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第二章 第二節 青い運命
4 青い小鳥
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「おい、ちび、熱があるんじゃねえか?」
「いえ、大丈夫です」
フェイはそう言うがおでこに手を当てると熱い……心持ち息も早いようだ。
「いや、あるな。おいミーヤさんよ」
ミーヤを呼んでフェイを見せる。
「本当ですね、熱があります。どこが辛いですか?」
「いえ、大丈夫です」
「大丈夫じゃねえだろうが、すぐ寝かせてやってくれよ」
「はい」
ミーヤがフェイを体調が悪い侍女が過ごす療養室に連れて行った。
そしてしばらくして戻ってきた時には真っ青な顔をしていた。
「どうした?」
「フェイが、良くないかも知れません……」
「え?」
医者が診るところによると、
「どうもケガから悪い風が入ったようですな。それが全身に回っているのかも」
ということだった。
「ケガって……」
トーヤはふと思い出した。
10日ほど前、前回のカースの帰り道に休憩で馬を止めた時、フェイが足を引きずっているのに気が付いた。
「おい、ちび、どうした」
「いえ、なんでもありません」
「なんでもねえってことあるかよ、見せてみろ」
フェイが恥ずかしがるのでミーヤに見てもらったら、
「転んだのですか?」
「……はい……」
聞いてみると帰る準備をしている時に井戸端で転んだらしい。
ケガをしたのは分かっていたが、みんな忙しそうだしと井戸の水でケガを洗い流しハンカチで縛ってそのまま馬に乗ったらしい。
「ちゃんと言わないとだめだろうが」
珍しくトーヤに叱られ、
「すみませんでした……」
フェイは小さくなった。
「しかし、こんな途中だし……もう一度傷洗っておいて宮に帰ってからちゃんと見てもらえ」
「はい」
手持ちの飲水でもう一度傷を洗い、縛り直して、
「痛くねえか?我慢できるか?」
「はい、大丈夫です」
いつもの「大丈夫」に安心してそのまま宮に帰ったのだった。
帰ってからちゃんと治療をしてもらったらしいが、その時にはすでに体の中に悪い風が入っていたのではないか、ということだった。
「それでどうなんだ?」
「分かりません、様子を見るしかないと」
「会えるのか?」
「多分」
トーヤはミーヤに連れられて侍女の療養室に行った。
普段は男性が立ち入り禁止の侍女の生活空間の一部だが、病人に対する見舞いにだけは許可をもらえると入れるそうだ。
療養室はそこそこの広さがあり、10個ほど並んだベッドをカーテンで仕切るようになっている。容態が悪い者は個室に移されるらしいが、大部分の者はここで少し休んでから自室に戻る。今はこの部屋にいるのはフェイ1人で、一番端、壁際のベッドに寝かされていた。
窓を少し開けて、そよそよとカーテンがわずかばかり揺れている。
ベッドに寝かされているフェイは熱のために赤い顔をし、大きく息をして辛そうだった。
ついさっき見た時はまだそれほどではなかったのに、急激に悪化しているのが見てとれた。
「おい、ちび」
「……トーヤ様……」
ベッドの傍らの椅子に腰掛け、フェイの手を握る。
「おまえ、熱なんかに負けるんじゃねえぞ、早く元気になれよな」
「はい、大丈夫です」
そう言って辛そうに、それでもにっこりと笑う。
「やっぱりちびの笑顔はいいなあ。俺は笑顔のかわいい女が好きだ。なんでかと言うとな、笑顔を見るとそいつがどんなやつか分かるからな」
「……そうなのですか?」
「そうだぞ。いいやつはいい顔をして笑う、ずるいやつはずるい笑顔だ、悪いやつは悪い笑顔な。でもな、どんな笑顔でも笑えるやつはまだ希望が持てるってもんだ、笑えないやつは論外だな。ちびの笑顔はおひさまみたいで好きだな。いい笑顔だ。ちびは大人になったらすげえいい女になるぞ。だからその笑顔忘れるなよな」
