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第二章 第五節 もう一人のマユリア
3 虹の兵士
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翌日、またもう一度短い間でいいからとマユリアに時間を取ってもらうように願い出た。
朝頼んで午前中の短い間であれば、と言われてトーヤとダル、それからミーヤとリルも一緒にマユリアの客室へと入っていった。
リルはお客様をご案内する以外で初めてマユリアの部屋に入り、頬を紅潮させながら姿勢を正して立っていた。
「ダルの役職のお話ですね。せっかくですから早めに決めておいた方が良いかも知れません」
「はい、厚かましくも急かすようなことを言って申し訳ありません」
ダルがそう言って跪いて丁寧にマユリアに頭を下げる。リルも急いで一緒に頭を下げる。
「頭をお上げなさい」
「はい」
ダルが頭を上げ、リルも急いで上げる。
「役目としてはやはり兵の1人とした方が色々と良いような気がします。文官ではありませんし」
「はい、俺も少しは剣の修行してますしそれで構いません」
「では何か特別職の兵として、それにふさわしい名称をつけるのがよろしいでしょうね」
「お願いいたします」
ダルがもう一度頭を下げ、リルもそれに従った。
リルにはここに来る前に少しだけ話をしていた。
トーヤは託宣の客人であるが、ダルはそうではない。それゆえにトーヤの手伝いをするための特別職を設けてもらうことになったと。
それを聞いて、
「そんな特別な方の世話役を任せられるなんて」
と、夢見心地になっていた。
「わたくしも昨日あれから少し考えていたのですが、衛士は宮を、憲兵は街を守るものと役割が分かれています。その中間の兵というものを設けてもいいのかも知れません」
「中間の兵ですか」
「ええ、衛士と憲兵どちらのものと決めかねるような仕事をやってもらう兵です。基本的には宮からの命で動いてもらうことになります。それから、今は何かあると神官に頼んでいることでそもそもは神官の仕事ではないこともやってもらうこともあると思います」
そう言えばダルが馬を下賜された時も宮に呼び出された時も神官がカースにやって来た。
「そのような話が出たのもちょうどいい機会だったのでしょう、ダル以外にもこれから増やしていくのもいいかと思いました」
マユリアが太陽のような笑顔を浮かべて言う。
「何かいい名称は思い浮かびませんか?」
「中間の兵か、何かねえかな……」
みんなで色々と言い合っていると、
「あの……」
リルが手を上げて発言をした。
「リル、なんです?」
リルはマユリアが自分の名前を直接呼んでくれたことに感激し、緊張しながらやっと言葉を続けた。
「中間ということですが、考えようによっては宮と民を直接つなぐという意味もあるのかと思います」
「まあ、それは素敵な考え方ですね」
マユリアの言葉に顔を喜びに染める。
「あ、ありがとうございます」
「それで、何かいい言葉が浮かびましたか?」
「あ、あの、はい」
リルが息を整えて言う。
「常々商人である私の父が申しておりました。商売であれそれ以外のことであれ、大事なのは人と人とのつながりである、と。人と人との架け橋となるような役職、そう考えました。そして架け橋で思い出したのが虹です。虹は天にかかる架け橋に見えます、『虹の兵』などはいかがでしょうか」
「あら、素敵ですね」
マユリアの口から出た2回目の素敵という言葉にリルの胸はいっぱいになった。
「虹は、雨の後などに出て常にあるものでもありません。その点でも用のある時だけの役職ということにふさわしいかも知れませんね」
マユリアが子供のように手を打って楽しそうに言った。
「虹の中でも月にかかる白い虹は特に吉兆、幸せを運ぶ虹と言われています。では、ただの虹の兵ではなく、白い虹の兵、月にかかる虹の兵で『月虹兵』ではどうかしら」
「白い虹の兵、月虹兵……」
「ええ、ダルを月虹兵に任命します」
「ありがとうございます!」
ダルがまた床につかんばかりに頭を下げ、横でリルも同じぐらい頭を下げた。
「2人とも、頭が痛くなりますよ、おあげなさい」
2人が静かに頭を上げる。
「王都の民だけではなく、これまでの衛士や憲兵ともうまく間を取り持って、虹のように、架け橋になるように役目を務めてくださいね」
「はい!」
話が終わってマユリアの客室から出てくると、それまでこらえていたものがこらえきれなくなったかのように、リルが両手で顔を覆って泣き出した。
「うれしい……こんなうれしいことが……マユリアに直接名前を呼んでいただけて、お声をかけていただけて、その上私の考えを入れてくださって……」
「リル、よかったですね」
「ミーヤ……」
ミーヤの胸にもたれてシクシクと泣き続ける。
ダルはリルを邪魔にしたことを少しだけ申し訳なく感じていたが、こうして喜んでもらえたことでほっとした。
そして4人でトーヤの部屋に戻り、これからはあまり詳しく話せない用事もあるだろうことを話した。
「分かりました、ご用がある時にはいつでもお声をかけてください。どうかお役目をがんばってお務めください。できることはなんでもいたします」
