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第四章 第三部
10 不機嫌なトーヤ
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ダルの子どもたちがダルの実家に押し寄せた翌日の午前中、いきなり四度目の召喚があった。
今回はリルのところにハリオとダルがいた。例の元王宮衛士のことで王都に出て、リルのところに立ち寄った途端に呼ばれたらしい。
「朝からってのは初めてじゃねえか? いきなり生活習慣でも変わったのか?」
昨夜、あまり眠れなくて寝不足気味のトーヤが、なんとなく気にいらない様子でそう言う。
「まあいい。今日はちょっと聞きたいことがある。前回聞きそこねたこと、それを優先してもらおうか」
光に何も言わせない、とばかりにトーヤが続ける。
「今回はこいつ」
と、隣にいるシャンタルをクイッと指差し、
「黒のシャンタルの話だ。こいつが全部の問題の要になるんじゃねえのか?」
と光を見上げてトーヤはきつく睨みつけてそう言う。
光は考えるようにゆらゆらと揺れていたが、
『分かりました』
と、素直に受け入れる。
「お、言ったな。そんじゃとっとと始めてくれ」
『その前に、もう一つだけ話しておかなければならないことがあります』
「なんだよ、こっちはすぐに始めてくれ、ってんだがな」
誰の目にもトーヤが不機嫌なのが見て取れた。
『その話をするためにも必要な話なのです』
「そうかよ、じゃあとっとと頼む。いい加減こっちは焦れてんだよ、いつまでこんなこと続けなきゃいけないのかってな」
「トーヤ、ちょっと落ち着けよ、何そんなにイラついてんだよ」
思わずベルがそう声をかけた。
「これがイラつかずにどうするってんだ!」
やや声を荒らげてベルにもそう言った。
「とりあえず今日はお前もこの前みたいに邪魔すんな! もうすぐ封鎖が終わるだろうってのに、こんなチンタラやられてたらたまんねえぜ!」
一体トーヤが何にそんなに機嫌を損ねているのか。
ベルは昨日のナスタの言葉のせいではないかと思った。
トーヤが普通じゃなくなるのはきっとミーヤがらみだ。
今までもそうだった。
チラリと本当なら顔を見ることができない場所にいる兄に視線を投げる。
兄もなんとなくそんな顔をしているような気がする。
他の者もこれまでと違うトーヤの様子に戸惑っているようだが、昨日の出来事を知らないので、何があったかと想像をすることもできない。
ダルの家族はそれぞれに思うことはあったが、それを口に出すことはしなかった。
「なんでもいい、始めてくれ……」
そんな空気を感じたのか、トーヤが憑き物が落ちたように静かにそう言うと、あぐらをかいて座り直した。
『生命の種』
光が何もなかったかのように言葉を続ける。
『その話は前にしましたね。外の世界に放ったその一粒があなた、助け手トーヤとなって戻ってきたことを』
「ああ、なんかよう分からんが一応は聞いた」
『その種にも色々とあるのです。大きくは神となる種、人となる種、そしてそれ以外となる種です』
「神となる種ってなんだ?」
ベルがそう言ってしまってから、思わず両手で口を押さえた。
今日のトーヤは機嫌が悪い、それもかなり深刻な悪さだ。下手なことを言ってもっとへそを曲げさせてはいけない、そうは思ってはいたのだが、つい口から出てしまったのだ。
「びびるな、俺も同じこと聞こうと思ってた」
トーヤがそう言ってベルの頭の上にとん、と手を置いたのでベルはホッとした。
「なんとなく思ったのは、神様になる種と人間になる種、それから動物とかなんかそういう他の生き物になる種があるってことか」
『その通りです』
「ってことは、俺はその種の中の人間ってやつの種から生まれたってことだな」
『その通りです』
「で、あんたらはその神様になる種から生まれたってことだな」
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「出たよお約束」
とびきり不愉快そうにトーヤがそう言った。
「そんじゃま、どこがそうでどこがそうではないのかをお聞かせ願いましょうかね、とっとと」
いちいち言うことに角がある。
違う空間から見ているミーヤはハラハラとしていた。仮にも相手は神なのだ。それなりの敬意を持って接すること、それはこの国の人であれば、宮の侍女であれば骨の髄まで染み込んでいる常識なのだ。
もしも神がお怒りにでもなれば、いくら助け手として生まれたトーヤだとて、何かの罰を受けることもあり得るのではないか。そう思って息が苦しくなる。
ミーヤの心配をよそに、光は何事もなかったように続けた。
『最も尊きは光の神アルディナ、闇の神ドルカス。これは前にも申しましたね』
「ああ聞いた。そんで?」
相変わらずぶっきらぼうにトーヤが返す。
『その二神は光と闇から生まれし神、光であり闇である者です。種から生まれし者ではありません」
「ほう、そんで?」
トーヤがめんどくさそうに答える。
『光と闇が生まれたことから時が流れ始め、さまざまな物が時の流れと一緒に生まれました。神々も。その『次代の神』の中にわたくしも含まれます』
「次代の神?」
『光と闇から生まれし神々のことです」
「つまりあんたは光の女神と闇の男神の間に生まれた子どもってことか?」
