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第五章 第一部
1 ルギの証言
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「そう、神官長と何かは話した、そういうことですね」
主の言葉に、またキリエとルギは頭を下げた。
「なんでしょう、二人でそうして合わせているのですか?」
深刻な話をしようとしているのに、あまりに二人の息がぴったりと合っているもので、マユリアは思わずそう言って笑う。
「いえ、そのようなことは」
「はい」
「ほら、また一緒に」
マユリアはさらにそう言って笑う。
「なんでしょうね、幸せです」
その一言にキリエとルギは逆に普通ではない印象を持った。
「でも必要な話はしなくてはいけません。ルギ、神官長と何を話したのか教えてくれますか?」
マユリアは幸せな気分を振り切るように、今そうして口に出さないと、もう二度と口にする勇気が持てないかのように唐突にそう言った。
「確かに話はいたしました。ですが、始まりと最後は全く違う方向へと進みましたので、確かにそのことかどうかは」
「違う方向へ?」
「はい。恐らく、この話で間違いがないのだろうとは思いますが、その流れから最初の部分からお話しをさせていただこうと思います」
「分かりました」
「はい」
ルギは普段の報告をする時と変わらず、静かに話を始めた。
「キリエ様の元に届けられた毒を出すという花、それが神殿の温室にあったものではないか、神官長からそういう話がありました」
マユリアとキリエは黙って静かに聞いている。
「そしてその花をエリス様ご一行がキリエ様に届けた、つまり話の始めは事件の始まりが中の国からのご一行ではないか、とのことでした。そこから、そのことを知ったセルマ様がもしかすると香炉を持って行ったのかも知れない、そのような話になりました」
「そのような話でしたか。今の段階では、確かにわたくしが聞いた話とはつながりがあるようには思えません」
マユリアは思っていたこととは違う話に少し戸惑う。
「はい。そして神官長は、そのセルマ様の行動が、焦りゆえだ、と」
「焦り?」
「はい。セルマ様はマユリアからキリエ様以上の信頼を得ようとして、そのために、キリエ様をマユリアから遠ざけるために、続けて不調でいてほしかった。そうすれば今度は自分を頼ってくれるのではないか、そう考えてのことではないかと思う。神官長はそう申しておりました」
「分かりません」
マユリアが美しい顔に戸惑いの表情を乗せた。
「わたくしの信頼を得るのに、どうしてキリエを遠ざける必要があるのでしょう。信頼というものは、一人の人間に限って持つものではないでしょうに」
「はい、その通りかと」
ルギが軽く頭を下げた。
「私もそう申しました。何故、焦る必要があるのか、信頼を得たいのなら、ただただ誠実にお仕えすればよいだろうと。そう言いましたところ、神官長は時間がないのだ、と」
「時間がない、そう申したのですか」
「はい」
マユリアは表情を曇らせる。
「わたくしにもそう申しました。話がつながってきたようですね。続けてください」
「はい」
ルギが続ける。
「時間がない、そう申すもので、交代までのことかと思い、当代マユリアに望んでいたような信頼を得られなかったとしても、次代に信頼を得ればいいだろうと申したところ、それでは意味がない、と」
マユリアはルギの言葉を受け、少しだけ時間を置いたが、続けるようにと黙って頷いた。ルギも黙って続ける。
「意味がないとはどういうことかと聞いたところ、シャンタリオは女神の国なのだ、と」
ああ、やはり同じ話であった。
マユリアはまた黙って頷き、ルギが続ける。
「女神の国ではあるが実はそうではない、今、実際にこの国を収めているのは国王陛下。それはおかしい、女神の国は女神が治めるべきである。そしてそれに相応しいのは当代マユリア以外にはない、そう申しました」
「そうですか……」
マユリアのその言葉で、ルギも、そしてキリエも神官長がマユリアに何を申し上げたのかを知ることとなった。
「それで、それから神官長はどう言いました」
「はい。神官長は、事件は全てエリス様ご一行の仕業、キリエ様はその責任を取って辞任、セルマ様が新しく侍女頭となり、お輿入れの儀式は全て神殿が執り行う。これはもう決まったことなのだと」
「そうですか」
マユリアが小さくため息を付いた。
「そう聞いて、おまえはどう答えました」
「はい」
ルギが少し言いにくそうにしてから、思い切ったように、
「もしも、キリエ様に対する所業に対して、言い抜けるためにそう申しているのなら、私には通用しないということ。それから、もしも本気でそう思っているのなら、一度侍医に診てもらう必要がある。そう申しました」
それを聞いてマユリアが少し笑った。
「本当に医師に診てもらえ、そう申したのですか」
「はい」
マユリアがクスクスと笑って、
「神官長本人もそう申していました。ルギ隊長に心の病だと言われたと」
「恐れ入ります」
「いえ、おまえがそう申すのも仕方のないこと。わたくしも同じように思いました」
