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第六章 第三節

12 三番目の勢力

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「ダルに、あの時使ってたのと同じような模擬刀も頼んである。そっちの方は用意するのに少し遅れるってことで、まずこれだけを受け取った」

 トーヤはそう言うと、荒く木を削った木刀をブンと振って見せた。どうやらダルが自分で削って作った物のようだ。八年前、カースでよく同じような物を振って一緒にトレーニングする姿を見ていた。

「そうなんですか。今度は模擬刀で今みたいな訓練をされるんですか?」
「いや、実戦用だ」
「え!」

 確かに八年前に見た模擬刀は、刃がつぶしてあるだけでほぼ普通の剣と変わらなかった、あれが当たればかなり大きなケガをする可能性がある。そう言ってトーヤがルギにケンカを売ったのだが、マユリアの登場でそうならずに済んだことを思い出す。だが、刃がないということは、本当は実用ではない剣という意味ではないのだろうか。

 ミーヤがそんな事を考えていると、トーヤが笑いながら続ける。

「俺は八年前、あの剣でルギとやり合ったからな。まあ使えないことはない」
「よく分かりません」

 ミーヤが正直に答える。

「剣のことは分かりませんが、模擬刀は訓練のために刃を潰している、そう言っていましたよね」
「ああ、そうだ」
「それは実用ではないということではないのですか? ルギとそうなった時にはそれしかなかったからだと思っていました」
「もちろんそうだ。あの時はあれ以上の物、持たせてもらえなかったからな」
「じゃあ、どうして……」

 聞けば聞くほど、わざわざ模擬刀を実戦に使うという意味が分からない。

「今度、剣を持って戦う相手は、ルギみたいなプロの兵士じゃなくて、素人のリュセルスの民だと思ってる」
「ええっ!」

 相手がリュセルスの民? そんなことありえない。

「そんなことねえって思ってんだろ?」
「ええ、もちろんです」
「けどあるんだよ、その可能性が」

 ミーヤが黙ってじっとトーヤに目を向けた。緩やかに笑ってはいるが、その目が真剣なことは分かった。

「その時に、真剣だと必要以上のケガをさせたり、万が一のことがある。だからといって木を削ったこんなの使ってではこっちの身が危ない。だから模擬刀が必要なんだよ」

 どうやら本当にその可能性があるらしいと受け入れるしかない。

「どうしてそんなことになる可能性があるんでしょう」

 ミーヤは精一杯平静を保って聞く。

「うーんとな……」

 トーヤは木刀でカリカリと頭をかきながら、どう言おうかと考えているようだった。

「大丈夫です、何をお聞きしても。今までにも色んな驚くようなことを見て聞いてきています」
「うーん、そうなんだけどな。さすがにこれは今までなかったことだからなあ」
「大丈夫ですから」

 ミーヤがしっかりとそう答え、トーヤはチラリとアランに視線を送って様子を伺ったが、心を決めたように話しだした。

「えっとな、この間のシャンタルの、あっ、当代な? アランに寄越した手紙な、あれ読んでなんとなく分かったことがあんだよな。内容、覚えてるよな?」

 その手紙ならミーヤも読ませてもらった。幼い方のきれいな手で書かれた手紙だったと思い出す。

「ええ。シャンタルがマユリアと国王陛下のご婚姻に戸惑われている、そんな内容でしたよね」
「まあ、そうだ」
「それがどうしてその剣とつながるんです?」

 言われてもミーヤにはさっぱり理解できなかった。

「なんとなくな、分かっちまったんだよ、神官長のってか、その後ろにいるやつも含めてだが、その考えてることが」
「神官長の考えていることですか」
「ああ」

 トーヤがやっと表情を引き締めて続きの言葉を口にした。

「簡単に言えばこの国の乗っ取りだ」
「え!」

 思ってもみない言葉が飛び出してきた。さすがにミーヤがうろたえる。

「ほらな、大丈夫じゃなかっただろ?」
「だ、大丈夫です……」

 動揺しているミーヤをトーヤが心配そうに見ているが、あえて手を差し伸べようとはしていないように思えた。

「大丈夫ですから……」

 ミーヤは思ったより早く自分を取り戻し、しっかりとそう言う。

「分かった」
「それで、あの手紙でどうしてそんなことが分かるんです」
「マユリアが神でありながら王家の一員になる、女王になる、あれだよ」

 確かにそう書いてあった。だがまだどうしてなのかは分からない。

「ずっと引っかかってたんだよ。神官長が親父にも息子にも損になるようなことしてんのが」
「ええ、おっしゃってましたね」
「一体どうしてかと思ってたらそんなのが出てきた。つまり、マユリアをこの国の女王にしといて、どっちの王様にも退場願おうってことだ」

 ミーヤは黙って聞いているが、今もまだ分かったようで分からないような気持ちだ。

「アランとも意見をすり合わせた。どっちも同じこと思ってたよ。そんでそういう話をしてた。第三の勢力があるなら、そういうことなんだろうけどなって」
「第三の勢力?」
「ああ、この場合はマユリアだ。それを持ち上げるために、わざわざどっちもの評判を落とすようなことをしてる。そんでリュセルスの民をけしかけて、王宮とか宮を襲わせようと考えてるな」

 とんでもない言葉にさすがにミーヤも足が震えてきた。
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