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第二章 第一節 再びカースへ

 4 普通の町

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「普通の町、なあ……ん?」

 考えていてトーヤはピンときた。

「なあ、その町ってよ、もしかして……」

 ぐいっとダルの肩を抱き、もっと小さい声でこっそりと言う。

「女、か?」

 ダルの顔がかあっと真っ赤になる。

「やっぱりかよ~」

 トーヤがにや~っと笑う。

「なるほどな~そりゃ内緒だよなあ」
 
 小さく、それでもクツクツと笑うトーヤに、

「内緒だからな、な」

 ダルがまだ赤い顔のまま言う。

 王都のあちこちを走り回っていてトーヤが違和感を感じたことがある。

 「清浄せいじょう過ぎる」

 どこの国のどんな街でも、王都や首都と言う場所は、きらびやかでありながらも一歩裏に入るとその手の店も賑わっているものだ。それがこのリュセルスには感じられない。もちろん酒を出すような店もあれば女性がいる店もある。だがそのどれも、トーヤが今までに見てきた生まれ故郷のような淫靡いんびな雰囲気をかもし出すことがない。
 これはあまり夜に出歩いていないからかも知れないが、それにしてもそのような雰囲気をほとんど感じないのだ。

「おっかしいと思ってたんだよなあ、ないもんな、そういう店」
「いや、ないことはないんだよ?でも王都はシャンタルの街だからね、あるのは大部分がカトッティの東の方になる」
「あっちにはあるのか」
「うん。でもカースからは遠いからね、それで……」
「こっそりマユリアの海を超えて、か。さすが海の男たちだ」

 トーヤが真面目に感心する。

「俺も行ってみてえなあ」
「え、トーヤ、そんな店行くの!?」
「当たり前だろうよ、一人前の男なら行くだろうが」
「そ、そうなのか……」

 ダルがドギマギする。

「あれ~もしかしてダルく~ん……」
「な、なんだよ!」
「行ったことねえのか~そうか~そう言ってたもんなあ」
 
 またダルが黙って真っ赤になる。

「かわいいよな~」
「な、なんだよ、トーヤだって俺と年変わんねえだろう!」
「年だけ、はな」

 一気に先輩面するトーヤにダルがぐっと黙る。

「行ってみたくねえか?」
「そりゃ……」
「男なら、ねえことねえよな?」
「んでも、俺は、あまりそういう店には行きたいとは……」
「なんでだよ」
「だって、だって……なんでだろ?」

 トーヤがケラケラと笑った。

「まあいいや。なんでもいいけど、一度その抜け道見てみてえな。でもなあ、ずっとルギのやろうがくっついてやがるしなあ。その道、夜も行けるのか?」
「大体が夜行くんだよ」
「だよなあ、あんまり昼からは行かねえよなあ」

 またトーヤが笑う。

「俺はさ、まだガキだからって海のところまでしか連れてってもらったことない。それに、そういうことだけで行くとこでもないからな」
「分かった分かった」
「山を超えて行こうと思うと大変な場所なんだよ。マユリアの海の外を超えて行くのも結構大変だ。でもそこ通ると結構早く行けるんだよ、カトッティの東行くより早いらしい」
「へえ……」

 ダルは一生懸命「そういう」場所ではないと説明するために言葉を重ねるが、情報を逃すまいとしてトーヤの目が抜け目なく光る。

「みんな、そういうことでしょっちゅう行ってるわけじゃないんだぜ?なんか、特別のことがあったり、お祭りとか、休みが取れる時とか、そういう時にはゆっくり行ってきてるみたいだけどさ」
「ほお……」
「行って帰るのにちょっと時間がかかるからな。普通の日に行ってもさっと買い物とかして以外はなかなかむずかしいから、どうしてもそういう日になるんだよ」

 距離は往復で半日ぐらいの場所かとトーヤは推測する。それだったら行けないことはない。

「じゃあまあ、そこまでは行かなくていいから、今度行った時に一度連れてってくれよその抜け道。俺もそういうの見てみたい」
「分かった、けどルギは?一緒に行くのか?」
「馬鹿言えよ~冗談じゃねえ」

 トーヤは心底嫌そうに首をすくめた。

「またなんか考えるさ、いい方法を」
「そ、そうか、うん、分かった。そんじゃこの続きはまたな」

 ダルとしては一度言い出してしまったものの思わぬ方向に話が進み、あまりそういう話に慣れていないので早く切り上げたいと思っているようだった。
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