283 / 488
第四章 第三部
12 二人の童子
しおりを挟む
「ええー!」
またベルが叫ぶ。
「ええー! うっそー! えっと、それって、えっと、なんだー!」
ベルはそう言いながらその場をぐるぐる回っている。
「えーっ! はあーっ! ああーっ?」
「るせえ!」
とうとうトーヤに張り倒された。
「ちっと落ち着け」
「いやいや、無理だろこんなん!」
ベルの言い分ももっともだ。
「だっておれ、神様になるはずだったんだぜ? え、ちょいまち、ってことは、おれ、これから神様になんのか!?」
ベルを見て、光が純粋に微笑ましそうに揺れる。
『そういうことはありません。一度人として生まれた神になるべきだった生命の種は、神に戻ることはなく人としての生を生きることになります』
「えっ、てことは、神様にならないの?」
『その通りです。この先は人としての生を生き、人として終えるのです』
「つまり、人間で終わりってこと?」
『その通りです』
「え~そんなあ、つまんねぇ……」
ベルはまるで、今日の楽しい予定がなくなった子どものような口調でがっかりする。
「なんか、おまえが言うとあんまり大したことじゃなさそうだな」
トーヤが呆れたように言うと、シャンタルも思わず笑いながら、
「やっぱりベルは楽しい。でもそうか、だからベルってなんだか特別なんだ、分かった気がする」
と言い、
「そうだな、なんか嬢ちゃんは特別だって気がしてたけど、あれはあながち間違っちゃいなかったんだな」
と、ディレンも納得をした。
「特別な馬鹿って気はしてたが、まさかそんなもんだったとはな」
「そんなもんってなんだよ! それにおれは童子だぞ、もっと敬え!」
「おまえ、それ言うなら俺は助け手様だ、そっちこそもっと敬え!」
「なんだと! 助け手だっても、多分そっちは人間の種から生えたんだろうが、おれは神様の種だ! やっぱりそっちがもっと敬え!」
「な! 生えただあ? 何を、この馬鹿!」
「いってえ! 童子様をなぐるな!」
まるでここがいつもの安宿ででもあるように、トーヤとベルの衝突が始まる。
「ちょ、ちょっと待て、おまえら!」
そしていつものようにアラン隊長の一言だ。
「なんか、俺ちょっと頭の中ぐるぐるすんだけど……」
アランが両手でその薄茶の髪を押さえ、考えをまとめながら口にする。
「ってことはだな、俺はシャンタルって神様と、その助け手だってトーヤ、それに神様になるはずだった妹と一緒に旅をしてたってことになるのか……」
混乱するのも無理はない。
「あの、俺は、俺は一体どういうことになります?」
アランは意を決したように顔を上げ、光に尋ねた。
『何も』
「なにも?」
『あなたはそのまま、生まれたままのアランという人ということです』
「はあぁ!?」
言われてアランががっくりと頭を下げる。
「なんだよそれ、俺だけ普通の人ってことかよ……」
一人だけハズレくじを引いたかのように、アランは心底がっかりしているようだ。
「兄貴ぃ……」
ベルが虚脱する兄に空間を超えて声をかける。
「なんか、ごめんなぁ、おれだけ」
せっかくの妹の好意も逆効果、アランが一層虚無になる。
ディレンは目の前で落ち込むアランの肩に、慰めるように手をかけた。
その隣でミーヤとアーダは困りきった顔を見合わせている。
リルはどうやら笑うのを我慢しているらしく、その横でダルがリルを止めるように何か小さな声で言い、そのせいでますますリルが苦しそうになっている。
ハリオはそんな2人の横で、どうしたものかという顔になるが、それ以上何もできることがない。
カースのダル一家はすぐそばで繰り広げられるトーヤとベルのじゃれ合いに、なんとなくここがどこなのかを一瞬忘れたような顔になっている。
シャンタルは、
「なんだかあの実験の時みたいだね」
そう言ってクスクス笑っているが、アランは言い返す気力もないように脱力したままだ。
「まあ、そういうのはまた後でいいとして、話の続きを頼む」
いつもだったらアラン隊長の役目のはずの言葉をトーヤが引き継ぎ、光に続きを促した。
『童子はベル1人だけではありません』
光の言葉にそれぞれが同じように驚く。
「1人だけじゃないって、他にもこの中にいるってことか?」
『そうではありません』
光はゆるく光ると続けて思わぬ名を口にした。
『フェイです』
その名を聞いて全員が動きを止めた。
「フェイ……」
ミーヤの声がトーヤの耳に届いた。
『そうです、フェイです。フェイがベルと共に神の座を降りて、役目のために人として生まれたもう一人の童子なのです』
「フェイ……」
今度はベルがその名を口にする。
『助け手がこちらに戻ってくる、それが分かった時、童子となる者が必要だと分かりました。ですが、童子となるということは、神ではなくなるということ。二度と神の身には戻れぬということ。人として生まれ人として短い生を生き、人として生を終えること。それが分かっているので自ら名乗り出てくれる種はそうそういないものなのです。その時2粒の種が自分がと申し出てくれました。そうして神の座を降りると決めてくれたのです。特にフェイとなった種は、本当に短く生を終えると知りながらその道を選んでくれたのです。尊い童子です』
光が優しく瞬いた。
またベルが叫ぶ。
「ええー! うっそー! えっと、それって、えっと、なんだー!」
ベルはそう言いながらその場をぐるぐる回っている。
「えーっ! はあーっ! ああーっ?」
「るせえ!」
とうとうトーヤに張り倒された。
「ちっと落ち着け」
「いやいや、無理だろこんなん!」
ベルの言い分ももっともだ。
「だっておれ、神様になるはずだったんだぜ? え、ちょいまち、ってことは、おれ、これから神様になんのか!?」
ベルを見て、光が純粋に微笑ましそうに揺れる。
『そういうことはありません。一度人として生まれた神になるべきだった生命の種は、神に戻ることはなく人としての生を生きることになります』
「えっ、てことは、神様にならないの?」
『その通りです。この先は人としての生を生き、人として終えるのです』
「つまり、人間で終わりってこと?」
『その通りです』
「え~そんなあ、つまんねぇ……」
ベルはまるで、今日の楽しい予定がなくなった子どものような口調でがっかりする。
「なんか、おまえが言うとあんまり大したことじゃなさそうだな」
トーヤが呆れたように言うと、シャンタルも思わず笑いながら、
「やっぱりベルは楽しい。でもそうか、だからベルってなんだか特別なんだ、分かった気がする」
と言い、
「そうだな、なんか嬢ちゃんは特別だって気がしてたけど、あれはあながち間違っちゃいなかったんだな」
と、ディレンも納得をした。
「特別な馬鹿って気はしてたが、まさかそんなもんだったとはな」
「そんなもんってなんだよ! それにおれは童子だぞ、もっと敬え!」
「おまえ、それ言うなら俺は助け手様だ、そっちこそもっと敬え!」
「なんだと! 助け手だっても、多分そっちは人間の種から生えたんだろうが、おれは神様の種だ! やっぱりそっちがもっと敬え!」
「な! 生えただあ? 何を、この馬鹿!」
「いってえ! 童子様をなぐるな!」
まるでここがいつもの安宿ででもあるように、トーヤとベルの衝突が始まる。
「ちょ、ちょっと待て、おまえら!」
そしていつものようにアラン隊長の一言だ。
「なんか、俺ちょっと頭の中ぐるぐるすんだけど……」
アランが両手でその薄茶の髪を押さえ、考えをまとめながら口にする。
「ってことはだな、俺はシャンタルって神様と、その助け手だってトーヤ、それに神様になるはずだった妹と一緒に旅をしてたってことになるのか……」
混乱するのも無理はない。
「あの、俺は、俺は一体どういうことになります?」
アランは意を決したように顔を上げ、光に尋ねた。
『何も』
「なにも?」
『あなたはそのまま、生まれたままのアランという人ということです』
「はあぁ!?」
言われてアランががっくりと頭を下げる。
「なんだよそれ、俺だけ普通の人ってことかよ……」
一人だけハズレくじを引いたかのように、アランは心底がっかりしているようだ。
「兄貴ぃ……」
ベルが虚脱する兄に空間を超えて声をかける。
「なんか、ごめんなぁ、おれだけ」
せっかくの妹の好意も逆効果、アランが一層虚無になる。
ディレンは目の前で落ち込むアランの肩に、慰めるように手をかけた。
その隣でミーヤとアーダは困りきった顔を見合わせている。
リルはどうやら笑うのを我慢しているらしく、その横でダルがリルを止めるように何か小さな声で言い、そのせいでますますリルが苦しそうになっている。
ハリオはそんな2人の横で、どうしたものかという顔になるが、それ以上何もできることがない。
カースのダル一家はすぐそばで繰り広げられるトーヤとベルのじゃれ合いに、なんとなくここがどこなのかを一瞬忘れたような顔になっている。
シャンタルは、
「なんだかあの実験の時みたいだね」
そう言ってクスクス笑っているが、アランは言い返す気力もないように脱力したままだ。
「まあ、そういうのはまた後でいいとして、話の続きを頼む」
いつもだったらアラン隊長の役目のはずの言葉をトーヤが引き継ぎ、光に続きを促した。
『童子はベル1人だけではありません』
光の言葉にそれぞれが同じように驚く。
「1人だけじゃないって、他にもこの中にいるってことか?」
『そうではありません』
光はゆるく光ると続けて思わぬ名を口にした。
『フェイです』
その名を聞いて全員が動きを止めた。
「フェイ……」
ミーヤの声がトーヤの耳に届いた。
『そうです、フェイです。フェイがベルと共に神の座を降りて、役目のために人として生まれたもう一人の童子なのです』
「フェイ……」
今度はベルがその名を口にする。
『助け手がこちらに戻ってくる、それが分かった時、童子となる者が必要だと分かりました。ですが、童子となるということは、神ではなくなるということ。二度と神の身には戻れぬということ。人として生まれ人として短い生を生き、人として生を終えること。それが分かっているので自ら名乗り出てくれる種はそうそういないものなのです。その時2粒の種が自分がと申し出てくれました。そうして神の座を降りると決めてくれたのです。特にフェイとなった種は、本当に短く生を終えると知りながらその道を選んでくれたのです。尊い童子です』
光が優しく瞬いた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる