418 / 488
第六章 第一部
14 ダル多忙
しおりを挟む
ダルは忙しかった。月虹隊の東西の詰め所に、毎日山のように届けられる陳情書、それから宮へ陳情に行きたいと言ってくる者の対応に追われていた。
最初は中身を見てまとめて宮へ届けていたが、際限もなくそういう物を届けていたら宮が動けなくなってしまう。
「陳情書はきちんとどこの誰が持ってきたか分かる物だけを受け付ける。陳情に行きたい人はその地区の代表者と一緒に来て、身元がちゃんと分かっている人だけ話を聞く。あ、話を聞くだけであって、宮へ紹介するとか、連れて行くということではないから、そのへんははっきり言っておいて」
ダルは決まりをきちんと決めて、徹底するようにと月虹兵たちに申し伝えた。そして憲兵隊の隊長も月虹隊と同じ形をとることに決めた。
「だから、どこの誰が持ってきたか分からないようなのは全部断って。そういうのを書いてきちんと貼り出そう。持ってきた人が本当にいるかどうか、それを確かめてから陳情書の内容を確認する。宮へ届けるのはそれから」
月虹隊、憲兵隊、それぞれの東西詰め所に「決まり書き」を貼り出した。決まりを守らずに置いていった陳情書は全て破棄する、身元を証明せずに陳情を訴えてきた者の話も聞かない。そう徹底をしたことで、当初の混乱はかなり落ち着いてきた。
中には身元を証明せず、それでも陳情書を受け取れと強引に置いて帰ろうとする者もあったが、こちらも断固として受け取らない姿勢を貫いたら、次第に減ってきた。陳情させろと訴えてくる者も同じだ、個人で勝手に宮に入りたいだけの者などもいて、一切受け付けないと拒否し続けた。
それでもまだ力づくで押し通ろうとする者、ごくまれだが暴力に売ったようとする者までいたが、そんな時にはルギが派遣してくれた衛士が前に出てくれた。
衛士は本来なら宮の中のことが業務である。宮の外へ出ても管轄の担当である憲兵と月虹兵への配慮から、よほどのことがあったり、頼まれない限りは手を出してこない。
だが今回は、警護隊隊長であるルギから直々に、
「宮の平穏を妨げようとする輩には遠慮することはない、厳しく対応しろ」
と言われたことから、片っ端からつまみ出していく。
「さすがにルギに鍛えられてるだけあって、衛士は違うなあ」
ダルも思わず笑いながら感心するぐらい、見事に場を収めてくれる。
本来なら憲兵も衛士も同じ訓練を受け、同じ役割を持っているはずなのだが、普段、王都で比較的のんびりと役目を務めているだけに、どうしても民たちには甘くなるようだ。
はっきり言うと、いい顔をしたいということになるか。ケンカをしてる者や、酒に酔って何がなんだか分からなくなった者、そういう者を主に相手にしているだけに、陳情書を読んでほしい、陳情させてほしいと、真面目に頼んでくるリュセルスの民に厳しく当たり、嫌われたくないのだ。
月虹兵はその点、憲兵よりは気楽な立場だ。一応「兵」とついてはいるが、宮と憲兵と民との間を取り持つ役割が大きい。衛士や憲兵と一緒に訓練はしているし、何かあった時には争っている者の間に入って止められるぐらいの力も必要とされるが、あくまで民の一人であるという意識が強い。
憲兵が言うと、上から下に向けて言っているようになり、横暴と受け止められ兼ねないことでも、月虹兵が「これはだめじゃないか」と横並びの位置から言う方が、反感を買いにくいようだ。
そういうこともあり、隊長のダルは憲兵の隊長からも頼られてしまって本当に忙しい。このところ、ろくに家にも帰れていない。ほぼ宮とどちらかの詰め所を行ったり来たりするだけという生活だ。
せっかく封鎖が明けて村に帰れるようになったのに、と思いはするが、これも今だけのこと、そしてその今がどれだけ大変な時期なのかを知っているだけに、アミと子供たちにごめんと言いながら、なかなか帰れずにいる。
そう、知ってるからだ。普通の民なら知らずに済んでいることを、八年前にあったことを、今起きていることを、そしてこれから起きるかも知れないことを。
ダルは知らぬ顔をして、月虹兵たちともリュセルスの民たちとも接触をしているが、心の中からそれらのことがなくなることはない。
ルギからディレンが元王宮衛士の男を預かっていることを聞いた。そしてアランからはその男がシャンタルの前で本名を名乗り、少し考えが変わってきていることも聞いた。今はディレンの元で、その男がもう少ししっかり自分を取り戻し、自分がそのような行動を取る原因になったのは何だったのか、そしてそれが誰の仕掛けたことだったのかを言ってくれることを期待している状態だと理解した。
「こっちの陳述書、これは記名もないし誰からの物かも分からないから、廃棄に回していいですよね」
ダルが考え事をしながら陳述書を仕分けしていると、廃棄書類を運んでいるアーリンが、汗を拭きながらそう聞いてきた。
「あ、ああ頼むよ」
「本当に、なんでこんなことになってるんだか。そういやあの元王宮衛士って人、どうしてるんだろう。元気にしてるといいんだけど」
「そうだね」
アーリンにはトイボアのことは知らせていないので、ダルは知らぬ顔で一言だけそう答えた。
最初は中身を見てまとめて宮へ届けていたが、際限もなくそういう物を届けていたら宮が動けなくなってしまう。
