上 下
67 / 353
第二章 第一節 再びカースへ

 5 藪

しおりを挟む
「なんか、すごく都合がいい展開だな」

 アランが言う。

「なんだよなあ、俺も疑ったぜ、これもまたマユリアの思う壺なんじゃねえか、ってな」
「思うよなあ」
「だけどな、結局はそれに乗るしかねえんだよな。そういうわけで、カースに行った時にうまくルギに見つからないように抜け出してその洞窟に行く方法を考えた」
「ふむ」
「なあ……」

 トーヤとアランが会話を続けるのを妙な目つきで見つめていたベルが呼びかけた。

「なんだ?」
「おれ、ちょっと気になることができたんだけどよ……」
「ん、なんだ?」
「トーヤって、時々兄貴と2人でどっかでかけるじゃん?おれとシャンタル置いてさ。それってもしかして、そういうお店に行ってんのか?」
「い!?」

 トーヤが素っ頓狂すっとんきょうな声を出す。

「なあ、そうなのか?」
「や、藪から棒やぶからぼうに何を言っているんだベル君!」

 明らかに様子がおかしい。

「おれ、てっきり仕事の相談にでも行ってるんだ、おれたちが休んでる間まで大変だなあと思ってたんだけど、そうなんだな……」

 じーっとベルがトーヤを見つめる。

「ってことは兄貴もか?」
「へ!?」

 返す刀に今度はアランがしゃっくりのような声を上げた。

「兄貴もかあ……」

 はあ~っとベルがため息をつく。

「いやいやいや、行ってないぜ?なあアラン?」
「そうだよ、なあ?」

 言葉もなくじーっと2人を見つめるベル、明らかに動揺を見せるトーヤとアラン。

「男って変だよなあ、あんなえげつない戦いの中で落ち着いて戦えるくせによ、なんでこういう突っ込みには弱いんだろな?」

 まったく不思議である。

「まさかトーヤ、シャンタルもそういうとこに連れてったりしてんじゃ……」
「ば、馬鹿言え!シャンタルはそんなとこ連れて行くわけねえじゃねえかよ!」
「シャンタル『は』?」
「いや、今のは言葉のあやで!」

 おたおたと慌てるトーヤ、その横で固まるアラン。

「てっめぇ……」

 ガタンと音を立ててベルが立ち上がる。

「人の兄貴に何してくれてんだよ、ええ!」
「おい!知らねえ人が聞いたら勘違いするような言い方すんな!俺は男にそんなことする趣味はねえぞ!」
「そんじゃどこのどなた様にどんなことならするってんだ、え?言ってみろよ、え?」
「いや、いや、それは……」

 ごにょごにょと小声になるトーヤ。

「なにー?きこえなーい!」
「いや、だから……」
「なん、だっ、てえ?」
「いや、あの、その……」
「聞こえねえ!!もっと大きい声で!!」
「言えませーん!!」
「はああああああああ!?」
「おい、ベル、もうそのへんで」

 アランが言うがベルはキッとそちらに向き直ると、

「そんじゃ兄貴言ってみろ!」
「ええっ!」

 いつもなら冷静に場を収めるアランであるが、今回ばかりは自分も被告ひこく弁護人べんごにんを務めることはできそうもない。

「言ってみろって、え!」
「いや、いや、だから、それは……」

 トーヤを助けようとしたばかりにやぶへびである。
 そもそもなんでベルにそんなに責められにゃならんのだとトーヤもアランも思うのだが、なぜだろう、言い返すことができない。

「まあまあベル、そのへんで」

 シャンタルが笑いながらそう言った。

「もう朝まで時間がないよ、このままじゃ話が終わらない」

 シャンタルの言葉にベルが盛大に舌打ちをして2人をにらみつけながら口を閉じる。

「それに、多分だけど、さっきベルが言ってたように、仕事の話をしに行ってくれてる時『も』あると思うよ?だから今は話の続きをしてしまおうよ。もう直に朝になってしまうからそれを終わらせてからにしよう。その話はまた今度ゆっくりすればいいじゃない。ね、その方が楽しいと思うよ?」

 イノセンスなシャンタルがそう言って、助け舟になるのかならないのか分からない言葉でひとまずその場を収めた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...