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第五章 第三部
19 笑顔を守る
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ミーヤは一度自分の部屋へ戻り、少し座って気持ちを落ち着かせると、顔を洗って気持ちを切り替えてからアランたちの部屋へと移動をした。
「よお」
応接には正式なこの部屋の客人であるアランと、トーヤ、シャンタル、ベルの仲間が全員で集まっていた。
「よお、じゃないですよ、他の人が入ってきたらどうするんです。ちゃんと中に隠れててくださらないと」
ミーヤは顔をしかめながらそう言い、それでも今は定位置となったトーヤの隣の席に腰を降ろした。
おそらく、トーヤたちはアランから何があったかを聞いているだろう。自分が何をされそうになったか、どう思われていたかを全部知ってしまっただろう。いや、おそらくその前、事件が起こった時にはすでにそのことを知っていたのだろう、だからこそアランがああして外に出てきたに違いない。
「はい、これ、キリエ様からお菓子のおすそ分けです」
ミーヤはそう言って、知らん顔でトーヤに紙包みを一つ手渡した。
「おう」
トーヤはそうとだけ答えると、ガサガサと包み紙を開け、
「なんだこりゃ、見たことねえ菓子だな」
と言った。
「リルのお父様が東で見つけた珍しいお菓子だと、キリエ様に届けてくださったんだそうです」
「へえ、さすがオーサ商会だ。ほれ」
と、トーヤは紙包みの口を開き、それを3人に見せる。
「へえ、きれいだね」
「菓子、なのかこれ」
「うまそ~」
言うなりベルが包みに手をつっこみ、一つをつまんで口に入れる。
「うわっ、溶けた! あまい! うまい!」
「あ、おま、いっぱい取るな!」
たちまちベルとトーヤの争いが始まり、
「ガキかよ、ケンカすんな」
と、アランが包みを取り上げると、
「ほいよ」
と、シャンタルにそれを差し出す。
シャンタルはお菓子を色で見て吟味していたが、
「これにしよう」
と、白い粒を一つ取って口に入れ、
「本当だ、シュッと溶けてなくなった。なんの味なのかな、まろやかな甘い味がする」
と言った。
「え、もしかして色で味がちがうのか? 青いのはしゅぱっとした味だったぞ」
「だからいっぺんに全部口にほうりこむなってんだよ」
「るせえな、トーヤだって」
「はい、やめー」
アランがパンっと一つ手を叩き、
「せっかくの珍しい菓子だ、落ち着いて一つずつ味わいましょう」
と言った。
「はい!」
「はい!」
「はい!」
3人が声を合わせてそう言うもので、思わずミーヤが吹き出す。
「本当に、いつもそんなことばかりしてるんですね」
「なんだよーそんなにおかしいかよ」
「ええ、おかしいです」
ミーヤは涙を流して笑い続けている。
「ま、いいや、あんたも食べろよ」
「いえ、私はキリエ様のところでいただきましたし、セルマ様とも一緒にいただきますから、船長とハリオさんに置いてあげてください」
「えっ、キリエさん、セルマにも分けたげんの?」
「ええ」
「へえ」
ベルが目を丸くして驚いている。その手にはしっかりと菓子を握ったままだが。
「おれだったら自分に悪さするようなやつに、絶対分けてなんかやらねえけどなあ」
「俺だったら全部いっしょくたに食うようなおまえにも分けてやらんけどな」
「なんだと!」
「ほら、やめなさいって、またケンカになるよ」
シャンタルがベルとトーヤの言い合いをそう言って笑う。
ああ楽しい、とミーヤは思った。そして同時に、そうしてくれているのだろうな、ということも分かった。
(私はなんと人に恵まれているのだろう)
キリエの優しさ、トーヤたちの優しさ、方法は違ってもその中心にある心は一緒だ。そしてここにいないリルやダル、まだ親しく話をするようになって短い時間だが、アーダやディレン船長、ハリオ。そう、カースの人たちもいる。そして何年も会っていない祖父。それから、こんな風に考えるのはとても失礼かも知れないが、この宮の主たち。
どの顔も笑っていた。もちろん、ミーヤ自身も。
だが、笑顔の中で唯一人、すっと後ろを向いて去っていった人がいた。
「キリエ様を……」
「え?」
いきなりその名をつぶやいたミーヤにトーヤが驚いた顔になる。
「キリエ様にそんなことをさせるわけにはいかない」
「え?」
ミーヤはトーヤたちにキリエが言ったことを説明する。
「ってことは、本当は俺たちはマユリアのお言葉のおかげで無罪放免、エリス様を守るために逃げた振りをしてただけ、って扱いになってたってことなのか」
「はい」
「それが、キリエさんがいきなり戻ってこさせるな、そう言ったんだな」
「はい。何かがあったに違いありません」
トーヤたちはさっきまでの笑みを引っ込め、真面目な顔を見合わせた。
「おそらく、キリエ様は一人で抱えて一人で何かをやろうとお考えなんだと思います」
「それ、いつ頃だ」
「ええと」
あの前に何があったのだったか。ミーヤは必死に思い出した。
「思い出しました、ハリオさんに街の様子を探るお手伝いをいただいた後です」
「なんだそりゃ」
「ああ、あの後」
アランはその計画の場にいたのでトーヤにそのことを説明する。
「あの光に呼ばれて顔を合わせてたから、結構色々知ってたつもりだが、まだまだ知らなかったことがあるみたいだな」
トーヤが真剣な顔でそう言った。
――――――――――――――――――――――――――――――――
このあたりの話は「第三章 第四部 女神の秘密・10 白羽の矢」から始まり、少し飛ばして「第四章 第二部・1 王様の噂」からになります。