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「はいはい、そうでしょうとも」
今日はとびっきり機嫌の悪いトーヤは一層げんなりとそう言った。
今回はリルのところにハリオとダルがいた。例の元王宮衛士のことで王都に出て、リルのところに立ち寄った途端に呼ばれたらしい。
「朝からってのは初めてじゃねえか? いきなり生活習慣でも変わったのか?」
昨夜、あまり眠れなくて寝不足気味のトーヤが、なんとなく気にいらない様子でそう言う。
「まあいい。今日はちょっと聞きたいことがある。前回聞きそこねたこと、それを優先してもらおうか」
光に何も言わせない、とばかりにトーヤが続ける。
「今回はこいつ」
と、隣にいるシャンタルをクイッと指差し、
「黒のシャンタルの話だ。こいつが全部の問題の要になるんじゃねえのか?」
と光を見上げてトーヤはきつく睨みつけてそう言う。
光は考えるようにゆらゆらと揺れていたが、
『分かりました』
と、素直に受け入れる。
「お、言ったな。そんじゃとっとと始めてくれ」
『その前に、もう一つだけ話しておかなければならないことがあります』
「なんだよ、こっちはすぐに始めてくれ、ってんだがな」
誰の目にもトーヤが不機嫌なのが見て取れた。
『その話をするためにも必要な話なのです』
「そうかよ、じゃあとっとと頼む。いい加減こっちは焦れてんだよ、いつまでこんなこと続けなきゃいけないのかってな」
「トーヤ、ちょっと落ち着けよ、何そんなにイラついてんだよ」
思わずベルがそう声をかけた。
「これがイラつかずにどうするってんだ!」
やや声を荒らげてベルにもそう言った。
「とりあえず今日はお前もこの前みたいに邪魔すんな! もうすぐ封鎖が終わるだろうってのに、こんなチンタラやられてたらたまんねえぜ!」
一体トーヤが何にそんなに機嫌を損ねているのか。
ベルは昨日のナスタの言葉のせいではないかと思った。
トーヤが普通じゃなくなるのはきっとミーヤがらみだ。
今までもそうだった。
チラリと本当なら顔を見ることができない場所にいる兄に視線を投げる。
兄もなんとなくそんな顔をしているような気がする。
他の者もこれまでと違うトーヤの様子に戸惑っているようだが、昨日の出来事を知らないので、何があったかと想像をすることもできない。
ダルの家族はそれぞれに思うことはあったが、それを口に出すことはしなかった。
「なんでもいい、始めてくれ……」
そんな空気を感じたのか、トーヤが憑き物が落ちたように静かにそう言うと、あぐらをかいて座り直した。
『生命の種』
光が何もなかったかのように言葉を続ける。
『その話は前にしましたね。外の世界に放ったその一粒があなた、助け手トーヤとなって戻ってきたことを』
「ああ、なんかよう分からんが一応は聞いた」
『その種にも色々とあるのです。大きくは神となる種、人となる種、そしてそれ以外となる種です』
「神となる種ってなんだ?」
ベルがそう言ってしまってから、思わず両手で口を押さえた。
今日のトーヤは機嫌が悪い、それもかなり深刻な悪さだ。下手なことを言ってもっとへそを曲げさせてはいけない、そうは思ってはいたのだが、つい口から出てしまったのだ。
「びびるな、俺も同じこと聞こうと思ってた」
トーヤがそう言ってベルの頭の上にとん、と手を置いたのでベルはホッとした。
「なんとなく思ったのは、神様になる種と人間になる種、それから動物とかなんかそういう他の生き物になる種があるってことか」
『その通りです』
「ってことは、俺はその種の中の人間ってやつの種から生まれたってことだな」
『その通りです』
「で、あんたらはその神様になる種から生まれたってことだな」
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「出たよお約束」
とびきり不愉快そうにトーヤがそう言った。
「そんじゃま、どこがそうでどこがそうではないのかをお聞かせ願いましょうかね、とっとと」
いちいち言うことに角がある。
違う空間から見ているミーヤはハラハラとしていた。仮にも相手は神なのだ。それなりの敬意を持って接すること、それはこの国の人であれば、宮の侍女であれば骨の髄まで染み込んでいる常識なのだ。
もしも神がお怒りにでもなれば、いくら助け手として生まれたトーヤだとて、何かの罰を受けることもあり得るのではないか。そう思って息が苦しくなる。
ミーヤの心配をよそに、光は何事もなかったように続けた。
『最も尊きは光の神アルディナ、闇の神ドルカス。これは前にも申しましたね』
「ああ聞いた。そんで?」
相変わらずぶっきらぼうにトーヤが返す。
『その二神は光と闇から生まれし神、光であり闇である者です。種から生まれし者ではありません」
「ほう、そんで?」
トーヤがめんどくさそうに答える。
『光と闇が生まれたことから時が流れ始め、さまざまな物が時の流れと一緒に生まれました。神々も。その『次代の神』の中にわたくしも含まれます』
「次代の神?」
『光と闇から生まれし神々のことです」
「つまりあんたは光の女神と闇の男神の間に生まれた子どもってことか?」
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「はいはい、そうでしょうとも」
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