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第一章 第三節 動き始めた運命
3 信じる
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初めてのリュセルスから帰った夜、ミーヤがとんでもない失敗をした。
「ああっ、申し訳ありません! フェイ、早く拭く物! お着替えと、それから誰か大人を呼んできて!」
「は、はい!」
申し付けられたフェイが慌てて、小さな足でパタパタと駆け出していく。
「本当になんということを! 熱くはないですか!?」
大きな声でそう言いながら、ミーヤがトーヤの体を拭く、それも掛け布団を使って!
そんなことをしたら余計に被害が広がりそうなものだが、あえてそうする目的でもあるのか、手を止めず続ける。
何があったかと言うと、帰ってきてベッドの上に寝そべっていたトーヤ目掛け、思いっきり夕食の乗ったトレイをぶちまけたのだ。
横になっていたトーヤは言うまでもなく、広いベッドのかなりの範囲に料理が飛び散り、床にも天蓋から垂れている紗にも被害が広がっていた。
「熱くはないけどよ、あんた、何を……」
呆然とするトーヤを目で制し、小さな声でミーヤが言う。
「こうでもしないとあなたとお話もできませんから」
「あんた、気がついて……」
「ええ」
トーヤを拭く振りをしながらミーヤが続ける。
「私は毎日キリエ様にその日何があったか報告をしています。多分フェイもそうでしょう。今度は私のことも報告しているでしょう」
「やっぱりな……」
まさかミーヤが気づいているとは思わなかった。
いつもにこにこして、フェイのことも単に勉強のため、自分の補佐のために付けられたと思っているとばかり。
「それで何が言いたい?」
「生贄です」
「は?」
「本当にそう思っているのでしょうか」
「本気半分冗談半分ってところかな」
トーヤが正直に答える。
「シャンタルは慈悲の女神です、今までもこれからもそんなことはないと私は信じています、ですが」
ミーヤはトーヤの目を見ることなく、忙しく体を動かしながら続けた。
「もしも、本当にあなたの身に危害が及ぶようなことがあるならば、その時は私は命をかけてお守りします」
トーヤが言葉もなくミーヤを見つめる。
「危険を感じてこの国から逃げたいと言うのなら、そのお手伝いもします。ですから私を信じてください」
「あんた……」
ミーヤはなおも体だけは動かしながら、それでも初めて少しだけ顔を上げてトーヤを見た。
「あなたは私を傷つけるようなことはしないとお約束してくださいました、誓ってくださいました。だから私もお願いします。私を信じてください」
またすぐに下を向き、布団の上に飛び散ったごちそうの成れの果てを手で集め、わざと床の上にぶちまけた。
そうしてるとフェイが呼んできたのだろう、数人が駆けつける音が聞こえてきた。
「ごめんなさい、とんでもないことをしてしまいました」
「ミーヤ、一体何が……」
同僚の侍女が3人来たが、あまりの様子に思わず足を止めて言葉を止める。
「足が、足がつまずいて夕食のお盆を…………」
「そんなことが……早くなんとかしないと」
「私、お水を汲んできます!」
「私は掃除道具を! あなたももっとタオルを持ってきて!」
「はい!」
言われてフェイがまたもっとタオルを取りに走る。
テキパキと3名が清掃作業の準備にかかる。
さすがに行き届いたシャンタル宮の侍女である、誰が指示するでもなく次々に作業に取り掛かる。
ただミーヤだけが、さっきまでとは違う様子で、掛け布団を抱えたままうろうろと立ち尽くしている。
「ミーヤはちょっと落ち着いて」
「は、はい」
「ここはいいから、ちゃんとお詫びを申し上げてそれを片付けてきて」
「お願いします……」
フェイが小さな腕で何枚ものタオルを抱えて戻ってきた。
「フェイ、ありがとう、私はこれを片付けてきます。ああ、そうだわ! もう一度身を清めていただかないと、お風呂もお願いしてきます」
後ろを振り向いてそう言うと、体を戻して一度トーヤの元へと戻る。
寝台の足元に片膝をついて座り、深く頭を下げてから上げた。
「信じて……」
トーヤにだけ聞こえるように、もう一度小さく言う。
「ああ、もう分かったからよ、そんなに謝らなくていいって、そこまで恐縮されっと逆にこっちが悪いみたいじゃねえか、もういいって!」
トーヤが大きな声で言った。
ミーヤがトーヤを見上げる。
「本当に申し訳ありません!」
「だからー、もう分かったって、わざとじゃねえんだろ? 信じる、信じるってばよ!」
ミーヤがトーヤの意図を汲み、ほっとしたような顔をする。
「本当に私はなんてことを……」
目に涙を浮かべてそう言うと、立ち上がり、手に持った掛け布団を握りしめ、トーヤを見て、
(誓います)
口の動きだけでもう一度そう言った。
「…………ほんっとにしつけえな、あんたはよぉ……だからあ、もういいからとっとと行けよ! あんたもぐしゃぐしゃだ、自分もちゃんと着替えてこいよな、どろどろの女に世話されるなんてごめんだからな!」
「はい、申し訳ありませんでした」
うなだれたままトーヤに背を向け、同僚とフェイにに向き直ると、
「よろしくお願いします」
そう言って、深く頭を下げ、走って退室していった。
「ああっ、申し訳ありません! フェイ、早く拭く物! お着替えと、それから誰か大人を呼んできて!」
「は、はい!」
申し付けられたフェイが慌てて、小さな足でパタパタと駆け出していく。
「本当になんということを! 熱くはないですか!?」
大きな声でそう言いながら、ミーヤがトーヤの体を拭く、それも掛け布団を使って!
そんなことをしたら余計に被害が広がりそうなものだが、あえてそうする目的でもあるのか、手を止めず続ける。
何があったかと言うと、帰ってきてベッドの上に寝そべっていたトーヤ目掛け、思いっきり夕食の乗ったトレイをぶちまけたのだ。
横になっていたトーヤは言うまでもなく、広いベッドのかなりの範囲に料理が飛び散り、床にも天蓋から垂れている紗にも被害が広がっていた。
「熱くはないけどよ、あんた、何を……」
呆然とするトーヤを目で制し、小さな声でミーヤが言う。
「こうでもしないとあなたとお話もできませんから」
「あんた、気がついて……」
「ええ」
トーヤを拭く振りをしながらミーヤが続ける。
「私は毎日キリエ様にその日何があったか報告をしています。多分フェイもそうでしょう。今度は私のことも報告しているでしょう」
「やっぱりな……」
まさかミーヤが気づいているとは思わなかった。
いつもにこにこして、フェイのことも単に勉強のため、自分の補佐のために付けられたと思っているとばかり。
「それで何が言いたい?」
「生贄です」
「は?」
「本当にそう思っているのでしょうか」
「本気半分冗談半分ってところかな」
トーヤが正直に答える。
「シャンタルは慈悲の女神です、今までもこれからもそんなことはないと私は信じています、ですが」
ミーヤはトーヤの目を見ることなく、忙しく体を動かしながら続けた。
「もしも、本当にあなたの身に危害が及ぶようなことがあるならば、その時は私は命をかけてお守りします」
トーヤが言葉もなくミーヤを見つめる。
「危険を感じてこの国から逃げたいと言うのなら、そのお手伝いもします。ですから私を信じてください」
「あんた……」
ミーヤはなおも体だけは動かしながら、それでも初めて少しだけ顔を上げてトーヤを見た。
「あなたは私を傷つけるようなことはしないとお約束してくださいました、誓ってくださいました。だから私もお願いします。私を信じてください」
またすぐに下を向き、布団の上に飛び散ったごちそうの成れの果てを手で集め、わざと床の上にぶちまけた。
そうしてるとフェイが呼んできたのだろう、数人が駆けつける音が聞こえてきた。
「ごめんなさい、とんでもないことをしてしまいました」
「ミーヤ、一体何が……」
同僚の侍女が3人来たが、あまりの様子に思わず足を止めて言葉を止める。
「足が、足がつまずいて夕食のお盆を…………」
「そんなことが……早くなんとかしないと」
「私、お水を汲んできます!」
「私は掃除道具を! あなたももっとタオルを持ってきて!」
「はい!」
言われてフェイがまたもっとタオルを取りに走る。
テキパキと3名が清掃作業の準備にかかる。
さすがに行き届いたシャンタル宮の侍女である、誰が指示するでもなく次々に作業に取り掛かる。
ただミーヤだけが、さっきまでとは違う様子で、掛け布団を抱えたままうろうろと立ち尽くしている。
「ミーヤはちょっと落ち着いて」
「は、はい」
「ここはいいから、ちゃんとお詫びを申し上げてそれを片付けてきて」
「お願いします……」
フェイが小さな腕で何枚ものタオルを抱えて戻ってきた。
「フェイ、ありがとう、私はこれを片付けてきます。ああ、そうだわ! もう一度身を清めていただかないと、お風呂もお願いしてきます」
後ろを振り向いてそう言うと、体を戻して一度トーヤの元へと戻る。
寝台の足元に片膝をついて座り、深く頭を下げてから上げた。
「信じて……」
トーヤにだけ聞こえるように、もう一度小さく言う。
「ああ、もう分かったからよ、そんなに謝らなくていいって、そこまで恐縮されっと逆にこっちが悪いみたいじゃねえか、もういいって!」
トーヤが大きな声で言った。
ミーヤがトーヤを見上げる。
「本当に申し訳ありません!」
「だからー、もう分かったって、わざとじゃねえんだろ? 信じる、信じるってばよ!」
ミーヤがトーヤの意図を汲み、ほっとしたような顔をする。
「本当に私はなんてことを……」
目に涙を浮かべてそう言うと、立ち上がり、手に持った掛け布団を握りしめ、トーヤを見て、
(誓います)
口の動きだけでもう一度そう言った。
「…………ほんっとにしつけえな、あんたはよぉ……だからあ、もういいからとっとと行けよ! あんたもぐしゃぐしゃだ、自分もちゃんと着替えてこいよな、どろどろの女に世話されるなんてごめんだからな!」
「はい、申し訳ありませんでした」
うなだれたままトーヤに背を向け、同僚とフェイにに向き直ると、
「よろしくお願いします」
そう言って、深く頭を下げ、走って退室していった。
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