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第四章 第二部
20 流れ着いた者
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二代続けて同じ親御様から誕生される次代様、神官長は不安を抱きながらも、
「ありえないことではない。当代があのようにお若い親御様からご誕生なさったのだから、そのようなことがあってもおかしくはない」
ひたすらそう自分に言い聞かせ続け、やがて産み月を迎えて無事に次代様がご誕生になった。
だが……
「銀の髪に褐色の肌、それにおそらく緑の瞳、だと……」
そんなはずがない。親御様もお父上もそして十年前にお生まれに当代シャンタルも、みな黒い髪黒い瞳、そして白い肌の持ち主だ。
「ありえない……」
報告を聞いた神官長は、伝令の神官を部屋から出すまでその言葉をやっとのことで飲み込んでいたが、一人になると、脱力して椅子に崩れ落ちるようにしながらそうつぶやいていた。
これはやはり、何か恐ろしいことの前触れなのではないか。そう思うのと同時に、シャンタルにそのような恐れ多い気持ちを抱くのは天に疑念を持つのと同じこと、どのような罰が下ってもおかしくはない、そんな気持ちにもなる。
「一体、これから何が起こるのか……」
心臓が恐ろしいぐらい早く打ち、こめかみから汗が流れてきた。
だが、それほど恐れたにも関わらず、宮では何事もなかったかのように、いつものように日は過ぎ、粛々と交代がなされ、異様の次代様は当代シャンタルとなられた。
何事もなく日が過ぎますように。神官長は毎日ひたすらそう祈り続けた。そしてその不安を払拭するように、銀の髪、褐色の肌、緑の瞳を持つシャンタルは次々と奇跡を起こす。
「まさかこんな季節に暖かい王都にあんなに雪が降るなんてな」
「ああ、だがシャンタルの託宣で何事もなく乗り切ることができた」
記録にもなかったほどの大雪が王都に降った。だがシャンタルの「雪に備えよ」との託宣に従って備えていたために、ほとんど被害はなかった。
その日から民たちは当代を「黒のシャンタル」と呼び始め、深く信頼していく。そして「黒のシャンタル」はその信頼に答えるように、次から次へと現実的な託宣を行い、国を、民を潤していった。
そしてシャンタルが成長なさるに連れ、神官長の心の中の不安の雲も次第に薄れ、あれはかえって吉兆であったのではないかと思えるようになり、落ち着いた安定した日々を送れるようになっていた。二代続いて同じ親御様であったのは、そのためであったのだろうと、自分のあの頃の気持ちは杞憂であったのだと、思い出して一人で笑えるほどに。
そうして神官長は平和な日々を送り、また交代の時期を迎え、そしてまたあり得ないことが起きた。
「まさか、また同じ親御様が……」
その両親の名を聞いて愕然とした。
まさか、2人が同じ両親から生まれることですら前例がないのに3人が続けて。
神官長は不安に思わないことはなかったものの、前回、つまり当代のこともあり、
「今回もまた天の配剤であろう」
そう自分に言い聞かせた。
何も恐れることはない。
何も不安になることはない。
心配のし過ぎなのだ。
そうして心穏やかに、少しばかり遠い場所におられる親御様のお迎えに行く神官を選任し、選ばれた衛士と共に使いに立てた。前回は王都であったので高齢の、この後は一線を退いて静かに時を過ごすばかりの神官を選んだが、今回はまだ若く、長旅に耐えられる者を選んだ。なぜ親御様が王都からそんな遠い地に引っ越されたかは分からないが、お父上は職人だ、何か仕事の都合でもあったのだろう。
そうして親御様の到着を待っていると、思いもかけない知らせが届いた。
「親御様とお父上が姿を消されました」
神官を置いて衛士が一人で早馬を飛ばしてそう知らせてきたのだ。
「馬鹿な……」
シャンタルの、女神の親と選ばれた者が姿をくらますなど聞いたことがない。
「親御様となるのは名誉なことだ、なぜそんなことを」
衛士長のヴァクトが急いで親御様のおられた村へ飛んでいき、事実を確認して戻ってきた。
「確かなようです」
表沙汰にならぬように密かに調べさせたところ、お父上が職人として働いていた工房に、今まで世話に成ったことへの礼と、事情があってこの村を去るとの説明、それからやりかけの仕事を残して申し訳ないとの詫びを書いた手紙が工房に残してあり、家はもぬけの殻だったようだ。
「どうするのです」
このまま親御様が見つからなかったら、もしも宮の外で次代様がご誕生になるようなことになったらどうなるのか。想像もできなかった。
「とにかく、そのような二人連れを見かけなかったか衛士たちに調べさせる。理由を話さずに地方の憲兵たちにも王都からの命令として調べさせている」
神殿からも尋ね人として国中の神殿に見つけたら連絡するようにとの触れを出し、やきもきしながら報告を待った。
そんな時だ、また新たな託宣があった。
「嵐の夜、助け手が西の海岸に現れる」
こともあろうにそんな何がなんだか分からない託宣があり、今度はその託宣の「解読」のために、識者を集めて相談をすることとなった。
「そしてその結果があれだ」
カースに外の国から流れついた、アルディナの傭兵だという男を助け手として受け入れることとなったのだ。
「ありえないことではない。当代があのようにお若い親御様からご誕生なさったのだから、そのようなことがあってもおかしくはない」
ひたすらそう自分に言い聞かせ続け、やがて産み月を迎えて無事に次代様がご誕生になった。
だが……
「銀の髪に褐色の肌、それにおそらく緑の瞳、だと……」
そんなはずがない。親御様もお父上もそして十年前にお生まれに当代シャンタルも、みな黒い髪黒い瞳、そして白い肌の持ち主だ。
「ありえない……」
報告を聞いた神官長は、伝令の神官を部屋から出すまでその言葉をやっとのことで飲み込んでいたが、一人になると、脱力して椅子に崩れ落ちるようにしながらそうつぶやいていた。
これはやはり、何か恐ろしいことの前触れなのではないか。そう思うのと同時に、シャンタルにそのような恐れ多い気持ちを抱くのは天に疑念を持つのと同じこと、どのような罰が下ってもおかしくはない、そんな気持ちにもなる。
「一体、これから何が起こるのか……」
心臓が恐ろしいぐらい早く打ち、こめかみから汗が流れてきた。
だが、それほど恐れたにも関わらず、宮では何事もなかったかのように、いつものように日は過ぎ、粛々と交代がなされ、異様の次代様は当代シャンタルとなられた。
何事もなく日が過ぎますように。神官長は毎日ひたすらそう祈り続けた。そしてその不安を払拭するように、銀の髪、褐色の肌、緑の瞳を持つシャンタルは次々と奇跡を起こす。
「まさかこんな季節に暖かい王都にあんなに雪が降るなんてな」
「ああ、だがシャンタルの託宣で何事もなく乗り切ることができた」
記録にもなかったほどの大雪が王都に降った。だがシャンタルの「雪に備えよ」との託宣に従って備えていたために、ほとんど被害はなかった。
その日から民たちは当代を「黒のシャンタル」と呼び始め、深く信頼していく。そして「黒のシャンタル」はその信頼に答えるように、次から次へと現実的な託宣を行い、国を、民を潤していった。
そしてシャンタルが成長なさるに連れ、神官長の心の中の不安の雲も次第に薄れ、あれはかえって吉兆であったのではないかと思えるようになり、落ち着いた安定した日々を送れるようになっていた。二代続いて同じ親御様であったのは、そのためであったのだろうと、自分のあの頃の気持ちは杞憂であったのだと、思い出して一人で笑えるほどに。
そうして神官長は平和な日々を送り、また交代の時期を迎え、そしてまたあり得ないことが起きた。
「まさか、また同じ親御様が……」
その両親の名を聞いて愕然とした。
まさか、2人が同じ両親から生まれることですら前例がないのに3人が続けて。
神官長は不安に思わないことはなかったものの、前回、つまり当代のこともあり、
「今回もまた天の配剤であろう」
そう自分に言い聞かせた。
何も恐れることはない。
何も不安になることはない。
心配のし過ぎなのだ。
そうして心穏やかに、少しばかり遠い場所におられる親御様のお迎えに行く神官を選任し、選ばれた衛士と共に使いに立てた。前回は王都であったので高齢の、この後は一線を退いて静かに時を過ごすばかりの神官を選んだが、今回はまだ若く、長旅に耐えられる者を選んだ。なぜ親御様が王都からそんな遠い地に引っ越されたかは分からないが、お父上は職人だ、何か仕事の都合でもあったのだろう。
そうして親御様の到着を待っていると、思いもかけない知らせが届いた。
「親御様とお父上が姿を消されました」
神官を置いて衛士が一人で早馬を飛ばしてそう知らせてきたのだ。
「馬鹿な……」
シャンタルの、女神の親と選ばれた者が姿をくらますなど聞いたことがない。
「親御様となるのは名誉なことだ、なぜそんなことを」
衛士長のヴァクトが急いで親御様のおられた村へ飛んでいき、事実を確認して戻ってきた。
「確かなようです」
表沙汰にならぬように密かに調べさせたところ、お父上が職人として働いていた工房に、今まで世話に成ったことへの礼と、事情があってこの村を去るとの説明、それからやりかけの仕事を残して申し訳ないとの詫びを書いた手紙が工房に残してあり、家はもぬけの殻だったようだ。
「どうするのです」
このまま親御様が見つからなかったら、もしも宮の外で次代様がご誕生になるようなことになったらどうなるのか。想像もできなかった。
「とにかく、そのような二人連れを見かけなかったか衛士たちに調べさせる。理由を話さずに地方の憲兵たちにも王都からの命令として調べさせている」
神殿からも尋ね人として国中の神殿に見つけたら連絡するようにとの触れを出し、やきもきしながら報告を待った。
そんな時だ、また新たな託宣があった。
「嵐の夜、助け手が西の海岸に現れる」
こともあろうにそんな何がなんだか分からない託宣があり、今度はその託宣の「解読」のために、識者を集めて相談をすることとなった。
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