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第四章 第四部
5 一問一答
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「新しいことが生まれない、つまりどっかの村で赤ん坊が生まれなくなったような状態、ってことだな」
『そうなるかと思います』
「赤ん坊が生まれなくなった村ってさ、つまり、いつかは誰もいなくなるってこと?」
『そうなる可能性があるかと思います』
「それ、えらいことになるんじゃないの?」
『そうなる可能性が高いと思います』
トーヤ、ベル、アランの問いに順番に光がそう答えた。
「新しい命を生み出すことができなくなった、そういうことなんですね?」
今、まさにその体内に新しい命を育むリルが、確認するようにそう聞いた。
『その通りです』
「それは、一体どうすればまた動くようになるんですか?」
やはり自分も子の親であるダルがそう聞く。
『眠りを覚まし、もう一度この世を動かすことです』
「そのために千年前の託宣があり、先代が、黒のシャンタルが生まれたということではないのですか?」
今度はミーヤだ。八年前の出来事に深く関わった侍女だからこそ、何よりもそのことが気にかかる。
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「それな。その返事が一番めんどくさい」
トーヤが難しい顔でそう言う。
「関係あるのかないのか、はっきり言えねえかな」
『それは一部のことであり、全てではありません』
「一部のこと?」
『その通りです』
「つまりこいつが」
トーヤが隣にいるシャンタルの右肩に左手を乗せた。
「黒のシャンタルが生まれたことと、この世界が眠ってるってことは一応関係はあるってことだよな?」
『その通りです』
「関係はあるが、俺らが今、自分の身の上に降り掛かってる問題を解決したからって、その世界が寝てるって問題が全部解決するわけじゃない、っていう風にも聞こえる」
『その通りです』
「けど、こいつの存在が、世界を起こすことのどっかには引っかかるってことか」
『その通りです』
「うーん……」
トーヤが腕を組んで考える。
「ってことは、今はその世界のことってのは、俺らが考えてもどうにもならねえってことでいいか?」
『それは……』
光が少し考える。
『ええ、それでいいかと思います』
「なんだよ、えらく自信なさげだな。あんたの目にはずっと先、千年前から今のことが見えてたんだろ? だったらそのぐらいの返事してくれてもよさそうなもんだけどな」
トーヤの言葉にも光は何も答えない。
「あれか、言えないことには沈黙かよ」
『勝手な言い方であることは分かっていてお願いをするのです。今はこの国を、シャンタリオを、シャンタルの神域のことだけを考えてください』
「なんだって? ほんとにそりゃまあ、勝手な言い分だな」
トーヤが目を丸くして驚く。
『今、この時において、空気が流れないこと、その世界が眠りにつくことについて、一番よく知るものはわたくしなのです。神域を作り、その世界を閉じた。その影響を一番よく知っています』
「なるほど、なんとなく分かったような気がする」
「ど、どういうこと?」
ベルがトーヤに聞く。
「つまりだな、二千年前、この方はこの地を閉じたわけだ。慈悲ってので満たしてな。そしたらたった十年で具合が悪くなってきた。そうすることでどんなことがあるか、それを自分の身でもって知ったってことだな」
「そういうことなのか」
「そういうことでいいのか?」
トーヤが一度言葉を止めて光に確認する。
『それでいいのではないかと思います』
「うん。そんじゃまた俺の考えの続きになるが、違ってたら違うって言ってくれ」
『分かりました』
「それでだな。今度は千年前に、今度は閉じた神域だけじゃなく、もっと広い世界ってところで同じようなことが起きた。なんでか分からんが世界が閉じたような事件が起きた。そんでいいか?」
『それでいいのではないかと思います』
「よし。そしたらだな、この神域はどうなる?」
「ど、どうなるって?」
「うん。女神様に閉じられた上に、今度は世界にも閉じられた。つまり二重に閉じられたわけだ」
「ええっ、そりゃ大変じゃねえかよ!」
「だからその話をしてんだよ」
「いてっ!」
トーヤがいつものようベルを小突く。
「だからまあ、世界ってのをなんとかする前に、まずはここをなんとかしろ、つまりはそういうことでいいのか?」
『その通りです』
「あんたはそのために千年前にさっきの託宣をやらせた。そしてそのために黒のシャンタルをこの世に生まれさせた。さて、話は戻った。それはなんでだ?」
『それは』
また光が一瞬言葉を止めたが、
『わたくしの力を全て受け継ぐためです。そのために通常のシャンタルとは逆である者が必要でした。マユリアと二人でその全てを受け継ぐ為に』
「なんだと?」
『通常のシャンタルと対となるためには、逆の力を受け入れることのできる存在が必要だったのです。その象徴としてその容貌となり、そして男性として生まれてきました」
「ちょっと待った!」
トーヤが何か言う前にまたベルが疑問を口にする。
「シャンタルが黒の反対で銀色の髪、白の反対で褐色の肌、女の子じゃなくて男の子に生まれたのはなんとなく分かった。じゃあ目は? なんで緑なんだ?」
「そうだな、俺もそれは不思議だと思った」
シャンタルの深い深い緑の瞳。それだけは反対の者では説明がつかない。
『そうなるかと思います』
「赤ん坊が生まれなくなった村ってさ、つまり、いつかは誰もいなくなるってこと?」
『そうなる可能性があるかと思います』
「それ、えらいことになるんじゃないの?」
『そうなる可能性が高いと思います』
トーヤ、ベル、アランの問いに順番に光がそう答えた。
「新しい命を生み出すことができなくなった、そういうことなんですね?」
今、まさにその体内に新しい命を育むリルが、確認するようにそう聞いた。
『その通りです』
「それは、一体どうすればまた動くようになるんですか?」
やはり自分も子の親であるダルがそう聞く。
『眠りを覚まし、もう一度この世を動かすことです』
「そのために千年前の託宣があり、先代が、黒のシャンタルが生まれたということではないのですか?」
今度はミーヤだ。八年前の出来事に深く関わった侍女だからこそ、何よりもそのことが気にかかる。
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「それな。その返事が一番めんどくさい」
トーヤが難しい顔でそう言う。
「関係あるのかないのか、はっきり言えねえかな」
『それは一部のことであり、全てではありません』
「一部のこと?」
『その通りです』
「つまりこいつが」
トーヤが隣にいるシャンタルの右肩に左手を乗せた。
「黒のシャンタルが生まれたことと、この世界が眠ってるってことは一応関係はあるってことだよな?」
『その通りです』
「関係はあるが、俺らが今、自分の身の上に降り掛かってる問題を解決したからって、その世界が寝てるって問題が全部解決するわけじゃない、っていう風にも聞こえる」
『その通りです』
「けど、こいつの存在が、世界を起こすことのどっかには引っかかるってことか」
『その通りです』
「うーん……」
トーヤが腕を組んで考える。
「ってことは、今はその世界のことってのは、俺らが考えてもどうにもならねえってことでいいか?」
『それは……』
光が少し考える。
『ええ、それでいいかと思います』
「なんだよ、えらく自信なさげだな。あんたの目にはずっと先、千年前から今のことが見えてたんだろ? だったらそのぐらいの返事してくれてもよさそうなもんだけどな」
トーヤの言葉にも光は何も答えない。
「あれか、言えないことには沈黙かよ」
『勝手な言い方であることは分かっていてお願いをするのです。今はこの国を、シャンタリオを、シャンタルの神域のことだけを考えてください』
「なんだって? ほんとにそりゃまあ、勝手な言い分だな」
トーヤが目を丸くして驚く。
『今、この時において、空気が流れないこと、その世界が眠りにつくことについて、一番よく知るものはわたくしなのです。神域を作り、その世界を閉じた。その影響を一番よく知っています』
「なるほど、なんとなく分かったような気がする」
「ど、どういうこと?」
ベルがトーヤに聞く。
「つまりだな、二千年前、この方はこの地を閉じたわけだ。慈悲ってので満たしてな。そしたらたった十年で具合が悪くなってきた。そうすることでどんなことがあるか、それを自分の身でもって知ったってことだな」
「そういうことなのか」
「そういうことでいいのか?」
トーヤが一度言葉を止めて光に確認する。
『それでいいのではないかと思います』
「うん。そんじゃまた俺の考えの続きになるが、違ってたら違うって言ってくれ」
『分かりました』
「それでだな。今度は千年前に、今度は閉じた神域だけじゃなく、もっと広い世界ってところで同じようなことが起きた。なんでか分からんが世界が閉じたような事件が起きた。そんでいいか?」
『それでいいのではないかと思います』
「よし。そしたらだな、この神域はどうなる?」
「ど、どうなるって?」
「うん。女神様に閉じられた上に、今度は世界にも閉じられた。つまり二重に閉じられたわけだ」
「ええっ、そりゃ大変じゃねえかよ!」
「だからその話をしてんだよ」
「いてっ!」
トーヤがいつものようベルを小突く。
「だからまあ、世界ってのをなんとかする前に、まずはここをなんとかしろ、つまりはそういうことでいいのか?」
『その通りです』
「あんたはそのために千年前にさっきの託宣をやらせた。そしてそのために黒のシャンタルをこの世に生まれさせた。さて、話は戻った。それはなんでだ?」
『それは』
また光が一瞬言葉を止めたが、
『わたくしの力を全て受け継ぐためです。そのために通常のシャンタルとは逆である者が必要でした。マユリアと二人でその全てを受け継ぐ為に』
「なんだと?」
『通常のシャンタルと対となるためには、逆の力を受け入れることのできる存在が必要だったのです。その象徴としてその容貌となり、そして男性として生まれてきました」
「ちょっと待った!」
トーヤが何か言う前にまたベルが疑問を口にする。
「シャンタルが黒の反対で銀色の髪、白の反対で褐色の肌、女の子じゃなくて男の子に生まれたのはなんとなく分かった。じゃあ目は? なんで緑なんだ?」
「そうだな、俺もそれは不思議だと思った」
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