「はい」
またにっこり満面に笑う。
トーヤがタオルをはずし、たらいに入れた水で濡らし直してフェイのおでこに乗せ直す。
「ありがとうございます」
「いいっていいって。そういや俺もお前にタオル乗せ直してもらったことがあったな、覚えてるか?」
「はい、カースで、お酒を……」
「そうそう」
「心配しました……」
「だったなあ」
カリカリと頭をかくトーヤ。
「もう間違えないようにってカップの取っ手にリボン巻いてくれたよな、あれから間違えずに済むんで助かってる」
「よかったです……」
またにっこりと笑う。
「ダルの母ちゃんが預かってくれてるが、あのままもらっちまったなあリボン」
「でも、代わりに青い小鳥をいただきました」
「そうだったな」
「ここにいます」
フェイが、枕元に置いたハンカチに包んだ物を開いてみせる。
それは青いガラスでできた黒い目をした小さな小鳥の細工物だった。背中に金具が付いていて紐や鎖で何かにぶら下げられるようになっている。
リュセルスに何度か行ってるうちにトーヤはあることに気が付いた。
フェイが、ある店の前に行くと少し止まってウインドウの中をのぞくのだ。
急いでいる時にはそちらに目をやるだけで何も言わず通り過ぎるのだが、ゆっくり歩いていたり、ちょうど角に店があるためにそこで止まっていたりするとじっと見ている。
何を見ているのかと見ていて気付いたのだ。
「ミーヤさんよ、ちょっと買いたいもんがあるんだが、金いいか?」
「はい、元々トーヤ様のためのお金を預かっているものですから」
「わりいな」
そうしてミーヤから金袋を受け取ると、その店にふらっと入って行き、何かを買って出てきた。
「よう、ちび、手出してみろ」
フェイが言われるままに手を出すと、その小さな手のひらの上に青い小鳥がちょこんと乗った。
「いえ、大丈夫です」
フェイはそう言うがおでこに手を当てると熱い……心持ち息も早いようだ。
「いや、あるな。おいミーヤさんよ」
ミーヤを呼んでフェイを見せる。
「本当ですね、熱があります。どこが辛いですか?」
「いえ、大丈夫です」
「大丈夫じゃねえだろうが、すぐ寝かせてやってくれよ」
「はい」
ミーヤがフェイを体調が悪い侍女が過ごす療養室に連れて行った。
そしてしばらくして戻ってきた時には真っ青な顔をしていた。
「どうした?」
「フェイが、良くないかも知れません……」
「え?」
医者が診るところによると、
「どうもケガから悪い風が入ったようですな。それが全身に回っているのかも」
ということだった。
「ケガって……」
トーヤはふと思い出した。
10日ほど前、前回のカースの帰り道に休憩で馬を止めた時、フェイが足を引きずっているのに気が付いた。
「おい、ちび、どうした」
「いえ、なんでもありません」
「なんでもねえってことあるかよ、見せてみろ」
フェイが恥ずかしがるのでミーヤに見てもらったら、
「転んだのですか?」
「……はい……」
聞いてみると帰る準備をしている時に井戸端で転んだらしい。
ケガをしたのは分かっていたが、みんな忙しそうだしと井戸の水でケガを洗い流しハンカチで縛ってそのまま馬に乗ったらしい。
「ちゃんと言わないとだめだろうが」
珍しくトーヤに叱られ、
「すみませんでした……」
フェイは小さくなった。
「しかし、こんな途中だし……もう一度傷洗っておいて宮に帰ってからちゃんと見てもらえ」
「はい」
手持ちの飲水でもう一度傷を洗い、縛り直して、
「痛くねえか?我慢できるか?」
「はい、大丈夫です」
いつもの「大丈夫」に安心してそのまま宮に帰ったのだった。
帰ってからちゃんと治療をしてもらったらしいが、その時にはすでに体の中に悪い風が入っていたのではないか、ということだった。
「それでどうなんだ?」
「分かりません、様子を見るしかないと」
「会えるのか?」
「多分」
トーヤはミーヤに連れられて侍女の療養室に行った。
普段は男性が立ち入り禁止の侍女の生活空間の一部だが、病人に対する見舞いにだけは許可をもらえると入れるそうだ。
療養室はそこそこの広さがあり、10個ほど並んだベッドをカーテンで仕切るようになっている。容態が悪い者は個室に移されるらしいが、大部分の者はここで少し休んでから自室に戻る。今はこの部屋にいるのはフェイ1人で、一番端、壁際のベッドに寝かされていた。
窓を少し開けて、そよそよとカーテンがわずかばかり揺れている。
ベッドに寝かされているフェイは熱のために赤い顔をし、大きく息をして辛そうだった。
ついさっき見た時はまだそれほどではなかったのに、急激に悪化しているのが見てとれた。
「おい、ちび」
「……トーヤ様……」
ベッドの傍らの椅子に腰掛け、フェイの手を握る。
「おまえ、熱なんかに負けるんじゃねえぞ、早く元気になれよな」
「はい、大丈夫です」
そう言って辛そうに、それでもにっこりと笑う。
「やっぱりちびの笑顔はいいなあ。俺は笑顔のかわいい女が好きだ。なんでかと言うとな、笑顔を見るとそいつがどんなやつか分かるからな」
「……そうなのですか?」
「そうだぞ。いいやつはいい顔をして笑う、ずるいやつはずるい笑顔だ、悪いやつは悪い笑顔な。でもな、どんな笑顔でも笑えるやつはまだ希望が持てるってもんだ、笑えないやつは論外だな。ちびの笑顔はおひさまみたいで好きだな。いい笑顔だ。ちびは大人になったらすげえいい女になるぞ。だからその笑顔忘れるなよな」
「はい」
またにっこり満面に笑う。
トーヤがタオルをはずし、たらいに入れた水で濡らし直してフェイのおでこに乗せ直す。
「ありがとうございます」
「いいっていいって。そういや俺もお前にタオル乗せ直してもらったことがあったな、覚えてるか?」
「はい、カースで、お酒を……」
「そうそう」
「心配しました……」
「だったなあ」
カリカリと頭をかくトーヤ。
「もう間違えないようにってカップの取っ手にリボン巻いてくれたよな、あれから間違えずに済むんで助かってる」
「よかったです……」
またにっこりと笑う。
「ダルの母ちゃんが預かってくれてるが、あのままもらっちまったなあリボン」
「でも、代わりに青い小鳥をいただきました」
「そうだったな」
「ここにいます」
フェイが、枕元に置いたハンカチに包んだ物を開いてみせる。
それは青いガラスでできた黒い目をした小さな小鳥の細工物だった。背中に金具が付いていて紐や鎖で何かにぶら下げられるようになっている。
リュセルスに何度か行ってるうちにトーヤはあることに気が付いた。
フェイが、ある店の前に行くと少し止まってウインドウの中をのぞくのだ。
急いでいる時にはそちらに目をやるだけで何も言わず通り過ぎるのだが、ゆっくり歩いていたり、ちょうど角に店があるためにそこで止まっていたりするとじっと見ている。
何を見ているのかと見ていて気付いたのだ。
「ミーヤさんよ、ちょっと買いたいもんがあるんだが、金いいか?」
「はい、元々トーヤ様のためのお金を預かっているものですから」
「わりいな」
そうしてミーヤから金袋を受け取ると、その店にふらっと入って行き、何かを買って出てきた。
「よう、ちび、手出してみろ」
フェイが言われるままに手を出すと、その小さな手のひらの上に青い小鳥がちょこんと乗った。
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