神官長が言っていた通りのことをルギは証言した。
神官長はマユリアに嘘は言っていないようだった。
主の言葉に、またキリエとルギは頭を下げた。
「なんでしょう、二人でそうして合わせているのですか?」
深刻な話をしようとしているのに、あまりに二人の息がぴったりと合っているもので、マユリアは思わずそう言って笑う。
「いえ、そのようなことは」
「はい」
「ほら、また一緒に」
マユリアはさらにそう言って笑う。
「なんでしょうね、幸せです」
その一言にキリエとルギは逆に普通ではない印象を持った。
「でも必要な話はしなくてはいけません。ルギ、神官長と何を話したのか教えてくれますか?」
マユリアは幸せな気分を振り切るように、今そうして口に出さないと、もう二度と口にする勇気が持てないかのように唐突にそう言った。
「確かに話はいたしました。ですが、始まりと最後は全く違う方向へと進みましたので、確かにそのことかどうかは」
「違う方向へ?」
「はい。恐らく、この話で間違いがないのだろうとは思いますが、その流れから最初の部分からお話しをさせていただこうと思います」
「分かりました」
「はい」
ルギは普段の報告をする時と変わらず、静かに話を始めた。
「キリエ様の元に届けられた毒を出すという花、それが神殿の温室にあったものではないか、神官長からそういう話がありました」
マユリアとキリエは黙って静かに聞いている。
「そしてその花をエリス様ご一行がキリエ様に届けた、つまり話の始めは事件の始まりが中の国からのご一行ではないか、とのことでした。そこから、そのことを知ったセルマ様がもしかすると香炉を持って行ったのかも知れない、そのような話になりました」
「そのような話でしたか。今の段階では、確かにわたくしが聞いた話とはつながりがあるようには思えません」
マユリアは思っていたこととは違う話に少し戸惑う。
「はい。そして神官長は、そのセルマ様の行動が、焦りゆえだ、と」
「焦り?」
「はい。セルマ様はマユリアからキリエ様以上の信頼を得ようとして、そのために、キリエ様をマユリアから遠ざけるために、続けて不調でいてほしかった。そうすれば今度は自分を頼ってくれるのではないか、そう考えてのことではないかと思う。神官長はそう申しておりました」
「分かりません」
マユリアが美しい顔に戸惑いの表情を乗せた。
「わたくしの信頼を得るのに、どうしてキリエを遠ざける必要があるのでしょう。信頼というものは、一人の人間に限って持つものではないでしょうに」
「はい、その通りかと」
ルギが軽く頭を下げた。
「私もそう申しました。何故、焦る必要があるのか、信頼を得たいのなら、ただただ誠実にお仕えすればよいだろうと。そう言いましたところ、神官長は時間がないのだ、と」
「時間がない、そう申したのですか」
「はい」
マユリアは表情を曇らせる。
「わたくしにもそう申しました。話がつながってきたようですね。続けてください」
「はい」
ルギが続ける。
「時間がない、そう申すもので、交代までのことかと思い、当代マユリアに望んでいたような信頼を得られなかったとしても、次代に信頼を得ればいいだろうと申したところ、それでは意味がない、と」
マユリアはルギの言葉を受け、少しだけ時間を置いたが、続けるようにと黙って頷いた。ルギも黙って続ける。
「意味がないとはどういうことかと聞いたところ、シャンタリオは女神の国なのだ、と」
ああ、やはり同じ話であった。
マユリアはまた黙って頷き、ルギが続ける。
「女神の国ではあるが実はそうではない、今、実際にこの国を収めているのは国王陛下。それはおかしい、女神の国は女神が治めるべきである。そしてそれに相応しいのは当代マユリア以外にはない、そう申しました」
「そうですか……」
マユリアのその言葉で、ルギも、そしてキリエも神官長がマユリアに何を申し上げたのかを知ることとなった。
「それで、それから神官長はどう言いました」
「はい。神官長は、事件は全てエリス様ご一行の仕業、キリエ様はその責任を取って辞任、セルマ様が新しく侍女頭となり、お輿入れの儀式は全て神殿が執り行う。これはもう決まったことなのだと」
「そうですか」
マユリアが小さくため息を付いた。
「そう聞いて、おまえはどう答えました」
「はい」
ルギが少し言いにくそうにしてから、思い切ったように、
「もしも、キリエ様に対する所業に対して、言い抜けるためにそう申しているのなら、私には通用しないということ。それから、もしも本気でそう思っているのなら、一度侍医に診てもらう必要がある。そう申しました」
それを聞いてマユリアが少し笑った。
「本当に医師に診てもらえ、そう申したのですか」
「はい」
マユリアがクスクスと笑って、
「神官長本人もそう申していました。ルギ隊長に心の病だと言われたと」
「恐れ入ります」
「いえ、おまえがそう申すのも仕方のないこと。わたくしも同じように思いました」
神官長が言っていた通りのことをルギは証言した。
神官長はマユリアに嘘は言っていないようだった。
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