257 / 488
第四章 第二部
7 通りすがりの疑問
しおりを挟む
「それで、あんたはこれからどうします?」
ハリオが静かにそう聞いた。
「どうって……」
「もう聞きたい話は聞いたし、帰ってもらっていいんですが」
「え!」
アーリンが驚いてそう言うが、ハリオがアーリンに頷いて黙るように目配せして続けた。
「さっきも言いましたが、どういう話があるのか、なんでそうなってるのか聞きたかっただけで、俺らはあんたや、あんたにそういうことやらしてる人をどうこうってのはないんですよ」
「…………」
男はハリオの申し出に少しばかり考え込んでいるようだったが、
「てっきり、あんたらは衛士とか憲兵とか、もしかしたら月虹兵で、この後は仲間が俺を捕まえに来るのだとばっかり思っていた」
そう言った。
「いや、違いますよ」
きっぱりとハリオが否定する。そのことにアーリンが黙ったまま驚く。
「だから、このまま帰ってもいいし、もう時間も遅いからそのままここで朝までいてくれてもいいし、どうします? って、そんなこと言う俺もここにお世話になる居候の身の上ですが」
男はしばらく黙って考えていたが、
「朝まで世話になります」
そう言って頭を下げた。
「そうですか。そんじゃ、この人も泊めてあげてもいいですよね? 事後承諾になっちまったけど」
「あ、ああ、それは構いません」
そう話が決まり、2階の部屋に男が、1階の寝室にハリオとアーリンが寝ることにした。
「まだ借りると決まったばかりで何もないけど」
アーリンがそう言って、手元にあった少しばかりの食べ物を3人で分けて食べ、それぞれの部屋に入って朝までその後は何も話さずに寝てしまった。
翌朝、ハリオとアーリンに頭を下げると男はどこかに消えていった。
「よかったんですか?」
「何が?」
「何がって、あのまま行かせてしまって」
アーリンが不服そうにハリオに言う。
「だって、おたくの隊長、ダルさんが、どうしてそんなことをしたかだけ分かればいいって」
「いや、それは言ってましたが」
ハリオは知っている。ダルたちがもう予測をつけているその相手が神官長であることを。ダルだけではなく同室のアランや他の秘密を共有する者たちからもそう聞いていた。それであまり深く追求してこちらのことがばれてはいけないと、あくまで通りすがりの人間が疑問に思ったことを聞いただけ、までにしておこうとなったのだ。
「命令があったら言われたことだけする、余計なことをして事を荒立てるのは得策じゃないでしょ」
「でも……」
なおアーリンは不服そうに言うが、まあそれも仕方がないことだろう。
「そりゃそうと、あの男は今日もあの噂を広めに広場に行くと思う?」
ハリオがアーリンに質問をして話を変えた。
「うーん、どうでしょうね」
「それとも他の奴が来るか、それを確かめた方がいいよね」
「ああ、まあ、そうですかね」
ということで2人は今日も昨日と同じぐらいの時刻、午後から夕方近くの時刻にあの広場に行くことにした。
「その前にちょっとリルさんにお礼を言いに行きたいんだけど」
ハリオの申し出で2人でオーサ商会に挨拶に行くことにした。
もちろん、途中で道を変えながら、誰かに後を付けられないように気をつけながら。
その上でハリオはリルと2人で話したいとアーリンに部屋から出るようにと頼んだ。
「いや、だめだって! リル姉さんは人妻で、そんで今は身重の体だよ、そんな状態で見知らぬ男と2人で会わせたって知られたら、俺、アロおじさんにどれだけ叱られるか分からないよ! もちろんマルト兄さんにも!」
アーリンはそう必死に主張をしたのだが、
「大丈夫だから出てなさい、大人の話があるんだから」
と、リルの鶴の一声でさっさと部屋の外へ放り出されてしまった。
一応アーリンには、
「宮の侍女のミーヤさんからリルさんに秘密の伝言があるので」
と、それらしい理由はつけておいたが、アーリンはハリオを恨めしそうに見て、いやいや部屋から出ていった。
「ミーヤからの伝言は本当なのかしら」
「ええ、変わりはないか、って」
「まあ、確かに伝言ではあるわね」
リルはハリオの持ってきた「秘密の伝言」に思わずクスッと笑った。
「それで、アーリンを追い出した本当の理由は?」
「いつまたあれがあるか分からないから、機会があればリルさんと2人になってみてほしいとアランが」
「やっぱり優秀ね、あのトーヤのお弟子さんは。私も何か理由をつけてちょっとそういう時間を持った方がいいかもとは思っていたところだったの」
あの空間に呼ばれるのは、全員が揃って集まれる時だけだ。なのでできるだけ揃う機会は逃したくない。まだまだ知りたいことがたくさんある、聞かなければいけないことがたくさんあるだろうから。
「いや、リルさんもさすがです。なんでしょう、すごく肝が座ってて、色々と話をうかがってたリルさんのイメージそのままで頼もしい」
「お褒めにあずかり光栄だわ。でもやっぱり、あまり知らない人のはずのハリオさんと2人きりで部屋で長時間というのは、世間的に問題ありそうね」
リルがこの家から動けない今、宮から出たハリオがここに来るしか方法がなくそうしてみたのだが、結局その時には召喚はなく、ハリオはアーリンともう一度あの広場へ足を向けることになった。
ハリオが静かにそう聞いた。
「どうって……」
「もう聞きたい話は聞いたし、帰ってもらっていいんですが」
「え!」
アーリンが驚いてそう言うが、ハリオがアーリンに頷いて黙るように目配せして続けた。
「さっきも言いましたが、どういう話があるのか、なんでそうなってるのか聞きたかっただけで、俺らはあんたや、あんたにそういうことやらしてる人をどうこうってのはないんですよ」
「…………」
男はハリオの申し出に少しばかり考え込んでいるようだったが、
「てっきり、あんたらは衛士とか憲兵とか、もしかしたら月虹兵で、この後は仲間が俺を捕まえに来るのだとばっかり思っていた」
そう言った。
「いや、違いますよ」
きっぱりとハリオが否定する。そのことにアーリンが黙ったまま驚く。
「だから、このまま帰ってもいいし、もう時間も遅いからそのままここで朝までいてくれてもいいし、どうします? って、そんなこと言う俺もここにお世話になる居候の身の上ですが」
男はしばらく黙って考えていたが、
「朝まで世話になります」
そう言って頭を下げた。
「そうですか。そんじゃ、この人も泊めてあげてもいいですよね? 事後承諾になっちまったけど」
「あ、ああ、それは構いません」
そう話が決まり、2階の部屋に男が、1階の寝室にハリオとアーリンが寝ることにした。
「まだ借りると決まったばかりで何もないけど」
アーリンがそう言って、手元にあった少しばかりの食べ物を3人で分けて食べ、それぞれの部屋に入って朝までその後は何も話さずに寝てしまった。
翌朝、ハリオとアーリンに頭を下げると男はどこかに消えていった。
「よかったんですか?」
「何が?」
「何がって、あのまま行かせてしまって」
アーリンが不服そうにハリオに言う。
「だって、おたくの隊長、ダルさんが、どうしてそんなことをしたかだけ分かればいいって」
「いや、それは言ってましたが」
ハリオは知っている。ダルたちがもう予測をつけているその相手が神官長であることを。ダルだけではなく同室のアランや他の秘密を共有する者たちからもそう聞いていた。それであまり深く追求してこちらのことがばれてはいけないと、あくまで通りすがりの人間が疑問に思ったことを聞いただけ、までにしておこうとなったのだ。
「命令があったら言われたことだけする、余計なことをして事を荒立てるのは得策じゃないでしょ」
「でも……」
なおアーリンは不服そうに言うが、まあそれも仕方がないことだろう。
「そりゃそうと、あの男は今日もあの噂を広めに広場に行くと思う?」
ハリオがアーリンに質問をして話を変えた。
「うーん、どうでしょうね」
「それとも他の奴が来るか、それを確かめた方がいいよね」
「ああ、まあ、そうですかね」
ということで2人は今日も昨日と同じぐらいの時刻、午後から夕方近くの時刻にあの広場に行くことにした。
「その前にちょっとリルさんにお礼を言いに行きたいんだけど」
ハリオの申し出で2人でオーサ商会に挨拶に行くことにした。
もちろん、途中で道を変えながら、誰かに後を付けられないように気をつけながら。
その上でハリオはリルと2人で話したいとアーリンに部屋から出るようにと頼んだ。
「いや、だめだって! リル姉さんは人妻で、そんで今は身重の体だよ、そんな状態で見知らぬ男と2人で会わせたって知られたら、俺、アロおじさんにどれだけ叱られるか分からないよ! もちろんマルト兄さんにも!」
アーリンはそう必死に主張をしたのだが、
「大丈夫だから出てなさい、大人の話があるんだから」
と、リルの鶴の一声でさっさと部屋の外へ放り出されてしまった。
一応アーリンには、
「宮の侍女のミーヤさんからリルさんに秘密の伝言があるので」
と、それらしい理由はつけておいたが、アーリンはハリオを恨めしそうに見て、いやいや部屋から出ていった。
「ミーヤからの伝言は本当なのかしら」
「ええ、変わりはないか、って」
「まあ、確かに伝言ではあるわね」
リルはハリオの持ってきた「秘密の伝言」に思わずクスッと笑った。
「それで、アーリンを追い出した本当の理由は?」
「いつまたあれがあるか分からないから、機会があればリルさんと2人になってみてほしいとアランが」
「やっぱり優秀ね、あのトーヤのお弟子さんは。私も何か理由をつけてちょっとそういう時間を持った方がいいかもとは思っていたところだったの」
あの空間に呼ばれるのは、全員が揃って集まれる時だけだ。なのでできるだけ揃う機会は逃したくない。まだまだ知りたいことがたくさんある、聞かなければいけないことがたくさんあるだろうから。
「いや、リルさんもさすがです。なんでしょう、すごく肝が座ってて、色々と話をうかがってたリルさんのイメージそのままで頼もしい」
「お褒めにあずかり光栄だわ。でもやっぱり、あまり知らない人のはずのハリオさんと2人きりで部屋で長時間というのは、世間的に問題ありそうね」
リルがこの家から動けない今、宮から出たハリオがここに来るしか方法がなくそうしてみたのだが、結局その時には召喚はなく、ハリオはアーリンともう一度あの広場へ足を向けることになった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる