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第六章 第一部
17 来歴
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「なんだって、ルギがそんな剣を下げてるだと?」
ルギがマユリアから剣を授かり、あらためてマユリアの衛士であり剣となると誓った翌日、早速アランがそんな話を仕入れてきた。
「ああ、今までは普通の他の衛士と同じ剣だったろ? それが、えらく立派な剣を下げてるので衛士がどうしたのか聞いたら、一言だけマユリアから授かったと言ったらしい」
アランの話を聞いて、トーヤが厳しい顔になる。
「もう少し詳しく聞けねえかな、そこんとこ」
「ああ」
アランもトーヤの考えていることをなんとなく理解しているようだ。
「よ、よう、なんでそんな気にすんだよ、兄貴もトーヤも。ルギってマユリアの特別な衛士なんだろ? だったらそんぐらいのもん、もらってもおかしくないんじゃねえの?」
ベルが不思議そうに聞いてくる。
「これが他の国、他の時期ならな。けど、今、この時期でマユリアが剣をどうこうってのがちょっと引っかかる」
「なんでマユリアが剣もっちゃ変なのさ」
「剣は何をする道具だ?」
「あ……」
剣には色々な役割がある。儀式で捧げる剣もあれば、人の命を奪う目的で使う剣もある。むしろそっちの方が多いと言えるだろう。
「だから、おそらく剣は持てないんじゃないかと思う」
「なるほど」
「そうじゃないかと思うだけで持てる可能性もあるが、確かめたことはないからな」
「私の守り刀は持ってたよ」
「ああ」
静かなので忘れがちだが、もちろんシャンタルもいる。寝てない限りは仲間の会話に参加している。
「じゃあ持てるのか?」
トーヤがそう言って考えるが、答えが出ることではない。
「とりあえず、俺がキリエさんに来歴とか聞いてみるよ」
アランがそう言ってキリエの部屋を訪ねた。
「マユリアがルギに渡した剣ですか。なぜそんなことが気になるのです」
初っ端からこうこられて、アランがちょっとだけ引く。親しくなったと思ってはいたが、侍女頭としての役目や主たちに関することに関しては、あくまでアランはよそものでしかない。
「いや、俺は一応傭兵やってるもんで、そういうのは気になるんですよ。けど、ルギさんに直接聞いても何も言ってくれないだろうし、キリエさんなら何か知ってるんじゃないかと」
「気にしてどうします」
ガードは固い。
「しょうがないな、こうなったらはっきり言ってしまいますが、気になりますよ、今のこの時期になんでマユリアが剣なんかって」
アランは正直にそう言った。キリエには下手に隠し事をしない方がいい。
「この時期に剣が気になる。なぜです」
「なぜって、マユリア、剣を触れなかったりしませんか?」
キリエがアランの言葉に少し考えるようにした。
「分かりません。そもそも剣に触れられる機会などある方ではありませんし」
「そうですよね。けど、シャンタルが持ってる黒い守り刀はマユリアに渡されたと聞いてます。小刀なら持てるってことですかね」
「どうなのでしょう」
「その刀、誰がどこに運んでルギさんに渡したんです?」
「それがそんなに重要なのですか?」
キリエがさすがに不審に思ったようだ。
「ええ、重要です」
もうこうなったら本当のことを言ってしまうしかない。
「なんかおかしい、そう思ってます」
「何かとはなんです」
「分かりません。ですが、この時期にマユリアがいきなりルギさんにそんな物を渡す、なんでです」
キリエは表情を変えることなくアランと対峙する。アランも同じく表情を変えることはない。
少しの間、無表情な二人が黙って互いを見ていたが、やがてキリエが動いた。
「あの剣はルギがこの宮に来たその日に、当時のシャンタルであったマユリアに献上されたものです」
「そうなんですか」
「ええ」
マユリアがルギに語ったのは事実であった。
「あの日のことはよく覚えています。さる貴族からあの剣が献上されました。その日の午前の謁見の時に持参されたのです。美しい剣ですが、中は実用的なアルディナで打たれた剣だと説明なさっていました」
「アルディナで作られたものだったんですか」
「ええ、刀身は。ですが、その鞘は実用的で無骨だということで、こちらであの鞘を作らせたとのことでした」
「そうでしたか」
キリエはアランにその時のことを全部話すつもりになったようだ。
「謁見の客が帰られた後、マユリアはしばらくあの剣を見つめていらっしゃいましたが、言われてみれば触れるということはなかったと記憶しています。ですが、不思議なほど興味を持たれたようです。しばらくの間じっと見つめていらっしゃいましたが、そうすると、私のところに聖なる湖で不審な子どもを見つけたと連絡がきたのです」
「そのへんのことはトーヤから聞きました」
「そうですか」
キリエが続ける。
「私が様子を見に行こうとしたところ、当時のシャンタルが、その者をここへ、そうおっしゃいました。その時に剣は宝物庫へ片付けるようにとも。そしてルギが謁見の間に呼ばれたのです」
つまり、その剣が来たからマユリアはルギと対面する気になったということか。
「マユリアはそれ以来一切あの剣に触れることはなかったのですが、今回、突然あの剣を部屋に持ってくるようにとおっしゃったのです」
