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第二章 第三節 進むべき道を

 8 便り

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 ミーヤはため息をつきながらこれからのことを考えた。

 この後の流れは多分こうだ。
 トーヤは何か与えられたお役目を無事に済ませ、そうしてこの国を出る。
 それだけのことだ。
 誰もトーヤを生贄いけにえになどしない。無事にこの国を出て、そうしてまたトーヤの場所でトーヤの人生を生きる。
 そしてその横に自分はいない。
 それだけのことだ、たったそれだけのことなのだ。
 自分は今まで通りこの宮で生きる、そう、それだけのことなのだ。

 そう自分に言い聞かせながら侍女部屋に行くと、リルに声をかけられた。

「ミーヤ、手紙が来てたわよ」
「ありがとう」

 祖父からだった。
 久しぶりの手紙だった。
 受け取って自室に戻り(トーヤの世話役を拝命はいめいしてから個室を与えられていた)手紙の封を切る。
 懐かしい祖父の字。少しクセがある右肩上がりの文字。
 祖父の無事を知ってうれしくなる。

 ミーヤの祖父は家具職人をしている。
 もう60を過ぎたのに、今も現役である。
 手紙には今年の新年にはどうやらいつもより寒くなりそうだ、足の痛み方でそれが分かる、と書いてあった。それから神官様が風邪をひいてしばらく寝付いていたとか、ミーヤと同い年の誰々が結婚することになったとか、村のことを色々。
 それからしばらく手紙を書けなかったことをわびながら、その理由も書いてあった。

 数年前、ミーヤが宮に来て数年後になるが、ミーヤの故郷にまだ若いと言えるぐらいの年齢の家具職人とその妻がやってきた。2人は若くして結婚したものの子供はおらず、2人暮らしをしていた。その職人が祖父の工房に入って一緒に仕事をするようになったこと、職人の妻が祖父のことを気にかけておかずなどを持って来てくれること、などをうれしそうに書いてよこしていた。
 その職人夫婦が3月ほど前、いきなり世話になったとの手紙を残していなくなってしまったらしい。そのため受けていた仕事を残った職人と祖父でやることになり、とても忙しくて手紙を書く時間を取れなかったと書いてあった。
 ちょうど自分もトーヤの世話役を拝命して忙しくしていたもので、祖父からの手紙が来ないことをそれほど気にする時間もなかったことを思い出した。
 祖父の手紙はその職人夫婦のことをとても心配しており、元気でいてくれればいいのだが、と書かれていた。そして最後にはミーヤも体に気をつけること、などをいつものようにくどくどと書いてあったのでミーヤは温かい気持ちで笑いながら手紙を読み終えた。

 ミーヤはその手紙のことをトーヤとダルに話した。

「いなくなっちまったって、そりゃ心配じゃねえか」
「そうなのです」
「なんでだろうね?」
「祖父も全く心当たりがないようで、とても心配していました」

 お茶をぎながら3人で話をする。

「手紙を置いていってるってことは誰かに連れてかれたってことでもなさそうだしなあ」
「仕事がいやになって出ていったってことは?」
「それはないと思います。腕のいい職人で評判もよく、夫婦そろってとても感じのいい人たちだったって」
「う~ん、なんだろなあ」
「急いでたんだろうけど、挨拶もなしで手紙だけってのもなあ」

 3人で話すが答えの出そうなはずもない。

「祖父にもよくしてくださってたようなので心配です」
「おじいさんもさびしいだろうなあ」
「なんか事情があったんだろうが、戻ってくりゃいいけどな」
「祖父にはまた手紙を書きます。私もちょうど同じ頃から忙しくて書いてませんでしたし」
「そうか、そりゃ忙しいよなあ、うん、分かるよ、大変だよなあ、ミーヤさん大変だ」
 
 ダルがトーヤを見ながら言う。

「おい、そりゃどういう意味だよ」
「え、だって、そりゃトーヤみたいなのの世話するって大変じゃないか」
「失礼だなあ、俺はいつだって紳士的に大人しくあそばしてるぞ」
「いやあ、色々見ちゃったしなあ」

 ダルが腕を組んで気難きむずかしい顔で言うのでミーヤは笑った。

「本当に、色んな事をしてくださる方なので」
「だろうなあ」
「おいおい、なんだよ2人とも、俺が何したって言うんだよ」
「色々上げていきましょうか?」
「いや、いい、悪かった」

 トーヤがそう言ったのでまた3人で笑った。

 内容的にはとても楽しいだけのものではなかったが、祖父の手紙がこうしてミーヤの空洞くうどうを埋めてくれたこと、トーヤにもそれを共有することができたことがうれしかった。
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