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第二章 第一節 再びカースへ
5 藪
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「なんか、すごく都合がいい展開だな」
アランが言う。
「なんだよなあ、俺も疑ったぜ、これもまたマユリアの思う壺なんじゃねえか、ってな」
「思うよなあ」
「だけどな、結局はそれに乗るしかねえんだよな。そういうわけで、カースに行った時にうまくルギに見つからないように抜け出してその洞窟に行く方法を考えた」
「ふむ」
「なあ……」
トーヤとアランが会話を続けるのを妙な目つきで見つめていたベルが呼びかけた。
「なんだ?」
「おれ、ちょっと気になることができたんだけどよ……」
「ん、なんだ?」
「トーヤって、時々兄貴と2人でどっかでかけるじゃん?おれとシャンタル置いてさ。それってもしかして、そういうお店に行ってんのか?」
「い!?」
トーヤが素っ頓狂な声を出す。
「なあ、そうなのか?」
「や、藪から棒に何を言っているんだベル君!」
明らかに様子がおかしい。
「おれ、てっきり仕事の相談にでも行ってるんだ、おれたちが休んでる間まで大変だなあと思ってたんだけど、そうなんだな……」
じーっとベルがトーヤを見つめる。
「ってことは兄貴もか?」
「へ!?」
返す刀に今度はアランがしゃっくりのような声を上げた。
「兄貴もかあ……」
はあ~っとベルがため息をつく。
「いやいやいや、行ってないぜ?なあアラン?」
「そうだよ、なあ?」
言葉もなくじーっと2人を見つめるベル、明らかに動揺を見せるトーヤとアラン。
「男って変だよなあ、あんなえげつない戦いの中で落ち着いて戦えるくせによ、なんでこういう突っ込みには弱いんだろな?」
まったく不思議である。
「まさかトーヤ、シャンタルもそういうとこに連れてったりしてんじゃ……」
「ば、馬鹿言え!シャンタルはそんなとこ連れて行くわけねえじゃねえかよ!」
「シャンタル『は』?」
「いや、今のは言葉のあやで!」
おたおたと慌てるトーヤ、その横で固まるアラン。
「てっめぇ……」
ガタンと音を立ててベルが立ち上がる。
「人の兄貴に何してくれてんだよ、ええ!」
「おい!知らねえ人が聞いたら勘違いするような言い方すんな!俺は男にそんなことする趣味はねえぞ!」
「そんじゃどこのどなた様にどんなことならするってんだ、え?言ってみろよ、え?」
「いや、いや、それは……」
ごにょごにょと小声になるトーヤ。
「なにー?きこえなーい!」
「いや、だから……」
「なん、だっ、てえ?」
「いや、あの、その……」
「聞こえねえ!!もっと大きい声で!!」
「言えませーん!!」
「はああああああああ!?」
「おい、ベル、もうそのへんで」
アランが言うがベルはキッとそちらに向き直ると、
「そんじゃ兄貴言ってみろ!」
「ええっ!」
いつもなら冷静に場を収めるアランであるが、今回ばかりは自分も被告、弁護人を務めることはできそうもない。
「言ってみろって、え!」
「いや、いや、だから、それは……」
トーヤを助けようとしたばかりにやぶへびである。
そもそもなんでベルにそんなに責められにゃならんのだとトーヤもアランも思うのだが、なぜだろう、言い返すことができない。
「まあまあベル、そのへんで」
シャンタルが笑いながらそう言った。
「もう朝まで時間がないよ、このままじゃ話が終わらない」
シャンタルの言葉にベルが盛大に舌打ちをして2人をにらみつけながら口を閉じる。
「それに、多分だけど、さっきベルが言ってたように、仕事の話をしに行ってくれてる時『も』あると思うよ?だから今は話の続きをしてしまおうよ。もう直に朝になってしまうからそれを終わらせてからにしよう。その話はまた今度ゆっくりすればいいじゃない。ね、その方が楽しいと思うよ?」
