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第二章 第四節 神との契約
3 迷う者
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「一人残った家から走って走って、あの、宮からカースへ続く近道、あそこをひたすら走った。そうしてあの洞窟の入り口、あそこまで来た時に考えが変わった」
「どう変わったんだ? ってか、11歳であそこ教えてもらってたのかよ、あそこは一人前しか教えてもらえねえってダルが言ってたぜ?」
「俺は昔から体が大きかったからな、10歳から時々漁に出るようになった。そしてあの洞窟を教えてもらってすぐのことだ、家族が亡くなったのは」
「そうか」
「あそこから王宮に続いているかも知れないと聞いたことがあった」
「ああ、ダルも言ってたな」
「そこで王宮へ行くことにした」
「は?」
思わず止まってトーヤが振り向いた。
「止まるな、歩きながら聞け」
「分かったよ」
また歩き始める。
「王宮へ暴れこんでそこで殺されてやろう、そう思った」
「物騒なやつだな……」
「おまえはそうは思わないのか?」
「どうかなあ、俺はもともと優しい性格だからな、村の人間だけで勘弁してやろうって思ったら王宮までは行ってねえかもな」
「面白いことを言うな」
また笑う。
「そこでさっきの入り口から入り、今歩いてるここを通ってあそこまで行った」
「どこまでだって?」
「もう知ってるだろう、聖なる湖だ」
「ってことは、行けたのか……」
邪な考えを持つものはたどり着けないはずの湖、そこにそんな考えのルギがたどりつけたのか? そうトーヤは思った。
「いや、行けなかった」
「だろうな」
「森の中を迷って迷って、死にそうになるまで走って走って、最後は倒れた」
「ああ、そういやそういうやつ最近もいたわ~凶悪な森だよな、あそこ」
トーヤが他人事のように言う。
「らしいな。俺も最近そういうことがあったと聞いた気がする」
「で、森で倒れてそのまま死んどけば今こんなことになってないと思うんだが、どうしたんだ?」
「ぶっ倒れたままな、呪った」
「何をだ」
「分からん。分からんがなんでこんなことになったのかと何かに悪態をつきまくった」
「こええやつだな~俺でもやらなかったぞ」
「ほう、迷ったというのはおまえのことか」
「知ってるくせに」
トーヤがそう言って肩をすくめルギが笑った。
「とにかく呪った。つい最近まで家族で貧しいながら幸せに暮らしていたのにってな。それを全部取り上げたそいつに向かって呪いの言葉を吐き続けた」
「やっぱあんた、俺よりよっぽど物騒だわ」
「それはどうかな、俺から見るとおまえの方がよっぽど物騒だ」
「そんなことねえと思うけどなあ」
「まあ、そんなことどっちでもいい。そうしてるとな、声が聞こえたんだ」
「声?」
「そうだ。何をそんなに嘆くのかってな」
「そりゃまあなんて脳天気な、そりゃ呪うよなあ」
「そうだろう? だから俺もそう言った」
「そしたら?」
声はこう続けた。
「全ては運命のまま。おまえはおまえの運命を受け入れなさい」
「うは~なんだそりゃ、殴りたくなるな」
「分かってくれるか」
またルギが笑う。
「ほんっとによく笑うな、今日。もう一生分笑ったんじゃねえのか?」
「どうだろうな。だが俺もそのぐらい腹が立ったな。誰がそんな運命を受け入れられるかって」
「そりゃ同意だ」
「それでそう言った。そんな運命受けいられるか、ってな。俺の運命は他にある、そうも言った」
「そんで?」
「そうしたら、ならば自分の運命を探せ、とその声が言ったんだ。それでまた立ち上がって歩き始めたら湖に着いた」
「そうか……それで、自分の運命ってのは見つかったのか?」
「ああ」
ルギが続けた。
「湖を見つけてな、最初はその湖が何かは分からなかった。だから座って湖を覗き込んだら顔が映った、自分の顔がな。すごい顔をしてたな、すべてのことを呪う顔だ」
「なんだ、今と変わってねえじゃねえかよ」
「ほっとけ」
また笑う。
「その顔を見た途端な、何かがすっと落ちたんだ。俺のこんな顔、母さんは望んでないってな」
「そうか、いい息子だな」
「それはどうか分からんが、とにかく自分だけでも生きなければいけない、そう思った。それが俺の生きてる意味なんじゃないかってな」
「で、どうなったんだ? 湖に行けたってことは森からも出られたのか。元の道を戻ったのか?」
「いや、その場所が何か分からなかったんでな、そのまま知らずに奥宮にまで行ってしまった」
