黒のシャンタル 第三話 シャンタリオの動乱

小椋夏己

文字の大きさ
上 下
373 / 488
第五章 第三部

11 衝撃の違い

しおりを挟む
「あれって、もしかしてカースで光ってたやつ?」
「ああ」

 ベルにそう言われ、トーヤがふところからもう一度布に包んであった白い丸い石を取り出した。
 白い石は今は光っていなくて、見るところそのあたりに落ちている石だと言われても不思議ではない、なんの変哲もない石にしかみえなかった。

「なんなんだよ、これ」
「これは御祭神ごさいしんの分身だよ」
「へ?」
「神殿の石をまつってる部屋、あるだろうが。あの石の分身だ」

 トーヤは最初にあの部屋であったことを、さっと取りまとめてだが初めて話した。

「そんでトーヤはなんか知ってる顔してたんだな」
「そういうことだ。なんか、色々あってなかなか話せなくてな」

 今いるこの部屋はアランたちが滞在している部屋の主寝室だ。シャンタルが体調を崩し、まだベッドの上にいるのでトーヤ、アラン、ベル、そして担当侍女のミーヤとアーダが一緒だ。

「他のやつらにはまた追々おいおい話してくが、そういうことがあって、この石を預かった」
「それでその石があの場所に連れてってくれたってことか」
「多分」

 多分としか言えない。この石が光って、青い小鳥たちが光って、そしてあの場所に集まるが、連れていく役目があるとまでは断言はできない。

「まあ、これと青い鳥が光るのが合図ではあるな」

 アランがまとめる。

「これがどういう役割を持ってるか分からんから、今まで出せなかった。言っていいのかどうかも分からんかったしな。けど、ベルがお守り、青い鳥って言うんで、もしかしてと思った」
「それがシャンタルの破れた穴を埋めたってことか」
「それから、生命力の補充ほじゅうもね」

 と、トーヤとアランの会話に本人が一言添えた。

「本当に一瞬だったよ。それまでどんどん流れ出してただけの生命力が、ピタリと流れ出なくなって、減った分だけ足されたのが分かった」

 なんとも不思議な話だが、実際に目の前でシャンタルは元気になった、信じるしかあるまい。

「これも、普通のことじゃねえけどな」
「そうですね」

 こうして次から次へと不思議なこと、普通なことが起きるから、普通のことがなんだか分からなくなるんだよとトーヤは心の中でつぶやいた。

「それで、一体何が起こった。きちんと話して見ろ」
「分かった」

 もうすっかり元気になったシャンタルは、いつもよりちょっとだけ能天気ではないように見えた。

「なんか、しっかりしたな、おまえ」
「そう?」

 トーヤがそう言うといつものように笑ったが、

「私は他の人たちより生まれるのが遅かったようなものだからね、育ち盛りもいきなり来るのかも知れない」
「そんで、あんだけ食ったんだな」
「ああ、なるほど」

 いつもの調子でベルとそうやって笑う。本当に、もうすっかり元通りだ。

「そんで、何があった」
「うん」

 アランにうながされ、シャンタルが語る。

「ミーヤにからんできた男たちの声が聞こえたんで、念のためにって、いつもの魔法をかけようとしたんだよ」
「悪いことする人は痛くなる魔法な」
「うん」
「あの、それは一体……」

 アーダにだけは意味がよく分からない。

「うん、後でまたゆっくり説明するから、今はちょっとだけ聞き流してくれると助かるな」
「あ、おれが説明するよ」
「分かりました」
 
 ということで、アーダへの説明は後回しとする。

「あの魔法はかける時には特に何もないんだ。ただ、誰かに発動したら、その時にすごく疲れる。だけど、今回は違った。かけた途端にどんと何か衝撃がきたんだ」
「衝撃?」
「うん、さっき樽の穴って言ったでしょ、樽と樽がぶつかって、片一方が弱かったらそっちに穴が開くってこと、あるんじゃないかな。そういう感じ」
「ってことは、それはおまえよりあっちの方が強かったってことか?」
「そうなんじゃないかと思う」

 シャンタルが目をつぶってうん、とうなずく。

「トーヤはどうだった? 共鳴を起こした時、そんな感じがあった?」
「俺の時か」

 トーヤがあらためて思い出す。

「いや、そんな感じじゃなかったな。最初の時は何しろお前がこっち見てる目に金縛りにされちまったような感じだ。おまえはその時、なんか感じたか?」
「ううん、今にして思えばだけど何もなかった。トーヤのこと、なんだろうって思って見ただけ」
「ってことは、俺の時とは違うってことになるな」
「そうかも」

 トーヤがふうむ、と考え、

「そんじゃ2回目と3回目はどうだった?」

 と、隊長の一言が入る。

「2回目の時は何しろ寝てたからな。ただ、溺れてる感覚があって、苦しい、助けてくれってそればっかりだった。だからやっぱりそんな感覚はなかった。3回目もやっぱり寝てたんだが、頭の中が覚めていくのに体は動かない。そしたら頭の中に誰かが入ってきたのを感じてな、あったまにきてふっとばしてやった」
「そうだったよ、俺の体を勝手に使うなって追い出されたんだ、びっくりしたなあ」

 シャンタルは、後ろからわっと驚かされた、ぐらいの言い方でそう言った。

「だから、おまえの時みたいにぶつかった、ってな感覚はなかった」
「そうみたいだね」
「何が違うんだろうな」
「何が違うんだろうね」

 共鳴の経験者2人がそう言うのだから、他の者にはもっと分からなくて当然だ。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...