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第二章 第一節 再びカースへ
6 思わぬ抵抗
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「まあ、あれだ、コホン……そうしてなんとか逃げる算段がつけられそうだと俺は思ったわけだ、うん」
なんとも気まずい雰囲気の中、ようようトーヤが続ける気になった。
ダルが突然カトッティから宮に来て、また3日ほど剣の訓練をすることになった。
今度もまたマユリアが様子を見に来るとシャンタルもバルコニーから見ていたが、今度は前のようなことは起こらなかった。
シャンタルがこちらを見ているのは感じる。だが今度はトーヤも警戒しながらそちらに意識を向けていたからか、圧を感じることはあってもあの時のように金縛り状態になることはなかった。
シャンタルが行ってしまうとホッと体中から力が抜け、やはりかなりの脱力を感じはしたが、あの時のようなことはもう起こらない。
(あれは、一体なんだったんだ、本当に)
なぜか毎日午後から一度シャンタルはやってきたが、やはりほんの短い時間トーヤを見つめるとすいっと帰ってしまう。
(何しにきてるんだよ、あいつは……)
「何しに行ってたんだシャンタル?」
男連中に愛想を尽かしたかのように、ベルはシャンタルとだけしゃべることにしたようだ。
右横に座るアランとも、右斜め前に座るトーヤとも目を合わせようとはしない。
目を見て卒倒するほどの目に合うのも怖いものだが、目を見てももらえないのも辛いものだ。
「トーヤを見に行ってたんだよ」
「え、あんなやつ見てどうなるってんだよ」
「なんだろうね、興味があったんだ」
「え、あんなやつになんで興味もつんだよ?」
まるでその場にいないかのように悪態をつくベルに、トーヤは左手で額を押さえて顔をしかめる。
「本当になんでか分からないけど、とにかく気になったから見に行ってた」
「そんで、見てどう思ってたんだ?」
ベルから見て自分は被害者込みの共犯者扱いの立場、と理解したアランが主犯のトーヤより一足早く立ち直ったようだ。
「どうって、いるなって」
「いる?」
「うん、今日もいるなって思ってた」
「思ってどうしたんだ?」
「思ってただけ、かなあ」
「思ってただけって、おまえ」
うーん、とアランが首をひねる。
「なんだか分かんねえな」
「うん、分からないね」
クスクスとシャンタルが笑う。
「とにかく気になったんだよ。部屋にいたらいるなって気配を感じて、侍女に行きたいと言ったら連れて行ってくれる。それを繰り返してただけな気がする」
そんな不可思議なシャンタルのお出まし以外は特に問題もなく日々は過ぎていった。
一度言い出したことでもあるしとルギにダルの訓練の手伝いを頼んでみたら、こちらも思った以上にすんなりと事が進み、教えてもらうダルも、それを見ているトーヤもひどく感心することとなったことも付け加えておく。
そうしてダルが帰る日になった。
そこでちょっとした問題が起こった。
「ちびは留守番しとくか?」
トーヤがフェイにそう言って、一緒に行くつもりになっていたフェイが驚いた。
「どうしてですか?」
「え?」
今度はトーヤが驚いた。
今まで、フェイは言ったことに対して何かを言うことがなかったからだ。
いつもいい子で大人しく言うことを聞いていたので、今回も留守番するようにと言ったら「はい」とだけ返ってくるとばかり思っていた。
「どうしてって……カースは遠いからな、ちびには無理じゃねえか?」
「無理ではありません、大丈夫です」
思いもかけない強い拒絶にミーヤも驚いていた。
「トーヤ様はフェイのことを思って言ってくれてるんですが……フェイ、お留守番してませんか?」
「いえ、行けます、大丈夫です」
フェイの決意は固かった。
「そんじゃ、あんたと後から馬車で来るか?」
思えばミーヤもそれほど長く馬に乗ったことはない。時間的には王都リュセルスをそこそこの時間移動して回ったことはあるが、長距離となるとまた話が違ってくる。
「そういう方法もありますが、おそばに付いているのが侍女の役目ですし……」
やんわりとこちらも拒絶してくる。
「困ったな……」
うーん、とトーヤは腕を組んで考える。
「よう、ちび」
「はい」
「本当に遠いぞ? おまえ、そんなに遠くまで馬車や馬に乗って動いたことないだろ?」
「はい、ありません。ですが大丈夫です」
「う~ん……」
トーヤがさらに考えているとフェイが追いかけるように言う。
「あの、私、絶対に邪魔にはなりません、お約束します」
「邪魔にはしてねえよ、大変じゃねえかって言ってるだけだ」
「大丈夫です」
どう言っても「大丈夫」を繰り返すだけだ。
トーヤとミーヤが顔を見合わせる。
「じゃあ、こうしようよ」
ダルが言い出した。
「交代でフェイちゃんを乗せて行こう、途中で休みを入れながらさ」
「え?」
「ずっと休みなしで一人の馬で駆けてくってのは疲れるかも知れないから、こっちも途中で景色見ながら、って大した景色でもないけどさ、お弁当でも食べて一休みして、それでちょっとゆっくり時間かけて行けば? 一度通ればどんなもんかフェイちゃんも分かるだろうし、そうしたら帰り道は覚悟して帰れるだろ?」
「う~ん、大丈夫かなあ……」
まだ渋るトーヤにさらにフェイが言う。
