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第四章 第三部
23 童子様
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今回、この空間に来た時からずっとトーヤは機嫌が悪かった。途中からは、ベルがフェイのように若いうちにその生を終えるのではないかとの心配からであったが、最初はミーヤとの関係を思ってイラついていたはずだ。
そこにミーヤはミーヤで、ベルのことを心配して怒り狂っているトーヤを見たことで生まれた複雑な感情、おそらくは、何の問題もなくそれほどに思われているベルと、侍女である自分の立場の違いからの嫉妬、さらにそんなことを考えてしまう自分への自責の間で押しつぶされそうになり、それであんな風になってしまったのだろう。
(そんでだな、次はそんなミーヤさんに、兄貴やダルやダリオの兄貴が心配して優しく声をかけたんで、今度はそれにトーヤがヤキモチやいて……ああ、もうめんどくせえ二人だな!!!!!)
今はミーヤがトーヤの物の言い方に腹を立て、強情を張ってそんな状態で無理して立ち上がった状態だ。
(ん、っとにもう、痴話喧嘩ならどっかで二人きりでやってくれよな!)
ベルは頭を抱えて必死に考えを回し、結論を出した。
「よしっ!!!!!」
「びっくりした!」
いきなりベルが大きな声でそう言って立ち上がり、皆がびっくりした。あのシャンタルまでが思わずビクッとしてしまったぐらいだ。
「とっとと話を進めるぞ! まずは、なんでシャンタルがこんななのか、それから教えてくれ! みんなそれが気になって気になってしゃあないんだよ!」
ベルが光に向かって突然そう叫んだ。
「な、なんだよおまえ!」
さっきまで感情に振り回されていたトーヤが、そんなことなどすっかりどこかに吹き飛んだように驚く。
「それが聞きたかったんだよな、トーヤ!」
「あ、ああ」
トーヤは完全にベルの気迫に飲み込まれ、そう答えるので精一杯という有様だ。
「なあ、同じ親から生まれてるのに、なんでシャンタルだけ銀の髪、この肌、緑の目で男なんだ? マユリアもちびシャンタルも黒い髪黒い目で女なのに。もしかして、次代様は交代で、シャンタルみたいなかっこで生まれる予定なのか?」
『そうではありません、次代は代々のシャンタルと同じ容貌で生まれます』
「やっぱりか。そんじゃそのところ、頼むぜ!」
場はすっかりベルに支配されてしまっていた。
ベルは決めたのだ。
「今のトーヤはなんか頼りになんねえからな、ここは童子様のおれが仕切らせてもらう。文句あるか!」
トーヤはそう宣言され、目を丸くしてベルを見つめるだけだ。
「文句あるか! え、どうなんだよ、トーヤ!」
「は、はい!」
あまりのベルの迫力に、思わずそう答えてしまうトーヤ。さすがアラン隊長の妹だ。
「そんじゃ続けるぞ。みんなもいいな!」
「はいっ!」
「ええ!」
あっちこっちからそんな声が聞こえた。
「ミーヤさん!」
「は、はい!」
「ミーヤさんは無理せず座ってろ、いいな!」
「あ、はい!」
さっきまでなんだかふにゃっとしていたミーヤの背中もピンと伸びたが、ベルに命じられるままに思わず椅子に座ってしまった。
「そんじゃ続き、頼みます!」
『分かりました』
光が楽しそうに、笑うように煌めいた。
『なぜ黒のシャンタルだけがこのように生まれたのか、それには理由があります』
「おう、そこんとこ頼むぜ!」
ベルが威勢よく発破をかける。
『そのように、明るくするような話でもないのですけれどね。なんでしょう、わたくしまで童子に力をもらったようです』
光がそう言って楽しげに笑い、そして静かに続ける。
『神の生命の種、人の生命の種、それは元々はそれぞれに適した体を選んで生まれてくる存在です。ですが、童子のように、どうしても必要で神の座を降り、人として生まれてくれる者もあります』
「うん、聞いた。それがおれとフェイなわけだ。それから?」
『それは、人の身に人の魂を持つ者にはできない役割を果たすためです』
「うん、それから?」
『歴代のシャンタルはその座を降りたら人の身に戻ります。そのために人の身に神の魂が入っていてはいけない、童子としての役割のない人に戻るには、それは邪魔になるだけなのです』
「なるほど分かった、そんで?」
『もう一つの理由は、一つの体に2つの神の魂を受け入れるわけにはいかないからです。それはあまりに負担が大きく、人の身には危険なのです』
「なるほどなあ、言われてみりゃ納得だ、うん。そんで?」
『それゆえ、歴代シャンタルの身には神の生命の種が入るわけにはいかないのです。もしも、今回のように大きな出来事があり、どうしても神の力を借りなければならない時、そのような時にはあなたとフェイのように、手助けをする存在としての童子が生まれてくるのです』
「はあ~なるほど、納得だ!」
「ちょ、ちょっと待て!」
思わずトーヤがあっけにとられたようにベルを止める。
「なんだよ」
「いや、おまえ、とんとんと話進めすぎだろうが」
「進んだ方がいいだろ?」
「いや、そりゃそうだけどな」
「とにかくな」
ベルがトーヤをじろりと一つ睨むと、
「今はトーヤの出番じゃなく、おれの出番なわけ? なんでかってとな、トーヤは今は普通の状態じゃないからだ。落ち着くまで黙って聞いときな、おっさん」
と、ビシッと指先をトーヤに突きつけた。
そこにミーヤはミーヤで、ベルのことを心配して怒り狂っているトーヤを見たことで生まれた複雑な感情、おそらくは、何の問題もなくそれほどに思われているベルと、侍女である自分の立場の違いからの嫉妬、さらにそんなことを考えてしまう自分への自責の間で押しつぶされそうになり、それであんな風になってしまったのだろう。
(そんでだな、次はそんなミーヤさんに、兄貴やダルやダリオの兄貴が心配して優しく声をかけたんで、今度はそれにトーヤがヤキモチやいて……ああ、もうめんどくせえ二人だな!!!!!)
今はミーヤがトーヤの物の言い方に腹を立て、強情を張ってそんな状態で無理して立ち上がった状態だ。
(ん、っとにもう、痴話喧嘩ならどっかで二人きりでやってくれよな!)
ベルは頭を抱えて必死に考えを回し、結論を出した。
「よしっ!!!!!」
「びっくりした!」
いきなりベルが大きな声でそう言って立ち上がり、皆がびっくりした。あのシャンタルまでが思わずビクッとしてしまったぐらいだ。
「とっとと話を進めるぞ! まずは、なんでシャンタルがこんななのか、それから教えてくれ! みんなそれが気になって気になってしゃあないんだよ!」
ベルが光に向かって突然そう叫んだ。
「な、なんだよおまえ!」
さっきまで感情に振り回されていたトーヤが、そんなことなどすっかりどこかに吹き飛んだように驚く。
「それが聞きたかったんだよな、トーヤ!」
「あ、ああ」
トーヤは完全にベルの気迫に飲み込まれ、そう答えるので精一杯という有様だ。
「なあ、同じ親から生まれてるのに、なんでシャンタルだけ銀の髪、この肌、緑の目で男なんだ? マユリアもちびシャンタルも黒い髪黒い目で女なのに。もしかして、次代様は交代で、シャンタルみたいなかっこで生まれる予定なのか?」
『そうではありません、次代は代々のシャンタルと同じ容貌で生まれます』
「やっぱりか。そんじゃそのところ、頼むぜ!」
場はすっかりベルに支配されてしまっていた。
ベルは決めたのだ。
「今のトーヤはなんか頼りになんねえからな、ここは童子様のおれが仕切らせてもらう。文句あるか!」
トーヤはそう宣言され、目を丸くしてベルを見つめるだけだ。
「文句あるか! え、どうなんだよ、トーヤ!」
「は、はい!」
あまりのベルの迫力に、思わずそう答えてしまうトーヤ。さすがアラン隊長の妹だ。
「そんじゃ続けるぞ。みんなもいいな!」
「はいっ!」
「ええ!」
あっちこっちからそんな声が聞こえた。
「ミーヤさん!」
「は、はい!」
「ミーヤさんは無理せず座ってろ、いいな!」
「あ、はい!」
さっきまでなんだかふにゃっとしていたミーヤの背中もピンと伸びたが、ベルに命じられるままに思わず椅子に座ってしまった。
「そんじゃ続き、頼みます!」
『分かりました』
光が楽しそうに、笑うように煌めいた。
『なぜ黒のシャンタルだけがこのように生まれたのか、それには理由があります』
「おう、そこんとこ頼むぜ!」
ベルが威勢よく発破をかける。
『そのように、明るくするような話でもないのですけれどね。なんでしょう、わたくしまで童子に力をもらったようです』
光がそう言って楽しげに笑い、そして静かに続ける。
『神の生命の種、人の生命の種、それは元々はそれぞれに適した体を選んで生まれてくる存在です。ですが、童子のように、どうしても必要で神の座を降り、人として生まれてくれる者もあります』
「うん、聞いた。それがおれとフェイなわけだ。それから?」
『それは、人の身に人の魂を持つ者にはできない役割を果たすためです』
「うん、それから?」
『歴代のシャンタルはその座を降りたら人の身に戻ります。そのために人の身に神の魂が入っていてはいけない、童子としての役割のない人に戻るには、それは邪魔になるだけなのです』
「なるほど分かった、そんで?」
『もう一つの理由は、一つの体に2つの神の魂を受け入れるわけにはいかないからです。それはあまりに負担が大きく、人の身には危険なのです』
「なるほどなあ、言われてみりゃ納得だ、うん。そんで?」
『それゆえ、歴代シャンタルの身には神の生命の種が入るわけにはいかないのです。もしも、今回のように大きな出来事があり、どうしても神の力を借りなければならない時、そのような時にはあなたとフェイのように、手助けをする存在としての童子が生まれてくるのです』
「はあ~なるほど、納得だ!」
「ちょ、ちょっと待て!」
思わずトーヤがあっけにとられたようにベルを止める。
「なんだよ」
「いや、おまえ、とんとんと話進めすぎだろうが」
「進んだ方がいいだろ?」
「いや、そりゃそうだけどな」
「とにかくな」
ベルがトーヤをじろりと一つ睨むと、
「今はトーヤの出番じゃなく、おれの出番なわけ? なんでかってとな、トーヤは今は普通の状態じゃないからだ。落ち着くまで黙って聞いときな、おっさん」
と、ビシッと指先をトーヤに突きつけた。
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