83 / 353
第二章 第二節 青い運命
2 新たな託宣
しおりを挟む
「ま、待てよ、その前に託宣っての、できるのかシャンタル……」
「みたいだね」
「だね、じゃねーよ! なんだよそれ!」
ベルが声を荒げる。
「いつあったんだよ」
アランが静かに聞く。
「いつだったかなあ、2、3日前」
「そんな最近なのか」
「うん」
「なんて?」
「う~んと、確か」
シャンタルが思い出しながら話し出す。
「ああ、そうだ、3日前の夜だったよね」
「だったな」
「夜、寝る前だったかな、私はベッドの上にもう寝転がってて、トーヤはソファに腰掛けてた」
似たような造りの宿だがまた別の宿での話だ。
「そしたらいきなり戻らなきゃって気持ちになった」
「気持ち?」
「うん」
「そんでどうした」
「トーヤに戻らなきゃって言ったんだよ」
「それで?」
「そうしたらトーヤがどうしてって聞くから次代様がいらっしゃるって答えた」
「そんだけか?」
ベルが珍しく押さえたように聞く。
「そう、それだけ」
「それが託宣?」
「そうだね、いつもそんな感じだ」
「…………」
「…………」
アランもベルも言葉が出ない。
「……そんで、そんでトーヤはどう言ったんだよ……」
「そうか、じゃあ戻るかって」
「そんだけかよ!」
ベルが押さえたものが弾けるように言う。
「そんな、そんな簡単なことでおれたちとさいならしようとしたのかよ、え!」
「簡単っていやあ簡単かも知れんけど、簡単なことじゃねえからなあ」
トーヤが言う。
「それによ、だったらどんな託宣だったら納得するんだ? 神がかりになって怪しい踊りでも踊って回るのか、え?」
「それは……」
「そのへんの獣でもくわえて血すすって、神の声じゃああああああ! って叫ぶのか?」
「そんなこと……」
「だろ? だったらどんな形でもいいんじゃねえのか?」
「だって、だって……」
ベルはもう何も言えなかった。
そもそも神の声が聞こえる、託宣が下る、その正しい形なぞ誰にも分からないのだから。
「まあそういうわけだからな、行くわ」
トーヤが「また明日」とでも言うようにさらっと言った。
それがまたベルに火をつけた。
「ざ、っけんな!!」
ベルが大声を上げた。
「行くわじゃねえよ! おれたち、おれと兄貴はどうすりゃいいんだよ!」
「だからそのために長い時間かけて話をしてんじゃねえかよ、違うか?」
「それは……」
そうなのだ。
そもそもこの長い話の始まりはベルとアランが話を聞かずには納得できない、そう言ったことから始まったのだ。
巻き込みたくはないからと理由を話さずに別れようとしていたシャンタル、もしも2人の反論がなければそのままシャンタルと共に行ってしまおうとしていたトーヤ、そこからだった。
ベルはぐっと言葉に詰まったがようやく続けた。
「……だったら、だったら、その時に、託宣ってのがあった時になんですぐ言わねえんだよ……」
「ああ、それな」
トーヤがこともなげに言う。
「いつ言おうかなと思ったんだが、この町が別れ道だからな、あっちとこっちの」
右手の人差指で左右を指差す。
「もしもおまえらが納得したら、そのままさっと行けるからな。もうちょっとだ、あと何日だって数えながら一緒に行くのも、まあ、なんだろ?」
「……かよ……」
「え、なんだ?」
ベルが小さな声で言う言葉をトーヤが拾おうとする。
「……止めねえと思ってたのかよ……」
ベルの声が張り裂ける。
「止めるに決まってるだろ! おれたちのこと見捨てるのかよ!」
トーヤがじっとベルを見て言った。
「見捨てるってな、おまえはまあまだ半分ガキだとして、アランはもう立派な大人だ、自分らのことぐらい自分らでなんとかできるだろうが」
「…………」
ベルが信じられないと言った顔でトーヤを見る。
「この三年、そのためのことは、俺にできることは教えてある。おまえらの道はおまえらで決めろ」
「信じ、られねえ……」
呆然とするベルの頭をアランがクシャっと掴む。
「落ち着け」
「兄貴……」
絶望した目でアランを見るベル。
「トーヤの言うことももっともだ。トーヤが俺の年にはもう1人でなんでもやってたし、変わらねえぐらいの年で嵐の海におっぽり出されたんだ、俺らがなんとかしてくれってのは間違ってる」
「兄貴!」
これ以上はないというぐらい見開かれた目でアランを見るベル。
「そんで、そんでいいのかよ、兄貴!」
