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第四章 第一部 最後のシャンタル
7 祖父の姉
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「親御様がどこの誰かはいつも一応秘密にはされる。だがな、わしは当代と先代の親御様についてある話を聞いたことがある。嘘か本当かは分からんがな」
そう前置きをしてからダルの祖父、カースの村長は話を始めた。
「わしの姉という人がリュセルスで産婆をしておった。腕のいい産婆でな、選ばれて代々の次代様を取り上げるために宮へ呼ばれるほどじゃった」
「へえ、そりゃまあえらいもんじゃねえか!」
取り上げる相手はただの赤子ではない、神だ、次世代の神なのだ。少しの間違いがあってもいけない、その選抜にどれほど神経を使っているかは想像するに難くない。それを「代々の」と言うのだから1回だけではなかったのだろう。腕のほどが分かるというものだ。
「まあな、誉れなことじゃったよ。そしてその姉の弟子だったのがナスタじゃ。姉に付いてここに出入りするうちにサディと好き合うようになってそういうことになっとる」
「へえ」
思わぬダルの両親の馴れ初め話にトーヤがニヤリとする。
「親父さんやるじゃねえかよ」
「そうじゃな、我が息子ながら女を見る目があったのだけは褒めてやってもええかの」
村長がトーヤの言葉に楽しそうに笑う。
「そんで、おっかさんは産婆をやめて漁師の嫁になったってわけか」
「いや、今も村で子ども生まれる時はほとんどナスタが取り上げとる」
「へえ、そうなのか」
「ああ、師匠が師匠だけに腕がよくての。そのへんの医者なんぞ足元にも及ばんわ」
「そらまたびっくりだ」
「そういうわけでな、姉は次代様がお生まれになる頃になると弟子たちに後を任せて宮へ呼ばれておったんだが、当代がお生まれになった後、宮でシャンタル付きをすることになった」
「なんだって?」
トーヤが真剣に驚く。
「シャンタル付きって宮でも結構なベテランでないとできねえんじゃねえの? ミーヤやリルなんて奥宮に入ることもできねえらしいぞ」
「ああ、そうじゃ」
「それがいくら腕がいいっても、外の人間をシャンタル付きって、そりゃ普通じゃねえな」
「ああ、そりゃもう驚いた。宮から姉の手で手紙が一通来てな、シャンタル付きになったのでリュセルスの家は弟子たちに任せる、とだけあった」
「そんだけかよ」
「ああ、詳しい事情とかは一切なくそれだけじゃ。それで何回か宮へ面会を申し込んだが会わせてはもらえなんだ」
「なんだよそりゃ」
トーヤが嫌そうに顔を顰める。
「なんぼ宮がえらいっても、人一人、そんな簡単にもらいます、ああそうですか、てなことねえだろうがよ」
「外から来たおまえからするとそうかも知れんな。じゃが、わしらはそういう気持ちもありながらも、やはり宮は絶対じゃ、宮がそう言うのならと受け入れて姉とはそれから連絡が取れんようになってしもうた。リュセルスの家は弟子の一人に譲って今もそこで産婆をやっておる」
「へえ」
言われてもトーヤはなんとも不愉快そうな顔のままだ。
「それが五年前のことじゃ、宮から連絡が来てな、姉が体を悪くして宮を辞したいと言っておる、と」
「はあ?」
トーヤが不愉快を通り越して凶悪な目つきになる。
「勝手に閉じ込めて、そんで病気になったらいらなくなったから返すだあ? 身勝手にもほどがあるぜ!」
「いやいや、違うんじゃ」
村長が苦笑しながらトーヤをなだめる。
「姉は入る時に誓いを立てたようなもんでな、本当ならたとえ亡くなっても宮から出ることはできんはずが、まあ入った時の事情も事情、元は世俗の出、侍女とは少し違うということで特別に許されて戻れたらしい」
「本当かよ、それ」
「ああ、姉本人から聞いたんで間違いない。姉自身も戻るつもりがなかったものの、いざそうなってみるとあまりに急な宮入りで家族との別れも済ませておらん。せめて家族との別れをの時を、と許されたそうじゃ」
「そうか、そんならしょうがねえ許してやるよ」
「誰をじゃ」
村長はまだすねたままの顔のトーヤに笑いながらそう言った。
「まあ、そういうわけでな、姉は宮からこの村に送り届けられ、この村で亡くなったわけじゃ」
「へえ~」
「そうすねるな。それで亡くなる前日のことじゃ、話がある、そう言うてわしだけを枕元に呼んであることを話してくれた」
「なんだよ」
「姉がシャンタル宮に留まることになった理由じゃよ」
「へえ」
「姉が言うには、マユリアをご出産なされた親御様と、今のシャンタル、黒のシャンタルをご出産なされた親御様が同一人物だ、とのことじゃった」
「は?」
あまりに想像もしなかった言葉にトーヤはただただ驚くばかりだ。
「えっとだな、そういうことはよくあるのか? 二代続けて同じ親からってのは」
「分からん。何しろ親御様がどこの方かを知らせることはないからの」
「ああそっか。じゃあ、そういうこともあり得るってことか」
「まあな。じゃが、当代は」
そうだ。当代のあの容姿、シャンタリオ人にはあるはずのない銀の髪、褐色の肌、そして深い深い緑の瞳、それは一体どういう……
「ちょ、ちょっと待てよ、じゃあ……」
「しっ」
村長は口に出してはいけないこと、禁忌のようなこととしてトーヤを止める。
「だから不思議じゃと言うておる、恐れておる」
これが当時トーヤが村長から聞いた親御様の秘密であった。
そう前置きをしてからダルの祖父、カースの村長は話を始めた。
「わしの姉という人がリュセルスで産婆をしておった。腕のいい産婆でな、選ばれて代々の次代様を取り上げるために宮へ呼ばれるほどじゃった」
「へえ、そりゃまあえらいもんじゃねえか!」
取り上げる相手はただの赤子ではない、神だ、次世代の神なのだ。少しの間違いがあってもいけない、その選抜にどれほど神経を使っているかは想像するに難くない。それを「代々の」と言うのだから1回だけではなかったのだろう。腕のほどが分かるというものだ。
「まあな、誉れなことじゃったよ。そしてその姉の弟子だったのがナスタじゃ。姉に付いてここに出入りするうちにサディと好き合うようになってそういうことになっとる」
「へえ」
思わぬダルの両親の馴れ初め話にトーヤがニヤリとする。
「親父さんやるじゃねえかよ」
「そうじゃな、我が息子ながら女を見る目があったのだけは褒めてやってもええかの」
村長がトーヤの言葉に楽しそうに笑う。
「そんで、おっかさんは産婆をやめて漁師の嫁になったってわけか」
「いや、今も村で子ども生まれる時はほとんどナスタが取り上げとる」
「へえ、そうなのか」
「ああ、師匠が師匠だけに腕がよくての。そのへんの医者なんぞ足元にも及ばんわ」
「そらまたびっくりだ」
「そういうわけでな、姉は次代様がお生まれになる頃になると弟子たちに後を任せて宮へ呼ばれておったんだが、当代がお生まれになった後、宮でシャンタル付きをすることになった」
「なんだって?」
トーヤが真剣に驚く。
「シャンタル付きって宮でも結構なベテランでないとできねえんじゃねえの? ミーヤやリルなんて奥宮に入ることもできねえらしいぞ」
「ああ、そうじゃ」
「それがいくら腕がいいっても、外の人間をシャンタル付きって、そりゃ普通じゃねえな」
「ああ、そりゃもう驚いた。宮から姉の手で手紙が一通来てな、シャンタル付きになったのでリュセルスの家は弟子たちに任せる、とだけあった」
「そんだけかよ」
「ああ、詳しい事情とかは一切なくそれだけじゃ。それで何回か宮へ面会を申し込んだが会わせてはもらえなんだ」
「なんだよそりゃ」
トーヤが嫌そうに顔を顰める。
「なんぼ宮がえらいっても、人一人、そんな簡単にもらいます、ああそうですか、てなことねえだろうがよ」
「外から来たおまえからするとそうかも知れんな。じゃが、わしらはそういう気持ちもありながらも、やはり宮は絶対じゃ、宮がそう言うのならと受け入れて姉とはそれから連絡が取れんようになってしもうた。リュセルスの家は弟子の一人に譲って今もそこで産婆をやっておる」
「へえ」
言われてもトーヤはなんとも不愉快そうな顔のままだ。
「それが五年前のことじゃ、宮から連絡が来てな、姉が体を悪くして宮を辞したいと言っておる、と」
「はあ?」
トーヤが不愉快を通り越して凶悪な目つきになる。
「勝手に閉じ込めて、そんで病気になったらいらなくなったから返すだあ? 身勝手にもほどがあるぜ!」
「いやいや、違うんじゃ」
村長が苦笑しながらトーヤをなだめる。
「姉は入る時に誓いを立てたようなもんでな、本当ならたとえ亡くなっても宮から出ることはできんはずが、まあ入った時の事情も事情、元は世俗の出、侍女とは少し違うということで特別に許されて戻れたらしい」
「本当かよ、それ」
「ああ、姉本人から聞いたんで間違いない。姉自身も戻るつもりがなかったものの、いざそうなってみるとあまりに急な宮入りで家族との別れも済ませておらん。せめて家族との別れをの時を、と許されたそうじゃ」
「そうか、そんならしょうがねえ許してやるよ」
「誰をじゃ」
村長はまだすねたままの顔のトーヤに笑いながらそう言った。
「まあ、そういうわけでな、姉は宮からこの村に送り届けられ、この村で亡くなったわけじゃ」
「へえ~」
「そうすねるな。それで亡くなる前日のことじゃ、話がある、そう言うてわしだけを枕元に呼んであることを話してくれた」
「なんだよ」
「姉がシャンタル宮に留まることになった理由じゃよ」
「へえ」
「姉が言うには、マユリアをご出産なされた親御様と、今のシャンタル、黒のシャンタルをご出産なされた親御様が同一人物だ、とのことじゃった」
「は?」
あまりに想像もしなかった言葉にトーヤはただただ驚くばかりだ。
「えっとだな、そういうことはよくあるのか? 二代続けて同じ親からってのは」
「分からん。何しろ親御様がどこの方かを知らせることはないからの」
「ああそっか。じゃあ、そういうこともあり得るってことか」
「まあな。じゃが、当代は」
そうだ。当代のあの容姿、シャンタリオ人にはあるはずのない銀の髪、褐色の肌、そして深い深い緑の瞳、それは一体どういう……
「ちょ、ちょっと待てよ、じゃあ……」
「しっ」
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