イノセンスなシャンタルがそう言って、助け舟になるのかならないのか分からない言葉でひとまずその場を収めた。
アランが言う。
「なんだよなあ、俺も疑ったぜ、これもまたマユリアの思う壺なんじゃねえか、ってな」
「思うよなあ」
「だけどな、結局はそれに乗るしかねえんだよな。そういうわけで、カースに行った時にうまくルギに見つからないように抜け出してその洞窟に行く方法を考えた」
「ふむ」
「なあ……」
トーヤとアランが会話を続けるのを妙な目つきで見つめていたベルが呼びかけた。
「なんだ?」
「おれ、ちょっと気になることができたんだけどよ……」
「ん、なんだ?」
「トーヤって、時々兄貴と2人でどっかでかけるじゃん?おれとシャンタル置いてさ。それってもしかして、そういうお店に行ってんのか?」
「い!?」
トーヤが素っ頓狂な声を出す。
「なあ、そうなのか?」
「や、藪から棒に何を言っているんだベル君!」
明らかに様子がおかしい。
「おれ、てっきり仕事の相談にでも行ってるんだ、おれたちが休んでる間まで大変だなあと思ってたんだけど、そうなんだな……」
じーっとベルがトーヤを見つめる。
「ってことは兄貴もか?」
「へ!?」
返す刀に今度はアランがしゃっくりのような声を上げた。
「兄貴もかあ……」
はあ~っとベルがため息をつく。
「いやいやいや、行ってないぜ?なあアラン?」
「そうだよ、なあ?」
言葉もなくじーっと2人を見つめるベル、明らかに動揺を見せるトーヤとアラン。
「男って変だよなあ、あんなえげつない戦いの中で落ち着いて戦えるくせによ、なんでこういう突っ込みには弱いんだろな?」
まったく不思議である。
「まさかトーヤ、シャンタルもそういうとこに連れてったりしてんじゃ……」
「ば、馬鹿言え!シャンタルはそんなとこ連れて行くわけねえじゃねえかよ!」
「シャンタル『は』?」
「いや、今のは言葉のあやで!」
おたおたと慌てるトーヤ、その横で固まるアラン。
「てっめぇ……」
ガタンと音を立ててベルが立ち上がる。
「人の兄貴に何してくれてんだよ、ええ!」
「おい!知らねえ人が聞いたら勘違いするような言い方すんな!俺は男にそんなことする趣味はねえぞ!」
「そんじゃどこのどなた様にどんなことならするってんだ、え?言ってみろよ、え?」
「いや、いや、それは……」
ごにょごにょと小声になるトーヤ。
「なにー?きこえなーい!」
「いや、だから……」
「なん、だっ、てえ?」
「いや、あの、その……」
「聞こえねえ!!もっと大きい声で!!」
「言えませーん!!」
「はああああああああ!?」
「おい、ベル、もうそのへんで」
アランが言うがベルはキッとそちらに向き直ると、
「そんじゃ兄貴言ってみろ!」
「ええっ!」
いつもなら冷静に場を収めるアランであるが、今回ばかりは自分も被告、弁護人を務めることはできそうもない。
「言ってみろって、え!」
「いや、いや、だから、それは……」
トーヤを助けようとしたばかりにやぶへびである。
そもそもなんでベルにそんなに責められにゃならんのだとトーヤもアランも思うのだが、なぜだろう、言い返すことができない。
「まあまあベル、そのへんで」
シャンタルが笑いながらそう言った。
「もう朝まで時間がないよ、このままじゃ話が終わらない」
シャンタルの言葉にベルが盛大に舌打ちをして2人をにらみつけながら口を閉じる。
「それに、多分だけど、さっきベルが言ってたように、仕事の話をしに行ってくれてる時『も』あると思うよ?だから今は話の続きをしてしまおうよ。もう直に朝になってしまうからそれを終わらせてからにしよう。その話はまた今度ゆっくりすればいいじゃない。ね、その方が楽しいと思うよ?」
イノセンスなシャンタルがそう言って、助け舟になるのかならないのか分からない言葉でひとまずその場を収めた。
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