「あの、本当に大丈夫です。だから、置いて行かないでください……」
訴えるような目に、とうとうトーヤも頭を縦に振るしかなくなった。
なんとも気まずい雰囲気の中、ようようトーヤが続ける気になった。
ダルが突然カトッティから宮に来て、また3日ほど剣の訓練をすることになった。
今度もまたマユリアが様子を見に来るとシャンタルもバルコニーから見ていたが、今度は前のようなことは起こらなかった。
シャンタルがこちらを見ているのは感じる。だが今度はトーヤも警戒しながらそちらに意識を向けていたからか、圧を感じることはあってもあの時のように金縛り状態になることはなかった。
シャンタルが行ってしまうとホッと体中から力が抜け、やはりかなりの脱力を感じはしたが、あの時のようなことはもう起こらない。
(あれは、一体なんだったんだ、本当に)
なぜか毎日午後から一度シャンタルはやってきたが、やはりほんの短い時間トーヤを見つめるとすいっと帰ってしまう。
(何しにきてるんだよ、あいつは……)
「何しに行ってたんだシャンタル?」
男連中に愛想を尽かしたかのように、ベルはシャンタルとだけしゃべることにしたようだ。
右横に座るアランとも、右斜め前に座るトーヤとも目を合わせようとはしない。
目を見て卒倒するほどの目に合うのも怖いものだが、目を見てももらえないのも辛いものだ。
「トーヤを見に行ってたんだよ」
「え、あんなやつ見てどうなるってんだよ」
「なんだろうね、興味があったんだ」
「え、あんなやつになんで興味もつんだよ?」
まるでその場にいないかのように悪態をつくベルに、トーヤは左手で額を押さえて顔をしかめる。
「本当になんでか分からないけど、とにかく気になったから見に行ってた」
「そんで、見てどう思ってたんだ?」
ベルから見て自分は被害者込みの共犯者扱いの立場、と理解したアランが主犯のトーヤより一足早く立ち直ったようだ。
「どうって、いるなって」
「いる?」
「うん、今日もいるなって思ってた」
「思ってどうしたんだ?」
「思ってただけ、かなあ」
「思ってただけって、おまえ」
うーん、とアランが首をひねる。
「なんだか分かんねえな」
「うん、分からないね」
クスクスとシャンタルが笑う。
「とにかく気になったんだよ。部屋にいたらいるなって気配を感じて、侍女に行きたいと言ったら連れて行ってくれる。それを繰り返してただけな気がする」
そんな不可思議なシャンタルのお出まし以外は特に問題もなく日々は過ぎていった。
一度言い出したことでもあるしとルギにダルの訓練の手伝いを頼んでみたら、こちらも思った以上にすんなりと事が進み、教えてもらうダルも、それを見ているトーヤもひどく感心することとなったことも付け加えておく。
そうしてダルが帰る日になった。
そこでちょっとした問題が起こった。
「ちびは留守番しとくか?」
トーヤがフェイにそう言って、一緒に行くつもりになっていたフェイが驚いた。
「どうしてですか?」
「え?」
今度はトーヤが驚いた。
今まで、フェイは言ったことに対して何かを言うことがなかったからだ。
いつもいい子で大人しく言うことを聞いていたので、今回も留守番するようにと言ったら「はい」とだけ返ってくるとばかり思っていた。
「どうしてって……カースは遠いからな、ちびには無理じゃねえか?」
「無理ではありません、大丈夫です」
思いもかけない強い拒絶にミーヤも驚いていた。
「トーヤ様はフェイのことを思って言ってくれてるんですが……フェイ、お留守番してませんか?」
「いえ、行けます、大丈夫です」
フェイの決意は固かった。
「そんじゃ、あんたと後から馬車で来るか?」
思えばミーヤもそれほど長く馬に乗ったことはない。時間的には王都リュセルスをそこそこの時間移動して回ったことはあるが、長距離となるとまた話が違ってくる。
「そういう方法もありますが、おそばに付いているのが侍女の役目ですし……」
やんわりとこちらも拒絶してくる。
「困ったな……」
うーん、とトーヤは腕を組んで考える。
「よう、ちび」
「はい」
「本当に遠いぞ? おまえ、そんなに遠くまで馬車や馬に乗って動いたことないだろ?」
「はい、ありません。ですが大丈夫です」
「う~ん……」
トーヤがさらに考えているとフェイが追いかけるように言う。
「あの、私、絶対に邪魔にはなりません、お約束します」
「邪魔にはしてねえよ、大変じゃねえかって言ってるだけだ」
「大丈夫です」
どう言っても「大丈夫」を繰り返すだけだ。
トーヤとミーヤが顔を見合わせる。
「じゃあ、こうしようよ」
ダルが言い出した。
「交代でフェイちゃんを乗せて行こう、途中で休みを入れながらさ」
「え?」
「ずっと休みなしで一人の馬で駆けてくってのは疲れるかも知れないから、こっちも途中で景色見ながら、って大した景色でもないけどさ、お弁当でも食べて一休みして、それでちょっとゆっくり時間かけて行けば? 一度通ればどんなもんかフェイちゃんも分かるだろうし、そうしたら帰り道は覚悟して帰れるだろ?」
「う~ん、大丈夫かなあ……」
まだ渋るトーヤにさらにフェイが言う。
「あの、本当に大丈夫です。だから、置いて行かないでください……」
訴えるような目に、とうとうトーヤも頭を縦に振るしかなくなった。
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