「陳情書はきちんとどこの誰が持ってきたか分かる物だけを受け付ける。陳情に行きたい人はその地区の代表者と一緒に来て、身元がちゃんと分かっている人だけ話を聞く。あ、話を聞くだけであって、宮へ紹介するとか、連れて行くということではないから、そのへんははっきり言っておいて」
ダルは決まりをきちんと決めて、徹底するようにと月虹兵たちに申し伝えた。そして憲兵隊の隊長も月虹隊と同じ形をとることに決めた。
「だから、どこの誰が持ってきたか分からないようなのは全部断って。そういうのを書いてきちんと貼り出そう。持ってきた人が本当にいるかどうか、それを確かめてから陳情書の内容を確認する。宮へ届けるのはそれから」
月虹隊、憲兵隊、それぞれの東西詰め所に「決まり書き」を貼り出した。決まりを守らずに置いていった陳情書は全て破棄する、身元を証明せずに陳情を訴えてきた者の話も聞かない。そう徹底をしたことで、当初の混乱はかなり落ち着いてきた。
中には身元を証明せず、それでも陳情書を受け取れと強引に置いて帰ろうとする者もあったが、こちらも断固として受け取らない姿勢を貫いたら、次第に減ってきた。陳情させろと訴えてくる者も同じだ、個人で勝手に宮に入りたいだけの者などもいて、一切受け付けないと拒否し続けた。
それでもまだ力づくで押し通ろうとする者、ごくまれだが暴力に売ったようとする者までいたが、そんな時にはルギが派遣してくれた衛士が前に出てくれた。
衛士は本来なら宮の中のことが業務である。宮の外へ出ても管轄の担当である憲兵と月虹兵への配慮から、よほどのことがあったり、頼まれない限りは手を出してこない。
だが今回は、警護隊隊長であるルギから直々に、
「宮の平穏を妨げようとする輩には遠慮することはない、厳しく対応しろ」
と言われたことから、片っ端からつまみ出していく。
「さすがにルギに鍛えられてるだけあって、衛士は違うなあ」
ダルも思わず笑いながら感心するぐらい、見事に場を収めてくれる。
本来なら憲兵も衛士も同じ訓練を受け、同じ役割を持っているはずなのだが、普段、王都で比較的のんびりと役目を務めているだけに、どうしても民たちには甘くなるようだ。
はっきり言うと、いい顔をしたいということになるか。ケンカをしてる者や、酒に酔って何がなんだか分からなくなった者、そういう者を主に相手にしているだけに、陳情書を読んでほしい、陳情させてほしいと、真面目に頼んでくるリュセルスの民に厳しく当たり、嫌われたくないのだ。
月虹兵はその点、憲兵よりは気楽な立場だ。一応「兵」とついてはいるが、宮と憲兵と民との間を取り持つ役割が大きい。衛士や憲兵と一緒に訓練はしているし、何かあった時には争っている者の間に入って止められるぐらいの力も必要とされるが、あくまで民の一人であるという意識が強い。
憲兵が言うと、上から下に向けて言っているようになり、横暴と受け止められ兼ねないことでも、月虹兵が「これはだめじゃないか」と横並びの位置から言う方が、反感を買いにくいようだ。
そういうこともあり、隊長のダルは憲兵の隊長からも頼られてしまって本当に忙しい。このところ、ろくに家にも帰れていない。ほぼ宮とどちらかの詰め所を行ったり来たりするだけという生活だ。
せっかく封鎖が明けて村に帰れるようになったのに、と思いはするが、これも今だけのこと、そしてその今がどれだけ大変な時期なのかを知っているだけに、アミと子供たちにごめんと言いながら、なかなか帰れずにいる。
そう、知ってるからだ。普通の民なら知らずに済んでいることを、八年前にあったことを、今起きていることを、そしてこれから起きるかも知れないことを。
ダルは知らぬ顔をして、月虹兵たちともリュセルスの民たちとも接触をしているが、心の中からそれらのことがなくなることはない。
ルギからディレンが元王宮衛士の男を預かっていることを聞いた。そしてアランからはその男がシャンタルの前で本名を名乗り、少し考えが変わってきていることも聞いた。今はディレンの元で、その男がもう少ししっかり自分を取り戻し、自分がそのような行動を取る原因になったのは何だったのか、そしてそれが誰の仕掛けたことだったのかを言ってくれることを期待している状態だと理解した。
「こっちの陳述書、これは記名もないし誰からの物かも分からないから、廃棄に回していいですよね」
ダルが考え事をしながら陳述書を仕分けしていると、廃棄書類を運んでいるアーリンが、汗を拭きながらそう聞いてきた。
「あ、ああ頼むよ」
「本当に、なんでこんなことになってるんだか。そういやあの元王宮衛士って人、どうしてるんだろう。元気にしてるといいんだけど」
「そうだね」
アーリンにはトイボアのことは知らせていないので、ダルは知らぬ顔で一言だけそう答えた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~
水瀬 とろん
ファンタジー
「今のわたしでは・・ここにある・・それだけ」白い部屋で目覚めた俺は、獣人達のいる魔法世界に一人放り出された。女神様にもらえたものはサバイバルグッズと1本の剣だけ。
これだけで俺はこの世界を生き抜かないといけないのか?