リルはそうして幸せそうに、あらためてダルの世話役をダルの希望に沿う形で務めると誓った。
朝頼んで午前中の短い間であれば、と言われてトーヤとダル、それからミーヤとリルも一緒にマユリアの客室へと入っていった。
リルはお客様をご案内する以外で初めてマユリアの部屋に入り、頬を紅潮させながら姿勢を正して立っていた。
「ダルの役職のお話ですね。せっかくですから早めに決めておいた方が良いかも知れません」
「はい、厚かましくも急かすようなことを言って申し訳ありません」
ダルがそう言って跪いて丁寧にマユリアに頭を下げる。リルも急いで一緒に頭を下げる。
「頭をお上げなさい」
「はい」
ダルが頭を上げ、リルも急いで上げる。
「役目としてはやはり兵の1人とした方が色々と良いような気がします。文官ではありませんし」
「はい、俺も少しは剣の修行してますしそれで構いません」
「では何か特別職の兵として、それにふさわしい名称をつけるのがよろしいでしょうね」
「お願いいたします」
ダルがもう一度頭を下げ、リルもそれに従った。
リルにはここに来る前に少しだけ話をしていた。
トーヤは託宣の客人であるが、ダルはそうではない。それゆえにトーヤの手伝いをするための特別職を設けてもらうことになったと。
それを聞いて、
「そんな特別な方の世話役を任せられるなんて」
と、夢見心地になっていた。
「わたくしも昨日あれから少し考えていたのですが、衛士は宮を、憲兵は街を守るものと役割が分かれています。その中間の兵というものを設けてもいいのかも知れません」
「中間の兵ですか」
「ええ、衛士と憲兵どちらのものと決めかねるような仕事をやってもらう兵です。基本的には宮からの命で動いてもらうことになります。それから、今は何かあると神官に頼んでいることでそもそもは神官の仕事ではないこともやってもらうこともあると思います」
そう言えばダルが馬を下賜された時も宮に呼び出された時も神官がカースにやって来た。
「そのような話が出たのもちょうどいい機会だったのでしょう、ダル以外にもこれから増やしていくのもいいかと思いました」
マユリアが太陽のような笑顔を浮かべて言う。
「何かいい名称は思い浮かびませんか?」
「中間の兵か、何かねえかな……」
みんなで色々と言い合っていると、
「あの……」
リルが手を上げて発言をした。
「リル、なんです?」
リルはマユリアが自分の名前を直接呼んでくれたことに感激し、緊張しながらやっと言葉を続けた。
「中間ということですが、考えようによっては宮と民を直接つなぐという意味もあるのかと思います」
「まあ、それは素敵な考え方ですね」
マユリアの言葉に顔を喜びに染める。
「あ、ありがとうございます」
「それで、何かいい言葉が浮かびましたか?」
「あ、あの、はい」
リルが息を整えて言う。
「常々商人である私の父が申しておりました。商売であれそれ以外のことであれ、大事なのは人と人とのつながりである、と。人と人との架け橋となるような役職、そう考えました。そして架け橋で思い出したのが虹です。虹は天にかかる架け橋に見えます、『虹の兵』などはいかがでしょうか」
「あら、素敵ですね」
マユリアの口から出た2回目の素敵という言葉にリルの胸はいっぱいになった。
「虹は、雨の後などに出て常にあるものでもありません。その点でも用のある時だけの役職ということにふさわしいかも知れませんね」
マユリアが子供のように手を打って楽しそうに言った。
「虹の中でも月にかかる白い虹は特に吉兆、幸せを運ぶ虹と言われています。では、ただの虹の兵ではなく、白い虹の兵、月にかかる虹の兵で『月虹兵』ではどうかしら」
「白い虹の兵、月虹兵……」
「ええ、ダルを月虹兵に任命します」
「ありがとうございます!」
ダルがまた床につかんばかりに頭を下げ、横でリルも同じぐらい頭を下げた。
「2人とも、頭が痛くなりますよ、おあげなさい」
2人が静かに頭を上げる。
「王都の民だけではなく、これまでの衛士や憲兵ともうまく間を取り持って、虹のように、架け橋になるように役目を務めてくださいね」
「はい!」
話が終わってマユリアの客室から出てくると、それまでこらえていたものがこらえきれなくなったかのように、リルが両手で顔を覆って泣き出した。
「うれしい……こんなうれしいことが……マユリアに直接名前を呼んでいただけて、お声をかけていただけて、その上私の考えを入れてくださって……」
「リル、よかったですね」
「ミーヤ……」
ミーヤの胸にもたれてシクシクと泣き続ける。
ダルはリルを邪魔にしたことを少しだけ申し訳なく感じていたが、こうして喜んでもらえたことでほっとした。
そして4人でトーヤの部屋に戻り、これからはあまり詳しく話せない用事もあるだろうことを話した。
「分かりました、ご用がある時にはいつでもお声をかけてください。どうかお役目をがんばってお務めください。できることはなんでもいたします」
リルはそうして幸せそうに、あらためてダルの世話役をダルの希望に沿う形で務めると誓った。
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