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第六章 第一部
7 動き出す
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前国王の提案は、ヌオリの仲間たちの心も沸き立たせた。
「陛下に元の地位にお戻りいただいたら、俺たちの家格も上がるのだ」
これは、どうあっても現国王、いや、皇太子に王座から降りてもらわないと。
では、実際にどうすればいいのか。これまでは、前国王に会わせろと王宮にゆさぶりをかけ、前国王を保護しただけだ。
「王宮衛士を動かす」
ヌオリはそう言うが、現国王の王座簒奪が成功したのには、それなりの時間をかけて計画を練っていたからだ。付け焼き刃で動いてくれるはずもない。だがしかし、実際に現国王を引きずり下ろすには、実力行使しか方法はないと思われた。父親に王座を返せと訴えるだけでは、分かったと言ってくれるはずもない。
「リュセルスの民をもっと動かすしかないな。そうすれば王宮衛士で、仕方なく現国王についている者たちも動くだろう」
今はすでに街中に現国王が父王を亡き者にしたのでは、という疑惑が渦巻いている。その者たちが宮へ陳情書を送ったり、実際に陳情に行っていると聞く。
「我々ももう一度宮へ働きかけるしかないのではないか」
ライネンがそう提案するのだが、ヌオリたちはいい顔をしない。
「一体何があったんだ?」
最初は何も言いたがらなかったヌオリたちだが、ライネンに問い詰められ、仕方なくあったことを話した。ライネンは話を聞いてガックリとした。こんな大事な時期にそんなつまらぬことで宮を追い出されるとは、なんとも情けない。一体何をやっているのだ。
「だけど、実際問題として、方法としては民を動かすか、王宮衛士を動かす、または宮から命令してもらうしか方法がないだろう。というか、その3つを同時に進めないととても計画がうまくいくとは思えない」
ライネンの言葉にヌオリは黙ったままで返事をしない。
「分かった、私が宮へ行く。幸いにして私はそのことに関係していない。君たちのやったことを謝罪し、もう一度宮に話を聞いてもらう。だから、君たちは民と衛士をなんとかしたまえ」
こうしてようやく、なんとも頼りないクーデター計画がやっと動き始めた。
まずは一番動かしやすい民を動かすために、街の掲示板に張り紙をする。そこには、真の国王は非道な息子の手から助け出され、今はさる高貴な方の元に保護されている。国王が宮の主にこのことを訴えたなら、きっと天は正しい道をお示しになるはずだ、と書かれていた。
この作業は仲間の中でも身分の低い者、家の格の低い者たちが受け持った。張り紙をしておいて、騒ぎになった民に混じって話を焚き付ける。いわば、元王宮衛士の男がやっていたのと同じことだ。民に交じるのに生活環境の近い者の方がいい。ヌオリやライネンなどという、伯爵家で元の王の側近であった家の者にはできない作業だ。
次に、もう少し身分が高い者は王宮にいる衛士たちの様子を探った。その中で本当は現国王に従うのは不服であった者などを洗い出す作業だ。王宮衛士となった者たちには、同じぐらいの家格の者が多い。貴族ではあるが、王のそばに付き従うほどの家柄ではないが、王宮に勤めることで何か手柄を立てたり、もっと家格の上の家と親しくなることを目的としている家の者だ。
そして宮へはライネンが一人で出向いた。なんといってもライネンは例の事件と関わってはいない。仲間から聞いたことであらためて宮へ謝罪へ出向いたという名目で、なんとか侍女頭と会って力を借りたい。そう思ってのことだ。
侍女頭の手強さは聞いている。下手に小細工をしない方がいいだろうと思い、ライネンは素直に仲間たちのことでと客室係に取次ぎを頼んだが、今日は無理だとあらためて出直すことになった。もちろん、前回みたいに前の宮に滞在させてもらえるはずもない。会ってもらえるまで何回も足を運ぶしかない、そう思って今日は黙って引き下がった。
ヌオリたちがそうして動き出したことで、一番動きが大きかったのはやはりリュセルスの民たちだ。前国王の無事を聞き、あちらこちらでまた色々な意見がぶつかり合い、意見だけではなく実際にぶつかり合う者も増え、憲兵と月虹隊の仕事も増え、街の様子は落ち着かなくなっていた。
「いやあ、参ったよ、またリュセルスで騒動がありました」
ここはアルロス号の上だ。非番で街に出ていた船員が戻ってきて、大きな声で船長にそう報告する。
「へえ、何があったんだ」
今、ディレンはあのままずっと船に滞在している。理由は例の元王宮衛士を預かっているからだ。ハリオは宮と行ったり来たりして色々と報告してくれるが、ディレンはここ数日、ずっと船の上だ。
あの時、心を開いて話をしたからか、元王宮衛士はディレンとハリオにだけは心を開いているようだが、それでもまだ、名前も教えなければ、一体誰から色々な話を仕入れていたか、王宮衛士で連絡を取り合っている者が誰かなどの重要なことももちろん話そうとはしていない。
それでも、少しずつ船員たちとも雑談をするようにはなっている。名前がないことも、船員の中には時々そういう者もいるということで、今リュセルス出身ということで「リュー」という仮名で呼ばれていて、本人もその名に返事をするまでになってきていた。
「陛下に元の地位にお戻りいただいたら、俺たちの家格も上がるのだ」
これは、どうあっても現国王、いや、皇太子に王座から降りてもらわないと。
では、実際にどうすればいいのか。これまでは、前国王に会わせろと王宮にゆさぶりをかけ、前国王を保護しただけだ。
「王宮衛士を動かす」
ヌオリはそう言うが、現国王の王座簒奪が成功したのには、それなりの時間をかけて計画を練っていたからだ。付け焼き刃で動いてくれるはずもない。だがしかし、実際に現国王を引きずり下ろすには、実力行使しか方法はないと思われた。父親に王座を返せと訴えるだけでは、分かったと言ってくれるはずもない。
「リュセルスの民をもっと動かすしかないな。そうすれば王宮衛士で、仕方なく現国王についている者たちも動くだろう」
今はすでに街中に現国王が父王を亡き者にしたのでは、という疑惑が渦巻いている。その者たちが宮へ陳情書を送ったり、実際に陳情に行っていると聞く。
「我々ももう一度宮へ働きかけるしかないのではないか」
ライネンがそう提案するのだが、ヌオリたちはいい顔をしない。
「一体何があったんだ?」
最初は何も言いたがらなかったヌオリたちだが、ライネンに問い詰められ、仕方なくあったことを話した。ライネンは話を聞いてガックリとした。こんな大事な時期にそんなつまらぬことで宮を追い出されるとは、なんとも情けない。一体何をやっているのだ。
「だけど、実際問題として、方法としては民を動かすか、王宮衛士を動かす、または宮から命令してもらうしか方法がないだろう。というか、その3つを同時に進めないととても計画がうまくいくとは思えない」
ライネンの言葉にヌオリは黙ったままで返事をしない。
「分かった、私が宮へ行く。幸いにして私はそのことに関係していない。君たちのやったことを謝罪し、もう一度宮に話を聞いてもらう。だから、君たちは民と衛士をなんとかしたまえ」
こうしてようやく、なんとも頼りないクーデター計画がやっと動き始めた。
まずは一番動かしやすい民を動かすために、街の掲示板に張り紙をする。そこには、真の国王は非道な息子の手から助け出され、今はさる高貴な方の元に保護されている。国王が宮の主にこのことを訴えたなら、きっと天は正しい道をお示しになるはずだ、と書かれていた。
この作業は仲間の中でも身分の低い者、家の格の低い者たちが受け持った。張り紙をしておいて、騒ぎになった民に混じって話を焚き付ける。いわば、元王宮衛士の男がやっていたのと同じことだ。民に交じるのに生活環境の近い者の方がいい。ヌオリやライネンなどという、伯爵家で元の王の側近であった家の者にはできない作業だ。
次に、もう少し身分が高い者は王宮にいる衛士たちの様子を探った。その中で本当は現国王に従うのは不服であった者などを洗い出す作業だ。王宮衛士となった者たちには、同じぐらいの家格の者が多い。貴族ではあるが、王のそばに付き従うほどの家柄ではないが、王宮に勤めることで何か手柄を立てたり、もっと家格の上の家と親しくなることを目的としている家の者だ。
そして宮へはライネンが一人で出向いた。なんといってもライネンは例の事件と関わってはいない。仲間から聞いたことであらためて宮へ謝罪へ出向いたという名目で、なんとか侍女頭と会って力を借りたい。そう思ってのことだ。
侍女頭の手強さは聞いている。下手に小細工をしない方がいいだろうと思い、ライネンは素直に仲間たちのことでと客室係に取次ぎを頼んだが、今日は無理だとあらためて出直すことになった。もちろん、前回みたいに前の宮に滞在させてもらえるはずもない。会ってもらえるまで何回も足を運ぶしかない、そう思って今日は黙って引き下がった。
ヌオリたちがそうして動き出したことで、一番動きが大きかったのはやはりリュセルスの民たちだ。前国王の無事を聞き、あちらこちらでまた色々な意見がぶつかり合い、意見だけではなく実際にぶつかり合う者も増え、憲兵と月虹隊の仕事も増え、街の様子は落ち着かなくなっていた。
「いやあ、参ったよ、またリュセルスで騒動がありました」
ここはアルロス号の上だ。非番で街に出ていた船員が戻ってきて、大きな声で船長にそう報告する。
「へえ、何があったんだ」
今、ディレンはあのままずっと船に滞在している。理由は例の元王宮衛士を預かっているからだ。ハリオは宮と行ったり来たりして色々と報告してくれるが、ディレンはここ数日、ずっと船の上だ。
あの時、心を開いて話をしたからか、元王宮衛士はディレンとハリオにだけは心を開いているようだが、それでもまだ、名前も教えなければ、一体誰から色々な話を仕入れていたか、王宮衛士で連絡を取り合っている者が誰かなどの重要なことももちろん話そうとはしていない。
それでも、少しずつ船員たちとも雑談をするようにはなっている。名前がないことも、船員の中には時々そういう者もいるということで、今リュセルス出身ということで「リュー」という仮名で呼ばれていて、本人もその名に返事をするまでになってきていた。
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