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第四章 第四部
19 マユリアの地位
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「それにはまず、シャンタルとマユリアがいかに我が国の政治の根幹を成しておられるか、それを見せつける必要がございます」
この表現にもマユリアは少しだけ美しい眉を潜めたが、約束通り最後まで聞くために黙って聞いている。
「シャンタルは不可侵の存在、動かざるべき、そして触れざるべき存在です。この神域の中心、全ての事物の中心でありますから」
「そうですね」
マユリアはこの部分には素直にそう答えた。
この国では、この神域ではそれはあえてそう言う必要もない真実である。
「シャンタルこそがこの世界の中心です」
神官長がさらに言葉を重ねる。
「ですから、シャンタルには今のまま、聖なる存在として宮に君臨し続けていただかなければなりません」
「そうですね」
マユリアはそう言ってから、
「では、神官長の申す何らかの方策に必要なのは、今、わたくしがおる、このマユリアという存在に対して、そういうことなのですね」
マユリアは自分個人ではなく、代々引き継がれるこの「マユリア」という役職のことであろうと推測し、確認をする。
「さようでございます」
また神官長が恭しく頭を下げた。
「いちいち頭を下げなくてもよろしい。話を進めてください」
「はい、承知いたしました」
そう言ってつい神官長が頭を一つ下げ、
「申し訳ありません。続けさせていただきます」
と、今度は頭を上げたまま続ける。
「はい、そうです。あなた様お一人のことではございません。これまでの代々のマユリア、そしてこれからの代々のマユリア、そのお方たち、内なる女神マユリアを引き継がれるこの世の女神マユリア、そのお方のことでございます」
神官長は念には念を入れるかのように、かなり持って回った面倒な説明を口にした。
「分かりました。わたくし個人ではなく、代々のマユリア全ての方に関わると言うのなら、わたくしもその代々の代表として伺いましょう」
マユリアも間違いがないようにそう付け加えた。
「ありがとうございます。はい、その代々のマユリアが、政治の根幹におられるということ、それを目で見て分かる形にするのでございます」
「先ほど、あなたが口にしていた言葉――」
マユリアが神官長に目を向けながら、確認するように続きを口にした。
「女神マユリアとシャンタリオ国王の婚姻、と」
「はい」
「もしかして、それがその方策だと言うのですか?」
「その通りでございます」
神官長が自信たっぷりにそう答え、マユリアは黙り込む。
マユリアは神官長をしばらく黙って見ていたが、
「何故、それがマユリアが政治に関わっているということになるのです」
「はい、お答えいたします」
神官長は、先ほど礼はいらぬと言われたにもかかわらず、堂々とそれこそが大事なのだと言わんばかりに丁寧に頭を下げた。
「マユリアが政治に関わること。それを見える形にするためには、それが唯一の方法だと思います」
「意味がよく分かりません」
マユリアが軽く首を左右に振る。
「何故、マユリアが国王と婚姻することが政治に関わることになるのです」
「それはマユリアに王族におなりいただくためです」
マユリアは何も言わず黙ってそのまま神官長の次の言葉を待っている。
「マユリアの地位とはなんでしょう?」
マユリアは、以前、ラーラ様に申し上げた言葉を心の中で思い出していた。
『シャンタルに次ぐ地位、国王と同列』
そう、この国ではマユリアの地位はそれほどまでに高い。
「国王陛下と同列。いえ、そうではありません。この国においては、国王陛下こそがマユリアと同列、なのでございます」
神官長の言う通りであった。
この国では何においてもシャンタルが、女神が中心である。
つまり、正確にはシャンタルの次がマユリア、そして国王がそのマユリアと同じとみなされている、ということになる。
基準はシャンタル、そのシャンタルから見て次がマユリアで、国王が人の頂点としてその神と同列とみなされているということだ。
「そのシャンタルに次ぐ地位のお方に、一歩だけ人の世界に歩み寄っていただきたい。そのための方法が婚姻です」
「分かりません」
マユリアがまた軽く首を振る。
「分かりませんか?」
「ええ」
「では、お聞きいたします。それ以外にマユリアが女神のまま、王族の一員になる方法がございますでしょうか?」
「女神のまま王族の一員に?」
「さようでございます」
「分かりません」
「では、ご説明させていただきます」
マユリアは、神官長がさっき自ら言っていたように、荒唐無稽であり、ルギがそう感じたというのを当然であろうと思ったが、約束は約束である。とりあえず最後まで黙って聞くことにした。そうすることで、神官長の本意や、他に何か目的があるのなら、それが何であるか知りたいと考えていた。
「よろしいですか?」
「ええ」
神官長はマユリアが何かを考えていたことから、一度そうして確かめてから話を始めた。
「女神シャンタルに仕える侍女の女神マユリア、その女神がシャンタリオ国王と婚姻という絆でつながり、王家の一員になる。そうすることで初めて、そのような国の者たちはマユリアの地位がどれほど高いかを知ることになるのです」
この表現にもマユリアは少しだけ美しい眉を潜めたが、約束通り最後まで聞くために黙って聞いている。
「シャンタルは不可侵の存在、動かざるべき、そして触れざるべき存在です。この神域の中心、全ての事物の中心でありますから」
「そうですね」
マユリアはこの部分には素直にそう答えた。
この国では、この神域ではそれはあえてそう言う必要もない真実である。
「シャンタルこそがこの世界の中心です」
神官長がさらに言葉を重ねる。
「ですから、シャンタルには今のまま、聖なる存在として宮に君臨し続けていただかなければなりません」
「そうですね」
マユリアはそう言ってから、
「では、神官長の申す何らかの方策に必要なのは、今、わたくしがおる、このマユリアという存在に対して、そういうことなのですね」
マユリアは自分個人ではなく、代々引き継がれるこの「マユリア」という役職のことであろうと推測し、確認をする。
「さようでございます」
また神官長が恭しく頭を下げた。
「いちいち頭を下げなくてもよろしい。話を進めてください」
「はい、承知いたしました」
そう言ってつい神官長が頭を一つ下げ、
「申し訳ありません。続けさせていただきます」
と、今度は頭を上げたまま続ける。
「はい、そうです。あなた様お一人のことではございません。これまでの代々のマユリア、そしてこれからの代々のマユリア、そのお方たち、内なる女神マユリアを引き継がれるこの世の女神マユリア、そのお方のことでございます」
神官長は念には念を入れるかのように、かなり持って回った面倒な説明を口にした。
「分かりました。わたくし個人ではなく、代々のマユリア全ての方に関わると言うのなら、わたくしもその代々の代表として伺いましょう」
マユリアも間違いがないようにそう付け加えた。
「ありがとうございます。はい、その代々のマユリアが、政治の根幹におられるということ、それを目で見て分かる形にするのでございます」
「先ほど、あなたが口にしていた言葉――」
マユリアが神官長に目を向けながら、確認するように続きを口にした。
「女神マユリアとシャンタリオ国王の婚姻、と」
「はい」
「もしかして、それがその方策だと言うのですか?」
「その通りでございます」
神官長が自信たっぷりにそう答え、マユリアは黙り込む。
マユリアは神官長をしばらく黙って見ていたが、
「何故、それがマユリアが政治に関わっているということになるのです」
「はい、お答えいたします」
神官長は、先ほど礼はいらぬと言われたにもかかわらず、堂々とそれこそが大事なのだと言わんばかりに丁寧に頭を下げた。
「マユリアが政治に関わること。それを見える形にするためには、それが唯一の方法だと思います」
「意味がよく分かりません」
マユリアが軽く首を左右に振る。
「何故、マユリアが国王と婚姻することが政治に関わることになるのです」
「それはマユリアに王族におなりいただくためです」
マユリアは何も言わず黙ってそのまま神官長の次の言葉を待っている。
「マユリアの地位とはなんでしょう?」
マユリアは、以前、ラーラ様に申し上げた言葉を心の中で思い出していた。
『シャンタルに次ぐ地位、国王と同列』
そう、この国ではマユリアの地位はそれほどまでに高い。
「国王陛下と同列。いえ、そうではありません。この国においては、国王陛下こそがマユリアと同列、なのでございます」
神官長の言う通りであった。
この国では何においてもシャンタルが、女神が中心である。
つまり、正確にはシャンタルの次がマユリア、そして国王がそのマユリアと同じとみなされている、ということになる。
基準はシャンタル、そのシャンタルから見て次がマユリアで、国王が人の頂点としてその神と同列とみなされているということだ。
「そのシャンタルに次ぐ地位のお方に、一歩だけ人の世界に歩み寄っていただきたい。そのための方法が婚姻です」
「分かりません」
マユリアがまた軽く首を振る。
「分かりませんか?」
「ええ」
「では、お聞きいたします。それ以外にマユリアが女神のまま、王族の一員になる方法がございますでしょうか?」
「女神のまま王族の一員に?」
「さようでございます」
「分かりません」
「では、ご説明させていただきます」
マユリアは、神官長がさっき自ら言っていたように、荒唐無稽であり、ルギがそう感じたというのを当然であろうと思ったが、約束は約束である。とりあえず最後まで黙って聞くことにした。そうすることで、神官長の本意や、他に何か目的があるのなら、それが何であるか知りたいと考えていた。
「よろしいですか?」
「ええ」
神官長はマユリアが何かを考えていたことから、一度そうして確かめてから話を始めた。
「女神シャンタルに仕える侍女の女神マユリア、その女神がシャンタリオ国王と婚姻という絆でつながり、王家の一員になる。そうすることで初めて、そのような国の者たちはマユリアの地位がどれほど高いかを知ることになるのです」
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