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第一章 第二節 カースへ
10 祝宴の夜
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「アランの推理は当たらずと言えども遠からず、と今は言っとく」
「あいよ」
「けど、結構色々しゃべったから、おまえらもシャンタリオって国がどういう国かちょっとは分かっただろ?」
「なんとなくだがな」
「おれも」
「まあその程度でいい、なんとなく分かってくれればそれでいい。こういうのは結局どうこう言っても聞いた話と実際は違うもんだしな」
トーヤが言い、兄と妹がなんとなく顔を見合わせた。
「それで続きだが、ダルにな、その『マユリアの海』を見たいっつーたんだよ」
ダルは困りきった顔をした。
「それは、俺ではなんとも……う~ん」
「なんだ、人が近寄ってはいけねえとか、なんかそういうのがあるのか?」
「そういうのじゃないけど、やっぱりそう簡単にいいですよとは言えない場所なんですよねえ……そうだ、後でミーヤ様とかうちのじいさんとかに聞いてみてもらっていいですかね?」
「そうか? じゃあそうするかな。そろそろ帰るか」
そうして村に帰ることになり、トーヤとダル、後ろからルギも長い影を引き連れて西へと戻って行った。
村に戻るとすでに用意が整っていた。
最初からトーヤたちを歓迎するつもりで用意していてくれたのだろう、たくさんの人間が嬉々として立ち働いてもういつでも始められる状態になっていた。
村の広場で火を起こし、大きな網を置いてその上で新鮮な魚介を焼いていく。先に焼き始められた色々な魚があちこちで焼き汁を溢れさせ、落ちた旨味が炭に落ちてジュッと焦げるとさらにうまそうな香りを馥郁と魚にまとわせる。その香りがさらに海風に連れられて人々の鼻腔に届き、どの顔もほころんでいく。
「何もありませんが魚だけは自慢ですからな」
村長が顔いっぱいをシワだらけにしてそう得意そうに言った。
「すごいですね、こんなの初めてです」
ミーヤが目を丸くする。
村人に勧められ中央に近い位置に席を取る。
目の前のテーブルの上に次々と海の幸が並べられていった。
焼き立てのパンもほわほわと甘い香りをくゆらせる。魚と一緒に焼かれた野菜も色んな種類があり、トーヤが見たことがない物もあった。
果物もそうだ、赤いの黄色いの青いの、味が分かる物も想像できない物もある。それと宮からの物とは違って素朴だが、様々な形や大きさの菓子がいくつも。
酒が入ったらしいビンや樽がいくつもいくつも並び、子どもたちにはどうやら甘そうなジュースらしき物。どれもこれもが目にもごちそうであった。
そうそう豊かな村ではない。その中で精一杯のもてなしをしてくれていることが分かるごちそうたちだった。
村人たちもその周囲を取り巻くように思い思いの場所に腰掛け、酒が(子どもたちとトーヤには甘いジュースが)行き渡る。
「では神聖なる宮からの使者に感謝を」
村長の言葉に乾杯の声が上がり祝宴が始まった。
最初のうちはみんな食べることに一生懸命であったが、段々と時が経つにつれ、席を移っては酒を酌み交わし話をし、また席を移るを繰り返し、最初は遠巻きにしていたトーヤたちにも次第に気軽に声をかけるようになってきた。
女たちも遠慮をしていたミーヤに心安く声をかけるようになってきた。子どもたちも「ミーヤさん」と呼んで大人に怒られながらも「それで構いませんよ」と優しくミーヤに微笑みかけられ、われがちに集まっては宮の話などねだっていた。
あのルギにすら漁師たちが酒を薦めては何か語らって笑い合っている。
(あいつも笑うんだな)
トーヤは密かに驚いていた。
「トーヤさんは酒がだめなのか?」
「だめみたいだな。何回か飲んでみたことはあるが、いつもその後で大変な目にあってやめた」
「根性ねえな~」
漁師の一人がそう言って笑い、周囲もどっと沸く。
「勝手に言ってろ、酒なんぞ飲めなくてもなんの不便もねえってもんだ」
「練習してみたらどうだ? この村の酒はうまいぞ~」
「いや、いらん。それよりはうまい飯がいい」
「つれねえな~そんじゃガキどもと一緒に菓子でも食ってるか?」
「それがいいな。どれもうまそうだ」
そう言って笑い合いながらも、トーヤは油断なく周囲を見渡していた。
「もちろん一番気にしてたのはルギの動きだ。あいつが何かするんじゃねえかと見てたんだが結局何もしやがらねえ。村のやつらと一緒になって食って飲んでるだけだ。まあそうしてながらもあっちも俺の動きから目を離しちゃいなかっただろうがな」
トーヤの目が鋭くなった。