「へえ、えらいことするなあ」
「知らなかったからな。そうして奥宮の入り口で衛士に捕まった」
「おやおや」
「そしてあの方と出会った、当時のシャンタルと」
「どう変わったんだ? ってか、11歳であそこ教えてもらってたのかよ、あそこは一人前しか教えてもらえねえってダルが言ってたぜ?」
「俺は昔から体が大きかったからな、10歳から時々漁に出るようになった。そしてあの洞窟を教えてもらってすぐのことだ、家族が亡くなったのは」
「そうか」
「あそこから王宮に続いているかも知れないと聞いたことがあった」
「ああ、ダルも言ってたな」
「そこで王宮へ行くことにした」
「は?」
思わず止まってトーヤが振り向いた。
「止まるな、歩きながら聞け」
「分かったよ」
また歩き始める。
「王宮へ暴れこんでそこで殺されてやろう、そう思った」
「物騒なやつだな……」
「おまえはそうは思わないのか?」
「どうかなあ、俺はもともと優しい性格だからな、村の人間だけで勘弁してやろうって思ったら王宮までは行ってねえかもな」
「面白いことを言うな」
また笑う。
「そこでさっきの入り口から入り、今歩いてるここを通ってあそこまで行った」
「どこまでだって?」
「もう知ってるだろう、聖なる湖だ」
「ってことは、行けたのか……」
邪な考えを持つものはたどり着けないはずの湖、そこにそんな考えのルギがたどりつけたのか? そうトーヤは思った。
「いや、行けなかった」
「だろうな」
「森の中を迷って迷って、死にそうになるまで走って走って、最後は倒れた」
「ああ、そういやそういうやつ最近もいたわ~凶悪な森だよな、あそこ」
トーヤが他人事のように言う。
「らしいな。俺も最近そういうことがあったと聞いた気がする」
「で、森で倒れてそのまま死んどけば今こんなことになってないと思うんだが、どうしたんだ?」
「ぶっ倒れたままな、呪った」
「何をだ」
「分からん。分からんがなんでこんなことになったのかと何かに悪態をつきまくった」
「こええやつだな~俺でもやらなかったぞ」
「ほう、迷ったというのはおまえのことか」
「知ってるくせに」
トーヤがそう言って肩をすくめルギが笑った。
「とにかく呪った。つい最近まで家族で貧しいながら幸せに暮らしていたのにってな。それを全部取り上げたそいつに向かって呪いの言葉を吐き続けた」
「やっぱあんた、俺よりよっぽど物騒だわ」
「それはどうかな、俺から見るとおまえの方がよっぽど物騒だ」
「そんなことねえと思うけどなあ」
「まあ、そんなことどっちでもいい。そうしてるとな、声が聞こえたんだ」
「声?」
「そうだ。何をそんなに嘆くのかってな」
「そりゃまあなんて脳天気な、そりゃ呪うよなあ」
「そうだろう? だから俺もそう言った」
「そしたら?」
声はこう続けた。
「全ては運命のまま。おまえはおまえの運命を受け入れなさい」
「うは~なんだそりゃ、殴りたくなるな」
「分かってくれるか」
またルギが笑う。
「ほんっとによく笑うな、今日。もう一生分笑ったんじゃねえのか?」
「どうだろうな。だが俺もそのぐらい腹が立ったな。誰がそんな運命を受け入れられるかって」
「そりゃ同意だ」
「それでそう言った。そんな運命受けいられるか、ってな。俺の運命は他にある、そうも言った」
「そんで?」
「そうしたら、ならば自分の運命を探せ、とその声が言ったんだ。それでまた立ち上がって歩き始めたら湖に着いた」
「そうか……それで、自分の運命ってのは見つかったのか?」
「ああ」
ルギが続けた。
「湖を見つけてな、最初はその湖が何かは分からなかった。だから座って湖を覗き込んだら顔が映った、自分の顔がな。すごい顔をしてたな、すべてのことを呪う顔だ」
「なんだ、今と変わってねえじゃねえかよ」
「ほっとけ」
また笑う。
「その顔を見た途端な、何かがすっと落ちたんだ。俺のこんな顔、母さんは望んでないってな」
「そうか、いい息子だな」
「それはどうか分からんが、とにかく自分だけでも生きなければいけない、そう思った。それが俺の生きてる意味なんじゃないかってな」
「で、どうなったんだ? 湖に行けたってことは森からも出られたのか。元の道を戻ったのか?」
「いや、その場所が何か分からなかったんでな、そのまま知らずに奥宮にまで行ってしまった」
「へえ、えらいことするなあ」
「知らなかったからな。そうして奥宮の入り口で衛士に捕まった」
「おやおや」
「そしてあの方と出会った、当時のシャンタルと」
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