どんなことがあったのか忘れてしまった、どんなのだったかなと気になる方は、よろしければ少し戻って読んでみてください。
「よお」
応接には正式なこの部屋の客人であるアランと、トーヤ、シャンタル、ベルの仲間が全員で集まっていた。
「よお、じゃないですよ、他の人が入ってきたらどうするんです。ちゃんと中に隠れててくださらないと」
ミーヤは顔をしかめながらそう言い、それでも今は定位置となったトーヤの隣の席に腰を降ろした。
おそらく、トーヤたちはアランから何があったかを聞いているだろう。自分が何をされそうになったか、どう思われていたかを全部知ってしまっただろう。いや、おそらくその前、事件が起こった時にはすでにそのことを知っていたのだろう、だからこそアランがああして外に出てきたに違いない。
「はい、これ、キリエ様からお菓子のおすそ分けです」
ミーヤはそう言って、知らん顔でトーヤに紙包みを一つ手渡した。
「おう」
トーヤはそうとだけ答えると、ガサガサと包み紙を開け、
「なんだこりゃ、見たことねえ菓子だな」
と言った。
「リルのお父様が東で見つけた珍しいお菓子だと、キリエ様に届けてくださったんだそうです」
「へえ、さすがオーサ商会だ。ほれ」
と、トーヤは紙包みの口を開き、それを3人に見せる。
「へえ、きれいだね」
「菓子、なのかこれ」
「うまそ~」
言うなりベルが包みに手をつっこみ、一つをつまんで口に入れる。
「うわっ、溶けた! あまい! うまい!」
「あ、おま、いっぱい取るな!」
たちまちベルとトーヤの争いが始まり、
「ガキかよ、ケンカすんな」
と、アランが包みを取り上げると、
「ほいよ」
と、シャンタルにそれを差し出す。
シャンタルはお菓子を色で見て吟味していたが、
「これにしよう」
と、白い粒を一つ取って口に入れ、
「本当だ、シュッと溶けてなくなった。なんの味なのかな、まろやかな甘い味がする」
と言った。
「え、もしかして色で味がちがうのか? 青いのはしゅぱっとした味だったぞ」
「だからいっぺんに全部口にほうりこむなってんだよ」
「るせえな、トーヤだって」
「はい、やめー」
アランがパンっと一つ手を叩き、
「せっかくの珍しい菓子だ、落ち着いて一つずつ味わいましょう」
と言った。
「はい!」
「はい!」
「はい!」
3人が声を合わせてそう言うもので、思わずミーヤが吹き出す。
「本当に、いつもそんなことばかりしてるんですね」
「なんだよーそんなにおかしいかよ」
「ええ、おかしいです」
ミーヤは涙を流して笑い続けている。
「ま、いいや、あんたも食べろよ」
「いえ、私はキリエ様のところでいただきましたし、セルマ様とも一緒にいただきますから、船長とハリオさんに置いてあげてください」
「えっ、キリエさん、セルマにも分けたげんの?」
「ええ」
「へえ」
ベルが目を丸くして驚いている。その手にはしっかりと菓子を握ったままだが。
「おれだったら自分に悪さするようなやつに、絶対分けてなんかやらねえけどなあ」
「俺だったら全部いっしょくたに食うようなおまえにも分けてやらんけどな」
「なんだと!」
「ほら、やめなさいって、またケンカになるよ」
シャンタルがベルとトーヤの言い合いをそう言って笑う。
ああ楽しい、とミーヤは思った。そして同時に、そうしてくれているのだろうな、ということも分かった。
(私はなんと人に恵まれているのだろう)
キリエの優しさ、トーヤたちの優しさ、方法は違ってもその中心にある心は一緒だ。そしてここにいないリルやダル、まだ親しく話をするようになって短い時間だが、アーダやディレン船長、ハリオ。そう、カースの人たちもいる。そして何年も会っていない祖父。それから、こんな風に考えるのはとても失礼かも知れないが、この宮の主たち。
どの顔も笑っていた。もちろん、ミーヤ自身も。
だが、笑顔の中で唯一人、すっと後ろを向いて去っていった人がいた。
「キリエ様を……」
「え?」
いきなりその名をつぶやいたミーヤにトーヤが驚いた顔になる。
「キリエ様にそんなことをさせるわけにはいかない」
「え?」
ミーヤはトーヤたちにキリエが言ったことを説明する。
「ってことは、本当は俺たちはマユリアのお言葉のおかげで無罪放免、エリス様を守るために逃げた振りをしてただけ、って扱いになってたってことなのか」
「はい」
「それが、キリエさんがいきなり戻ってこさせるな、そう言ったんだな」
「はい。何かがあったに違いありません」
トーヤたちはさっきまでの笑みを引っ込め、真面目な顔を見合わせた。
「おそらく、キリエ様は一人で抱えて一人で何かをやろうとお考えなんだと思います」
「それ、いつ頃だ」
「ええと」
あの前に何があったのだったか。ミーヤは必死に思い出した。
「思い出しました、ハリオさんに街の様子を探るお手伝いをいただいた後です」
「なんだそりゃ」
「ああ、あの後」
アランはその計画の場にいたのでトーヤにそのことを説明する。
「あの光に呼ばれて顔を合わせてたから、結構色々知ってたつもりだが、まだまだ知らなかったことがあるみたいだな」
トーヤが真剣な顔でそう言った。
――――――――――――――――――――――――――――――――
このあたりの話は「第三章 第四部 女神の秘密・10 白羽の矢」から始まり、少し飛ばして「第四章 第二部・1 王様の噂」からになります。
どんなことがあったのか忘れてしまった、どんなのだったかなと気になる方は、よろしければ少し戻って読んでみてください。
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