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第一章 第二節 カースへ
21 フェイ
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翌朝、いつものようにトーヤの部屋に行くと、見るからにげんなりした風のトーヤがびっくりするほど大歓迎をしてくれ、ミーヤはとても驚いた。
「一体何があったのですか?」
「あんたが来てくれてよかった、いやあ、よかったよかった!」
ソファーにそう言いながら体を沈め、
「昨日は散々だったからな……」
首をソファの背にもたれさせ、はあっと息を吐いた。
「今朝、侍女部屋で少しリルに愚痴られました。なんでもリルに無体を働かれたとか?」
眉間に少しシワを寄せてミーヤが言う。
「なんもしてねえって、ちょっと肩揉んでくれっつーたら逃げ出されたんだよ」
ミーヤには何も知らせないつもりだった。
「そうなのですか? でもまあ、仕方がないかも知れませんね。私は少しずつトーヤ様に慣れましたが、リルは突然でしたから」
「おいおい、聞き捨てならねえな、俺はいつも紳士的だったはずだぜ?」
「さようでしたかしら?」
「おい」
そう言い置いてミーヤが人を呼んだ。
「こちらはフェイです。今日から私と一緒にトーヤ様のお世話をさせていただきます。フェイ、ご挨拶を」
「はじめまして、フェイと申します」
ミーヤに促され、片膝をついて挨拶をしたのはミーヤよりもっと幼い娘であった。
「よろしくな、フェイ、って、ずいぶんとちっこいな、何歳だ?」
「10歳でございます」
「フェイは、まだ侍女見習いなのですが、色々と勉強のために私に付くことになりました」
「さようか」
トーヤがふざけた風に言う。
(キリエのおばはん、ミーヤにも監視を付けたか)
そう思ったが何も知らぬ顔でフェイに色々と質問をした。
フェイは一生懸命考えながらそれに答えていた。
「ところでなミーヤさんよ」
「はい、なんでしょうか?」
「俺、他の部屋に移りたいんだが」
「え?」
ミーヤは一瞬何を言われたか分からなかった。
「何かご不満でもございましたか?」
「いや、逆だよ」
トーヤはさあっと右手を水平に移動しながら言う。
「ご立派過ぎんだろうよ、この部屋」
この部屋はシャンタル宮の客殿の中でも最上級の部屋である。
王族や貴族、海外からの賓客などを迎えるためのめったに使われない部屋だ、その部屋をこの一月以上トーヤはずっと独占している。
「それは……ですが、託宣で招かれた客人に過ごしていただくには立派過ぎるとは言い切れないとは思いますし……」
「いや、立派すぎる。もうちょい小さい部屋に移してもらうか、いっそ王都のどっかに小さい部屋でも借りてもらえねえか?」
突然の申し出にミーヤは戸惑った。
なぜだろう、このままトーヤはずっとこの部屋で過ごし、自分はずっとその世話をするものだとばかり思っていた。そんなことはあり得ないのに。
「それは、私の一存では決めかねますので、宮の方と相談してみます……」
「すまんな、そうしてくれると助かる。なんせ広すぎてな、この部屋」
礼を言った後、あっ、とトーヤは付け加えた。
「その代わり、引っ越すのはダルが一度泊まった後でな?」
「なぜです?」
「そりゃよう、見栄ってもんがあるだろうよ、え? こんなすげえ部屋にいたんだって見せて自慢してから引っ越したい」
ミーヤはクスッと笑った。
「分かりました、それではそのように取り計らいます」
「そんじゃダルがこっち来る算段つけてくれると助かるな。それと例の訓練の方も」
「はい、それはルギが見繕ってくれることになっております」
「ルギ、かよ」
トーヤが露骨に顔をしかめる。
「ご不満ですか?」
「いや、ご不満ってか、なんかなあ、うん。だからあいつ苦手なんだってよ」
「おっしゃってましたね」
またミーヤがくすくす笑う。
おいおい、あんまり笑うとそこのちびに見られてるぞ、とトーヤは思ったが、ミーヤが笑うのは悪くないと思うと止められなかった。
「昨日はキリエのおばはんがずっとつきっきりで一日中緊張してた上にせじゅつし、っておっさんが力いっぱいあっちこっち揉みまくってくれたもんで、かえって肩こっちまって今日はぐったりだ……」
「では、今日は一日ごゆっくりなさいますか?」
「いや、ちょっと散歩でもしてみようかな」
「よろしゅうございますね、あまり宮の中も見てらっしゃいませんし」
「そうだな、客殿の中ってのをうろうろしてみようかな。そこのちびさんも一緒に来てくれるか?」
「承知いたしました」
フェイが丁寧に頭を下げる。
「そんじゃ行くか、両手に花、べっぴんさん連れてトーヤ様の凱旋だ!」
ふざけてそう言うと、元気に「よっ」とベッドから飛び起きた。
その夜、ミーヤの報告を受けた後、キリエはフェイからも話を聞いた。
「それでは、特に何か問題のあるようなことはなかったのですね?」
「はい」
「ミーヤが報告した以外のことは?」
ルギの時のように、フェイにも隠れてミーヤの報告を聞かせていた。
「あの、ありました……」
「言ってみなさい」
フェイは少しためらったが、思い切って発言をした。
「客殿の方が、その、キリエ様が一日一緒で大層疲れてかえって肩が凝った、と」
「…………」
キリエはそれには特に答えず、
