87 / 353
第二章 第二節 青い運命
6 赤い珠
しおりを挟む
「マユリアに謁見を!」
取り次ぎも頼まずミーヤがキリエの執務室に飛び込んで言った。
「何事です!」
「お願いです、キリエ様、マユリアにお取次ぎを!」
「だから何事です!」
「よう、ばあさん」
「ば……」
キリエが眉を吊り上げてミーヤの傍らのトーヤを睨みつけた。
「人の命がかかってんだよ、頼むわ。だめだってんなら無理やり押しかけるだけだ。それもマユリア通り越してシャンタルのところにな」
「な!馬鹿なことを!」
キリエがガタンと椅子から立ち上がり怒鳴った。
「そんなことを許可できるはずもない!」
「だから、だ・め・な・ら、強行突破だっつーてるんだ。分かるか?あんたの責任問題にもなるよな?だから穏便に話を進めるためにも取り次ぎを頼むっつーてんだよ!」
「ミーヤ!」
トーヤではなくミーヤに目を向ける。
「これはどういうことです!おまえが付いていながらなんということを!」
「申し訳ありません」
ミーヤが低頭する。
「この人は関係ねえ、俺が連れてかないとそうするって言ったんだよ。さあ、どうする?うんって言わねえと本当にやるぞ、俺はな」
「…………」
キリエが無言でトーヤを睨みつけるがトーヤは一歩も引かない。
「どうする、え?」
「私はこの宮の責任者です、暴力に屈するなどありえません」
「ってことは、だめだってことだな?」
「どうしてもと言うのなら私を殺してからにするがよい」
「そうか、分かったよ」
「だめです!」
ミーヤがトーヤの前に立ちはだかり、両手を広げてキリエをかばう。
「誰がそのばあさんやるっつーたよ、こうするんだよ!」
キリエの部屋の執務机とは違う、小さなもう一つのテーブルの上にあったランプを叩き割り、その破片を手にする。そして自分の喉元にその尖った先端を押し付ける。
「なにを!」
キリエが慌てる。
「何のためか知んねえけどな、ご大層ご大切におもてなしになってた託宣のお客様にここでご自害あそばされたらどうする、え?」
「やめてください!」
今度はトーヤを止めようとするミーヤから身を翻す。
「なあ、どうする?助け手だっけか?結構な金バンバン使って放し飼いにしてたそれによお、ここで役目も果たさず死なれたらあんた、困るだろうな?しかも場所が場所だしな」
「…………」
キリエが黙ってトーヤを見る。
「さあ、どうする?」
トーヤが破片を自分の喉に少し突き刺した。プツリと血の珠が湧き上がる。
「やめて!」
ミーヤが声を上げる。
「さあ、どうするんだ?何回も言わせるなよな、俺は気が長い方じゃねえ」
キリエがじっとトーヤを見つめ、ため息をつく。
「仕方ありません……マユリアにお伺いしてきます。マユリアがお会いになるかどうかは分かりませんが……」
「早めに頼むぜ、この姿勢結構疲れんだよな」
クルリと背を向け部屋を出ていきながらキリエがミーヤに言う。
「壊れたランプを片付けておきなさい」
「は、はい……」
キリエが部屋から出ていくとミーヤが屈んでランプの欠片を拾っていく。
「……!」
欠片で手を切ったようで指を押さえる。指の先からトーヤと同じ小さな血の珠が湧き上がった。
「大丈夫か?すまないな……」
「いえ……」
そのまま黙ってランプを片付け続ける。
動かす指が震えている。
カチャカチャとガラスの音だけがする。
その音が終わった頃、キリエが部屋に戻ってきた。
「マユリアがお会いになるそうです」
不愉快そうに一言だけそう言った。
取り次ぎも頼まずミーヤがキリエの執務室に飛び込んで言った。
「何事です!」
「お願いです、キリエ様、マユリアにお取次ぎを!」
「だから何事です!」
「よう、ばあさん」
「ば……」
キリエが眉を吊り上げてミーヤの傍らのトーヤを睨みつけた。
「人の命がかかってんだよ、頼むわ。だめだってんなら無理やり押しかけるだけだ。それもマユリア通り越してシャンタルのところにな」
「な!馬鹿なことを!」
キリエがガタンと椅子から立ち上がり怒鳴った。
「そんなことを許可できるはずもない!」
「だから、だ・め・な・ら、強行突破だっつーてるんだ。分かるか?あんたの責任問題にもなるよな?だから穏便に話を進めるためにも取り次ぎを頼むっつーてんだよ!」
「ミーヤ!」
トーヤではなくミーヤに目を向ける。
「これはどういうことです!おまえが付いていながらなんということを!」
「申し訳ありません」
ミーヤが低頭する。
「この人は関係ねえ、俺が連れてかないとそうするって言ったんだよ。さあ、どうする?うんって言わねえと本当にやるぞ、俺はな」
「…………」
キリエが無言でトーヤを睨みつけるがトーヤは一歩も引かない。
「どうする、え?」
