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第六章 第二節
4 三人の取次役
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ミーヤがマユリアとの面会を終えて部屋から出てきた。帰りに寄るようにと言われていたので侍女頭の執務室へと足を向ける。
「どうでした」
「はい、お元気そうでいらっしゃいました」
ミーヤがキリエに丁寧に頭を下げる。
「何かおっしゃっていらっしゃいましたか」
キリエはどんな話をしたか、何をしに行ったのかとは聞かない。聞かぬと決めたからだ。ただ、ミーヤが自分に話せることがあるなら、それは聞いておかねばならない。
「あの、ご婚姻のお話を。本当なのでしょうか」
マユリアがミーヤにその話をなさった。では、やはりお受けになられるつもりなのだ。
「私からもおまえに少し話したいことがあります。ですが、その前にマユリアがどのようにおまえに話をなさったのか聞かせてもらえますか?」
「はい」
ミーヤはマユリアから聞いた内容をキリエに伝えた。今が八年前と同じく危機的状況であること、今回は託宣がなくマユリアはご自分でこの先のことを考えなければいけないこと、考えた結果、民のために婚姻の話を受ける決意をしたこと、などを。
「そうですか」
「あの、一体どういうことなのでしょう、なぜ神官長はそんな話をマユリアに」
キリエはミーヤをちらりと見るとスッと目を閉じた。
今、ミーヤは自分とは違う立場にいる者だ、そう思っているから何をどう話せばいいのかが難しい。だが話すことは決まっている。
「マユリアがおっしゃった通りです。今、この国は八年前と同じほどの危機にさらされています。そのことを知る神官長の提案をマユリアが受け入れられ、そして良いと思われたので、お受けになるということです」
ミーヤは信じられないことを聞いたという目でキリエを見た。まさか、この方がこんなことをおっしゃるなんて……
「あの、お止めしないのでしょうか」
「主がお決めになったことを下僕がお止めするなどあるはずがありません」
「そんな……」
ミーヤがアランたちの部屋へ帰ってきた。
「よう、どうだった」
トーヤの言葉にミーヤは目を伏せ、黙って首を左右に振った。そしてマユリアとの会話を伝える。
「女神マユリアとシャンタリオ国王の婚姻……」
「なあなあ、なんだよそれ。つまりマユリアは王様の側室になって後宮に入るってことか? トーヤが言ってた通り、マユリアは王様のこと好きんなったってこと?」
「いや、そんな単純なこっちゃねえな」
ベルの言葉にアランがそう言って否定する。
「とにかく、そのことについてはまたゆっくり考えよう。そんで、キリエさんとはどんな話になった」
「それが……」
ミーヤが困ったような顔になる。
「なんだ、一体何があったんだ」
「キリエ様が、私に取次役をやるようにと」
「なんだって!」
さすがにトーヤがそう言って声が大きくなりかけたのを急いで抑えた。
「え、ちょっと、それって、ミーヤさんがセルマのかわりに奥宮で偉そうにするってこと?」
ベルがみんなの意見をまとめたように、簡単にそう言う。
「いえ、そうではないのです」
ミーヤの話によるとこう言われたということだ。
「セルマの謹慎を解いて取次役に戻します」
「え?」
「おまえはセルマの世話役をやる必要がなくなります。その代わりに一緒に取次役をやってください」
「ええっ!」
「セルマとおまえと、そしてフウの3人を取次役に任命します」
「あ、あの!」
「取次役はこれまでどこにも属さぬ単独の役職でした。ですが、今後は侍女頭付きの一つの役職とします」
つまりキリエの管理下に入るということだ。
「そして文字通り奥宮と前の宮の連絡事項を取り次ぐ役目と定めます。それほど大した仕事量ではないので、他の業務と兼務でも可能だと判断しました。さらに3人と定めれば、忙しい時にも助け合うことができるでしょう」
キリエが言うにはセルマは主に奥宮の、そしてフウとミーヤは前の宮の連絡事項を受け持つことになるらしい。
「私がこれまで侍女たちに伝えていた連絡事項を3人に伝えてもらいます。これで取次役が設けられた当初の目的、老いた侍女頭の手助けをするという役目に戻ることになります」
「えっ、では」
「ええ、私がこの先もまだしばらくは侍女頭を務めることにいたしました。ですからお願いしましたよ」
「は、はい」
「取次役の取りまとめはフウです。何か問題が起きたらフウから私に連絡をするようにしてください」
「はい」
そう言われて、何がなんだか分からない状態でここに戻ってきたらしい。
「キリエさんが侍女頭のままでいくってことか」
「トーヤ、これって」
「ああ、大変なことになったな」
トーヤとアランの見解は同じらしい。
「ど、ど、ど、どういうことになるんだよ!」
ベルがつっかえながらそう聞いた。
「キリエさんが敵に回ったってこった」
「ええっ! な、な、な、なんで!」
「ちょっと落ち着け」
「いでっ!」
アランが軽くベルをはたく。
