464 / 488
第六章 第三節
12 三番目の勢力
しおりを挟む
「ダルに、あの時使ってたのと同じような模擬刀も頼んである。そっちの方は用意するのに少し遅れるってことで、まずこれだけを受け取った」
トーヤはそう言うと、荒く木を削った木刀をブンと振って見せた。どうやらダルが自分で削って作った物のようだ。八年前、カースでよく同じような物を振って一緒にトレーニングする姿を見ていた。
「そうなんですか。今度は模擬刀で今みたいな訓練をされるんですか?」
「いや、実戦用だ」
「え!」
確かに八年前に見た模擬刀は、刃がつぶしてあるだけでほぼ普通の剣と変わらなかった、あれが当たればかなり大きなケガをする可能性がある。そう言ってトーヤがルギにケンカを売ったのだが、マユリアの登場でそうならずに済んだことを思い出す。だが、刃がないということは、本当は実用ではない剣という意味ではないのだろうか。
ミーヤがそんな事を考えていると、トーヤが笑いながら続ける。
「俺は八年前、あの剣でルギとやり合ったからな。まあ使えないことはない」
「よく分かりません」
ミーヤが正直に答える。
「剣のことは分かりませんが、模擬刀は訓練のために刃を潰している、そう言っていましたよね」
「ああ、そうだ」
「それは実用ではないということではないのですか? ルギとそうなった時にはそれしかなかったからだと思っていました」
「もちろんそうだ。あの時はあれ以上の物、持たせてもらえなかったからな」
「じゃあ、どうして……」
聞けば聞くほど、わざわざ模擬刀を実戦に使うという意味が分からない。
「今度、剣を持って戦う相手は、ルギみたいなプロの兵士じゃなくて、素人のリュセルスの民だと思ってる」
「ええっ!」
相手がリュセルスの民? そんなことありえない。
「そんなことねえって思ってんだろ?」
「ええ、もちろんです」
「けどあるんだよ、その可能性が」
ミーヤが黙ってじっとトーヤに目を向けた。緩やかに笑ってはいるが、その目が真剣なことは分かった。
「その時に、真剣だと必要以上のケガをさせたり、万が一のことがある。だからといって木を削ったこんなの使ってではこっちの身が危ない。だから模擬刀が必要なんだよ」
どうやら本当にその可能性があるらしいと受け入れるしかない。
「どうしてそんなことになる可能性があるんでしょう」
ミーヤは精一杯平静を保って聞く。
「うーんとな……」
トーヤは木刀でカリカリと頭をかきながら、どう言おうかと考えているようだった。
「大丈夫です、何をお聞きしても。今までにも色んな驚くようなことを見て聞いてきています」
「うーん、そうなんだけどな。さすがにこれは今までなかったことだからなあ」
「大丈夫ですから」
ミーヤがしっかりとそう答え、トーヤはチラリとアランに視線を送って様子を伺ったが、心を決めたように話しだした。
「えっとな、この間のシャンタルの、あっ、当代な? アランに寄越した手紙な、あれ読んでなんとなく分かったことがあんだよな。内容、覚えてるよな?」
その手紙ならミーヤも読ませてもらった。幼い方のきれいな手で書かれた手紙だったと思い出す。
「ええ。シャンタルがマユリアと国王陛下のご婚姻に戸惑われている、そんな内容でしたよね」
「まあ、そうだ」
「それがどうしてその剣とつながるんです?」
言われてもミーヤにはさっぱり理解できなかった。
「なんとなくな、分かっちまったんだよ、神官長のってか、その後ろにいるやつも含めてだが、その考えてることが」
「神官長の考えていることですか」
「ああ」
トーヤがやっと表情を引き締めて続きの言葉を口にした。
「簡単に言えばこの国の乗っ取りだ」
「え!」
思ってもみない言葉が飛び出してきた。さすがにミーヤがうろたえる。
「ほらな、大丈夫じゃなかっただろ?」
「だ、大丈夫です……」
動揺しているミーヤをトーヤが心配そうに見ているが、あえて手を差し伸べようとはしていないように思えた。
「大丈夫ですから……」
ミーヤは思ったより早く自分を取り戻し、しっかりとそう言う。
「分かった」
「それで、あの手紙でどうしてそんなことが分かるんです」
「マユリアが神でありながら王家の一員になる、女王になる、あれだよ」
確かにそう書いてあった。だがまだどうしてなのかは分からない。
「ずっと引っかかってたんだよ。神官長が親父にも息子にも損になるようなことしてんのが」
「ええ、おっしゃってましたね」
「一体どうしてかと思ってたらそんなのが出てきた。つまり、マユリアをこの国の女王にしといて、どっちの王様にも退場願おうってことだ」
ミーヤは黙って聞いているが、今もまだ分かったようで分からないような気持ちだ。
「アランとも意見をすり合わせた。どっちも同じこと思ってたよ。そんでそういう話をしてた。第三の勢力があるなら、そういうことなんだろうけどなって」
「第三の勢力?」
「ああ、この場合はマユリアだ。それを持ち上げるために、わざわざどっちもの評判を落とすようなことをしてる。そんでリュセルスの民をけしかけて、王宮とか宮を襲わせようと考えてるな」
とんでもない言葉にさすがにミーヤも足が震えてきた。
トーヤはそう言うと、荒く木を削った木刀をブンと振って見せた。どうやらダルが自分で削って作った物のようだ。八年前、カースでよく同じような物を振って一緒にトレーニングする姿を見ていた。
「そうなんですか。今度は模擬刀で今みたいな訓練をされるんですか?」
「いや、実戦用だ」
「え!」
確かに八年前に見た模擬刀は、刃がつぶしてあるだけでほぼ普通の剣と変わらなかった、あれが当たればかなり大きなケガをする可能性がある。そう言ってトーヤがルギにケンカを売ったのだが、マユリアの登場でそうならずに済んだことを思い出す。だが、刃がないということは、本当は実用ではない剣という意味ではないのだろうか。
ミーヤがそんな事を考えていると、トーヤが笑いながら続ける。
「俺は八年前、あの剣でルギとやり合ったからな。まあ使えないことはない」
「よく分かりません」
ミーヤが正直に答える。
「剣のことは分かりませんが、模擬刀は訓練のために刃を潰している、そう言っていましたよね」
「ああ、そうだ」
「それは実用ではないということではないのですか? ルギとそうなった時にはそれしかなかったからだと思っていました」
「もちろんそうだ。あの時はあれ以上の物、持たせてもらえなかったからな」
「じゃあ、どうして……」
聞けば聞くほど、わざわざ模擬刀を実戦に使うという意味が分からない。
「今度、剣を持って戦う相手は、ルギみたいなプロの兵士じゃなくて、素人のリュセルスの民だと思ってる」
「ええっ!」
相手がリュセルスの民? そんなことありえない。
「そんなことねえって思ってんだろ?」
「ええ、もちろんです」
「けどあるんだよ、その可能性が」
ミーヤが黙ってじっとトーヤに目を向けた。緩やかに笑ってはいるが、その目が真剣なことは分かった。
「その時に、真剣だと必要以上のケガをさせたり、万が一のことがある。だからといって木を削ったこんなの使ってではこっちの身が危ない。だから模擬刀が必要なんだよ」
どうやら本当にその可能性があるらしいと受け入れるしかない。
「どうしてそんなことになる可能性があるんでしょう」
ミーヤは精一杯平静を保って聞く。
「うーんとな……」
トーヤは木刀でカリカリと頭をかきながら、どう言おうかと考えているようだった。
「大丈夫です、何をお聞きしても。今までにも色んな驚くようなことを見て聞いてきています」
「うーん、そうなんだけどな。さすがにこれは今までなかったことだからなあ」
「大丈夫ですから」
ミーヤがしっかりとそう答え、トーヤはチラリとアランに視線を送って様子を伺ったが、心を決めたように話しだした。
「えっとな、この間のシャンタルの、あっ、当代な? アランに寄越した手紙な、あれ読んでなんとなく分かったことがあんだよな。内容、覚えてるよな?」
その手紙ならミーヤも読ませてもらった。幼い方のきれいな手で書かれた手紙だったと思い出す。
「ええ。シャンタルがマユリアと国王陛下のご婚姻に戸惑われている、そんな内容でしたよね」
「まあ、そうだ」
「それがどうしてその剣とつながるんです?」
言われてもミーヤにはさっぱり理解できなかった。
「なんとなくな、分かっちまったんだよ、神官長のってか、その後ろにいるやつも含めてだが、その考えてることが」
「神官長の考えていることですか」
「ああ」
トーヤがやっと表情を引き締めて続きの言葉を口にした。
「簡単に言えばこの国の乗っ取りだ」
「え!」
思ってもみない言葉が飛び出してきた。さすがにミーヤがうろたえる。
「ほらな、大丈夫じゃなかっただろ?」
「だ、大丈夫です……」
動揺しているミーヤをトーヤが心配そうに見ているが、あえて手を差し伸べようとはしていないように思えた。
「大丈夫ですから……」
ミーヤは思ったより早く自分を取り戻し、しっかりとそう言う。
「分かった」
「それで、あの手紙でどうしてそんなことが分かるんです」
「マユリアが神でありながら王家の一員になる、女王になる、あれだよ」
確かにそう書いてあった。だがまだどうしてなのかは分からない。
「ずっと引っかかってたんだよ。神官長が親父にも息子にも損になるようなことしてんのが」
「ええ、おっしゃってましたね」
「一体どうしてかと思ってたらそんなのが出てきた。つまり、マユリアをこの国の女王にしといて、どっちの王様にも退場願おうってことだ」
ミーヤは黙って聞いているが、今もまだ分かったようで分からないような気持ちだ。
「アランとも意見をすり合わせた。どっちも同じこと思ってたよ。そんでそういう話をしてた。第三の勢力があるなら、そういうことなんだろうけどなって」
「第三の勢力?」
「ああ、この場合はマユリアだ。それを持ち上げるために、わざわざどっちもの評判を落とすようなことをしてる。そんでリュセルスの民をけしかけて、王宮とか宮を襲わせようと考えてるな」
とんでもない言葉にさすがにミーヤも足が震えてきた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ハイスペな車と廃番勇者の少年との気長な旅をするメガネのおっさん
夕刻の灯
ファンタジー
ある日…神は、こう神託を人々に伝えました。
『勇者によって、平和になったこの世界には、勇者はもう必要ありません。なので、勇者が産まれる事はないでしょう…』
その神託から時が流れた。
勇者が産まれるはずが無い世界の片隅に
1人の少年が勇者の称号を持って産まれた。
そこからこの世界の歯車があちらこちらで狂い回り始める。
買ったばかりの新車の車を事故らせた。
アラサーのメガネのおっさん
崖下に落ちた〜‼︎
っと思ったら、異世界の森の中でした。
買ったばかりの新車の車は、いろんな意味で
ハイスペな車に変わってました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる