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第二章 第二節 青い運命
8 聖なる森
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「奥宮の隣、前の宮の西北に聖なる森がありますが、知っていますか?」
宮の案内を聞いた時に確か聞いたことがあるはずだ。
だがそれは……
トーヤが頭を上げて答えた。
「シャンタルが沈んでるとかいう池がある森か?」
「ええ、眠っていらっしゃる湖です」
ふっとマユリアが笑った。
「その湖の水を汲んでいらっしゃい」
「それでなんとかなるのか?」
「シャンタルが眠る聖なる湖です、慈悲の力に満ちています」
マユリアが近づき、屈んでトーヤを見た。
「その水を汲んできて飲ませてみなさい。あなたのその者を思う気持ちにシャンタルが答えてくれたなら、もしかすると持ち直すかも知れません」
「本当か!」
トーヤが聞き直すと、マユリアが厳しい顔になる。
「助かる運命にあれば、です。シャンタルの慈悲が、誤った運命に進もうとする者であれば助けてくれましょう。ですが、それがその者の運命であれば、誰にもどうすることはできません。分かりましたね?」
「…………分かった……」
マユリアがトーヤの目を見ながら、立ち上がる。
「さあ、お立ちなさい、時間がないのでしょう?」
「分かった、恩に着る!」
がばっとトーヤが立ち上がる。
「これを持って行きなさい」
マユリアが棚にあった1本のガラスの瓶をトーヤに渡す。
きれいな意匠を施された、透き通る瓶であった。
「一つ言っておきます。聖なる森は迷いの森、邪な心を持った者、迷う者、信じられぬ者はシャンタルの聖なる湖に近づくことはできません。信じて行くのです」
「分かった!」
「あの、私も」
ミーヤが立ち上がろうとするのをマユリアが制した。
「トーヤ1人の足の方が早いでしょう、ミーヤは少しお待ちなさい」
「ああ、その方がいい、あんたはちびを見てやってくれ。じゃあ」
言うが早いが、部屋から飛び出して行った。
マユリアがその後姿をじっと見つめる。
「あの、マユリア、お礼申し上げます」
片膝を着いた姿勢で深く深く頭を下げるミーヤの手を取り、マユリアが言った。
「お礼を言うのは早いと思いますよ」
マユリアの言葉にミーヤが不安そうな顔になる。
「私は助けられると言ったわけではありません。その運命になければ元の正しい運命に導いてくれると言っただけです」
「それは……」
「それに、あの様子では迷うかも知れませんね」
「え?」
ミーヤが顔を上げてマユリアを見る。
「湖にはたどり着けないかも知れません、導いてあげなさい」
「え?」
さきほどマユリアはトーヤ1人の足の方が早いと言ったはずだ。今から追いかけて自分の足で追いつけるはずもない、それを導けとは……
「大丈夫ですよ、いってらっしゃい」
そう微笑むとミーヤの手を取って立たせ、
「念の為にこれを」
と、さきほどトーヤに渡したのと同じ瓶を持たせた。
「さあ」
「は、はい……」
ミーヤも後を追うように部屋から飛び出した。
マユリアはその後姿をじっと見つめていたが、
「シャンタルの御加護がありますように……」
そうつぶやくと目をつぶり両手を組み合わせて祈った。
宮の案内を聞いた時に確か聞いたことがあるはずだ。
だがそれは……
トーヤが頭を上げて答えた。
「シャンタルが沈んでるとかいう池がある森か?」
「ええ、眠っていらっしゃる湖です」
ふっとマユリアが笑った。
「その湖の水を汲んでいらっしゃい」
「それでなんとかなるのか?」
「シャンタルが眠る聖なる湖です、慈悲の力に満ちています」
マユリアが近づき、屈んでトーヤを見た。
「その水を汲んできて飲ませてみなさい。あなたのその者を思う気持ちにシャンタルが答えてくれたなら、もしかすると持ち直すかも知れません」
「本当か!」
トーヤが聞き直すと、マユリアが厳しい顔になる。
「助かる運命にあれば、です。シャンタルの慈悲が、誤った運命に進もうとする者であれば助けてくれましょう。ですが、それがその者の運命であれば、誰にもどうすることはできません。分かりましたね?」
「…………分かった……」
マユリアがトーヤの目を見ながら、立ち上がる。
「さあ、お立ちなさい、時間がないのでしょう?」
「分かった、恩に着る!」
がばっとトーヤが立ち上がる。
「これを持って行きなさい」
マユリアが棚にあった1本のガラスの瓶をトーヤに渡す。
きれいな意匠を施された、透き通る瓶であった。
「一つ言っておきます。聖なる森は迷いの森、邪な心を持った者、迷う者、信じられぬ者はシャンタルの聖なる湖に近づくことはできません。信じて行くのです」
「分かった!」
「あの、私も」
ミーヤが立ち上がろうとするのをマユリアが制した。
「トーヤ1人の足の方が早いでしょう、ミーヤは少しお待ちなさい」
「ああ、その方がいい、あんたはちびを見てやってくれ。じゃあ」
言うが早いが、部屋から飛び出して行った。
マユリアがその後姿をじっと見つめる。
「あの、マユリア、お礼申し上げます」
片膝を着いた姿勢で深く深く頭を下げるミーヤの手を取り、マユリアが言った。
「お礼を言うのは早いと思いますよ」
マユリアの言葉にミーヤが不安そうな顔になる。
「私は助けられると言ったわけではありません。その運命になければ元の正しい運命に導いてくれると言っただけです」
「それは……」
「それに、あの様子では迷うかも知れませんね」
「え?」
ミーヤが顔を上げてマユリアを見る。
「湖にはたどり着けないかも知れません、導いてあげなさい」
「え?」
さきほどマユリアはトーヤ1人の足の方が早いと言ったはずだ。今から追いかけて自分の足で追いつけるはずもない、それを導けとは……
「大丈夫ですよ、いってらっしゃい」
そう微笑むとミーヤの手を取って立たせ、
「念の為にこれを」
と、さきほどトーヤに渡したのと同じ瓶を持たせた。
「さあ」
「は、はい……」
ミーヤも後を追うように部屋から飛び出した。
マユリアはその後姿をじっと見つめていたが、
「シャンタルの御加護がありますように……」
そうつぶやくと目をつぶり両手を組み合わせて祈った。
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