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2021年  9月

二人称の小説

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 さて、「三人称の小説」「一人称の小説」と続いて書いてきたら、ふと、気になってきたのが、

 「二人称の小説」

 です。

 そもそもあるのか?
 そう思って調べたんですが、ありますね、あるんです、ええ。

 ただ、「完全に二人称か」と言われると、ちょっとどうかなって感じのようです。

 それで私なりに勝手に考えてみました。

 たとえばこんな文章があったとします。



「俺が愛してるのはおまえだけだよ」

 太郎は花子にそう言った。

「ええ、信じているわ」

 花子はそう答えたが、太郎には自分以外に10人の恋人がいるのを知っている。



 これは「三人称」です。
 「花子」でも「太郎」でもない第三者が見たことを語っている形。

 では「一人称」にしてみます。



「俺が愛してるのはおまえだけだよ」
 
 太郎は私にそう言ったわ。

「ええ、信じているわ」

 私はそう答えたけど、でも知っているの、太郎には私以外に10人の恋人がいることを。



 こんな感じですか?

 「花子」が主体で「太郎」について語っています。
 「三人称」よりも感情が混じっている印象です。

 で、いよいよ「二人称」っぽくしてみます。



「俺が愛してるのはおまえだけだよ」

 あなたは私にそう言った。

「ええ、信じているわ」

 私がそう答えたのをあなたは信じているのかしら? あなたに私以外に10人の恋人がいることを知っている私の答えを。

 
 「私」が「あなた」の気持ちになって、「あなた」の代弁をしてる形になりますか。
 これが正しいかどうか分かりませんが、あくまで私のイメージでアレンジしてみました。

 かなーり、「あなた」に感情移入して、主体に持っていかないと難しいですね。
 それに、完全に「あなた」のセリフや動きだけで構成するのはやっぱり無理かも。

 それと、この場合の「あなた」を簡単に「あなたという名の三人称」に変換できます。
 上に書いた「一人称」の文の「三人称の太郎」の部分を「二人称のあなた」に入れ替えても何も違和感がありません。だって「太郎」=「あなた」ですし。



「俺が愛してるのはおまえだけだよ」
 
 あなたは私にそう言ったわ。

「ええ、信じているわ」

 私はそう答えたけど、でも知っているの、あなたには私以外に10人の恋人がいることを。



 ほら、なーんにも違和感がない。

 なので、苦労して「二人称」にするよりも、「一人称」にしてしまう方が書きやすいし、読む方も楽だろうと思います。

 ということで良い「二人称の小説」というものもあるらしいのですが、少なくとも私は意識してそれを読んだことはありません。

 いや、色々と面白かったです。
 他に「人称が混在している小説」というのもありますが、そこまで突き詰めると本当にキリがなくなるので、ここまでで!
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