「それはな~まあ悪かったよ」
2人で笑う。
「まあ本当だって。嘘だと思ったらリルの親父さんに聞いてみろよ、本当に世界には色んな場所があるんだよ」
「そうするよ。やっぱり俺はまだトーヤの嘘だと思ってるからな」
「本当だってのにー」
また2人で笑った。
「おいおい、俺がホラ吹きみたいに言うなよな」
「みたいにって、みたいじゃなくてそうじゃねえか」
「ひでえなあ」
2人のやり取りを聞いて女性2人が笑う。
「ちょうど明日、父が面会に来るように申してました。よかったらお二人がお話をなさりたいとおっしゃっていたとお伝えしますが」
「いいなあ、ぜひとも頼みたい」
「あ、俺も」
「分かりました、では明日、そう伝えておきますね」
リルの実家は「オーサ商会」という王都でも有名な大商人の家らしい。宮からも近く、家族もちょくちょく面会にやってくる。ダルの世話役に抜擢されたと手紙を届けたら、その話を聞きたくて早速面会の約束を取り付けてきたのだ。
リルは、自分だけ仲間はずれにされているような気分で部屋に入ってきた時とは違い、ご機嫌で鼻歌でも歌い兼ねないぐらいの軽い足取りで侍女の控室に戻っていった。
「では私も戻りますね。ご用があったらまた呼んでください」
ミーヤもリルの後を追うように戻る。
「なんにしてもそのオーサ商会か?そことつなぎを取るのは悪くねえと思う」
「うん、そうだな。他にも入用な物を売ってもらえたりするかも知れない」
「そんで、ゆくゆくはダルがその跡取りに……」
「またそう言ってからかうだろ。リルさんが上に兄が2人いるって言ってたじゃないか、そんなことありえないよ」
冗談というものはあまりしつこく言うものではない。このあたりでやめておく。
「そんで手形だが、宮から頼んでもらうってのは変かな」
「うーん、なんで宮から出てないんだってならないか?」
「そこなんだよなあ……」
トーヤは天井の方を見るようにしていてふと思い付いたことがあった。
「あいつのだけ出してもらうってことには……」
「え、シャンタルのだけかい?」
「そうだ。なんか身の上話、例えばこっちに来て親が病かなんかで亡くなったとか、はぐれたとかで手形がない子供を元いたアルディナに連れ帰って親戚に渡してやりたいとか、そういう話作って頼めねえかな」
「それは……」
「ありないことじゃねえぜ?俺のは宮から出してもらって、その護衛?それで送っていく役目に就いたってことにできねえかな」
「うーん、できないことはなさそうだけど、信じてくれるかな?」
「そのへんだよな……」
トーヤはさらに天井を見つめる。まるでそこに試験の回答が書いてあるかのように。
「隊長……」
「へ?」
「隊長なら、いけないか?」
「隊長って?」
「ルギだよ」
「ルギ?」
「うん、あいつな、シャンタル宮……なんとか隊ってのの隊長なんだよ」
「え、そんなすごい人だったの?」
「みたいだな」
「まだ若いだろうに」
「23だっつーてたな」
「すごいなルギ……」
「まあなんかマユリアの肝いりみたいので宮に入ったみたいだし、そんだけ実力も信用もあるんだろうな」
とりあえずリルの父親に一度会っての話にする。それにルギにも別口で手形のことを聞いてみてもよさそうにも思える。
「それと、船が数年に一度あっちに行くって行ってたよな」
「うん」
「次はいつ行くんだろうな。うまくその船に乗せてもらえば、いや、オーサ商会のでなくとも何かあっち行く船に紹介してもらえるってこともできりゃかなり楽になる」
「遠いんだろ?」
いきなりダルが言い出す。
「そりゃ遠いよ。さっきも言ったが海を渡るだけで一月だ。そこからアルディナの神域でもシャンタルの神域でもない『中の国』をいくつも通ってさらにどのぐらいだ?俺は、来る時はあっちこっち寄って『仕事』もしながらだったから半年ぐらいかかったが、まあそのぐらいかかる」
「遠いな、本当に遠い……」
「船での話だからな。『中の国』のあたりをまっすぐ馬やラクダで突っ切れば一月ぐらいだってのも聞いたことはあるんだが、俺はそこ通ったことないし、本当のことは分からん」
「ラクダって?」
「砂漠って知ってるか?」
「いや、知らない」
「このあたりにはないみたいだもんなあ」
トーヤが思い出すように話をする。
「海岸の砂あるだろ?あればーっかりみたいな場所があるんだよ」
「え、海のそばに?」
「いや、逆だ。海なんかなんもねえ、そんなとこに砂ばっかり広がってる大地があるんだよ。そこは馬では行けない、砂に足を取られて歩けねえからな。ラクダは歩けるから馬の代わりに使うんだ。そういう動物なんだよ」
「え、嘘だろ?」
「本当だって」
「本当かなあ……」
ダルが信じられない目をしてトーヤを見る。
「本当だって~」
「だってなあ、今までもいっぱい嘘ついてるからなあ、この海賊上がりのお兄さんはよ」
「それはな~まあ悪かったよ」
2人で笑う。
「まあ本当だって。嘘だと思ったらリルの親父さんに聞いてみろよ、本当に世界には色んな場所があるんだよ」
「そうするよ。やっぱり俺はまだトーヤの嘘だと思ってるからな」
「本当だってのにー」
また2人で笑った。
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