24 / 353
第一章 第二節 カースへ
1 最初の訪問地
しおりを挟む
「だっせ……トーヤだっせ……」
ベルが心底情けなそうにそう言い、
「ほんとだな、こりゃだせえよ」
アランも笑いながら同意する。
「うるせえよ、そんな扉見たこともねえだろうよ、おまえらだって。そもそもああいうでっかい建物の扉ってのは妙なやつをすんなり外に逃がさねえように内開きになってるんだって話だが、普通はせめて取っ手ぐらいついてるもんだと思うだろうが」
「へえ、そうなの?私も知らなかった、内側からは開かなかったんだねあの扉」
「は?」
「えっ?」
「なんだって?」
シャンタルが驚くようにそう言い、3人の方がもっと驚いた。
「おまえ、知らなかったのかよ、自分の家のこと」
「知らなかった。と言うかどうやって開けるのかとかも考えたこともなかった。何しろ扉と言うものは自然に開くものだと認識していたしね、こちらに来るまで」
「ああ、そういやそうだったか、もう前のことなんですっかり忘れてたわ」
「なんだよなんだよ、それ」
「トーヤ、えらいの連れてよく今まで無事だったな」
「俺もあらためてそう思う」
最後は4人で笑った。
「そういうわけだからな、俺が知らなくったってださくもなんともねえんだよ、そもそもそこの住人が知らねえことなんだからな」
「でもこの場合のトーヤはだせえと思うぞ?」
「俺も」
「うるせえよ、話を戻すぞ。そんで王都観光の話になるわけだ」
「ごまかした……」
言うだけ言ってさっとベルが避ける。
トーヤは今度は無視して続けた。
「まあな、命令されたわけじゃないにしても、マユリアの思った通りになるってのは正直しゃくだったが、とにかくここから出ていく算段をつけるためだと自分に言い聞かせて色々と調べ始めたんだ。自分のためだって思いながらな。まず一番最初に行ったのは、俺が流れ着いたカースだった」
嵐に流された後打ち上げられた漁師町「カースに行きたい」とトーヤが言い、すぐにミーヤが算段を整えた。が、初っ端から大揉めに揉めることとなった。
「だからそんな大げさにしなくてもいいってんだよ、馬でさっと行ってちゃちゃっと見てくりゃいいんだからよ」
「いいえ、そういうわけにはまいりません、公式な訪問はきちんと尋ねていただかないと」
「誰が公式って言ったよ、さっと見てくりゃいいってんだよ」
「仮にも託宣のあった地を初めて訪問するんですよ、公式でないなんて選択肢はございません」
「そっちが勝手に訪問だの公式だのにしたんだろうが、俺はそんなこと頼んじゃねえぞ!」
「カースにお礼と仲間のお墓参りに行きたいとおっしゃいませんでしたか?」
「それは言った、だからさっと行ってさっと礼を言ってさっと墓参りを済ませりゃいいんじゃねえか」
「ですからそういうわけにはいきませんと。第一、もう訪問の日時は伝えてあります」
「断れよ!」
「無理です!」
そう言ってツンとミーヤが横を向いた。
「こっ、んの……」
「とにかく、あなたには西も東も分からないでしょう、ですから今回はこちらの言う通りにしていただきます!」
そう言われてしまえば確かにその通りで、トーヤにはもう手も足も出ず、初めての外出は馬車でのカース訪問となった。
「毎度毎度申し訳ないけどよ、トーヤだっせ……」
「俺もそう思う……」
「なんとなく私もそう思ってきたよ……」
アラン、ベルの兄妹だけではなくシャンタルにまでそう言われ、さすがにトーヤも言い返すことはしなかったが、その代わりに、
「とにかくな、そんなわけでカースへは馬車で行くことになった。業腹なことにルギが御者の馬車に乗せられてったわけだが、それがどうした、え?」
と、ふんぞり返って両腕を組むと、もう好きに言ってろとばかりに開き直って3人をぎろっと睨んだ。
ベルが心底情けなそうにそう言い、
「ほんとだな、こりゃだせえよ」
アランも笑いながら同意する。
「うるせえよ、そんな扉見たこともねえだろうよ、おまえらだって。そもそもああいうでっかい建物の扉ってのは妙なやつをすんなり外に逃がさねえように内開きになってるんだって話だが、普通はせめて取っ手ぐらいついてるもんだと思うだろうが」
「へえ、そうなの?私も知らなかった、内側からは開かなかったんだねあの扉」
「は?」
「えっ?」
「なんだって?」
シャンタルが驚くようにそう言い、3人の方がもっと驚いた。
「おまえ、知らなかったのかよ、自分の家のこと」
「知らなかった。と言うかどうやって開けるのかとかも考えたこともなかった。何しろ扉と言うものは自然に開くものだと認識していたしね、こちらに来るまで」
「ああ、そういやそうだったか、もう前のことなんですっかり忘れてたわ」
「なんだよなんだよ、それ」
「トーヤ、えらいの連れてよく今まで無事だったな」
「俺もあらためてそう思う」
最後は4人で笑った。
「そういうわけだからな、俺が知らなくったってださくもなんともねえんだよ、そもそもそこの住人が知らねえことなんだからな」
「でもこの場合のトーヤはだせえと思うぞ?」
「俺も」
「うるせえよ、話を戻すぞ。そんで王都観光の話になるわけだ」
「ごまかした……」
言うだけ言ってさっとベルが避ける。
トーヤは今度は無視して続けた。
「まあな、命令されたわけじゃないにしても、マユリアの思った通りになるってのは正直しゃくだったが、とにかくここから出ていく算段をつけるためだと自分に言い聞かせて色々と調べ始めたんだ。自分のためだって思いながらな。まず一番最初に行ったのは、俺が流れ着いたカースだった」
嵐に流された後打ち上げられた漁師町「カースに行きたい」とトーヤが言い、すぐにミーヤが算段を整えた。が、初っ端から大揉めに揉めることとなった。
「だからそんな大げさにしなくてもいいってんだよ、馬でさっと行ってちゃちゃっと見てくりゃいいんだからよ」
「いいえ、そういうわけにはまいりません、公式な訪問はきちんと尋ねていただかないと」
「誰が公式って言ったよ、さっと見てくりゃいいってんだよ」
「仮にも託宣のあった地を初めて訪問するんですよ、公式でないなんて選択肢はございません」
「そっちが勝手に訪問だの公式だのにしたんだろうが、俺はそんなこと頼んじゃねえぞ!」
「カースにお礼と仲間のお墓参りに行きたいとおっしゃいませんでしたか?」
「それは言った、だからさっと行ってさっと礼を言ってさっと墓参りを済ませりゃいいんじゃねえか」
「ですからそういうわけにはいきませんと。第一、もう訪問の日時は伝えてあります」
「断れよ!」
「無理です!」
そう言ってツンとミーヤが横を向いた。
「こっ、んの……」
「とにかく、あなたには西も東も分からないでしょう、ですから今回はこちらの言う通りにしていただきます!」
そう言われてしまえば確かにその通りで、トーヤにはもう手も足も出ず、初めての外出は馬車でのカース訪問となった。
「毎度毎度申し訳ないけどよ、トーヤだっせ……」
「俺もそう思う……」
「なんとなく私もそう思ってきたよ……」
アラン、ベルの兄妹だけではなくシャンタルにまでそう言われ、さすがにトーヤも言い返すことはしなかったが、その代わりに、
「とにかくな、そんなわけでカースへは馬車で行くことになった。業腹なことにルギが御者の馬車に乗せられてったわけだが、それがどうした、え?」
と、ふんぞり返って両腕を組むと、もう好きに言ってろとばかりに開き直って3人をぎろっと睨んだ。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる