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第二章 第二節 青い運命
5 小さな火
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「これ……」
「いっつも見てるよな、それ」
「これ、この子……」
「わ、また泣くだろ、おい!」
涙をいっぱい浮かべて手をぎゅっと握る。
「リボンの礼だ。自分で稼いだ金で買ってやれねえのはちっとばかりかっこ悪いけどよ」
「ありがとうございます」
うれしそうに手の上から頬ずりをする。
侍女や侍女見習いは生活の全てを宮に見てもらえるので給金はない。宮に上がる時に家族にまとまった手当が渡される、それが全てだ。それでも時々小遣い程度にもらえる金がある。何かの記念日とか、何か特別に仕事をしたりするといくばくかの手当が出ることがあるのだ。欲しい物がある者はそれを貯めておいて買ったりもする。
神に仕える侍女にはほぼ私物もない。必要なものは宮にある物を好きに使えるが、個人の持ち物ではないのだ。それでもアクセサリーなどの高価な物はもちろん借りているだけだが、小さい物、消耗品などは一度使うとその個人の専用になることもある。フェイがトーヤのカップに結んだリボンも、そうしてフェイ専用になった数少ないフェイの持ち物であった。
リュセルスに来たある日、ふと目にした店の中でその小鳥はキラキラ青く光っていた。
目が合った途端に大好きになった。
それほど高価ではない小さな細工物だが、それでもフェイに買えるだけの手持ちはない。買えるなどとは思ったこともなかった、自分の物になるとも思ったことはなかった。それでも、街に行ってウインドウから中を見て、そこにまだいてくれてうれしかった。また会えたねと思っていた。
それにトーヤが気付いていてくれた。そのことがうれしく、そして触れることすら考えたことがなかった小さな友達を連れて来てくれたそのことがさらにうれしかった。今までの人生の中で一番うれしい出来事だった。その日があっただけでこの先の人生を豊かに生きていけると思えるほどうれしかった。
その日から小さな青い鳥はフェイの一番の友達に、宝物になったのだった。トーヤのカップに結んだのと同じリボン(長いものから切って髪に結んでいたその同じリボン)に通していつも上着に隠すように肌身放さずぶら下げていた。
その友達をハンカチから取り出すと、トーヤに見せた。
「トーヤ様にいただいたお友達です」
「そっか」
フェイの手の上の青い鳥を撫でる。
「おまえによく似てるよなあ」
「そうですか?」
「ああ、だからあの店で何を見てるか分かった」
「そうなのですか」
また笑う。
「お友達のためにも早く良くなってやれよな?」
「はい……」
「もうそろそろそのへんで。フェイが疲れてしまいます」
ミーヤがトーヤに声をかける。
「そうか、疲れさせるのはよくねえよな、そんじゃまた来る、よく休め」
「はい……」
そう言ってもう一度フェイの手を握ってから部屋の外に出た。廊下を少し歩いた場所でトーヤが聞く。
「医者はどうだって?」
「かなりきびしいと……」
「そうか……」
トーヤが暗い廊下でイライラと右足を踏み鳴らした。
「なんとかなんねえのかよ……」
「治せる薬もなく、本人の生命力に任せるしかないと……」
ミーヤが苦しそうに言う。
「なんもできねえのかよ……」
「…………」
目の前で揺れるフェイの小さな命の火、それが弱々しく力なく消えそうになっているのだ。
どうやれば守ってやれるのか?どうすればもう一度力強く燃え上がれる?
トーヤがふと思い立ったように顔を上げた。
「マユリアに会わせろ」
「え?」
「今すぐだ!」
「それは……」
「無理だとは言わせねえぞ、頼む、すぐに話つけてくれ」
ミーヤがトーヤの顔をじっと見る。
「分かりました」
小走りに駆け出し、その後をトーヤが付いて走った。
「いっつも見てるよな、それ」
「これ、この子……」
「わ、また泣くだろ、おい!」
涙をいっぱい浮かべて手をぎゅっと握る。
「リボンの礼だ。自分で稼いだ金で買ってやれねえのはちっとばかりかっこ悪いけどよ」
「ありがとうございます」
うれしそうに手の上から頬ずりをする。
侍女や侍女見習いは生活の全てを宮に見てもらえるので給金はない。宮に上がる時に家族にまとまった手当が渡される、それが全てだ。それでも時々小遣い程度にもらえる金がある。何かの記念日とか、何か特別に仕事をしたりするといくばくかの手当が出ることがあるのだ。欲しい物がある者はそれを貯めておいて買ったりもする。
神に仕える侍女にはほぼ私物もない。必要なものは宮にある物を好きに使えるが、個人の持ち物ではないのだ。それでもアクセサリーなどの高価な物はもちろん借りているだけだが、小さい物、消耗品などは一度使うとその個人の専用になることもある。フェイがトーヤのカップに結んだリボンも、そうしてフェイ専用になった数少ないフェイの持ち物であった。
リュセルスに来たある日、ふと目にした店の中でその小鳥はキラキラ青く光っていた。
目が合った途端に大好きになった。
それほど高価ではない小さな細工物だが、それでもフェイに買えるだけの手持ちはない。買えるなどとは思ったこともなかった、自分の物になるとも思ったことはなかった。それでも、街に行ってウインドウから中を見て、そこにまだいてくれてうれしかった。また会えたねと思っていた。
それにトーヤが気付いていてくれた。そのことがうれしく、そして触れることすら考えたことがなかった小さな友達を連れて来てくれたそのことがさらにうれしかった。今までの人生の中で一番うれしい出来事だった。その日があっただけでこの先の人生を豊かに生きていけると思えるほどうれしかった。
その日から小さな青い鳥はフェイの一番の友達に、宝物になったのだった。トーヤのカップに結んだのと同じリボン(長いものから切って髪に結んでいたその同じリボン)に通していつも上着に隠すように肌身放さずぶら下げていた。
その友達をハンカチから取り出すと、トーヤに見せた。
「トーヤ様にいただいたお友達です」
「そっか」
フェイの手の上の青い鳥を撫でる。
「おまえによく似てるよなあ」
「そうですか?」
「ああ、だからあの店で何を見てるか分かった」
「そうなのですか」
また笑う。
「お友達のためにも早く良くなってやれよな?」
「はい……」
「もうそろそろそのへんで。フェイが疲れてしまいます」
ミーヤがトーヤに声をかける。
「そうか、疲れさせるのはよくねえよな、そんじゃまた来る、よく休め」
「はい……」
そう言ってもう一度フェイの手を握ってから部屋の外に出た。廊下を少し歩いた場所でトーヤが聞く。
「医者はどうだって?」
「かなりきびしいと……」
「そうか……」
トーヤが暗い廊下でイライラと右足を踏み鳴らした。
「なんとかなんねえのかよ……」
「治せる薬もなく、本人の生命力に任せるしかないと……」
ミーヤが苦しそうに言う。
「なんもできねえのかよ……」
「…………」
目の前で揺れるフェイの小さな命の火、それが弱々しく力なく消えそうになっているのだ。
どうやれば守ってやれるのか?どうすればもう一度力強く燃え上がれる?
トーヤがふと思い立ったように顔を上げた。
「マユリアに会わせろ」
「え?」
「今すぐだ!」
「それは……」
「無理だとは言わせねえぞ、頼む、すぐに話つけてくれ」
ミーヤがトーヤの顔をじっと見る。
「分かりました」
小走りに駆け出し、その後をトーヤが付いて走った。
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