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第五章 第二部
21 応急手当
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トーヤとベルは急いでシャンタルを主寝室へと運んだ。
こんな騒ぎになってしまっては、何がどうなるか分からない。多分担当侍女と用のある侍女以外はそうそう入っては来ないだろうが、万が一ということがある。
アランは様子を見るために部屋の外へと出ていった。
シャンタルをベッドに寝かせ、衣服を緩ませて布団をかける。銀色の髪が汗をかいた額に張り付き、息も荒い。
「なあ、おい、だいじょうぶかよ、シャンタル……」
ベルがベッドの横に座り、心配そうにシャンタルの手をギュッと握った。
「うん、大丈夫。ベルが手を握っててくれたらきっとすぐ良くなるよ」
そう言って笑うものの、その笑顔もつらそうで、ベルは胸が痛くなる。
トーヤはそんな2人のそばに立っている。
「なあトーヤ、シャンタル平気だよな? すぐよくなるよな?」
ベルが泣きそうな顔でトーヤに聞いてくるが、
「いや、すぐには良くならんと思う」
と言われて思わず目を見開いて、口も開いたままになる。
「な、な、なんでそんなことわかんだよ!」
ベルはやっとのように口を閉じて開けて、そうとだけ口にした。
「わ、わかんねえだろ、そんなこと!」
「落ち着け」
トーヤがふっと一つだけ笑って続ける。
「なんで分かるかってとな、似てるんだよ」
「な、なにに!」
「共鳴だ」
「へ?」
「俺が共鳴を経験した時、こんな感じになった」
トーヤがダルと剣の訓練をしているのを見に来たシャンタルと目が合った時、シャンタルが見た溺れる夢をトーヤも見た時、それからマユリアとラーラ様から切り離されたシャンタルが使える体を探してトーヤの体に入ろうとした時だ。
「急にがっくりと体に力が入らなくなってな、息をするのも重かった。それで丸一日ぐらいは動けなかったな」
「これが共鳴の……」
ベルは話には聞いたが、実際にその時のトーヤを見たわけではない。
「俺もこうなって寝てただけだからそうじゃねえかと思うだけだが、ダルやミーヤにも見てもらったら、多分一緒だと言うはずだ」
「そうかあ、私はなんともなかったし、トーヤがそうなった時のことも見ていないから知らなかったよ」
シャンタルははあっと大きく一つ肩で息をして、
「つらいねえ、これは」
と言って弱々しく笑った。
アランは廊下へ出た。
扉を出て少し客殿寄り、エリス様ご一行が滞在していることになっている部屋の隣、ちょうどトーヤの部屋の前あたりに男が2人倒れていて、それを高貴な身分と思しき男が呆然と立ったままで見下ろしていた。
さっきミーヤが「侍医を呼んでくる」と言って立ち去ってからまだ間もないが、それにしてもこのお貴族様は、仲間の様子を見る甲斐性すらないのか、とアランは少しばかりイラッとした。
「あの」
アランに話しかけられ、ヌオリは青い顔のまま視線をアランに向ける。
「どうされたんです?」
一部始終を見ていたが、アランはそっとそう聞いてみた。
「いや……」
ヌオリはそうとだけ言うと、また黙って仲間を見下ろす。
「ケガしてるみたいじゃないですか、って、こりゃ骨が外れてるみたいだな」
アランは倒れて呻いている男たちの様子を見てみる。これまでの経験からおそらく脱臼させられているだろうと思ったが、予想通りであった。
こちらに向かう途中で盗賊らしき一団に「お仕置き」をした時は、すぐにシャンタルが治してやっていたが、今ここでそんなことをすると、ますますおかしなことになるし、第一、なぜだかシャンタルは具合が悪くなって寝室へ運ばれていた。ここは普通に人間の医者に診てもらうしかなさそうだ。
「さっき、侍女の方が侍医を呼んでくるって走って行きましたが、何があったんです?」
「分からん」
ヌオリがアランの質問に一言だけ答える。感情は何も含まず、反射的に答えた、そんな感じだった。
「分からんって……」
アランは座って2人の様子を見る。1人は手首、もう1人は肩がはずれている。痛みで低く呻くだけ、冷や汗もかいている。
「ちょっと我慢してくださいよ」
アランはそう言うと、手首がはずれた男の腕を持ち、
「ぎゃあっ!」
元のように骨をはめた。
「これでもうそんな痛くないと思いますよ。しばらく冷やして固定した方がいいけど」
男は骨をはめられた痛みで目に涙を浮かべ、声もないまま苦痛に耐えているようだった。
「こっちはなあ、肩だもんなあ」
明らかに手首よりもはめるのが厄介だ。
「あの」
「え!」
ヌオリがアランに声をかけられてビクッとする。
「ちょっとこの人の肩はめますんで、押さえてもらえますか?」
「え!」
ヌオリが驚いて声を上げた。
「わ、私にはそんな技術はない!」
「大丈夫ですよ、俺がやれますから」
「おまえは医者なのか?」
「いえ、傭兵です。戦場ではこういうのしょっちゅうですからね、慣れてます」
「傭兵……」
「ほら、そっち押さえててください」
ヌオリはアランに言われるがまま、仲間の体を押さえた。
「いきますよ、ちょっとだけ我慢してくださいね」
「ぎゃあっ!」
仲間が痛みで絶叫し、肩がゴキッと音がしてはまったようだ。
「はい、これでちょっとは楽になったと思いますよ。医者が来るまでちょっとじっとしといてください」
ヌオリは目の前の出来事に顔色をなくし、硬直している。
こんな騒ぎになってしまっては、何がどうなるか分からない。多分担当侍女と用のある侍女以外はそうそう入っては来ないだろうが、万が一ということがある。
アランは様子を見るために部屋の外へと出ていった。
シャンタルをベッドに寝かせ、衣服を緩ませて布団をかける。銀色の髪が汗をかいた額に張り付き、息も荒い。
「なあ、おい、だいじょうぶかよ、シャンタル……」
ベルがベッドの横に座り、心配そうにシャンタルの手をギュッと握った。
「うん、大丈夫。ベルが手を握っててくれたらきっとすぐ良くなるよ」
そう言って笑うものの、その笑顔もつらそうで、ベルは胸が痛くなる。
トーヤはそんな2人のそばに立っている。
「なあトーヤ、シャンタル平気だよな? すぐよくなるよな?」
ベルが泣きそうな顔でトーヤに聞いてくるが、
「いや、すぐには良くならんと思う」
と言われて思わず目を見開いて、口も開いたままになる。
「な、な、なんでそんなことわかんだよ!」
ベルはやっとのように口を閉じて開けて、そうとだけ口にした。
「わ、わかんねえだろ、そんなこと!」
「落ち着け」
トーヤがふっと一つだけ笑って続ける。
「なんで分かるかってとな、似てるんだよ」
「な、なにに!」
「共鳴だ」
「へ?」
「俺が共鳴を経験した時、こんな感じになった」
トーヤがダルと剣の訓練をしているのを見に来たシャンタルと目が合った時、シャンタルが見た溺れる夢をトーヤも見た時、それからマユリアとラーラ様から切り離されたシャンタルが使える体を探してトーヤの体に入ろうとした時だ。
「急にがっくりと体に力が入らなくなってな、息をするのも重かった。それで丸一日ぐらいは動けなかったな」
「これが共鳴の……」
ベルは話には聞いたが、実際にその時のトーヤを見たわけではない。
「俺もこうなって寝てただけだからそうじゃねえかと思うだけだが、ダルやミーヤにも見てもらったら、多分一緒だと言うはずだ」
「そうかあ、私はなんともなかったし、トーヤがそうなった時のことも見ていないから知らなかったよ」
シャンタルははあっと大きく一つ肩で息をして、
「つらいねえ、これは」
と言って弱々しく笑った。
アランは廊下へ出た。
扉を出て少し客殿寄り、エリス様ご一行が滞在していることになっている部屋の隣、ちょうどトーヤの部屋の前あたりに男が2人倒れていて、それを高貴な身分と思しき男が呆然と立ったままで見下ろしていた。
さっきミーヤが「侍医を呼んでくる」と言って立ち去ってからまだ間もないが、それにしてもこのお貴族様は、仲間の様子を見る甲斐性すらないのか、とアランは少しばかりイラッとした。
「あの」
アランに話しかけられ、ヌオリは青い顔のまま視線をアランに向ける。
「どうされたんです?」
一部始終を見ていたが、アランはそっとそう聞いてみた。
「いや……」
ヌオリはそうとだけ言うと、また黙って仲間を見下ろす。
「ケガしてるみたいじゃないですか、って、こりゃ骨が外れてるみたいだな」
アランは倒れて呻いている男たちの様子を見てみる。これまでの経験からおそらく脱臼させられているだろうと思ったが、予想通りであった。
こちらに向かう途中で盗賊らしき一団に「お仕置き」をした時は、すぐにシャンタルが治してやっていたが、今ここでそんなことをすると、ますますおかしなことになるし、第一、なぜだかシャンタルは具合が悪くなって寝室へ運ばれていた。ここは普通に人間の医者に診てもらうしかなさそうだ。
「さっき、侍女の方が侍医を呼んでくるって走って行きましたが、何があったんです?」
「分からん」
ヌオリがアランの質問に一言だけ答える。感情は何も含まず、反射的に答えた、そんな感じだった。
「分からんって……」
アランは座って2人の様子を見る。1人は手首、もう1人は肩がはずれている。痛みで低く呻くだけ、冷や汗もかいている。
「ちょっと我慢してくださいよ」
アランはそう言うと、手首がはずれた男の腕を持ち、
「ぎゃあっ!」
元のように骨をはめた。
「これでもうそんな痛くないと思いますよ。しばらく冷やして固定した方がいいけど」
男は骨をはめられた痛みで目に涙を浮かべ、声もないまま苦痛に耐えているようだった。
「こっちはなあ、肩だもんなあ」
明らかに手首よりもはめるのが厄介だ。
「あの」
「え!」
ヌオリがアランに声をかけられてビクッとする。
「ちょっとこの人の肩はめますんで、押さえてもらえますか?」
「え!」
ヌオリが驚いて声を上げた。
「わ、私にはそんな技術はない!」
「大丈夫ですよ、俺がやれますから」
「おまえは医者なのか?」
「いえ、傭兵です。戦場ではこういうのしょっちゅうですからね、慣れてます」
「傭兵……」
「ほら、そっち押さえててください」
ヌオリはアランに言われるがまま、仲間の体を押さえた。
「いきますよ、ちょっとだけ我慢してくださいね」
「ぎゃあっ!」
仲間が痛みで絶叫し、肩がゴキッと音がしてはまったようだ。
「はい、これでちょっとは楽になったと思いますよ。医者が来るまでちょっとじっとしといてください」
ヌオリは目の前の出来事に顔色をなくし、硬直している。
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