あそこにいるのはオオカミ獣人の女の子か。モフモフを愛して止まない俺が、この世界で生き抜くためジタバタしながらも目指すは、スローライフ。
無双などできない普通の俺が、科学知識を武器にこの世界の不思議に挑んでいく、俺の異世界暮らし。
――――――――――――――――――――――――――――
完結した小説を改訂し、できた話から順次更新しています。基本毎日更新します。
◇基本的にのんびりと、仲間と共にする異世界の日常を綴った物語です。
※セルフレイティング(残酷・暴力・性描写有り)作品
冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!
ユウ
ファンタジー
トリアノン公爵令嬢のエリーゼは秀でた才能もなく凡庸な令嬢だった。
反対に次女のマリアンヌは社交界の華で、弟のハイネは公爵家の跡継ぎとして期待されていた。
嫁ぎ先も決まらず公爵家のお荷物と言われていた最中ようやく第一王子との婚約がまとまり、その後に妹のマリアンヌの婚約が決まるも、相手はスチュアート伯爵家からだった。
華麗なる一族とまで呼ばれる一族であるが相手は伯爵家。
マリアンヌは格下に嫁ぐなんて論外だと我儘を言い、エリーゼが身代わりに嫁ぐことになった。
しかしその数か月後、妹から婚約者を寝取り略奪した最低な姉という噂が流れだしてしまい、社交界では爪はじきに合うも。
伯爵家はエリーゼを溺愛していた。
その一方でこれまで姉を踏み台にしていたマリアンヌは何をしても上手く行かず義妹とも折り合いが悪く苛立ちを抱えていた。
なのに、伯爵家で大事にされている姉を見て激怒する。
「お姉様は不幸がお似合いよ…何で幸せそうにしているのよ!」
本性を露わにして姉の幸福を妬むのだが――。
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
『双子石』とペンダント 年下だけど年上です2
あべ鈴峰
ファンタジー
前回の事件から一年 11歳になったクロエは ネイサンと穏やかな日常を送っていが 『母、危篤』の知らせが届いて……。
我が儘令嬢クロエと甘々ネイサン王子が今回も事件の調査に乗り出す。
新たにクロエの幼馴染 エミリアが加わり、事件は思わぬ方向へ。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が子離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね? 魔道具師として自立を目指します!
椿蛍
ファンタジー
【1章】
転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。
――そんなことってある?
私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。
彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。
時を止めて眠ること十年。
彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。
「どうやって生活していくつもりかな?」
「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」
「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」
――後悔するのは、旦那様たちですよ?
【2章】
「もう一度、君を妃に迎えたい」
今まで私が魔道具師として働くのに反対で、散々嫌がらせをしてからの再プロポーズ。
再プロポーズ前にやるのは、信頼関係の再構築、まずは浮気の謝罪からでは……?
――まさか、うまくいくなんて、思ってませんよね?
【3章】
『サーラちゃん、婚約おめでとう!』
私がリアムの婚約者!?
リアムの妃の座を狙う四大公爵家の令嬢が現れ、突然の略奪宣言!
ライバル認定された私。
妃候補ふたたび――十年前と同じような状況になったけれど、犯人はもう一度現れるの?
リアムを貶めるための公爵の罠が、ヴィフレア王国の危機を招いて――
【その他】
※12月25日から3章スタート。初日2話、1日1話更新です。
※イラストは作成者様より、お借りして使用しております。
社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。
応援していただけたら執筆の励みになります。
《俺、貸します!》
これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ)
ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非!
「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」
この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。
しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。
レベル35と見せかけているが、本当は350。
水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。
あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。
それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。
リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。
その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。
あえなく、追放されてしまう。
しかし、それにより制限の消えたヨシュア。
一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。
その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。
まさに、ヨシュアにとっての天職であった。
自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。
生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。
目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。
元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。
そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。
一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。
ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。
そのときには、もう遅いのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる