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第六章 第三節
9 協力者
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「それは、その日までに私を王座に戻す、そういうことでいいのだな?」
「はい」
前国王の探るような視線に捉えられても、ヌオリの自信は全く揺らがない。
「信用していいのだな?」
「はい、もちろんです」
一体どこからこの自信が生まれるのだろう。ライネンには分からない。
「おまかせください、必ずマユリアの隣に陛下に並んでいただけるようにいたします」
前国王はその言葉でとりあえず気持ちを収めることにしたらしい。まだ全面的に信用はしていないという感じではあったが、そこまで言われて信じられないとは言えなかっただろうし、また信じたい気持ちがあったのだろう。
ライネンはヌオリと共に、前国王がひっそりと身を隠している部屋から退室した。
この建物はライネンのセウラー家の所有する別館の一つである。その館のライネンの私室へと移動して話をする。
「あんなに自信たっぷりに返事をして、大丈夫なのか?」
「ああ、もちろんだ」
ヌオリはソファにどっかりと座り、テーブルの上にあったワインに手を伸ばす。
「私は何も聞かせてもらっていないのだが、今はどういうことになっている? その日までに陛下を王座にお戻しする、その方法は?」
不安そうに尋ねるライネンに、ヌオリはやはり自信たっぷりの視線を向ける。
「準備は着々と整っている。人が集まり次第行動に移すが、それをいつにするのか考えていたところだ。だが、交代の前日、その婚儀のある日に決めた」
「大丈夫なのか?」
「しつこいなあ、大丈夫だと言ってるだろうが」
言葉は不愉快そうだが、ヌオリのその顔は愉快そうにしか見えない。
ヌオリは赤い液体を足つきの丸いグラスに移すと、持ち上げて目の前でくるくると回す。部屋の中を赤々とテラスシャンデリアやランプの光に照らされて、ワインの赤がヌオリの瞳も赤く染めているようだ。
「いいワインだな」
そう言うと、ヌオリはワインで口を湿し、またグラスを見つめた。
「適度な渋みと甘み、コク深くそれでいて爽やかだ」
「ワインのことは今はどうでもいい。それで、どう動いているんだ。私はずっとここで陛下のお世話をしているので、全く外のことが見えない。教えてくれてもいいのではないか?」
「分かったよ、話してやろう」
ヌオリは楽しそうにそう言うと、ワインをもう一口飲んでからグラスをテーブルの上に戻した。
「我々の軍が集結しつつある」
「え! 軍だって?」
「そうだ」
「そんなものがどうして……」
ライネンが混乱してそうつぶやくと、ヌオリは、
「協力者」
と一言だけつぶやいた。
「協力者?」
「ああ、そうだ」
「なんだそれは」
「おまえも知っているだろうが、陛下を私たちの部屋に送り届けてきた何者か」
「あ、ああ」
「あれが協力者だ」
あの時の何者かが、今も接触をしてきているということだろうか。
「そうだ」
ヌオリはライネンの気持ちを読んだようにそう言う。
「一体、何がどうなってるんだ。私が知らなかったことを全部話してくれないか?」
セウラー家の別館、今いるこの場所に前国王をお連れして匿った後、乗ってきたバンハ家の馬車を屋敷に帰し、ライネンとヌオリ、それからここを拠点にしている仲間たちでお迎えをした。前国王の世話をするのはこの館の管理人とその妻、そして2名の下僕だ。使用人たちに前国王の身分は明かしていない。その者たちにはヌオリの縁戚の者を預かっていると言ってある。
下働きの者たちに用はさせているが、前国王のすぐそばに付けるわけにはいかない。それで主にライネンがお側で詰めている形だ。他の者も交代で来てはくれるが、ほぼ四六時中お側付きはライネンの役目となってしまった。
正直、もうすっかり嫌気が差している。この館にお迎えした時には、自分がお世話をさせていただけるのかと光栄に思ったが、まさかここまでわがままで身勝手、人と人とも思わぬ方だとは思わなかった。一刻も早くなんとかしてもらいたいと思っている。
「私は館に居続けで、外がどうなっているか分からないんだから」
ライネンはできるだけ冷静にヌオリに尋ねた。
「よかろう」
ヌオリは満足そうな顔でそう言うと、話を始めた。
ヌオリによると、今も変わらず「協力者」から連絡が来ているとのことだ。
「その者が元国王のために放逐された王宮衛士や王宮侍女、それからその関係者や前国王陛下こそ本当の王である、そのような賛同者を集めてくれてな、かなりの数になっているんだ。その指揮を私が取ることになっている」
ヌオリは得意そうにそう言うが、ではつまり、他力本願、誰かが用意してくれた神輿に乗るばかりにしてもらっているということか。
ライネンはがっかりした。自分たちでと言いながら、結局のところは何もしていないに等しい。
もしも自分もその中にいたならば、何もかもうまくいっている、そう錯覚していたかも知れない。だが、この館で前国王の側につきっきり、冷静に外から物事を見ることができたおかげで、はっきりこう思うことが出来た。
(これは子どもの反乱だ)
若い現国王は、少なくとも数年をかけて準備をし、それを行動に移した。そんな準備周到な相手に対して、こんな付け焼き刃、寄せ集めでどうにかできるのだろうか。
「はい」
前国王の探るような視線に捉えられても、ヌオリの自信は全く揺らがない。
「信用していいのだな?」
「はい、もちろんです」
一体どこからこの自信が生まれるのだろう。ライネンには分からない。
「おまかせください、必ずマユリアの隣に陛下に並んでいただけるようにいたします」
前国王はその言葉でとりあえず気持ちを収めることにしたらしい。まだ全面的に信用はしていないという感じではあったが、そこまで言われて信じられないとは言えなかっただろうし、また信じたい気持ちがあったのだろう。
ライネンはヌオリと共に、前国王がひっそりと身を隠している部屋から退室した。
この建物はライネンのセウラー家の所有する別館の一つである。その館のライネンの私室へと移動して話をする。
「あんなに自信たっぷりに返事をして、大丈夫なのか?」
「ああ、もちろんだ」
ヌオリはソファにどっかりと座り、テーブルの上にあったワインに手を伸ばす。
「私は何も聞かせてもらっていないのだが、今はどういうことになっている? その日までに陛下を王座にお戻しする、その方法は?」
不安そうに尋ねるライネンに、ヌオリはやはり自信たっぷりの視線を向ける。
「準備は着々と整っている。人が集まり次第行動に移すが、それをいつにするのか考えていたところだ。だが、交代の前日、その婚儀のある日に決めた」
「大丈夫なのか?」
「しつこいなあ、大丈夫だと言ってるだろうが」
言葉は不愉快そうだが、ヌオリのその顔は愉快そうにしか見えない。
ヌオリは赤い液体を足つきの丸いグラスに移すと、持ち上げて目の前でくるくると回す。部屋の中を赤々とテラスシャンデリアやランプの光に照らされて、ワインの赤がヌオリの瞳も赤く染めているようだ。
「いいワインだな」
そう言うと、ヌオリはワインで口を湿し、またグラスを見つめた。
「適度な渋みと甘み、コク深くそれでいて爽やかだ」
「ワインのことは今はどうでもいい。それで、どう動いているんだ。私はずっとここで陛下のお世話をしているので、全く外のことが見えない。教えてくれてもいいのではないか?」
「分かったよ、話してやろう」
ヌオリは楽しそうにそう言うと、ワインをもう一口飲んでからグラスをテーブルの上に戻した。
「我々の軍が集結しつつある」
「え! 軍だって?」
「そうだ」
「そんなものがどうして……」
ライネンが混乱してそうつぶやくと、ヌオリは、
「協力者」
と一言だけつぶやいた。
「協力者?」
「ああ、そうだ」
「なんだそれは」
「おまえも知っているだろうが、陛下を私たちの部屋に送り届けてきた何者か」
「あ、ああ」
「あれが協力者だ」
あの時の何者かが、今も接触をしてきているということだろうか。
「そうだ」
ヌオリはライネンの気持ちを読んだようにそう言う。
「一体、何がどうなってるんだ。私が知らなかったことを全部話してくれないか?」
セウラー家の別館、今いるこの場所に前国王をお連れして匿った後、乗ってきたバンハ家の馬車を屋敷に帰し、ライネンとヌオリ、それからここを拠点にしている仲間たちでお迎えをした。前国王の世話をするのはこの館の管理人とその妻、そして2名の下僕だ。使用人たちに前国王の身分は明かしていない。その者たちにはヌオリの縁戚の者を預かっていると言ってある。
下働きの者たちに用はさせているが、前国王のすぐそばに付けるわけにはいかない。それで主にライネンがお側で詰めている形だ。他の者も交代で来てはくれるが、ほぼ四六時中お側付きはライネンの役目となってしまった。
正直、もうすっかり嫌気が差している。この館にお迎えした時には、自分がお世話をさせていただけるのかと光栄に思ったが、まさかここまでわがままで身勝手、人と人とも思わぬ方だとは思わなかった。一刻も早くなんとかしてもらいたいと思っている。
「私は館に居続けで、外がどうなっているか分からないんだから」
ライネンはできるだけ冷静にヌオリに尋ねた。
「よかろう」
ヌオリは満足そうな顔でそう言うと、話を始めた。
ヌオリによると、今も変わらず「協力者」から連絡が来ているとのことだ。
「その者が元国王のために放逐された王宮衛士や王宮侍女、それからその関係者や前国王陛下こそ本当の王である、そのような賛同者を集めてくれてな、かなりの数になっているんだ。その指揮を私が取ることになっている」
ヌオリは得意そうにそう言うが、ではつまり、他力本願、誰かが用意してくれた神輿に乗るばかりにしてもらっているということか。
ライネンはがっかりした。自分たちでと言いながら、結局のところは何もしていないに等しい。
もしも自分もその中にいたならば、何もかもうまくいっている、そう錯覚していたかも知れない。だが、この館で前国王の側につきっきり、冷静に外から物事を見ることができたおかげで、はっきりこう思うことが出来た。
(これは子どもの反乱だ)
若い現国王は、少なくとも数年をかけて準備をし、それを行動に移した。そんな準備周到な相手に対して、こんな付け焼き刃、寄せ集めでどうにかできるのだろうか。
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