上 下
59 / 353
第一章 第三節 動き始めた運命

14 染まらぬ者

しおりを挟む
「だったらさあ、いっそのこと片っ端からそれらしい名前どんどん付けてってみたらどうだ? もしもドンピシャ当たりがあったら、わざわざ遠い国まで神様抜きに行かなくてもいいってことじゃん、なあそうしてみようよ」

 ベルのナイスアイデアに3人が大爆笑だいばくしょうした。

「そりゃまた大胆だいたんだな、ベルでないと考えつかねえぞ、そんなこと」
「なんだよ~いい考えだろうが」

 涙を流しながら言うトーヤにベルが抗議する。

「わが妹ながら、本当、感心する」
「私もこんなに笑ったの久しぶりかも」
「そんなにおかしいかよ」

 アランとシャンタルも笑いながら言うのにベルがぷっとふくれた。

「いやいや、いいと思うぜ、ベルらしい、うん。その調子でこれからも頼むぜ、なあ?」
「もういいよ!」

 トーヤの言葉で本格的に機嫌をそこねるのにアランがぽんぽんと肩を叩いてなだめる。

「そうすねんなって、お前の考えも悪くはないと思うぜ? ただな、問題はそういうことやった後、こいつがどうなるかだよ。間違ったことやってシャンタルがいきなり死んだりしたらどうする?」
「それはやだ!」
「だろ? だからそういう危ねえ真似はできねえってこった」
「そうか……」
「何しろ相手は神様だからな、なんでも気を付けて行動するに限る」
「分かったよ」

 ベルも納得する。

「そんじゃ兄貴が言ったみたいに髪とか染めてみたらどうだ? なんでやんなかったんだよ、トーヤ」
「おまえなあ、俺がそのぐらいのこと考えつかねえとでも思うか? やってみたさ」
「だって今も銀色じゃん」
「やったんだよ。色んな染料使って色々やってみた。だがな、染まらねえんだよ」
「え?」

 ベルが、アランが、眉をひそめる。

「それ、どういうことだよ?」
「さあなあ、俺にも分からん。とにかく、こっち戻る道すがら、通る国通る国で色んな染料手に入れてはやってみた。だがだめだったんだよ。全く最初から染まる気配がないものもあれば、今度はうまくいったかと思ったら翌日には抜けちまってたってものもある。そりゃもうありとあらゆるもので試したけどだめだった」
「そりゃあ……」

 どう言えばいいのか、アランも言葉をなくす。

「だったら切るってのは? 短く刈り上げちまえば全然印象違うぜ?」
「刈り上げって」

 ぷっとシャンタルが笑った。

「笑うなよ~こっちは真面目に言ってんのにさ」
「ごめんごめん」
「それはな、こいつが嫌がったんだよ」

 トーヤがシャンタルをくいっと指差す。

「シャンタル、本当なのかよ、なんでだ?」
「なんでって言われても……そうだなあ、切ってはいけないと思ってる」
「だから、それはなんでだよ?」
「説明はできないなあ、だめだと思う」
「なんだよそれー」

 シャンタルはうーんと頭をひねる。

「本当になんでだろうね? 髪を切ることを考えようとしたら、それはだめだってどこかから言われるんだよね。切ってはいけないって」
「それって、シャンタルの中のシャンタルの言葉か?」
「そうかも知れないし違うかも知れない」
「めんっどうくせえなあ、おまえよお」

 ここでの会話を、トーヤがマユリアを「あんた」呼ばわりしシャンタルを「あいつ」呼ばわりした場にいた人々が見たらどうしただろうか? 今度は「こいつ」に「おまえ」ときたものだ。恐らく目の前の出来事に目を回すことだろう。

「ほんっとめんどくせえ、寝てる間にとっとと切ってやってりゃよかったのに」
「おまえなあ、それやるのは色々名前付けまくるってのと変わらねえぞ? 何が起こるか分かんねえのによ」
「そうかあ」

 今度のアイデアも却下きゃっかされてベルはふうっとため息をつく。

「だったらどうしろってんだよ、なあ」
「だからな、こうしてマントおっかぶせてるんだよ、できるだけ目立たないようにな」
「そのぐらいしかできることねえのかなあ」
「幸いにもこいつはちょこっと魔法が使えるからな、魔法使いにはおかしい衣装でもないだろう」
「そりゃまそうなんだけど、本当めんどくせえなあシャンタル」
「ごめんね」

 さっきまではシャンタルの中にいると言う神にびびりまくっていたベルが、もうすっかりそんなことは忘れたようにいつものようになり、平気でシャンタルをいじるようになっている。シャンタルにはそれがうれしかった。

「やっぱりベルはいいよね、いつもそうして私を楽にしてくれる。私はベルが大好きだよ」

 シャンタルの素直な言葉にベルがぽっとほおを染めながら照れる。

「まあでもあれだな、今のでなんとなく分かった気がする」

 アランが言う。

「分かったって何がだよ?」
「シャンタルだよ。おかしいだろ、けがれを嫌う神様が、なんで戦場稼ぎの傭兵のトーヤにこいつを預けたのか、不思議だろ? 一番穢れのある場所だぜ、考えようによっちゃな」
「そうだな、それは俺も最初から思ってた」
「つまりな、染まらないんだよ、こいつは」

 じっとシャンタルを見る。

「おそらく、何者にも染まらない、穢れにもその他の何にもな。何があろうとこいつはこいつだ。だからそのために神様はトーヤにシャンタルを預けたんじゃねえのか? あえて一番穢れのあるだろう場所に置くためにな」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

銀色の魔法使い(黒のシャンタル外伝)<完結>

小椋夏己
ファンタジー
戦で家も家族もなくした10歳の少女ベル、今、最後に残った兄アランも失うのかと、絶望のあまり思わず駆け出した草原で見つけたのは? ベルが選ぶ運命とは? その先に待つ物語は?    連載中の「黒のシャンタル」の外伝です。 序章で少し触れられた、4人の出会いの物語になります。 仲間の紅一点、ベルの視点の話です。 「第一部 過去への旅<完結>」の三年前、ベルがまだ10歳の時の話です。 ベルとアランがトーヤとシャンタルと出会って仲間になるまでの話になります。 兄と妹がどうして戦場に身を投じることになったのか、そして黒髪の傭兵と銀色の魔法使いと行く末を共にすることになったのか、そのお話です。  第一部 「過去への旅」 https://ncode.syosetu.com/s3288g/  第二部「新しい嵐の中へ」https://ncode.syosetu.com/n3151hd/  もどうぞよろしくお願いいたします。 「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」「ノベルアップ+」「エブリスタ」で公開中 ※表紙絵は横海イチカさんに描いていただいたファンアートです、ありがとうございました!

悪役令嬢に転生したおばさんは憧れの辺境伯と結ばれたい

ゆうゆう
恋愛
王子の婚約者だった侯爵令嬢はある時前世の記憶がよみがえる。 よみがえった記憶の中に今の自分が出てくる物語があったことを思い出す。 その中の自分はまさかの悪役令嬢?!

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。 レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい…… 精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

スキル【心気楼】を持つ一刀の双剣士は喪われた刃を求めて斬り進む!その時、喪われた幸福をも掴むのをまだ知らない

カズサノスケ
ファンタジー
『追放者の楽園』 追放された者が逆転するかの様に名を成し始めた頃、そう呼ばれる地があるとの噂が囁かれ始めた。流れ着いた追放者たちは誰からも必要とされる幸せな人生を送っているらしい、と。 そして、また1人。とあるパーティを追放され、噂にすがって村の門を叩く者がいた。その者、双剣士でありながら対を成す剣の1つを喪ってしまっていた……。いつ?なぜ?喪ったのか、その記憶すら喪われていた。しかし、その者は記憶の中にある物を実体化出来る特別な能力【心気楼】を有していた。その力で記憶の中から抜刀する、かりそめの双剣士『ティルス』は1人の少女との出会いをきっかけに喪われた双剣の一振りを取り戻す旅に出る。その刃を掴む時、その者は喪われた幸福をも掴み取る。 ※この作品は他サイトにも掲載しております。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

泉の聖

大器晩成らしい
ファンタジー
いつも通っている海岸 いつもと違う あるはずのない洞窟 好奇心の赴くままに入ってしまったら とんでもない目に・・・案内の狼に騙された形で残留決定。退屈な日々を過ごしていたある日、迷い込んできた人間。退屈だった日々が、どう変化していくのか・・・

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

処理中です...