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第二章 第二節 青い運命
10 運命の持ち主
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トーヤはフェイに生きていてもらいたい、そのために運命を変えられるかも知れない水を汲みに湖に行きたかった。
だがそれは、トーヤが自分のものではない他人の運命を変えることになるというのだろうか。
「じゃあ、じゃあ、誰かを助けたいと思う気持ちは無駄だってのかよ!まるでフェイが死にたがってるみたいじゃねえかよ!そんなはずねえだろ、あいつだって生きたいって思ってるはずだ!」
そうだ、フェイだって生きたいはずだ。あんな小さい、たった10歳で死にたいと誰が思うだろうか。
だが……
人はいつか死ぬ。
その時がたとえいくら自分の望まぬ場所、時、状況であったとしてもだ。不本意な死を迎える人間など数えても数え切れないぐらいだ。
トーヤにも生きていてほしかった人がいる。まずは母とミーヤだ。それから戦場で知り合って肩を並べながら生き延びられなかった仲間たちも、同じ船に乗っていたあいつらだって。
誰もみんな死にたいと思っていたわけではない。時間のあった者はその日が来るのを恐れていたはずだ。突然命を失った者は普通に明日が訪れることを疑うこともしていなかっただろう。
望むと望まざるとに関わらずその日はいつか来る。そしてそれは次に後ろを振り向いた時かも知れない。トーヤはよく知っていたのだ。
人間だけではない。この世に生を受けたもの、すべてがいつかはそれを失う。
「それでも、それでもな、俺はあいつを助けてやりたい……それがいけないことだって言うのかよ……絶対に水を汲みに行ってやる!」
そう叫ぶと今まで向かっていた方向にまた走り出した。
その途端、
パーン!
透き通るような音がしてトーヤの手の中にあった物の存在が消えた。
それまで瓶を握っていたはずの手の形だけ残し、手の中には何も残っていなかった。
その代わりと言うように手を中心としてそこから四方八方にキラキラと虹色に光が広がっていく。
それは、瓶であった物の欠片、跡形もなく霧のように消え去った物の欠片であった。
トーヤは呆然と自分の手を見下ろした。
「そこまでか……そこまでやるのか……」
自分に対する拒絶に身の内が燃えるような怒りを感じた。
「じゃあ俺は何があってもたどり着いてやる。何が運命だ、そんなもん俺が変えてやるよ!」
言うやいなや両手を振って全速力で三度走り出した。
もう方向など考えていない、どこでもいいたどり着く場所まで走ってやる。
トーヤは走った。
息が切れても体が熱を持っても構わず走り続けた。
もうどこに向かって走っているのか自分でも分からず、それでもまっすぐに走り続けた。
もうどのぐらい走っているのか時間すらも分からない、それでもひたすら真っすぐに、目の前に見える木々の間をくぐり抜けながら走り続ける。
もうとっくに自分の限界を超え、それでも持てる力の限り走る続ける。
やがて呼吸をするのも苦しくなり、足がもつれ、それでも気力だけで前へ進み続けたがそれも限界になった。
トーヤは倒れた。
森の、木々の下生えの上に。
手は目の前の草をつかむこともできず、肺が破裂しそうなほどに肩を背中を上下させ、心臓は苦しげに震えていた。
どうしてこんなことになっているのか。
トーヤはぼんやりと考えた。
自分はフェイを助けたかっただけだ、だが今はもう自分の命すらどうなろうとしているのかすら分からない。
いや、もしかしたら自分はまだあの嵐の海の中にいて、すべてはその苦しみの中で見ている悪夢なのではないのだろうか。
辛うじて意識を保っているだけの生命体、それが今の自分であった。
だがそれは、トーヤが自分のものではない他人の運命を変えることになるというのだろうか。
「じゃあ、じゃあ、誰かを助けたいと思う気持ちは無駄だってのかよ!まるでフェイが死にたがってるみたいじゃねえかよ!そんなはずねえだろ、あいつだって生きたいって思ってるはずだ!」
そうだ、フェイだって生きたいはずだ。あんな小さい、たった10歳で死にたいと誰が思うだろうか。
だが……
人はいつか死ぬ。
その時がたとえいくら自分の望まぬ場所、時、状況であったとしてもだ。不本意な死を迎える人間など数えても数え切れないぐらいだ。
トーヤにも生きていてほしかった人がいる。まずは母とミーヤだ。それから戦場で知り合って肩を並べながら生き延びられなかった仲間たちも、同じ船に乗っていたあいつらだって。
誰もみんな死にたいと思っていたわけではない。時間のあった者はその日が来るのを恐れていたはずだ。突然命を失った者は普通に明日が訪れることを疑うこともしていなかっただろう。
望むと望まざるとに関わらずその日はいつか来る。そしてそれは次に後ろを振り向いた時かも知れない。トーヤはよく知っていたのだ。
人間だけではない。この世に生を受けたもの、すべてがいつかはそれを失う。
「それでも、それでもな、俺はあいつを助けてやりたい……それがいけないことだって言うのかよ……絶対に水を汲みに行ってやる!」
そう叫ぶと今まで向かっていた方向にまた走り出した。
その途端、
パーン!
透き通るような音がしてトーヤの手の中にあった物の存在が消えた。
それまで瓶を握っていたはずの手の形だけ残し、手の中には何も残っていなかった。
その代わりと言うように手を中心としてそこから四方八方にキラキラと虹色に光が広がっていく。
それは、瓶であった物の欠片、跡形もなく霧のように消え去った物の欠片であった。
トーヤは呆然と自分の手を見下ろした。
「そこまでか……そこまでやるのか……」
自分に対する拒絶に身の内が燃えるような怒りを感じた。
「じゃあ俺は何があってもたどり着いてやる。何が運命だ、そんなもん俺が変えてやるよ!」
言うやいなや両手を振って全速力で三度走り出した。
もう方向など考えていない、どこでもいいたどり着く場所まで走ってやる。
トーヤは走った。
息が切れても体が熱を持っても構わず走り続けた。
もうどこに向かって走っているのか自分でも分からず、それでもまっすぐに走り続けた。
もうどのぐらい走っているのか時間すらも分からない、それでもひたすら真っすぐに、目の前に見える木々の間をくぐり抜けながら走り続ける。
もうとっくに自分の限界を超え、それでも持てる力の限り走る続ける。
やがて呼吸をするのも苦しくなり、足がもつれ、それでも気力だけで前へ進み続けたがそれも限界になった。
トーヤは倒れた。
森の、木々の下生えの上に。
手は目の前の草をつかむこともできず、肺が破裂しそうなほどに肩を背中を上下させ、心臓は苦しげに震えていた。
どうしてこんなことになっているのか。
トーヤはぼんやりと考えた。
自分はフェイを助けたかっただけだ、だが今はもう自分の命すらどうなろうとしているのかすら分からない。
いや、もしかしたら自分はまだあの嵐の海の中にいて、すべてはその苦しみの中で見ている悪夢なのではないのだろうか。
辛うじて意識を保っているだけの生命体、それが今の自分であった。
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