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第六章 第三節
10 新しい力
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ライネンも、そしてヌオリももちろん知らない。そのぬかりなく準備を整えた若い新しい国王の協力者が、自分たちの協力者と同一人物であることを。
「なあ、本当に大丈夫なのか、その協力者という者は」
「どこがだ?」
「どこの誰かも分からない、何が目的かも分からない。もしも、その者の目的が、私たちを陥れることだとしたら、とんでもないことになるのじゃないか?」
ライネンの疑念はもっともだ。だが、自分が何もかもうまくひっぱっていっているつもりのヌオリは、不愉快そうな顔をした。
「これまでのことから信用できると判断をした。何か文句があるのか?」
「いや、そういうわけではないが……」
ライネンは子供の頃からヌオリに逆らえない。家格だけではなく、なんとなく自分はヌオリに付いていき、補佐をする立場、そんな風に思ってしまっていたからだ。性格的にも自信家で、自分が一番でなければ我慢できないヌオリと、少し弱気の自分、どうやってもその形になるのは仕方がないと思ってしまっている。
「じゃあおまえは黙って私に付いてくればいい。これで間違いない。きっと陛下を王座にお戻しし、我々こそがその最側近であることを、その日に知らしめる」
そう宣言されてしまえば、もうライネンはヌオリに逆らえなくなる。
「分かった。だけど、十分に気をつけてくれ。何しろ反乱を起こすと言うことだ、分かってるよな?」
「ああ、分かってるよ、しつこいな」
ヌオリはそう言いながらも、ライネンが自分の言ったことに納得したことで気を良くした。
「では、ちゃんと人数は揃ってきているというわけですね」
「はい、すでに50名以上には」
こちらは「協力者」である神官長と、その意を汲むべく動いている神官の一人だ。
「その者たちはどこに集まっています」
「はい、ある封鎖の館の一軒に」
前国王が匿われているセウラー家の別館のすぐ近く、貴族たちの別館である「封鎖の館」の数軒に集められているということだ。
「ある貴族のご子息が指揮を取る、そう伝えてあります」
「他にはどのように?」
「はい、今のままでは前国王陛下のお命が危ない、それを助けるためと伝えてあります」
「その館はどなたの持ち物なのでしょう」
「空き家となった物を神殿が買い上げた形です」
以前の神殿にはそのような余分な予算はなかった。だが、八年前から神官長が力を持つようになり、キリエが引退した後は神殿の力がもっと強くなるだろう、そう考えた貴族や商人たちの寄進が増え、そのぐらいの買い物ができる余裕が出来ていた。
今、神官長の元に来ているのは、王宮衛士から神官になった者だ。現国王の罷免より前に思い立って神官になった。色々と思うところがあったようだが、前国王への忠誠心が高い者であったので、国王の交代劇には怒りを感じていた。
皇太子の反乱の後、一度は神官長に食ってかかった。どうして、そんなことに力を貸したのかと。だが、うまく言いくるめられ、今では神官長を信じ、その意のままに動く形になっている。
「私もまさかあんなことをなさるとは思わなかった……長い間、色々とお話をさせていただいたが、まさかお父上に……」
神官長は年若い皇太子に学問を教え、色々相談に乗っていた、そう言った。
「次の交代の時、お気持ちが伝わればマユリアも受け入れて下さるかも知れない、そうも申し上げはした。知っていればもちろんお止めしたとも」
悲痛な表情でそう言う神官長をこの神官は信じた。
「なんとかしてあげられないのでしょうか」
「今のままでは難しいだろう」
神官長はいかに皇太子、いや、新しい国王がこれまで努力をなさったか、自分に実力をつけるためのたゆまぬ努力だけではなく、民の信頼を得て、王宮の衛士たちからも敬愛されるお方になったかを語った。
「だから、皆がご譲位を受け入れてしまっている。もしもお助けするとしたら、新しい力を集める必要があるだろう」
「新しい力?」
「そうだ、国王陛下をお助けするために力を貸す、そんな人間を集める必要がある」
神官長の言葉を聞き、神官は考え込んだ。
「私は長年、皇太子殿下に色々とお教えしてきた。そのための情もあれば尊敬もしている。だが、父王様のお身の上だけは心配でならない。万が一のことがなければいいのだが……」
神官長は心配そうにそう言ってみせた。
「お助けしたいのです」
神官は身を乗り出して神官長に強い調子でそう言った。
「私も、前国王陛下をお助けしたい気持ちはある。そのためだけになら、力を貸せないわけではない。だが、あくまで私は新しい国王陛下の側近の一人という形だ。それだけは忘れずにいてほしい」
「はい、必ず神官長のことは秘密にいたします」
そういう約束で神官長はこの神官と、その仲間たちに力を貸すという形に持っていった。
「どうか、それ以上のことはせぬように。前国王陛下をお助けする、それだけにしておくれ」
「はい、分かっております」
「詳しいことはこの方たちと決めるといい」
「はい、ありがとうございます」
神官長はヌオリとライネンの名が書かれた紙を神官に見せ、神官がしっかりとその名を覚えたのを見届けると、ランプの火でその書付を燃やした。
「なあ、本当に大丈夫なのか、その協力者という者は」
「どこがだ?」
「どこの誰かも分からない、何が目的かも分からない。もしも、その者の目的が、私たちを陥れることだとしたら、とんでもないことになるのじゃないか?」
ライネンの疑念はもっともだ。だが、自分が何もかもうまくひっぱっていっているつもりのヌオリは、不愉快そうな顔をした。
「これまでのことから信用できると判断をした。何か文句があるのか?」
「いや、そういうわけではないが……」
ライネンは子供の頃からヌオリに逆らえない。家格だけではなく、なんとなく自分はヌオリに付いていき、補佐をする立場、そんな風に思ってしまっていたからだ。性格的にも自信家で、自分が一番でなければ我慢できないヌオリと、少し弱気の自分、どうやってもその形になるのは仕方がないと思ってしまっている。
「じゃあおまえは黙って私に付いてくればいい。これで間違いない。きっと陛下を王座にお戻しし、我々こそがその最側近であることを、その日に知らしめる」
そう宣言されてしまえば、もうライネンはヌオリに逆らえなくなる。
「分かった。だけど、十分に気をつけてくれ。何しろ反乱を起こすと言うことだ、分かってるよな?」
「ああ、分かってるよ、しつこいな」
ヌオリはそう言いながらも、ライネンが自分の言ったことに納得したことで気を良くした。
「では、ちゃんと人数は揃ってきているというわけですね」
「はい、すでに50名以上には」
こちらは「協力者」である神官長と、その意を汲むべく動いている神官の一人だ。
「その者たちはどこに集まっています」
「はい、ある封鎖の館の一軒に」
前国王が匿われているセウラー家の別館のすぐ近く、貴族たちの別館である「封鎖の館」の数軒に集められているということだ。
「ある貴族のご子息が指揮を取る、そう伝えてあります」
「他にはどのように?」
「はい、今のままでは前国王陛下のお命が危ない、それを助けるためと伝えてあります」
「その館はどなたの持ち物なのでしょう」
「空き家となった物を神殿が買い上げた形です」
以前の神殿にはそのような余分な予算はなかった。だが、八年前から神官長が力を持つようになり、キリエが引退した後は神殿の力がもっと強くなるだろう、そう考えた貴族や商人たちの寄進が増え、そのぐらいの買い物ができる余裕が出来ていた。
今、神官長の元に来ているのは、王宮衛士から神官になった者だ。現国王の罷免より前に思い立って神官になった。色々と思うところがあったようだが、前国王への忠誠心が高い者であったので、国王の交代劇には怒りを感じていた。
皇太子の反乱の後、一度は神官長に食ってかかった。どうして、そんなことに力を貸したのかと。だが、うまく言いくるめられ、今では神官長を信じ、その意のままに動く形になっている。
「私もまさかあんなことをなさるとは思わなかった……長い間、色々とお話をさせていただいたが、まさかお父上に……」
神官長は年若い皇太子に学問を教え、色々相談に乗っていた、そう言った。
「次の交代の時、お気持ちが伝わればマユリアも受け入れて下さるかも知れない、そうも申し上げはした。知っていればもちろんお止めしたとも」
悲痛な表情でそう言う神官長をこの神官は信じた。
「なんとかしてあげられないのでしょうか」
「今のままでは難しいだろう」
神官長はいかに皇太子、いや、新しい国王がこれまで努力をなさったか、自分に実力をつけるためのたゆまぬ努力だけではなく、民の信頼を得て、王宮の衛士たちからも敬愛されるお方になったかを語った。
「だから、皆がご譲位を受け入れてしまっている。もしもお助けするとしたら、新しい力を集める必要があるだろう」
「新しい力?」
「そうだ、国王陛下をお助けするために力を貸す、そんな人間を集める必要がある」
神官長の言葉を聞き、神官は考え込んだ。
「私は長年、皇太子殿下に色々とお教えしてきた。そのための情もあれば尊敬もしている。だが、父王様のお身の上だけは心配でならない。万が一のことがなければいいのだが……」
神官長は心配そうにそう言ってみせた。
「お助けしたいのです」
神官は身を乗り出して神官長に強い調子でそう言った。
「私も、前国王陛下をお助けしたい気持ちはある。そのためだけになら、力を貸せないわけではない。だが、あくまで私は新しい国王陛下の側近の一人という形だ。それだけは忘れずにいてほしい」
「はい、必ず神官長のことは秘密にいたします」
そういう約束で神官長はこの神官と、その仲間たちに力を貸すという形に持っていった。
「どうか、それ以上のことはせぬように。前国王陛下をお助けする、それだけにしておくれ」
「はい、分かっております」
「詳しいことはこの方たちと決めるといい」
「はい、ありがとうございます」
神官長はヌオリとライネンの名が書かれた紙を神官に見せ、神官がしっかりとその名を覚えたのを見届けると、ランプの火でその書付を燃やした。
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