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第六章 第三節
19 仮説
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交代の日は着々と近づく。宮はいつもより慌ただしく、王宮も落ち着かない。リュセルスでは色々な理由で人が走り回っている。
「なんもすることがねえのはおれらだけかあ」
ベルがテーブルに肘をついた姿勢で両手に顔を乗せ、退屈そうにそう言った。
「やることねえならいっちょやるか?」
「いや、いい!」
トーヤに言われて大慌てで両手を振る。以前、それでひどい目に会ったのを思い出したのだ。
「おまえな、なんもすることがないことねえぞ」
アランが厳しい顔で妹に言う。
「そうだったよな、最後のアレを考えなくちゃいけないんだったよな」
あの不思議な光、本家シャンタルが言ったあの言葉だ。
『あなた方が真実に気づいた時、もう一度だけお会いできると思います』
決してのんびりしているわけではない。トーヤたちは必死に考えている、その「真実」というのが何なのか。
「けどなあ、分かんねえんだよなあ……」
最後の召喚以降、色々と分かってきたことがある。
たとえば、神官長がどうして国王親子の両方をたきつけているのかだ。
「マユリアを女王にして、自分が好きに操りたいって言ってたよな」
「その線で合ってるとは思うんだけどなあ」
ベルの言葉にアランが答える。
「かなりのことは分かってきたと思う」
トーヤがぽつりとそう言った。
「けどさあ、それもそうじゃねえのか、ってことだってことだよな? 本当にそれで合ってるかどうかもわかんねえだろ?」
「それもそうなんだよなあ」
「はあ、たよんねえなあ……」
トーヤの言葉にベルがそう言ってため息をつく。
この作業を何度繰り返しているだろう。
「漠然と真実って言われてもなあ、一体何がどう真実なんだよ」
「そこなんだよなあ」
これも何度も繰り返している。
「けどまあ、このバカのお陰でちょっと活が入った。もう一回最初から考え直してみるか」
「誰がバカだよこのおっさん、いで!」
流れるように手がベルの頭に伸びながらも、トーヤは思い出す作業に入っていく。
「いっぺん最初に戻ってみるか」
「さいしょって?」
「あの光に集められたところからだよ」
「そんな前かよ、めんどくせえ!」
「そこからやり直さねえと分からんだろうが」
「うーん……、まだおれが童子ってのじゃなかった頃だよなあ……」」
生まれる前からの話なので、なかった頃ということはないのだが、言いたいことは分かる。
「そうだな、ただのバカかと思ってたら、大層なバカだったって分かる前だな」
「るせえな!」
いつものやり取りをしつつも、4人共一生懸命に考える。
「そもそも真実ってなんだ?」
「まあ、こんだけ色んなことを聞いちまったし、やっぱ、残るは一番後ろのやつだよな」
「それって、あれか、マユリアの中にいるってやつ?」
「それだろうなあ」
「それが誰か見つけろってんだろ、だから」
「そう言われてもなあ、そいつと話したこともねえんだし、どんな奴かなんか分かるわけねえじゃん」
色々と想像をするが想像もつかないというのが本音だ。
今日はこの部屋にいるのは、仲間4人と侍女2人だ。ディレンとハリオはダルと一緒に例の王宮衛士、トイボアの用件で出ている。
「もしかしたら、もっと前からいかねえとかもなあ」
「もっと前?」
「ああ、八年前からだ」
「いや、そのへん、おれら知らねえから」
「話は知ってるだろうが。とりあえず、俺とシャンタルが湖に引きずりこまれそうになったとこからいくか」
トーヤがカース沖で危険な目に合った後、シャンタルとベルとは色々話をしていた。その話をアランとミーヤ、アーダにも詳しく話す。
「つまり、シャンタルを引っ張ったのはマユリアで間違いない、そういう話になったってことか」
「まあ、そういうことだな」
「うん、それは間違いないよ」
シャンタルがきっぱりそう言うと、今度は侍女2人が動揺する。
「おいおい、そんなにびびるんじゃねえよ。あくまで可能性の一つだ、けどな、どんな可能性も排除するのはよくない」
「そうそう、ぐのこっちょうだ」
ベルが覚えた言葉を横からさっと使う。
「まあ、それな。だから、侍女のあんたらにはきついかも知れねえが、一応その可能性があることも含めて考える」
「うん、確かなのは、私の手を引っ張ったのはマユリアの顔をした誰かだったということだけだから」
シャンタルはまるで他人事でそう言うので、侍女2人はどうしていいのか分からず顔を見合わせるしかない。
「あ、それとね、元が同じ人間、じゃなくて神様だから私というのは無理だなって話になったから、それも一応言っておくね」
この言葉にもどう反応していいのか分からない。まるで冗談のようにしか聞こえない。
「ちょっとこいつの言い方にも慣れてやってくれるとありがたい。続けるぞ」
「分かりました」
「はい……」
侍女2人がトーヤの言葉に頷き、トーヤが続ける。
「カース沖で俺を引っ張ったやつと湖でシャンタルを引っ張ったのは同じやつだ、そこまではおそらく間違いがないと思う。だからその線で考えていく」
その仮説に沿って話を続けることにする。
「なんもすることがねえのはおれらだけかあ」
ベルがテーブルに肘をついた姿勢で両手に顔を乗せ、退屈そうにそう言った。
「やることねえならいっちょやるか?」
「いや、いい!」
トーヤに言われて大慌てで両手を振る。以前、それでひどい目に会ったのを思い出したのだ。
「おまえな、なんもすることがないことねえぞ」
アランが厳しい顔で妹に言う。
「そうだったよな、最後のアレを考えなくちゃいけないんだったよな」
あの不思議な光、本家シャンタルが言ったあの言葉だ。
『あなた方が真実に気づいた時、もう一度だけお会いできると思います』
決してのんびりしているわけではない。トーヤたちは必死に考えている、その「真実」というのが何なのか。
「けどなあ、分かんねえんだよなあ……」
最後の召喚以降、色々と分かってきたことがある。
たとえば、神官長がどうして国王親子の両方をたきつけているのかだ。
「マユリアを女王にして、自分が好きに操りたいって言ってたよな」
「その線で合ってるとは思うんだけどなあ」
ベルの言葉にアランが答える。
「かなりのことは分かってきたと思う」
トーヤがぽつりとそう言った。
「けどさあ、それもそうじゃねえのか、ってことだってことだよな? 本当にそれで合ってるかどうかもわかんねえだろ?」
「それもそうなんだよなあ」
「はあ、たよんねえなあ……」
トーヤの言葉にベルがそう言ってため息をつく。
この作業を何度繰り返しているだろう。
「漠然と真実って言われてもなあ、一体何がどう真実なんだよ」
「そこなんだよなあ」
これも何度も繰り返している。
「けどまあ、このバカのお陰でちょっと活が入った。もう一回最初から考え直してみるか」
「誰がバカだよこのおっさん、いで!」
流れるように手がベルの頭に伸びながらも、トーヤは思い出す作業に入っていく。
「いっぺん最初に戻ってみるか」
「さいしょって?」
「あの光に集められたところからだよ」
「そんな前かよ、めんどくせえ!」
「そこからやり直さねえと分からんだろうが」
「うーん……、まだおれが童子ってのじゃなかった頃だよなあ……」」
生まれる前からの話なので、なかった頃ということはないのだが、言いたいことは分かる。
「そうだな、ただのバカかと思ってたら、大層なバカだったって分かる前だな」
「るせえな!」
いつものやり取りをしつつも、4人共一生懸命に考える。
「そもそも真実ってなんだ?」
「まあ、こんだけ色んなことを聞いちまったし、やっぱ、残るは一番後ろのやつだよな」
「それって、あれか、マユリアの中にいるってやつ?」
「それだろうなあ」
「それが誰か見つけろってんだろ、だから」
「そう言われてもなあ、そいつと話したこともねえんだし、どんな奴かなんか分かるわけねえじゃん」
色々と想像をするが想像もつかないというのが本音だ。
今日はこの部屋にいるのは、仲間4人と侍女2人だ。ディレンとハリオはダルと一緒に例の王宮衛士、トイボアの用件で出ている。
「もしかしたら、もっと前からいかねえとかもなあ」
「もっと前?」
「ああ、八年前からだ」
「いや、そのへん、おれら知らねえから」
「話は知ってるだろうが。とりあえず、俺とシャンタルが湖に引きずりこまれそうになったとこからいくか」
トーヤがカース沖で危険な目に合った後、シャンタルとベルとは色々話をしていた。その話をアランとミーヤ、アーダにも詳しく話す。
「つまり、シャンタルを引っ張ったのはマユリアで間違いない、そういう話になったってことか」
「まあ、そういうことだな」
「うん、それは間違いないよ」
シャンタルがきっぱりそう言うと、今度は侍女2人が動揺する。
「おいおい、そんなにびびるんじゃねえよ。あくまで可能性の一つだ、けどな、どんな可能性も排除するのはよくない」
「そうそう、ぐのこっちょうだ」
ベルが覚えた言葉を横からさっと使う。
「まあ、それな。だから、侍女のあんたらにはきついかも知れねえが、一応その可能性があることも含めて考える」
「うん、確かなのは、私の手を引っ張ったのはマユリアの顔をした誰かだったということだけだから」
シャンタルはまるで他人事でそう言うので、侍女2人はどうしていいのか分からず顔を見合わせるしかない。
「あ、それとね、元が同じ人間、じゃなくて神様だから私というのは無理だなって話になったから、それも一応言っておくね」
この言葉にもどう反応していいのか分からない。まるで冗談のようにしか聞こえない。
「ちょっとこいつの言い方にも慣れてやってくれるとありがたい。続けるぞ」
「分かりました」
「はい……」
侍女2人がトーヤの言葉に頷き、トーヤが続ける。
「カース沖で俺を引っ張ったやつと湖でシャンタルを引っ張ったのは同じやつだ、そこまではおそらく間違いがないと思う。だからその線で考えていく」
その仮説に沿って話を続けることにする。
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