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第四章 第一部 最後のシャンタル

14 神世の話の真実

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『ミーヤ、アーダ、リル、創世記そうせいきを』

「え?」

 ミーヤが驚いてアーダと、そして本当は離れたところにいるリルに目を向ける。

「おみすればいいということかしらね」

 こういう時一番反応が早いのはやはりリルだ。

「そうなのでしょうか」

『その通りです』

 ミーヤの問いに光が答える。
 3人の侍女が顔を見合わせ、そして宮で経典を読む時のように声を合わせて唱和した。



 最初はじめに神ありき

 神、その身を分かちて光と闇となす

 光と闇の合わすところより時が流れ、この世は始まる

 この世の始まりより全てのものが生まれ、人もまた生まれる



「な、なんなんだよ」

 ベルがきょとんとしてぼそっと言う。

「創世記、この世の始まりの話だよ。ベルも勉強の最初にやったけど覚えてない?」
「いや、知ってる。なんとなくは覚えてるけどさ、なんでそれここでやんなきゃなんないんだよ」

 シャンタルの言葉にベルがちょっとげんなりしたように続ける。

「思い出したんだけどさ、トーヤが八年前の話するって言った時も長い話になる、神様がいた頃の話だっつーから、長すぎんだろうがってムカついたんだった」
「そうだったね」

 シャンタルが思い出して思わず軽く吹き出す。

「まあ結局はそこが全部の始まりってことになるんだろうよ。けど、ますます長くなるからとりあえずおまえちょっと黙ってろ」

 トーヤも少し笑いながらそう言ってベルを止める。

「んで、その長い話がなんだって?」
 
 ベルから移した視線、光に向かってそう言う視線は冷たく厳しい。

『続けてください』

 光の言葉に3人の侍女が続きをうたう。



 この世のすべては創生そうせいの神より生まれしもの
 
 神より生まれし光と闇より生まれしもの

 始まりの時、光は純粋な光、闇は純粋な闇なり

 光と闇の誕生より時が流れ始め、この世が流れ始める

 時の流れと共に新たなる生命いのち生まれ、この世は生命で満つ


「なあ」

 トーヤが難しい顔をして詠唱を止めた。

「それ、そういうの詳しくない俺でもなんとなく知ってる話なんだが、もしかして、この話が本当のことだって言いたいのか?」

『その通りです』

「へえ……」

 経典きょうてんに書かれている物語だとばかり思っていた話が事実であると聞き、トーヤはどう返事をしていいのかよく分からない。

「ま、まあいいや。そんでどうした」

 トーヤがうながし、侍女たちが詠う。



 この世に生まれし全ては光と闇の子なり

 子らには純粋な光も純粋な闇もなく、光と闇を合わせ持つ

 光は薄れ、闇も薄れる

 善と悪混じり、正義と不義となり争いと戦いを生む

 神と人相混あいまじり、相争あいあらそい、地は荒れ果て、悲しみと怨嗟えんさに満つ



「ちょい待ち」

 トーヤの言葉に侍女たちの詠唱がまた止まる。

「ちょっと気になったんだが、その『子』ってのはもしかして、あんたら神様も入ってんのか?」

『その通りです』

「やっぱそうか。じゃあ光の神様、アルディナと、闇の神様はなんっつーたっけな」
「ドルカスです」

 トーヤの問いにミーヤが答える。

「そうそう、それ。そのアルディナとドルカスってのが最初に生まれたってことだな」

『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』

「ええ、ええ、そうでしょうとも」

 おいおい、お得意のが出たよ、とトーヤがやや諦めたようにそう言った。

「どう違うんだ、光と光の神様、闇と闇の神様は」

『完全なる光から生まれた神がアルディナ、完全なる闇から生まれた神がドルカスです』

「う~ん……」

 トーヤが目をつぶって首をひねる。

「ってことは、光の神様も闇の神様も純粋じゃないって風に聞こえるんだが」

『その通りです』

 詠唱を止め、光がトーヤの質問にさらに答える。

『光の女神アルディナは純粋なる光から生まれし光をべる女神、闇の男神おがみドルカスは純粋なる闇から生まれし闇を統べる男神。神が光や闇そのものではないのです』

「つまり光が親でその子どもがアルディナって感じになるのか?」

『そう言えるのかも知れません』

「あれ、なんか返事変わったな。まあいい、こっちの方がなんとなくすっきりする。そんじゃあ続けてくれ」

 トーヤに促され侍女3人が続ける。



 しかばねの山、血の河の流れに大地は膿む

 この世の果てまで死屍ししを踏み進むは無益なり

 神は神、人は人としてこの先の時を進まん

 斯くして神は神の世に、人は人の世にと天と大地分かれる



『そこまででよろしい』

 光の声に3人の侍女は詠唱を終えた。

『創世記の序章です』

「最初の最初の話ってことだな。まあ俺があの時にアランとべルに話したのと同じ話だ」

『神は神の世に、人は人の世にてこの先の時を進む。そう決めてこの世は分かたれました』

「そこな」

 トーヤが指摘するように言う。

「俺は神様は神様の世界に帰って人はこの世界に残った、そう思ってたんだが、その時に神様の世界と人の世界に分かれたってのが本当ってことなのか?」

『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』

「戻った……」

 トーヤがまたげんなりした顔になる。

「そんじゃ今回は俺も言わせてもらう。そうだと言えるところと言えないところ教えてくれねえかな」

『いいでしょう』

 光がなんとなく楽しそうに言ったようにトーヤには聞こえて、チッと一つ舌打ちをした。
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