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第六章 第二節
2 無垢な笑顔
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「どうしました?」
「え?」
いつものように、トーヤたちに言うように答えてしまってから、ミーヤは慌てた。
「あ、申し訳ありません!」
急いで頭を下げる。なんという失礼をしてしまったのだろう。マユリアの前で考え事をしてしまった上に、まるで友人にするような返答をしてしまうとは!
「構いませんよ、頭をお上げなさい。それで、一体何を考えていたのです」
「はい」
ミーヤは頭を上げ、もう一度マユリアを見て答えた。
「おそれながら、八年前にこうしておそば近くに寄らせていただくようになった頃と変わらずお美しい、そして、その頃と変わらず、とても楽しそうにお笑いになっていらっしゃると」
「まあ」
ミーヤの言葉を聞いてマユリアはまた楽しそうにころころと笑った。その様子を見て、ミーヤの顔にも笑みが浮かぶ。
「ミーヤはわたくしのことが好きですか?」
「え?」
唐突な主の質問に、やはり同じように答えてから、これはそう言ってしまっても仕方がないのではと思いつつも、ミーヤが困った顔になる。
「聞かせてほしいのです、わたくしのことを好きだと思っていてくれてるかどうかを」
「それは……」
ミーヤはあらためて困った顔になる。
「どうしました」
「いえ、考えたこともなかったもので」
「考えたことがない?」
「はい」
ミーヤがまた頭を深く下げてから上げて素直に答える。
「マユリアはかけがえのない大切な存在、そう思っております。ですから好きかどうかと考えたことなどなかったのです」
「まあ」
またマユリアはころころと笑う。
「では嫌いではないということですね」
「嫌いだなんて、そんなことあるはずがありません!」
それこそそんなことは考えたこともなかった。
「好きだと思ってくれているということでいいのですか?」
「もちろんです!」
「じゃあ、聞かせてもらいたいのです、わたくしのどこを好きか」
「マユリアの好きなところですか」
「ええ、なんでもかまいませんよ」
ミーヤはマユリアの質問に戸惑う。まさかこの方がこんな質問をなさるなど思ってみなかった。
もしかして、これがマユリアではないどこかの誰かが言っているということなのだろうか。ミーヤはそう疑って、もう一度主の美しい笑顔を見てみる。
この笑顔はどこかで見たことがある。それは……
「海賊のマユリア」
「え?」
「いえ、あの時と同じお顔をしていらっしゃるなと思って」
マユリアも思い出したようだ。
「そうでしたか?」
「はい、あの時も今と同じように、いたずらっ子のように笑っていらっしゃいました」
またマユリアが声を上げて笑った。本当に無垢で、純粋な子どものような笑顔だ。
「それではとっとと答えてもらいましょうか、そうしないと、海に放り込んでサメのエサにしてしまいますよ?」
マユリアはそう言うと、あの時と同じように剣を構える仕草をした。
その様子がとてもかわいらしく、そしてとても楽しそうだったのでミーヤも声をあげて笑う。
「分かりました、白状いたします。マユリアの好きなところ、それは全部です」
「全部ですって、それはどういう意味なのでしょうね?」
マユリアが見えない剣の先をミーヤに突きつけるようにしてそう言った。まだ海賊ごっこは続いているようだ。
「それは、嫌いなところがないという意味です。まず今は、その幼い子のように純粋でおかわいらしいところを好ましいと思いました。そしてなんとも素敵な海賊です。やはり私もマユリアの元で、いつまでも海賊の侍女を続けたいと思いました。それほどに素晴らしいお方です。ですから何もかも全部を好きだと申し上げたのです」
「まあ」
マユリアがやっと剣を下げ、両手で口元を押さえて、少し照れくさそうに笑った。そんなところ、とても人間くさくていらっしゃる、そこも好きだとミーヤは思った。
「ありがとう。さあ、座ってお茶でもどうぞ、海賊の侍女さん」
「ありがとうございます」
マユリアも海賊から女神に戻ったようだ。
「なんでしょう、褒めてもらうというのは照れくさいものですね」
「マユリアでもそう思われるんですね」
「ええ、わたくしは褒めてもらうということがほとんどないので、なんだかとても恥ずかしく感じました」
「そんな」
「ないのですよ、そのように言ってもらうことは」
なんだか少し寂しそうだと思った。
「以前」
マユリアが少し遠くを見るように、懐かしそうに話を続けた。
「トーヤにも聞いてみたことがあります。わたくしを好きかどうかと」
「え?」
なんとなくミーヤは心の内のどこかがチクリとした。トーヤからそんな話は聞いたことがない。そのことがなんだかトゲのように引っかかった気がした。
「トーヤはわたくしを好きだと言ってくれました」
またチクリとする。それは、この方を嫌う方などいないだろう。だが、その言葉がトーヤの口から出たのだと思うとトゲが深くなったように感じた。
「そしてトーヤにも同じように聞きました。わたくしのどこを好きなのかと。トーヤはなんと言ったと思いますか?」
「いえ、分かりません」
トーヤは一体なんと言ったのだろう、マユリアのどこが好きだと言ったのだろう。それを考えるだけでミーヤの胸に刺さったトゲから血が流れそうに感じた。
「え?」
いつものように、トーヤたちに言うように答えてしまってから、ミーヤは慌てた。
「あ、申し訳ありません!」
急いで頭を下げる。なんという失礼をしてしまったのだろう。マユリアの前で考え事をしてしまった上に、まるで友人にするような返答をしてしまうとは!
「構いませんよ、頭をお上げなさい。それで、一体何を考えていたのです」
「はい」
ミーヤは頭を上げ、もう一度マユリアを見て答えた。
「おそれながら、八年前にこうしておそば近くに寄らせていただくようになった頃と変わらずお美しい、そして、その頃と変わらず、とても楽しそうにお笑いになっていらっしゃると」
「まあ」
ミーヤの言葉を聞いてマユリアはまた楽しそうにころころと笑った。その様子を見て、ミーヤの顔にも笑みが浮かぶ。
「ミーヤはわたくしのことが好きですか?」
「え?」
唐突な主の質問に、やはり同じように答えてから、これはそう言ってしまっても仕方がないのではと思いつつも、ミーヤが困った顔になる。
「聞かせてほしいのです、わたくしのことを好きだと思っていてくれてるかどうかを」
「それは……」
ミーヤはあらためて困った顔になる。
「どうしました」
「いえ、考えたこともなかったもので」
「考えたことがない?」
「はい」
ミーヤがまた頭を深く下げてから上げて素直に答える。
「マユリアはかけがえのない大切な存在、そう思っております。ですから好きかどうかと考えたことなどなかったのです」
「まあ」
またマユリアはころころと笑う。
「では嫌いではないということですね」
「嫌いだなんて、そんなことあるはずがありません!」
それこそそんなことは考えたこともなかった。
「好きだと思ってくれているということでいいのですか?」
「もちろんです!」
「じゃあ、聞かせてもらいたいのです、わたくしのどこを好きか」
「マユリアの好きなところですか」
「ええ、なんでもかまいませんよ」
ミーヤはマユリアの質問に戸惑う。まさかこの方がこんな質問をなさるなど思ってみなかった。
もしかして、これがマユリアではないどこかの誰かが言っているということなのだろうか。ミーヤはそう疑って、もう一度主の美しい笑顔を見てみる。
この笑顔はどこかで見たことがある。それは……
「海賊のマユリア」
「え?」
「いえ、あの時と同じお顔をしていらっしゃるなと思って」
マユリアも思い出したようだ。
「そうでしたか?」
「はい、あの時も今と同じように、いたずらっ子のように笑っていらっしゃいました」
またマユリアが声を上げて笑った。本当に無垢で、純粋な子どものような笑顔だ。
「それではとっとと答えてもらいましょうか、そうしないと、海に放り込んでサメのエサにしてしまいますよ?」
マユリアはそう言うと、あの時と同じように剣を構える仕草をした。
その様子がとてもかわいらしく、そしてとても楽しそうだったのでミーヤも声をあげて笑う。
「分かりました、白状いたします。マユリアの好きなところ、それは全部です」
「全部ですって、それはどういう意味なのでしょうね?」
マユリアが見えない剣の先をミーヤに突きつけるようにしてそう言った。まだ海賊ごっこは続いているようだ。
「それは、嫌いなところがないという意味です。まず今は、その幼い子のように純粋でおかわいらしいところを好ましいと思いました。そしてなんとも素敵な海賊です。やはり私もマユリアの元で、いつまでも海賊の侍女を続けたいと思いました。それほどに素晴らしいお方です。ですから何もかも全部を好きだと申し上げたのです」
「まあ」
マユリアがやっと剣を下げ、両手で口元を押さえて、少し照れくさそうに笑った。そんなところ、とても人間くさくていらっしゃる、そこも好きだとミーヤは思った。
「ありがとう。さあ、座ってお茶でもどうぞ、海賊の侍女さん」
「ありがとうございます」
マユリアも海賊から女神に戻ったようだ。
「なんでしょう、褒めてもらうというのは照れくさいものですね」
「マユリアでもそう思われるんですね」
「ええ、わたくしは褒めてもらうということがほとんどないので、なんだかとても恥ずかしく感じました」
「そんな」
「ないのですよ、そのように言ってもらうことは」
なんだか少し寂しそうだと思った。
「以前」
マユリアが少し遠くを見るように、懐かしそうに話を続けた。
「トーヤにも聞いてみたことがあります。わたくしを好きかどうかと」
「え?」
なんとなくミーヤは心の内のどこかがチクリとした。トーヤからそんな話は聞いたことがない。そのことがなんだかトゲのように引っかかった気がした。
「トーヤはわたくしを好きだと言ってくれました」
またチクリとする。それは、この方を嫌う方などいないだろう。だが、その言葉がトーヤの口から出たのだと思うとトゲが深くなったように感じた。
「そしてトーヤにも同じように聞きました。わたくしのどこを好きなのかと。トーヤはなんと言ったと思いますか?」
「いえ、分かりません」
トーヤは一体なんと言ったのだろう、マユリアのどこが好きだと言ったのだろう。それを考えるだけでミーヤの胸に刺さったトゲから血が流れそうに感じた。
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