「俺は誰が取り込みやすそうか野郎どもと話をしながら探ってたが、結局のところダルが年も一緒で村長の孫な上に使いやすそうだと判断して、もっぱらダルと話をすることにした」
トーヤはダルの隣の席に移ると、自分では飲めない酒の入ったビンを持ってすすめた。
「昼間はありがとうな、助かったよ」
「いやいや、海岸をちょっと案内しただけですから恐縮です」
ダルはそう言いながらトーヤの酌を受けた。
「おいおい、敬語やめろって同い年じゃねえか。それに同じ海の男だ、なあ」
「いやあ、やっぱり宮のお客人をやっぱり、あ、あ、こぼれる、どうも……」
トーヤがそう言ってポンと肩を叩くと、ダルはまんざらでもなさそうにそう答え、酒の入った木のカップに口をつけた。一気に飲み干す。
「おいおい、結構いける口だな。ほれもう一杯……」
ダルの肩に片手を回し、もう片方の手でまた酌をする。
「嫌いじゃないです……じゃないからな」
「お、いいねえ、その調子で」
トーヤはダルに飲ませては話に乗せて親しげに振る舞う。
「俺も飲めりゃいいんだが、本当に全くだめでな」
「そうなのか、飲んだことはあるんだろ?」
「それはある。ちっせえガキの頃からこう結構生意気だったしな、かっこいい男が飲むのに憧れてたからいきがって飲んでみたもののだめだった。飲んだ途端真っ青になって全部もどしちまう」
「おいおい……」
「その後はもうぐったり。何回かこれやってだめだなこりゃ、と諦めた」
「そうか残念だなあ、酒が飲めないって人生の半分損してるぜそりゃ」
ダルはいかにも気の毒そうにそう言った。
「でもまああれだろ、トーヤさん……トーヤ、ぐらいいい男だったら、その代わりに女の子にはモテたんだろ?」
「まあ、そっちはな、そこそこな」
ニヤリとトーヤが顔の半分で笑って見せると、ダルもニヤリと返した。
そうして和やかなうちに夜は更けてゆき、それなりの時間になって宴はお開きとなった。
トーヤ、ミーヤ、そしてルギの3人は村長の家に招待され、それぞれの部屋に通された。
「そう広い家でもないんでミーヤ様はうちの妻の部屋、トーヤ様はダルと一緒、ルギさんはダルの兄たちと一緒で申し訳ないですが」
そう言って村長は恐縮したが、村長の家だけあってそれなりに各部屋も広く、後は寝るだけにするには十分満足な待遇であった。
「これはチャンスだったな」
トーヤが言う。
「やっとルギの目のない場所へ行けたからな。この間にダルに色々話をつけておきたかった」
「あいよ」
「けど、結構色々しゃべったから、おまえらもシャンタリオって国がどういう国かちょっとは分かっただろ?」
「なんとなくだがな」
「おれも」
「まあその程度でいい、なんとなく分かってくれればそれでいい。こういうのは結局どうこう言っても聞いた話と実際は違うもんだしな」
トーヤが言い、兄と妹がなんとなく顔を見合わせた。
「それで続きだが、ダルにな、その『マユリアの海』を見たいっつーたんだよ」
ダルは困りきった顔をした。
「それは、俺ではなんとも……う~ん」
「なんだ、人が近寄ってはいけねえとか、なんかそういうのがあるのか?」
「そういうのじゃないけど、やっぱりそう簡単にいいですよとは言えない場所なんですよねえ……そうだ、後でミーヤ様とかうちのじいさんとかに聞いてみてもらっていいですかね?」
「そうか? じゃあそうするかな。そろそろ帰るか」
そうして村に帰ることになり、トーヤとダル、後ろからルギも長い影を引き連れて西へと戻って行った。
村に戻るとすでに用意が整っていた。
最初からトーヤたちを歓迎するつもりで用意していてくれたのだろう、たくさんの人間が嬉々として立ち働いてもういつでも始められる状態になっていた。
村の広場で火を起こし、大きな網を置いてその上で新鮮な魚介を焼いていく。先に焼き始められた色々な魚があちこちで焼き汁を溢れさせ、落ちた旨味が炭に落ちてジュッと焦げるとさらにうまそうな香りを馥郁と魚にまとわせる。その香りがさらに海風に連れられて人々の鼻腔に届き、どの顔もほころんでいく。
「何もありませんが魚だけは自慢ですからな」
村長が顔いっぱいをシワだらけにしてそう得意そうに言った。
「すごいですね、こんなの初めてです」
ミーヤが目を丸くする。
村人に勧められ中央に近い位置に席を取る。
目の前のテーブルの上に次々と海の幸が並べられていった。
焼き立てのパンもほわほわと甘い香りをくゆらせる。魚と一緒に焼かれた野菜も色んな種類があり、トーヤが見たことがない物もあった。
果物もそうだ、赤いの黄色いの青いの、味が分かる物も想像できない物もある。それと宮からの物とは違って素朴だが、様々な形や大きさの菓子がいくつも。
