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第六章 第三節
14 シャンタリオ気質
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「まあ、ほどほどにしとけ」
「うん、分かった」
ミーヤは目の前で交わされている会話をどう受け止めていいのか分からない。
「なんか困った顔してんな」
トーヤが面白そうにそう言ってくるのに、なんとなくムっとした。
「それは、困っても当然でしょう、こんな話」
「そりゃま、そうか」
ミーヤはシャンタルの不思議な力のことは聞いている。実際に自分もその力で守られた、目にしている。だが、神として見ていたあの幼い日、そこから生き直すように一気に成長していったシャンタルが、さも当然のようにそんな言葉を口にするのを聞くと、やはり戸惑わざるを得ないのだ。
おそらく、この三年間、アランとベルが仲間になってからは、ずっと同じ調子で戦場でやってきたのだろう。トーヤとアランは剣を持って戦い、シャンタルは魔法で仲間を守り、ケガをしたら癒やす。そしてベルはそんな彼らの補助をする、その形で。まるでいつものような会話から、そのことがよく分かった。戦場での傭兵仲間として、それが普通の形だったのだと。
「本当に、戦場にいらっしゃったんですね……」
「そうだよ」
ミーヤの言葉にシャンタルがあっけらかんと答える。あまりに当然のように言うので、聞いたミーヤの方が困るほどだ。
「だけど、今度の相手は一般人でしょ、トーヤとアランも困ると思うよ。何しろ2人はかなり腕のいい傭兵だからねえ。本気で相手にしたら命を奪ってしまいかねない。だから私もちょっとだけ手伝って、少しひるむぐらいにはしたいなと思ってる。それで諦めてくれればいいんだけどなあ」
ミーヤが困りきった顔をしているのを見て、トーヤとアランが笑い出した。
「ほんとに困った顔してんなあ、いや、分かる」
「いや、分かります」
2人の反応にますますミーヤが困った顔になる。こんな冗談のようなやり取りをしていると、さっき聞いたことは冗談なのではないか、そう思ってしまう。
「本当のことだよ」
「え?」
「リュセルスの民と戦うことになる、それって本当かなって思ってるんでしょ?」
「それは……」
その通りだったのだが、そう思っているとはなんとなく言えなかった。それでミーヤは正直に疑問を口にすることにした。
「どうしてリュセルスの民と戦うことになると思うんですか」
「それはリュセルスの人間が宮を襲うかも知れないからだよ」
「ええっ!」
シャンタルのこともなげな言葉、まるで来客が誰かを告げるかのようなその言い方に、ミーヤは心臓を掴まれたような気がした。もっと大変なことだと言われたら、その方がまだ平静に受け止められたかも知れない。
「ど、どうしてリュセルスの民が宮を……信じられません!」
「そうだろうねえ」
どこまでいってもシャンタルは同じ調子だ。
「特に宮を狙うってわけじゃないんです。王宮か神殿か、それともここかは分からないってことで」
アランが気の毒そうにそう横から割って入る。このままシャンタルと話し続けていても、ミーヤの混乱がひどくなるだけだと判断したからだろう。
「では、民たちがどこかを襲う、それは確かだということなんですか?」
「おそらくは」
「なぜそんなことになるのでしょう」
「前国王だよ」
トーヤがそう言った。
「前国王陛下?」
「ああ、そうだ。まだどこにいるのか分かってねえだろ?」
「確かにそうですね」
「前国王派が暴れるなら、理由はそれだ。前国王を助け出す」
確かにそれならありそうだ。
「ですが、さすがに宮にまで無理やり入っては来ないのではないでしょうか」
「普通の状態ならな」
「普通の状態なら?」
「そうだ」
トーヤが少し笑いながらこんなことを言う。
「怒らせると怖いんだよなあ、シャンタリオの人間、あんたと一緒でさ」
「ま!」
一瞬、いつもの調子で怒ろうとして、ミーヤがそこでやめる。
「あれ、やめるのか」
「そんなこと、言ってる場合ではないでしょう?」
「そうだな。じゃあ、真面目に話す」
やっぱりからかっていたのか。ミーヤはムッとはしたが、黙って話を聞くことにした。
「俺が八年前にこの国にいた数ヶ月の間に感じたことだ。シャンタリオの人間ってのは、神様になんでも決めてもらってるからか、基本的には受け身だ。自分から特に何かをしようという気持ちが薄い」
トーヤはミーヤの様子を伺うが、何も言わずに聞いているつもりらしい。
「そんでな、大人しいんだよ。嫌なことがあってもあまり口にも出さない。まあ、個人差はあるぞ? あんたとリルでは結構そういう部分違うよな」
「確かにリルははっきりと意見を言う人だと思います」
「うん、だけど、そういうの少なくねえか?」
言われてみればその通りだと思った。
「大抵のことはじっと我慢してる。だけどな、それが限界に来たらいきなり爆発すんだよ。これだけは許せない、そういうことに触れられるとな。あんたも覚えがあるだろ?」
ミーヤは少し考えたが、あることを思い出してちょっと赤面した。
まだミーヤがトーヤと親しくなかった頃、ある言葉にミーヤが爆発したことがあった、そのことだろう。
「いきなりうわあっと怒鳴りつけられてさ、あの時はびびったなあ」
あまりいい出来事ではなかったが、今にして思えば、あれをきっかけに二人は親しくなったのだ。
「うん、分かった」
ミーヤは目の前で交わされている会話をどう受け止めていいのか分からない。
「なんか困った顔してんな」
トーヤが面白そうにそう言ってくるのに、なんとなくムっとした。
「それは、困っても当然でしょう、こんな話」
「そりゃま、そうか」
ミーヤはシャンタルの不思議な力のことは聞いている。実際に自分もその力で守られた、目にしている。だが、神として見ていたあの幼い日、そこから生き直すように一気に成長していったシャンタルが、さも当然のようにそんな言葉を口にするのを聞くと、やはり戸惑わざるを得ないのだ。
おそらく、この三年間、アランとベルが仲間になってからは、ずっと同じ調子で戦場でやってきたのだろう。トーヤとアランは剣を持って戦い、シャンタルは魔法で仲間を守り、ケガをしたら癒やす。そしてベルはそんな彼らの補助をする、その形で。まるでいつものような会話から、そのことがよく分かった。戦場での傭兵仲間として、それが普通の形だったのだと。
「本当に、戦場にいらっしゃったんですね……」
「そうだよ」
ミーヤの言葉にシャンタルがあっけらかんと答える。あまりに当然のように言うので、聞いたミーヤの方が困るほどだ。
「だけど、今度の相手は一般人でしょ、トーヤとアランも困ると思うよ。何しろ2人はかなり腕のいい傭兵だからねえ。本気で相手にしたら命を奪ってしまいかねない。だから私もちょっとだけ手伝って、少しひるむぐらいにはしたいなと思ってる。それで諦めてくれればいいんだけどなあ」
ミーヤが困りきった顔をしているのを見て、トーヤとアランが笑い出した。
「ほんとに困った顔してんなあ、いや、分かる」
「いや、分かります」
2人の反応にますますミーヤが困った顔になる。こんな冗談のようなやり取りをしていると、さっき聞いたことは冗談なのではないか、そう思ってしまう。
「本当のことだよ」
「え?」
「リュセルスの民と戦うことになる、それって本当かなって思ってるんでしょ?」
「それは……」
その通りだったのだが、そう思っているとはなんとなく言えなかった。それでミーヤは正直に疑問を口にすることにした。
「どうしてリュセルスの民と戦うことになると思うんですか」
「それはリュセルスの人間が宮を襲うかも知れないからだよ」
「ええっ!」
シャンタルのこともなげな言葉、まるで来客が誰かを告げるかのようなその言い方に、ミーヤは心臓を掴まれたような気がした。もっと大変なことだと言われたら、その方がまだ平静に受け止められたかも知れない。
「ど、どうしてリュセルスの民が宮を……信じられません!」
「そうだろうねえ」
どこまでいってもシャンタルは同じ調子だ。
「特に宮を狙うってわけじゃないんです。王宮か神殿か、それともここかは分からないってことで」
アランが気の毒そうにそう横から割って入る。このままシャンタルと話し続けていても、ミーヤの混乱がひどくなるだけだと判断したからだろう。
「では、民たちがどこかを襲う、それは確かだということなんですか?」
「おそらくは」
「なぜそんなことになるのでしょう」
「前国王だよ」
トーヤがそう言った。
「前国王陛下?」
「ああ、そうだ。まだどこにいるのか分かってねえだろ?」
「確かにそうですね」
「前国王派が暴れるなら、理由はそれだ。前国王を助け出す」
確かにそれならありそうだ。
「ですが、さすがに宮にまで無理やり入っては来ないのではないでしょうか」
「普通の状態ならな」
「普通の状態なら?」
「そうだ」
トーヤが少し笑いながらこんなことを言う。
「怒らせると怖いんだよなあ、シャンタリオの人間、あんたと一緒でさ」
「ま!」
一瞬、いつもの調子で怒ろうとして、ミーヤがそこでやめる。
「あれ、やめるのか」
「そんなこと、言ってる場合ではないでしょう?」
「そうだな。じゃあ、真面目に話す」
やっぱりからかっていたのか。ミーヤはムッとはしたが、黙って話を聞くことにした。
「俺が八年前にこの国にいた数ヶ月の間に感じたことだ。シャンタリオの人間ってのは、神様になんでも決めてもらってるからか、基本的には受け身だ。自分から特に何かをしようという気持ちが薄い」
トーヤはミーヤの様子を伺うが、何も言わずに聞いているつもりらしい。
「そんでな、大人しいんだよ。嫌なことがあってもあまり口にも出さない。まあ、個人差はあるぞ? あんたとリルでは結構そういう部分違うよな」
「確かにリルははっきりと意見を言う人だと思います」
「うん、だけど、そういうの少なくねえか?」
言われてみればその通りだと思った。
「大抵のことはじっと我慢してる。だけどな、それが限界に来たらいきなり爆発すんだよ。これだけは許せない、そういうことに触れられるとな。あんたも覚えがあるだろ?」
ミーヤは少し考えたが、あることを思い出してちょっと赤面した。
まだミーヤがトーヤと親しくなかった頃、ある言葉にミーヤが爆発したことがあった、そのことだろう。
「いきなりうわあっと怒鳴りつけられてさ、あの時はびびったなあ」
あまりいい出来事ではなかったが、今にして思えば、あれをきっかけに二人は親しくなったのだ。
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