「私はこの宮の責任者です、暴力に屈するなどありえません」
「ってことは、だめだってことだな?」
「どうしてもと言うのなら私を殺してからにするがよい」
「そうか、分かったよ」
「だめです!」
ミーヤがトーヤの前に立ちはだかり、両手を広げてキリエをかばう。
「誰がそのばあさんやるっつーたよ、こうするんだよ!」
キリエの部屋の執務机とは違う、小さなもう一つのテーブルの上にあったランプを叩き割り、その破片を手にする。そして自分の喉元にその尖った先端を押し付ける。
「なにを!」
キリエが慌てる。
「何のためか知んねえけどな、ご大層ご大切におもてなしになってた託宣のお客様にここでご自害あそばされたらどうする、え?」
「やめてください!」
今度はトーヤを止めようとするミーヤから身を翻す。
「なあ、どうする?助け手だっけか?結構な金バンバン使って放し飼いにしてたそれによお、ここで役目も果たさず死なれたらあんた、困るだろうな?しかも場所が場所だしな」
「…………」
キリエが黙ってトーヤを見る。
「さあ、どうする?」
トーヤが破片を自分の喉に少し突き刺した。プツリと血の珠が湧き上がる。
「やめて!」
ミーヤが声を上げる。
「さあ、どうするんだ?何回も言わせるなよな、俺は気が長い方じゃねえ」
キリエがじっとトーヤを見つめ、ため息をつく。
「仕方ありません……マユリアにお伺いしてきます。マユリアがお会いになるかどうかは分かりませんが……」
「早めに頼むぜ、この姿勢結構疲れんだよな」
クルリと背を向け部屋を出ていきながらキリエがミーヤに言う。
「壊れたランプを片付けておきなさい」
「は、はい……」
キリエが部屋から出ていくとミーヤが屈んでランプの欠片を拾っていく。
「……!」
欠片で手を切ったようで指を押さえる。指の先からトーヤと同じ小さな血の珠が湧き上がった。
「大丈夫か?すまないな……」
「いえ……」
そのまま黙ってランプを片付け続ける。
動かす指が震えている。
カチャカチャとガラスの音だけがする。
その音が終わった頃、キリエが部屋に戻ってきた。
「マユリアがお会いになるそうです」
不愉快そうに一言だけそう言った。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
社畜探索者〜紅蓮の王と異界迷宮と配信者〜
代永 並木
ファンタジー
井坂蓮二、23歳 日々サービス残業を繰り返し連続出勤更新し続け精神が疲弊しても働き続ける社畜
ふと残業帰りにダンジョンと呼ばれる物を見つけた
ダンジョンとは10年ほど前に突如現れた謎の迷宮、魔物と呼ばれる存在が闊歩する危険なダンジョンの内部には科学では再現不可能とされるアイテムが眠っている
ダンジョンが現れた影響で人々の中に異能と呼ばれる力を得た者が現れた
夢か金か、探索者と呼ばれる人々が日々ダンジョンに挑んでいる
社畜の蓮二には関係の無い話であったが疲れ果てた蓮二は何をとち狂ったのか市販の剣(10万)を持ってダンジョンに潜り己の異能を解放する
それも3等級と呼ばれる探索者の最高峰が挑む高難易度のダンジョンに
偶然危機に瀕していた探索系配信者竜胆天音を助け社畜の傍ら配信の手伝いをする事に
配信者や異能者に出会いながら探索者として活躍していく
現2章
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。
武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。
人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】
前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。
そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。
そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。
様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。
村を出て冒険者となったその先は…。
※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。
よろしくお願いいたします。
【完結】見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかし、正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる