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第六章 第一部
11 名乗り
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一夜明け、約束の食事の時間になった。アランたちは謁見の間へと案内された。
このところはシャンタルとアランの「お友だち」同士と、その付添いの侍女といった少人数だったので、いつもマユリアの応接を借りていたのだが、今日は人数が増えたこと、そして初めての者がいるということでこちらになったようだ。
謁見の間に入ると、例の最上段にシャンタル用の赤いソファのある壇を何枚かの紗幕で隠し、その手前にテーブルが並べられていた。
壇に並行にシャンタルが座る上座のテーブル、そこに少し離して直角に大きなテーブルが2つ。その上座から見て左手の一番上座にアラン、次がハリオ、向かい側の一番上座にディレン、そしてリューという形で案内される。
テーブルから少し離れたところには衛士たち3名ずつ並んでいる。その中には副隊長のボーナムと、第一警護隊長のゼトもいる。おかしな動きがあったら、すぐにシャンタルをお守りし、不埒者には容赦しないという並びだなとアランは思った。
衛士たちより来客寄り、シャンタルの席近くにそれぞれ3名ずつ侍女が並んで立っている。給仕のためだが、もしもシャンタルに何かある時には身をもって盾になりお守りする役割りだ。
アランは視線だけで探してみたが、侍女頭のキリエと警護隊長のルギの姿は見えない。おそらくどこかにはいるのだろうが、全体を見ながら指示のできる位置にいると思われた。
もちろん今日のこの食事会についてはキリエとルギも承知している。リューのことはすでに報告しているからだ。衛士や侍女たちがどの程度リューのことについて知っているかは分からないが、その一挙手一投足に注意の目が注がれていることは分かる。
少し待つとシャンタルがラーラ様に手を取られて入ってきた。思わずリューが息を止めて主を見る。単なる一王宮衛士だった自分が、この場所にいるのが信じられない。そんな顔であった。
衛士と侍女が片膝をついて正式の礼をし、アランたちは席から立って頭を下げた。小さな主はその中を薄い紫の衣装の侍女に手を取られ、ゆっくりと歩いてくる。
これまでの人生でリューがシャンタルを目にしたのは、子供の頃に親に連れられて行ったお出ましの日と、王宮衛士になった後、先代シャンタルに謁見をする国王の共で謁見の間までお供をした時だけだった。
本当にシャンタルが自分の目の前に、自分と共に食事をするために入ってきた。信じられない。こんなことがあっていいのか。
リューが何も考えられずにぼんやりと主を見つめている前でシャンタルが上座の中央に座り、そのすぐ左にラーラ様が座る。
「座ってください」
主が正面よりややアランの方に顔を向けて、かわいらしい声でそう言った。
その声を合図にアランたち客はもう一度着席し、衛士と侍女も元の姿勢に戻った。
「今日は広い部屋なんですね」
アランが本当に友人にでも話しかけるようにシャンタルに話しかけ、
「ええ、今日は初めてのお客様がいらっしゃるから、こちらの方がいいのではとラーラ様がおっしゃったの」
と、小さな主が答えた。
その様子がもうリューには信じられないが、もうこの光景に慣れているのか、自分の横に座っている船長は何食わぬ顔だ。向かいの席のハリオは初めてだと言っていたので、そのせいもあるのだろうが見るからに緊張して固くなっている。
「船長の船の方がいらっしゃると聞いたのだけれど、どうお呼びすればいいのかしら」
シャンタルが素直な黒い髪をさらりと流し、少し首を傾げてディレンにそう聞いた。
「アランの隣は私の古い部下でハリオと申します」
「あの、ハリオです」
ハリオが急いでそう言ってもう一度立ち上がり直角に頭を下げた。
「座ってください」
シャンタルがクスクスと笑ってそう言うと、ハリオが急いで席に着く。
「それでこちらはこの度私の船に乗ることになった者ですが、実はシャンタリオの人間なんです」
「そうなんですか」
シャンタルは驚いて目を丸くしてリューを見た。
リューは神の目がまっすぐ自分を見ていることに気がつくと、急いで立ち上がり、椅子から離れて正式の礼をする。畏れ多くてとても頭が上げられない。リューは自分が震えていることにすら気がついていないようだった。
「シャンタリオの人間もアルディナに行く船に乗るんですね」
「私の船には今までいなかったので、この者が初めてになりますが」
「まあ、そうなのですね」
シャンタルとディレンが会話をしている。しかも自分のことを話題にしている。リューは下げた姿勢の先にある床を見つめたまま、これは夢ではないのだろうかと思っていた。
「おい」
いきなり現実に声をかけられる。
「名前を聞いておいでだぞ。自分で答えろ」
「は、はい……」
リューはゆっくりと顔を上げ、膝をついた姿勢のまま、まっすぐに主を見つめて答えた。
「トイボアと申します」
リューが初めて自分の名を名乗った
主の前で、神の前で嘘などつけるはずがない。
「トイボア、優しい名前ですね」
そう優しくおっしゃるまだ幼い声に、リューではなくトイボアの瞳から暖かく涙がこぼれた。
このところはシャンタルとアランの「お友だち」同士と、その付添いの侍女といった少人数だったので、いつもマユリアの応接を借りていたのだが、今日は人数が増えたこと、そして初めての者がいるということでこちらになったようだ。
謁見の間に入ると、例の最上段にシャンタル用の赤いソファのある壇を何枚かの紗幕で隠し、その手前にテーブルが並べられていた。
壇に並行にシャンタルが座る上座のテーブル、そこに少し離して直角に大きなテーブルが2つ。その上座から見て左手の一番上座にアラン、次がハリオ、向かい側の一番上座にディレン、そしてリューという形で案内される。
テーブルから少し離れたところには衛士たち3名ずつ並んでいる。その中には副隊長のボーナムと、第一警護隊長のゼトもいる。おかしな動きがあったら、すぐにシャンタルをお守りし、不埒者には容赦しないという並びだなとアランは思った。
衛士たちより来客寄り、シャンタルの席近くにそれぞれ3名ずつ侍女が並んで立っている。給仕のためだが、もしもシャンタルに何かある時には身をもって盾になりお守りする役割りだ。
アランは視線だけで探してみたが、侍女頭のキリエと警護隊長のルギの姿は見えない。おそらくどこかにはいるのだろうが、全体を見ながら指示のできる位置にいると思われた。
もちろん今日のこの食事会についてはキリエとルギも承知している。リューのことはすでに報告しているからだ。衛士や侍女たちがどの程度リューのことについて知っているかは分からないが、その一挙手一投足に注意の目が注がれていることは分かる。
少し待つとシャンタルがラーラ様に手を取られて入ってきた。思わずリューが息を止めて主を見る。単なる一王宮衛士だった自分が、この場所にいるのが信じられない。そんな顔であった。
衛士と侍女が片膝をついて正式の礼をし、アランたちは席から立って頭を下げた。小さな主はその中を薄い紫の衣装の侍女に手を取られ、ゆっくりと歩いてくる。
これまでの人生でリューがシャンタルを目にしたのは、子供の頃に親に連れられて行ったお出ましの日と、王宮衛士になった後、先代シャンタルに謁見をする国王の共で謁見の間までお供をした時だけだった。
本当にシャンタルが自分の目の前に、自分と共に食事をするために入ってきた。信じられない。こんなことがあっていいのか。
リューが何も考えられずにぼんやりと主を見つめている前でシャンタルが上座の中央に座り、そのすぐ左にラーラ様が座る。
「座ってください」
主が正面よりややアランの方に顔を向けて、かわいらしい声でそう言った。
その声を合図にアランたち客はもう一度着席し、衛士と侍女も元の姿勢に戻った。
「今日は広い部屋なんですね」
アランが本当に友人にでも話しかけるようにシャンタルに話しかけ、
「ええ、今日は初めてのお客様がいらっしゃるから、こちらの方がいいのではとラーラ様がおっしゃったの」
と、小さな主が答えた。
その様子がもうリューには信じられないが、もうこの光景に慣れているのか、自分の横に座っている船長は何食わぬ顔だ。向かいの席のハリオは初めてだと言っていたので、そのせいもあるのだろうが見るからに緊張して固くなっている。
「船長の船の方がいらっしゃると聞いたのだけれど、どうお呼びすればいいのかしら」
シャンタルが素直な黒い髪をさらりと流し、少し首を傾げてディレンにそう聞いた。
「アランの隣は私の古い部下でハリオと申します」
「あの、ハリオです」
ハリオが急いでそう言ってもう一度立ち上がり直角に頭を下げた。
「座ってください」
シャンタルがクスクスと笑ってそう言うと、ハリオが急いで席に着く。
「それでこちらはこの度私の船に乗ることになった者ですが、実はシャンタリオの人間なんです」
「そうなんですか」
シャンタルは驚いて目を丸くしてリューを見た。
リューは神の目がまっすぐ自分を見ていることに気がつくと、急いで立ち上がり、椅子から離れて正式の礼をする。畏れ多くてとても頭が上げられない。リューは自分が震えていることにすら気がついていないようだった。
「シャンタリオの人間もアルディナに行く船に乗るんですね」
「私の船には今までいなかったので、この者が初めてになりますが」
「まあ、そうなのですね」
シャンタルとディレンが会話をしている。しかも自分のことを話題にしている。リューは下げた姿勢の先にある床を見つめたまま、これは夢ではないのだろうかと思っていた。
「おい」
いきなり現実に声をかけられる。
「名前を聞いておいでだぞ。自分で答えろ」
「は、はい……」
リューはゆっくりと顔を上げ、膝をついた姿勢のまま、まっすぐに主を見つめて答えた。
「トイボアと申します」
リューが初めて自分の名を名乗った
主の前で、神の前で嘘などつけるはずがない。
「トイボア、優しい名前ですね」
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