酒が入ったらしいビンや樽がいくつもいくつも並び、子どもたちにはどうやら甘そうなジュースらしき物。どれもこれもが目にもごちそうであった。
そうそう豊かな村ではない。その中で精一杯のもてなしをしてくれていることが分かるごちそうたちだった。
村人たちもその周囲を取り巻くように思い思いの場所に腰掛け、酒が(子どもたちとトーヤには甘いジュースが)行き渡る。
「では神聖なる宮からの使者に感謝を」
村長の言葉に乾杯の声が上がり祝宴が始まった。
最初のうちはみんな食べることに一生懸命であったが、段々と時が経つにつれ、席を移っては酒を酌み交わし話をし、また席を移るを繰り返し、最初は遠巻きにしていたトーヤたちにも次第に気軽に声をかけるようになってきた。
女たちも遠慮をしていたミーヤに心安く声をかけるようになってきた。子どもたちも「ミーヤさん」と呼んで大人に怒られながらも「それで構いませんよ」と優しくミーヤに微笑みかけられ、われがちに集まっては宮の話などねだっていた。
あのルギにすら漁師たちが酒を薦めては何か語らって笑い合っている。
(あいつも笑うんだな)
トーヤは密かに驚いていた。
「トーヤさんは酒がだめなのか?」
「だめみたいだな。何回か飲んでみたことはあるが、いつもその後で大変な目にあってやめた」
「根性ねえな~」
漁師の一人がそう言って笑い、周囲もどっと沸く。
「勝手に言ってろ、酒なんぞ飲めなくてもなんの不便もねえってもんだ」
「練習してみたらどうだ? この村の酒はうまいぞ~」
「いや、いらん。それよりはうまい飯がいい」
「つれねえな~そんじゃガキどもと一緒に菓子でも食ってるか?」
「それがいいな。どれもうまそうだ」
そう言って笑い合いながらも、トーヤは油断なく周囲を見渡していた。
「もちろん一番気にしてたのはルギの動きだ。あいつが何かするんじゃねえかと見てたんだが結局何もしやがらねえ。村のやつらと一緒になって食って飲んでるだけだ。まあそうしてながらもあっちも俺の動きから目を離しちゃいなかっただろうがな」
トーヤの目が鋭くなった。
「俺は誰が取り込みやすそうか野郎どもと話をしながら探ってたが、結局のところダルが年も一緒で村長の孫な上に使いやすそうだと判断して、もっぱらダルと話をすることにした」
トーヤはダルの隣の席に移ると、自分では飲めない酒の入ったビンを持ってすすめた。
「昼間はありがとうな、助かったよ」
「いやいや、海岸をちょっと案内しただけですから恐縮です」
ダルはそう言いながらトーヤの酌を受けた。
「おいおい、敬語やめろって同い年じゃねえか。それに同じ海の男だ、なあ」
「いやあ、やっぱり宮のお客人をやっぱり、あ、あ、こぼれる、どうも……」
トーヤがそう言ってポンと肩を叩くと、ダルはまんざらでもなさそうにそう答え、酒の入った木のカップに口をつけた。一気に飲み干す。
「おいおい、結構いける口だな。ほれもう一杯……」
ダルの肩に片手を回し、もう片方の手でまた酌をする。
「嫌いじゃないです……じゃないからな」
「お、いいねえ、その調子で」
トーヤはダルに飲ませては話に乗せて親しげに振る舞う。
「俺も飲めりゃいいんだが、本当に全くだめでな」
「そうなのか、飲んだことはあるんだろ?」
「それはある。ちっせえガキの頃からこう結構生意気だったしな、かっこいい男が飲むのに憧れてたからいきがって飲んでみたもののだめだった。飲んだ途端真っ青になって全部もどしちまう」
「おいおい……」
「その後はもうぐったり。何回かこれやってだめだなこりゃ、と諦めた」
「そうか残念だなあ、酒が飲めないって人生の半分損してるぜそりゃ」
ダルはいかにも気の毒そうにそう言った。
「でもまああれだろ、トーヤさん……トーヤ、ぐらいいい男だったら、その代わりに女の子にはモテたんだろ?」
「まあ、そっちはな、そこそこな」
ニヤリとトーヤが顔の半分で笑って見せると、ダルもニヤリと返した。
そうして和やかなうちに夜は更けてゆき、それなりの時間になって宴はお開きとなった。
トーヤ、ミーヤ、そしてルギの3人は村長の家に招待され、それぞれの部屋に通された。
「そう広い家でもないんでミーヤ様はうちの妻の部屋、トーヤ様はダルと一緒、ルギさんはダルの兄たちと一緒で申し訳ないですが」
そう言って村長は恐縮したが、村長の家だけあってそれなりに各部屋も広く、後は寝るだけにするには十分満足な待遇であった。
「これはチャンスだったな」
トーヤが言う。
「やっとルギの目のない場所へ行けたからな。この間にダルに色々話をつけておきたかった」
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