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第二章 第二節 青い運命

 2 新たな託宣

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「ま、待てよ、その前に託宣っての、できるのかシャンタル……」
「みたいだね」
「だね、じゃねーよ! なんだよそれ!」

 ベルが声を荒げる。

「いつあったんだよ」 

 アランが静かに聞く。

「いつだったかなあ、2、3日前」
「そんな最近なのか」
「うん」
「なんて?」
「う~んと、確か」

 シャンタルが思い出しながら話し出す。

「ああ、そうだ、3日前の夜だったよね」
「だったな」
「夜、寝る前だったかな、私はベッドの上にもう寝転がってて、トーヤはソファに腰掛けてた」

 似たような造りの宿だがまた別の宿での話だ。

「そしたらいきなり戻らなきゃって気持ちになった」
「気持ち?」
「うん」
「そんでどうした」
「トーヤに戻らなきゃって言ったんだよ」
「それで?」
「そうしたらトーヤがどうしてって聞くから次代様がいらっしゃるって答えた」
「そんだけか?」

 ベルが珍しく押さえたように聞く。

「そう、それだけ」
「それが託宣?」
「そうだね、いつもそんな感じだ」
「…………」
「…………」

 アランもベルも言葉が出ない。

「……そんで、そんでトーヤはどう言ったんだよ……」
「そうか、じゃあ戻るかって」
「そんだけかよ!」

 ベルが押さえたものがはじけるように言う。

「そんな、そんな簡単なことでおれたちとさいならしようとしたのかよ、え!」
「簡単っていやあ簡単かも知れんけど、簡単なことじゃねえからなあ」

 トーヤが言う。

「それによ、だったらどんな託宣だったら納得するんだ? 神がかりになって怪しい踊りでも踊って回るのか、え?」
「それは……」
「そのへんの獣でもくわえて血すすって、神の声じゃああああああ! って叫ぶのか?」
「そんなこと……」
「だろ? だったらどんな形でもいいんじゃねえのか?」
「だって、だって……」

 ベルはもう何も言えなかった。
 そもそも神の声が聞こえる、託宣が下る、その正しい形なぞ誰にも分からないのだから。

「まあそういうわけだからな、行くわ」

 トーヤが「また明日」とでも言うようにさらっと言った。
 それがまたベルに火をつけた。

「ざ、っけんな!!」

 ベルが大声を上げた。

「行くわじゃねえよ! おれたち、おれと兄貴はどうすりゃいいんだよ!」
「だからそのために長い時間かけて話をしてんじゃねえかよ、違うか?」
「それは……」

 そうなのだ。
 そもそもこの長い話の始まりはベルとアランが話を聞かずには納得できない、そう言ったことから始まったのだ。
 巻き込みたくはないからと理由を話さずに別れようとしていたシャンタル、もしも2人の反論がなければそのままシャンタルと共に行ってしまおうとしていたトーヤ、そこからだった。

 ベルはぐっと言葉に詰まったがようやく続けた。

「……だったら、だったら、その時に、託宣ってのがあった時になんですぐ言わねえんだよ……」
「ああ、それな」

 トーヤがこともなげに言う。

「いつ言おうかなと思ったんだが、この町が別れ道だからな、あっちとこっちの」

 右手の人差指で左右を指差す。

「もしもおまえらが納得したら、そのままさっと行けるからな。もうちょっとだ、あと何日だって数えながら一緒に行くのも、まあ、なんだろ?」
「……かよ……」
「え、なんだ?」

 ベルが小さな声で言う言葉をトーヤが拾おうとする。

「……止めねえと思ってたのかよ……」
 
 ベルの声が張り裂ける。

「止めるに決まってるだろ! おれたちのこと見捨てるのかよ!」

 トーヤがじっとベルを見て言った。

「見捨てるってな、おまえはまあまだ半分ガキだとして、アランはもう立派な大人だ、自分らのことぐらい自分らでなんとかできるだろうが」
「…………」

 ベルが信じられないと言った顔でトーヤを見る。

「この三年、そのためのことは、俺にできることは教えてある。おまえらの道はおまえらで決めろ」
「信じ、られねえ……」

 呆然ぼうぜんとするベルの頭をアランがクシャっとつかむ。

「落ち着け」
「兄貴……」

 絶望した目でアランを見るベル。

「トーヤの言うことももっともだ。トーヤが俺の年にはもう1人でなんでもやってたし、変わらねえぐらいの年で嵐の海におっぽり出されたんだ、俺らがなんとかしてくれってのは間違ってる」
「兄貴!」

 これ以上はないというぐらい見開かれた目でアランを見るベル。

「そんで、そんでいいのかよ、兄貴!」
「まあ聞け」

 ベルの頭をさらにくしゃくしゃにする。

「おまえも落ち着け、よく聞け。トーヤはな、俺らのことを見捨てるなんて一言も言ってねえぞ。自分らで決めろっつーてるんだ。俺らを、おまえはまあちょっと早いかも知れんが、一人前の大人として話をしてくれてんだよ」
「さすがアラン、話が早い」

 トーヤがニヤッと満足そうに笑った。

「だから、全部聞いた上で俺とおまえで決めるぞ、どうするかをな」
「兄貴……」
「おまえさっきから兄貴しか言ってねえな」

 トーヤが愉快そうに笑った。
 ベルがキッと睨みつける。

「まあまあアランの言う通りだ。とりあえずもうちょっとだけ続くぞ。全部聞いてから決めろ。怒るのはそれからで遅くねえだろ?」
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