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第六章 第一部
3 流れる時間
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「とりあえず、キリエさんたちのことは置いといてだな、神官長がマユリアに王様との婚姻話を持ってきたのは、そういう狙いがあるからだと俺たちは判断した。そうだな?」
「ああ」
トーヤが話を進めるためにアランに確認する。
「マユリアはそのあたりをどう思ってるかは分からん。ただ、最後のシャンタルが先々どうなるのかを考えて、ある結論を出した。それがシャンタルが資格を失う可能性だ。マユリアはなんでそうなるかを多分知らん。なぜならそれは、親御様の秘密を知らんからだ」
そう、マユリアは自分が先代の「黒のシャンタル」、当代、そして次代様と血の繋がった家族、両親が同じだという事実を知らない。それは最後まで知らせることはできない。
「だからどうして最後なのかは分からん、分からんなりに本当に最後だった時のことを考えて、自分を犠牲にしようとしてんだろう」
「犠牲というのは、一体どういうことになるのでしょうか」
「さあな、そこまでは分からん。だが、そうなってもいい、そう考えてるんだと思う。どうしてかってとな、今のままじゃ、当代か次代様のどっちかが最後のシャンタルとして天に命を返して終わるしかないからだよ」
「それが最後のシャンタルって意味なんだな」
「多分な」
最後のシャンタル、キリエからの話が来るまで、トーヤたちにはそこまでの意味だとは分かるはずもなかった。
「俺たちは、単にそうなったらマユリアと当代、それから次代様をここから逃がせばいいと考えてた。うちのシャンタルと一緒にな」
トーヤがそう言って仲間のシャンタルを見る。シャンタルはいつもと変わらない。少なくとも見た目だけは。
「おまえが湖に沈まないと言ったら、シャンタルの務めを放棄してシャンタルではなくなる、その時には命を天に返さないといけなかった。おまえを助けるためにマユリアもラーラ様も、そしてキリエさんも必死になってた。だからきっと、当代と次代様を助けるためなら、あの2人はなんでもする。おまえの時と同じにな」
「そうだね」
シャンタルは表情を動かさずにそう答えた。
「おまえの時はどうすりゃいいのかが分かってた。おまえが湖に沈む、そう言えばいいだけだったからな。まあ、それだけがなかなか難しかったわけだがな」
「そうだね」
シャンタルが少し目を伏せ、頬を少しだけ緩ませた。美しい笑顔に見えた。
「今度が厄介なのはな、託宣もなけりゃ、どうやって最後のシャンタルを助けりゃいいのかも分からんところだ。おそらく、神官長はマユリアさえ思ったように王族になって王位を継いでくれりゃ、そんでいいと思ってる。だから、当代のことも次代のことも特にどうとは考えてないような気がする。悪意じゃなく、興味がない、ぐらいか」
「ひでえはなしだ!」
ベルが憤慨するが、アランが軽く頭に手を置いて妹をなだめる。
「神官長は確かに気に食わんが、こんだけ色々知ってる俺らにも分からなかったこと、あいつに分かると思わん方がいいだろう。嫌なやつと思うのはいいが、それ以上、必要以上に悪人にはするな、判断を誤る」
「アランの言う通りだ。こんな時、こんな状態だからこそ、感情に振り回されるな」
「わかったよ」
ベルとしては、神官長を悪の権化としてぼろかす言ってやりたいぐらいの気持ちなのだが、トーヤとアランの言うことがもっともなので、そこでなんとか我慢する。
「こっから先は俺の推測だがな、神官長にその話を持ってったのは、マユリアの中のやつだ」
「俺もそう思った」
「マユリアが短い間だが意識を失う、そう言ってたよな?」
「はい、キリエ様はそうおっしゃっていらっしゃいました」
「その時に、何かが起きてるんだろ、多分」
「なにかって何がおきてんだろう」
ベルが顔をしかめて嫌そうに言い、
「俺らがあそこに集められてるように、神官長もどっかに呼ばれてるのかも知れねえな」
と、アランが答えた。
「多分な」
トーヤもそう思っているようだ。
「俺らがあそこに呼ばれてる時間なんだけどな、なんとなく実際の時間よりあっちの時間の方が長く流れてるようには思ってた」
「あ、そういやそんな感じするな」
ベルもふと、気がついたようだ。
「なあ、あんたはどう思う?」
「え?」
「あっちにいる時間とこっちにいる時間、同じだと思うか?」
「あちらの時間とこちらの時間……」
ミーヤはくっと握った手をあごに当て、少しうつむいて考える。
「今聞かれるまで、そんなことを考えたことはありませんでしたから」
「だろうな。でも、まあ一度考えてみてくれよ」
「ええ、思い出してみます」
初めての時はあまりに急で、どのぐらいあちらにいて、こちらでどのぐらいの時間が経っていたかなど、考えるゆとりもなかった。2回目は話が終わってすぐ、ダルとキリエのところに急いだのだが、そういえば、それほど長く時間が経った感覚はなかったような気がする。
そして3回目、4回目、あれほど濃密な時間を持ったというのに、宮の勤めに戻った時、長く時間を取られていたという感覚はなかった。
「ええ、確かに思ったより時間が経っていなかったような気がいたします」
「そうか」
どうやらこことあの場所では、時間の流れ方がやや違うようだ。
「ああ」
トーヤが話を進めるためにアランに確認する。
「マユリアはそのあたりをどう思ってるかは分からん。ただ、最後のシャンタルが先々どうなるのかを考えて、ある結論を出した。それがシャンタルが資格を失う可能性だ。マユリアはなんでそうなるかを多分知らん。なぜならそれは、親御様の秘密を知らんからだ」
そう、マユリアは自分が先代の「黒のシャンタル」、当代、そして次代様と血の繋がった家族、両親が同じだという事実を知らない。それは最後まで知らせることはできない。
「だからどうして最後なのかは分からん、分からんなりに本当に最後だった時のことを考えて、自分を犠牲にしようとしてんだろう」
「犠牲というのは、一体どういうことになるのでしょうか」
「さあな、そこまでは分からん。だが、そうなってもいい、そう考えてるんだと思う。どうしてかってとな、今のままじゃ、当代か次代様のどっちかが最後のシャンタルとして天に命を返して終わるしかないからだよ」
「それが最後のシャンタルって意味なんだな」
「多分な」
最後のシャンタル、キリエからの話が来るまで、トーヤたちにはそこまでの意味だとは分かるはずもなかった。
「俺たちは、単にそうなったらマユリアと当代、それから次代様をここから逃がせばいいと考えてた。うちのシャンタルと一緒にな」
トーヤがそう言って仲間のシャンタルを見る。シャンタルはいつもと変わらない。少なくとも見た目だけは。
「おまえが湖に沈まないと言ったら、シャンタルの務めを放棄してシャンタルではなくなる、その時には命を天に返さないといけなかった。おまえを助けるためにマユリアもラーラ様も、そしてキリエさんも必死になってた。だからきっと、当代と次代様を助けるためなら、あの2人はなんでもする。おまえの時と同じにな」
「そうだね」
シャンタルは表情を動かさずにそう答えた。
「おまえの時はどうすりゃいいのかが分かってた。おまえが湖に沈む、そう言えばいいだけだったからな。まあ、それだけがなかなか難しかったわけだがな」
「そうだね」
シャンタルが少し目を伏せ、頬を少しだけ緩ませた。美しい笑顔に見えた。
「今度が厄介なのはな、託宣もなけりゃ、どうやって最後のシャンタルを助けりゃいいのかも分からんところだ。おそらく、神官長はマユリアさえ思ったように王族になって王位を継いでくれりゃ、そんでいいと思ってる。だから、当代のことも次代のことも特にどうとは考えてないような気がする。悪意じゃなく、興味がない、ぐらいか」
「ひでえはなしだ!」
ベルが憤慨するが、アランが軽く頭に手を置いて妹をなだめる。
「神官長は確かに気に食わんが、こんだけ色々知ってる俺らにも分からなかったこと、あいつに分かると思わん方がいいだろう。嫌なやつと思うのはいいが、それ以上、必要以上に悪人にはするな、判断を誤る」
「アランの言う通りだ。こんな時、こんな状態だからこそ、感情に振り回されるな」
「わかったよ」
ベルとしては、神官長を悪の権化としてぼろかす言ってやりたいぐらいの気持ちなのだが、トーヤとアランの言うことがもっともなので、そこでなんとか我慢する。
「こっから先は俺の推測だがな、神官長にその話を持ってったのは、マユリアの中のやつだ」
「俺もそう思った」
「マユリアが短い間だが意識を失う、そう言ってたよな?」
「はい、キリエ様はそうおっしゃっていらっしゃいました」
「その時に、何かが起きてるんだろ、多分」
「なにかって何がおきてんだろう」
ベルが顔をしかめて嫌そうに言い、
「俺らがあそこに集められてるように、神官長もどっかに呼ばれてるのかも知れねえな」
と、アランが答えた。
「多分な」
トーヤもそう思っているようだ。
「俺らがあそこに呼ばれてる時間なんだけどな、なんとなく実際の時間よりあっちの時間の方が長く流れてるようには思ってた」
「あ、そういやそんな感じするな」
ベルもふと、気がついたようだ。
「なあ、あんたはどう思う?」
「え?」
「あっちにいる時間とこっちにいる時間、同じだと思うか?」
「あちらの時間とこちらの時間……」
ミーヤはくっと握った手をあごに当て、少しうつむいて考える。
「今聞かれるまで、そんなことを考えたことはありませんでしたから」
「だろうな。でも、まあ一度考えてみてくれよ」
「ええ、思い出してみます」
初めての時はあまりに急で、どのぐらいあちらにいて、こちらでどのぐらいの時間が経っていたかなど、考えるゆとりもなかった。2回目は話が終わってすぐ、ダルとキリエのところに急いだのだが、そういえば、それほど長く時間が経った感覚はなかったような気がする。
そして3回目、4回目、あれほど濃密な時間を持ったというのに、宮の勤めに戻った時、長く時間を取られていたという感覚はなかった。
「ええ、確かに思ったより時間が経っていなかったような気がいたします」
「そうか」
どうやらこことあの場所では、時間の流れ方がやや違うようだ。
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