「神官長が持ってきたってマユリアの婚姻話、キリエさんもそれに乗るってことだ。これから先、何がどうなるか分からん。けど、本心はマユリアを助けてほしい。それでそんな小細工したんだろう。できるだけのことをして宣戦布告してきたつもりなんだろうさ」
「どうでした」
「はい、お元気そうでいらっしゃいました」
ミーヤがキリエに丁寧に頭を下げる。
「何かおっしゃっていらっしゃいましたか」
キリエはどんな話をしたか、何をしに行ったのかとは聞かない。聞かぬと決めたからだ。ただ、ミーヤが自分に話せることがあるなら、それは聞いておかねばならない。
「あの、ご婚姻のお話を。本当なのでしょうか」
マユリアがミーヤにその話をなさった。では、やはりお受けになられるつもりなのだ。
「私からもおまえに少し話したいことがあります。ですが、その前にマユリアがどのようにおまえに話をなさったのか聞かせてもらえますか?」
「はい」
ミーヤはマユリアから聞いた内容をキリエに伝えた。今が八年前と同じく危機的状況であること、今回は託宣がなくマユリアはご自分でこの先のことを考えなければいけないこと、考えた結果、民のために婚姻の話を受ける決意をしたこと、などを。
「そうですか」
「あの、一体どういうことなのでしょう、なぜ神官長はそんな話をマユリアに」
キリエはミーヤをちらりと見るとスッと目を閉じた。
今、ミーヤは自分とは違う立場にいる者だ、そう思っているから何をどう話せばいいのかが難しい。だが話すことは決まっている。
「マユリアがおっしゃった通りです。今、この国は八年前と同じほどの危機にさらされています。そのことを知る神官長の提案をマユリアが受け入れられ、そして良いと思われたので、お受けになるということです」
ミーヤは信じられないことを聞いたという目でキリエを見た。まさか、この方がこんなことをおっしゃるなんて……
「あの、お止めしないのでしょうか」
「主がお決めになったことを下僕がお止めするなどあるはずがありません」
「そんな……」
ミーヤがアランたちの部屋へ帰ってきた。
「よう、どうだった」
トーヤの言葉にミーヤは目を伏せ、黙って首を左右に振った。そしてマユリアとの会話を伝える。
「女神マユリアとシャンタリオ国王の婚姻……」
「なあなあ、なんだよそれ。つまりマユリアは王様の側室になって後宮に入るってことか? トーヤが言ってた通り、マユリアは王様のこと好きんなったってこと?」
「いや、そんな単純なこっちゃねえな」
ベルの言葉にアランがそう言って否定する。
「とにかく、そのことについてはまたゆっくり考えよう。そんで、キリエさんとはどんな話になった」
「それが……」
ミーヤが困ったような顔になる。
「なんだ、一体何があったんだ」
「キリエ様が、私に取次役をやるようにと」
「なんだって!」
さすがにトーヤがそう言って声が大きくなりかけたのを急いで抑えた。
「え、ちょっと、それって、ミーヤさんがセルマのかわりに奥宮で偉そうにするってこと?」
ベルがみんなの意見をまとめたように、簡単にそう言う。
「いえ、そうではないのです」
ミーヤの話によるとこう言われたということだ。
「セルマの謹慎を解いて取次役に戻します」
「え?」
「おまえはセルマの世話役をやる必要がなくなります。その代わりに一緒に取次役をやってください」
「ええっ!」
「セルマとおまえと、そしてフウの3人を取次役に任命します」
「あ、あの!」
「取次役はこれまでどこにも属さぬ単独の役職でした。ですが、今後は侍女頭付きの一つの役職とします」
つまりキリエの管理下に入るということだ。
「そして文字通り奥宮と前の宮の連絡事項を取り次ぐ役目と定めます。それほど大した仕事量ではないので、他の業務と兼務でも可能だと判断しました。さらに3人と定めれば、忙しい時にも助け合うことができるでしょう」
キリエが言うにはセルマは主に奥宮の、そしてフウとミーヤは前の宮の連絡事項を受け持つことになるらしい。
「私がこれまで侍女たちに伝えていた連絡事項を3人に伝えてもらいます。これで取次役が設けられた当初の目的、老いた侍女頭の手助けをするという役目に戻ることになります」
「えっ、では」
「ええ、私がこの先もまだしばらくは侍女頭を務めることにいたしました。ですからお願いしましたよ」
「は、はい」
「取次役の取りまとめはフウです。何か問題が起きたらフウから私に連絡をするようにしてください」
「はい」
そう言われて、何がなんだか分からない状態でここに戻ってきたらしい。
「キリエさんが侍女頭のままでいくってことか」
「トーヤ、これって」
「ああ、大変なことになったな」
トーヤとアランの見解は同じらしい。
「ど、ど、ど、どういうことになるんだよ!」
ベルがつっかえながらそう聞いた。
「キリエさんが敵に回ったってこった」
「ええっ! な、な、な、なんで!」
「ちょっと落ち着け」
「いでっ!」
アランが軽くベルをはたく。
「神官長が持ってきたってマユリアの婚姻話、キリエさんもそれに乗るってことだ。これから先、何がどうなるか分からん。けど、本心はマユリアを助けてほしい。それでそんな小細工したんだろう。できるだけのことをして宣戦布告してきたつもりなんだろうさ」
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