「お疲れさまでした、おまえも下がりなさい」
それだけ言ってフェイを退室させ、
「そういう事は言わなくてもよろしい」
そうつぶやいた。
「一体何があったのですか?」
「あんたが来てくれてよかった、いやあ、よかったよかった!」
ソファーにそう言いながら体を沈め、
「昨日は散々だったからな……」
首をソファの背にもたれさせ、はあっと息を吐いた。
「今朝、侍女部屋で少しリルに愚痴られました。なんでもリルに無体を働かれたとか?」
眉間に少しシワを寄せてミーヤが言う。
「なんもしてねえって、ちょっと肩揉んでくれっつーたら逃げ出されたんだよ」
ミーヤには何も知らせないつもりだった。
「そうなのですか? でもまあ、仕方がないかも知れませんね。私は少しずつトーヤ様に慣れましたが、リルは突然でしたから」
「おいおい、聞き捨てならねえな、俺はいつも紳士的だったはずだぜ?」
「さようでしたかしら?」
「おい」
そう言い置いてミーヤが人を呼んだ。
「こちらはフェイです。今日から私と一緒にトーヤ様のお世話をさせていただきます。フェイ、ご挨拶を」
「はじめまして、フェイと申します」
ミーヤに促され、片膝をついて挨拶をしたのはミーヤよりもっと幼い娘であった。
「よろしくな、フェイ、って、ずいぶんとちっこいな、何歳だ?」
「10歳でございます」
「フェイは、まだ侍女見習いなのですが、色々と勉強のために私に付くことになりました」
「さようか」
トーヤがふざけた風に言う。
(キリエのおばはん、ミーヤにも監視を付けたか)
そう思ったが何も知らぬ顔でフェイに色々と質問をした。
フェイは一生懸命考えながらそれに答えていた。
「ところでなミーヤさんよ」
「はい、なんでしょうか?」
「俺、他の部屋に移りたいんだが」
「え?」
ミーヤは一瞬何を言われたか分からなかった。
「何かご不満でもございましたか?」
「いや、逆だよ」
トーヤはさあっと右手を水平に移動しながら言う。
「ご立派過ぎんだろうよ、この部屋」
この部屋はシャンタル宮の客殿の中でも最上級の部屋である。
王族や貴族、海外からの賓客などを迎えるためのめったに使われない部屋だ、その部屋をこの一月以上トーヤはずっと独占している。
「それは……ですが、託宣で招かれた客人に過ごしていただくには立派過ぎるとは言い切れないとは思いますし……」
「いや、立派すぎる。もうちょい小さい部屋に移してもらうか、いっそ王都のどっかに小さい部屋でも借りてもらえねえか?」
突然の申し出にミーヤは戸惑った。
なぜだろう、このままトーヤはずっとこの部屋で過ごし、自分はずっとその世話をするものだとばかり思っていた。そんなことはあり得ないのに。
「それは、私の一存では決めかねますので、宮の方と相談してみます……」
「すまんな、そうしてくれると助かる。なんせ広すぎてな、この部屋」
礼を言った後、あっ、とトーヤは付け加えた。
「その代わり、引っ越すのはダルが一度泊まった後でな?」
「なぜです?」
「そりゃよう、見栄ってもんがあるだろうよ、え? こんなすげえ部屋にいたんだって見せて自慢してから引っ越したい」
ミーヤはクスッと笑った。
「分かりました、それではそのように取り計らいます」
「そんじゃダルがこっち来る算段つけてくれると助かるな。それと例の訓練の方も」
「はい、それはルギが見繕ってくれることになっております」
「ルギ、かよ」
トーヤが露骨に顔をしかめる。
「ご不満ですか?」
「いや、ご不満ってか、なんかなあ、うん。だからあいつ苦手なんだってよ」
「おっしゃってましたね」
またミーヤがくすくす笑う。
おいおい、あんまり笑うとそこのちびに見られてるぞ、とトーヤは思ったが、ミーヤが笑うのは悪くないと思うと止められなかった。
「昨日はキリエのおばはんがずっとつきっきりで一日中緊張してた上にせじゅつし、っておっさんが力いっぱいあっちこっち揉みまくってくれたもんで、かえって肩こっちまって今日はぐったりだ……」
「では、今日は一日ごゆっくりなさいますか?」
「いや、ちょっと散歩でもしてみようかな」
「よろしゅうございますね、あまり宮の中も見てらっしゃいませんし」
「そうだな、客殿の中ってのをうろうろしてみようかな。そこのちびさんも一緒に来てくれるか?」
「承知いたしました」
フェイが丁寧に頭を下げる。
「そんじゃ行くか、両手に花、べっぴんさん連れてトーヤ様の凱旋だ!」
ふざけてそう言うと、元気に「よっ」とベッドから飛び起きた。
その夜、ミーヤの報告を受けた後、キリエはフェイからも話を聞いた。
「それでは、特に何か問題のあるようなことはなかったのですね?」
「はい」
「ミーヤが報告した以外のことは?」
ルギの時のように、フェイにも隠れてミーヤの報告を聞かせていた。
「あの、ありました……」
「言ってみなさい」
フェイは少しためらったが、思い切って発言をした。
「客殿の方が、その、キリエ様が一日一緒で大層疲れてかえって肩が凝った、と」
「…………」
キリエはそれには特に答えず、
「お疲れさまでした、おまえも下がりなさい」
それだけ言ってフェイを退室させ、
「そういう事は言わなくてもよろしい」
そうつぶやいた。
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