そしてルギに授けたということだった。
ルギがマユリアから剣を授かり、あらためてマユリアの衛士であり剣となると誓った翌日、早速アランがそんな話を仕入れてきた。
「ああ、今までは普通の他の衛士と同じ剣だったろ? それが、えらく立派な剣を下げてるので衛士がどうしたのか聞いたら、一言だけマユリアから授かったと言ったらしい」
アランの話を聞いて、トーヤが厳しい顔になる。
「もう少し詳しく聞けねえかな、そこんとこ」
「ああ」
アランもトーヤの考えていることをなんとなく理解しているようだ。
「よ、よう、なんでそんな気にすんだよ、兄貴もトーヤも。ルギってマユリアの特別な衛士なんだろ? だったらそんぐらいのもん、もらってもおかしくないんじゃねえの?」
ベルが不思議そうに聞いてくる。
「これが他の国、他の時期ならな。けど、今、この時期でマユリアが剣をどうこうってのがちょっと引っかかる」
「なんでマユリアが剣もっちゃ変なのさ」
「剣は何をする道具だ?」
「あ……」
剣には色々な役割がある。儀式で捧げる剣もあれば、人の命を奪う目的で使う剣もある。むしろそっちの方が多いと言えるだろう。
「だから、おそらく剣は持てないんじゃないかと思う」
「なるほど」
「そうじゃないかと思うだけで持てる可能性もあるが、確かめたことはないからな」
「私の守り刀は持ってたよ」
「ああ」
静かなので忘れがちだが、もちろんシャンタルもいる。寝てない限りは仲間の会話に参加している。
「じゃあ持てるのか?」
トーヤがそう言って考えるが、答えが出ることではない。
「とりあえず、俺がキリエさんに来歴とか聞いてみるよ」
アランがそう言ってキリエの部屋を訪ねた。
「マユリアがルギに渡した剣ですか。なぜそんなことが気になるのです」
初っ端からこうこられて、アランがちょっとだけ引く。親しくなったと思ってはいたが、侍女頭としての役目や主たちに関することに関しては、あくまでアランはよそものでしかない。
「いや、俺は一応傭兵やってるもんで、そういうのは気になるんですよ。けど、ルギさんに直接聞いても何も言ってくれないだろうし、キリエさんなら何か知ってるんじゃないかと」
「気にしてどうします」
ガードは固い。
「しょうがないな、こうなったらはっきり言ってしまいますが、気になりますよ、今のこの時期になんでマユリアが剣なんかって」
アランは正直にそう言った。キリエには下手に隠し事をしない方がいい。
「この時期に剣が気になる。なぜです」
「なぜって、マユリア、剣を触れなかったりしませんか?」
キリエがアランの言葉に少し考えるようにした。
「分かりません。そもそも剣に触れられる機会などある方ではありませんし」
「そうですよね。けど、シャンタルが持ってる黒い守り刀はマユリアに渡されたと聞いてます。小刀なら持てるってことですかね」
「どうなのでしょう」
「その刀、誰がどこに運んでルギさんに渡したんです?」
「それがそんなに重要なのですか?」
キリエがさすがに不審に思ったようだ。
「ええ、重要です」
もうこうなったら本当のことを言ってしまうしかない。
「なんかおかしい、そう思ってます」
「何かとはなんです」
「分かりません。ですが、この時期にマユリアがいきなりルギさんにそんな物を渡す、なんでです」
キリエは表情を変えることなくアランと対峙する。アランも同じく表情を変えることはない。
少しの間、無表情な二人が黙って互いを見ていたが、やがてキリエが動いた。
「あの剣はルギがこの宮に来たその日に、当時のシャンタルであったマユリアに献上されたものです」
「そうなんですか」
「ええ」
マユリアがルギに語ったのは事実であった。
「あの日のことはよく覚えています。さる貴族からあの剣が献上されました。その日の午前の謁見の時に持参されたのです。美しい剣ですが、中は実用的なアルディナで打たれた剣だと説明なさっていました」
「アルディナで作られたものだったんですか」
「ええ、刀身は。ですが、その鞘は実用的で無骨だということで、こちらであの鞘を作らせたとのことでした」
「そうでしたか」
キリエはアランにその時のことを全部話すつもりになったようだ。
「謁見の客が帰られた後、マユリアはしばらくあの剣を見つめていらっしゃいましたが、言われてみれば触れるということはなかったと記憶しています。ですが、不思議なほど興味を持たれたようです。しばらくの間じっと見つめていらっしゃいましたが、そうすると、私のところに聖なる湖で不審な子どもを見つけたと連絡がきたのです」
「そのへんのことはトーヤから聞きました」
「そうですか」
キリエが続ける。
「私が様子を見に行こうとしたところ、当時のシャンタルが、その者をここへ、そうおっしゃいました。その時に剣は宝物庫へ片付けるようにとも。そしてルギが謁見の間に呼ばれたのです」
つまり、その剣が来たからマユリアはルギと対面する気になったということか。
「マユリアはそれ以来一切あの剣に触れることはなかったのですが、今回、突然あの剣を部屋に持ってくるようにとおっしゃったのです」
そしてルギに授けたということだった。
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