「まあ聞け」
ベルの頭をさらにくしゃくしゃにする。
「おまえも落ち着け、よく聞け。トーヤはな、俺らのことを見捨てるなんて一言も言ってねえぞ。自分らで決めろっつーてるんだ。俺らを、おまえはまあちょっと早いかも知れんが、一人前の大人として話をしてくれてんだよ」
「さすがアラン、話が早い」
トーヤがニヤッと満足そうに笑った。
「だから、全部聞いた上で俺とおまえで決めるぞ、どうするかをな」
「兄貴……」
「おまえさっきから兄貴しか言ってねえな」
トーヤが愉快そうに笑った。
ベルがキッと睨みつける。
「まあまあアランの言う通りだ。とりあえずもうちょっとだけ続くぞ。全部聞いてから決めろ。怒るのはそれからで遅くねえだろ?」
「みたいだね」
「だね、じゃねーよ! なんだよそれ!」
ベルが声を荒げる。
「いつあったんだよ」
アランが静かに聞く。
「いつだったかなあ、2、3日前」
「そんな最近なのか」
「うん」
「なんて?」
「う~んと、確か」
シャンタルが思い出しながら話し出す。
「ああ、そうだ、3日前の夜だったよね」
「だったな」
「夜、寝る前だったかな、私はベッドの上にもう寝転がってて、トーヤはソファに腰掛けてた」
似たような造りの宿だがまた別の宿での話だ。
「そしたらいきなり戻らなきゃって気持ちになった」
「気持ち?」
「うん」
「そんでどうした」
「トーヤに戻らなきゃって言ったんだよ」
「それで?」
「そうしたらトーヤがどうしてって聞くから次代様がいらっしゃるって答えた」
「そんだけか?」
ベルが珍しく押さえたように聞く。
「そう、それだけ」
「それが託宣?」
「そうだね、いつもそんな感じだ」
「…………」
「…………」
アランもベルも言葉が出ない。
「……そんで、そんでトーヤはどう言ったんだよ……」
「そうか、じゃあ戻るかって」
「そんだけかよ!」
ベルが押さえたものが弾けるように言う。
「そんな、そんな簡単なことでおれたちとさいならしようとしたのかよ、え!」
「簡単っていやあ簡単かも知れんけど、簡単なことじゃねえからなあ」
トーヤが言う。
「それによ、だったらどんな託宣だったら納得するんだ? 神がかりになって怪しい踊りでも踊って回るのか、え?」
「それは……」
「そのへんの獣でもくわえて血すすって、神の声じゃああああああ! って叫ぶのか?」
「そんなこと……」
「だろ? だったらどんな形でもいいんじゃねえのか?」
「だって、だって……」
ベルはもう何も言えなかった。
そもそも神の声が聞こえる、託宣が下る、その正しい形なぞ誰にも分からないのだから。
「まあそういうわけだからな、行くわ」
トーヤが「また明日」とでも言うようにさらっと言った。
それがまたベルに火をつけた。
「ざ、っけんな!!」
ベルが大声を上げた。
「行くわじゃねえよ! おれたち、おれと兄貴はどうすりゃいいんだよ!」
「だからそのために長い時間かけて話をしてんじゃねえかよ、違うか?」
「それは……」
そうなのだ。
そもそもこの長い話の始まりはベルとアランが話を聞かずには納得できない、そう言ったことから始まったのだ。
巻き込みたくはないからと理由を話さずに別れようとしていたシャンタル、もしも2人の反論がなければそのままシャンタルと共に行ってしまおうとしていたトーヤ、そこからだった。
ベルはぐっと言葉に詰まったがようやく続けた。
「……だったら、だったら、その時に、託宣ってのがあった時になんですぐ言わねえんだよ……」
「ああ、それな」
トーヤがこともなげに言う。
「いつ言おうかなと思ったんだが、この町が別れ道だからな、あっちとこっちの」
右手の人差指で左右を指差す。
「もしもおまえらが納得したら、そのままさっと行けるからな。もうちょっとだ、あと何日だって数えながら一緒に行くのも、まあ、なんだろ?」
「……かよ……」
「え、なんだ?」
ベルが小さな声で言う言葉をトーヤが拾おうとする。
「……止めねえと思ってたのかよ……」
ベルの声が張り裂ける。
「止めるに決まってるだろ! おれたちのこと見捨てるのかよ!」
トーヤがじっとベルを見て言った。
「見捨てるってな、おまえはまあまだ半分ガキだとして、アランはもう立派な大人だ、自分らのことぐらい自分らでなんとかできるだろうが」
「…………」
ベルが信じられないと言った顔でトーヤを見る。
「この三年、そのためのことは、俺にできることは教えてある。おまえらの道はおまえらで決めろ」
「信じ、られねえ……」
呆然とするベルの頭をアランがクシャっと掴む。
「落ち着け」
「兄貴……」
絶望した目でアランを見るベル。
「トーヤの言うことももっともだ。トーヤが俺の年にはもう1人でなんでもやってたし、変わらねえぐらいの年で嵐の海におっぽり出されたんだ、俺らがなんとかしてくれってのは間違ってる」
「兄貴!」
これ以上はないというぐらい見開かれた目でアランを見るベル。
「そんで、そんでいいのかよ、兄貴!」
「まあ聞け」
ベルの頭をさらにくしゃくしゃにする。
「おまえも落ち着け、よく聞け。トーヤはな、俺らのことを見捨てるなんて一言も言ってねえぞ。自分らで決めろっつーてるんだ。俺らを、おまえはまあちょっと早いかも知れんが、一人前の大人として話をしてくれてんだよ」
「さすがアラン、話が早い」
トーヤがニヤッと満足そうに笑った。
「だから、全部聞いた上で俺とおまえで決めるぞ、どうするかをな」
「兄貴……」
「おまえさっきから兄貴しか言ってねえな」
トーヤが愉快そうに笑った。
ベルがキッと睨みつける。
「まあまあアランの言う通りだ。とりあえずもうちょっとだけ続くぞ。全部聞いてから決めろ。怒るのはそれからで遅くねえだろ?」
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
3IN-IN INvisible INnerworld-
ゆなお
ファンタジー
一人の青年のささやかな願いから始まった旅は、いつしか仲間と共にひっそりと世界を救う旅へと変わっていく。心と心の繋がりの物語。
※本編完結済みです。2ルート分岐あり全58話。長いですが二十五話まで読んで、続きが気になったら最後まで読んでください。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。
武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。
人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】
前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。
そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。
そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。
様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。
村を出て冒険者となったその先は…。
※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。
よろしくお願いいたします。
社畜探索者〜紅蓮の王と異界迷宮と配信者〜
代永 並木
ファンタジー
井坂蓮二、23歳 日々サービス残業を繰り返し連続出勤更新し続け精神が疲弊しても働き続ける社畜
ふと残業帰りにダンジョンと呼ばれる物を見つけた
ダンジョンとは10年ほど前に突如現れた謎の迷宮、魔物と呼ばれる存在が闊歩する危険なダンジョンの内部には科学では再現不可能とされるアイテムが眠っている
ダンジョンが現れた影響で人々の中に異能と呼ばれる力を得た者が現れた
夢か金か、探索者と呼ばれる人々が日々ダンジョンに挑んでいる
社畜の蓮二には関係の無い話であったが疲れ果てた蓮二は何をとち狂ったのか市販の剣(10万)を持ってダンジョンに潜り己の異能を解放する
それも3等級と呼ばれる探索者の最高峰が挑む高難易度のダンジョンに
偶然危機に瀕していた探索系配信者竜胆天音を助け社畜の傍ら配信の手伝いをする事に
配信者や異能者に出会いながら探索者として活躍していく
現2章
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
【完結】見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかし、正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる