218 / 488
第三章 第四部 女神の秘密
11 嘘のつきかた
しおりを挟む
「へ、俺がですか?」
ミーヤからアーリンと一緒にあの噂を流していたらしい男のことを探ってほしい、そう言われてハリオが目をぱちくりとする。
「はい、お願いできないでしょうか」
「って、えっと船長……」
ハリオが困ったようにディレンを見るが、
「手伝ってやったらどうだ」
「分かりました」
と、船長命令には即答で、力を貸してくれることになった。
「ハリオさんが宮から出られてリュセルスをうろうろできるようになるってことにもなりますね」
「そうだな、少し動きが取りやすくなるかもな。けど、その割にはなんか気にいらないって顔してるな」
「そうですか?」
「何がひっかかる」
「いや、ひっかかるわけじゃないんですよ」
アランが苦笑しながらそう答える。
「ただ、あの光がなんでハリオさんとアーダさんも一緒にあそこに呼んだのかの答えが出たような気がして、なんとなーくね」
「ああ」
言われてみれば確かにそうだった。
「トーヤがよく言ってたんです、そういうことがあるって。そんで、もう慣れたって。俺も慣れたような気がして、それがなんとなーく気にいらねえ、って感じですか」
いつも冷静なアランが心底嫌そうにそう言うのにディレンも苦笑した。
「そういうの承知でトーヤに付いてこっち来たんだし、覚悟の上のつもりだったんです。けど、実際そうなると、なんかなーんかね」
「まあ気持ちはなんとなく分かる。運命とか神様ってのに好き勝手されてるような気がするんだな」
「そうことです。でもまあ、とりあえず、博打の好きな神様との勝負に勝たねえと」
「なんだそりゃ」
「これもトーヤが言ってたんです、あっちはいっつもギリギリの勝負を仕掛けてきてるんだって。こっちもそれに、ああそうなったかって甘く構えてたら勝負に負ける、考えろって」
「ふむ」
「だから、ハリオさんが外出て動きやすくなった、よかったなあ、じゃないんです。これにもきっと何か意味があるはず」
部屋の中がしんと静まる。心なしかハリオの顔色が悪くなったように見える。
「まあな」
ディレンがそんな中で口を開いた。
「確かに考えることは必要だが、とりあえずは今分かってることで判断するしかなかろう」
「それはそうです」
「ってことでだ、ハリオがどうすりゃいいかを考えるか。まず、おまえとアーダさんは何も知らん、それで通す、分かったな」
「分かりました」
「なんか、それが今一番大事な気がする」
「俺もです」
ディレンの予感にアランもうなずく。
そうして、ハリオは何があってもただ好意で月虹隊に力を貸すだけ、それで通すことを決めた。
「ですが、アーダ様は」
ミーヤが心配そうに言う。
「そうですよね、俺らは知らぬ存ぜぬって嘘つけるけど、侍女の人はそれ、むずかしいんですよね」
「はい」
「そんじゃ、次はアーダさんがどうして乗り切れるかを考えますか」
「そうだな」
今、この部屋にいるのはアラン、ディレン、ハリオ、そして当番の侍女ミーヤの4人だ。ダルはアーリンと一緒に月虹兵の控室にいると言伝があった。
「おそらく、キリエ様の様子から何かあるのではないかと思ったのではないかと思います」
「普通の人の顔して、あの人も結構やりますよね。トーヤの話聞いてた時から、ただのいい人じゃないような気はしてましたけど」
「普通の人の顔って」
アランの言い方に張り詰めていたようなハリオが思わず笑った。
「でも、そうですよね、あんな話聞いたらそう思うしかないです」
「そうだな」
「リルさんもすごいし」
「そうだな」
ディレンの答えは言葉が同じでなんとなく響きが違った。
「すごいですよね」
「うむ」
同じ会話が繰り返されたが、もちろんリルのことだ。
「アーダさんがあれぐらいだったらなあ」
「無茶言うな」
「だけど、本当、どうしてあげたらいいのか」
「あの」
ミーヤが思いついたことを言う。
「侍女は確かに嘘はつけません。それで、どうしても言えないことには沈黙を貫くしかないんです」
「そう言ってましたね」
「ええ。八年前に、マユリアやラーラ様、そしてキリエ様もそうして苦しんでいらっしゃいました」
「じゃあ、それでいこうってことですか?」
「そうなんですが」
「うーん、でもなあ」
アランが腕を組んで考える。
「アーダさん、ちょっと気が弱そうだからなあ。それでいけるかなあ」
「そうなんです。それで、ちょっと思いついたことが」
「なんです?」
「アーダ様は何も知らずにエリス様の世話係になられたんです。それがこんなことになってしまって、少し気持ちが不安定になってらっしゃいました。それを逆に利用できないでしょうか」
「逆に利用?」
「はい」
ミーヤが厳しい顔で続ける。
「沈黙を貫くことは難しくとも、怯えていただくことならできるのではと」
「ああ」
アランも合点がいったという感じでうなずく。
「なるほど、知らん顔はできなくても、怖がることならやってもらえるかも知れませんね」
「はい」
「それはそれでなかなか難しいかも知れませんが、まだいけるかも」
「はい」
「じゃあ、ミーヤさんが控室に戻ったら、アーダさんにはこっち来てもらってください」
「お願いいたします」
そう話は決まり、アーダも「それならばできるかも」と承諾をした。
ミーヤからアーリンと一緒にあの噂を流していたらしい男のことを探ってほしい、そう言われてハリオが目をぱちくりとする。
「はい、お願いできないでしょうか」
「って、えっと船長……」
ハリオが困ったようにディレンを見るが、
「手伝ってやったらどうだ」
「分かりました」
と、船長命令には即答で、力を貸してくれることになった。
「ハリオさんが宮から出られてリュセルスをうろうろできるようになるってことにもなりますね」
「そうだな、少し動きが取りやすくなるかもな。けど、その割にはなんか気にいらないって顔してるな」
「そうですか?」
「何がひっかかる」
「いや、ひっかかるわけじゃないんですよ」
アランが苦笑しながらそう答える。
「ただ、あの光がなんでハリオさんとアーダさんも一緒にあそこに呼んだのかの答えが出たような気がして、なんとなーくね」
「ああ」
言われてみれば確かにそうだった。
「トーヤがよく言ってたんです、そういうことがあるって。そんで、もう慣れたって。俺も慣れたような気がして、それがなんとなーく気にいらねえ、って感じですか」
いつも冷静なアランが心底嫌そうにそう言うのにディレンも苦笑した。
「そういうの承知でトーヤに付いてこっち来たんだし、覚悟の上のつもりだったんです。けど、実際そうなると、なんかなーんかね」
「まあ気持ちはなんとなく分かる。運命とか神様ってのに好き勝手されてるような気がするんだな」
「そうことです。でもまあ、とりあえず、博打の好きな神様との勝負に勝たねえと」
「なんだそりゃ」
「これもトーヤが言ってたんです、あっちはいっつもギリギリの勝負を仕掛けてきてるんだって。こっちもそれに、ああそうなったかって甘く構えてたら勝負に負ける、考えろって」
「ふむ」
「だから、ハリオさんが外出て動きやすくなった、よかったなあ、じゃないんです。これにもきっと何か意味があるはず」
部屋の中がしんと静まる。心なしかハリオの顔色が悪くなったように見える。
「まあな」
ディレンがそんな中で口を開いた。
「確かに考えることは必要だが、とりあえずは今分かってることで判断するしかなかろう」
「それはそうです」
「ってことでだ、ハリオがどうすりゃいいかを考えるか。まず、おまえとアーダさんは何も知らん、それで通す、分かったな」
「分かりました」
「なんか、それが今一番大事な気がする」
「俺もです」
ディレンの予感にアランもうなずく。
そうして、ハリオは何があってもただ好意で月虹隊に力を貸すだけ、それで通すことを決めた。
「ですが、アーダ様は」
ミーヤが心配そうに言う。
「そうですよね、俺らは知らぬ存ぜぬって嘘つけるけど、侍女の人はそれ、むずかしいんですよね」
「はい」
「そんじゃ、次はアーダさんがどうして乗り切れるかを考えますか」
「そうだな」
今、この部屋にいるのはアラン、ディレン、ハリオ、そして当番の侍女ミーヤの4人だ。ダルはアーリンと一緒に月虹兵の控室にいると言伝があった。
「おそらく、キリエ様の様子から何かあるのではないかと思ったのではないかと思います」
「普通の人の顔して、あの人も結構やりますよね。トーヤの話聞いてた時から、ただのいい人じゃないような気はしてましたけど」
「普通の人の顔って」
アランの言い方に張り詰めていたようなハリオが思わず笑った。
「でも、そうですよね、あんな話聞いたらそう思うしかないです」
「そうだな」
「リルさんもすごいし」
「そうだな」
ディレンの答えは言葉が同じでなんとなく響きが違った。
「すごいですよね」
「うむ」
同じ会話が繰り返されたが、もちろんリルのことだ。
「アーダさんがあれぐらいだったらなあ」
「無茶言うな」
「だけど、本当、どうしてあげたらいいのか」
「あの」
ミーヤが思いついたことを言う。
「侍女は確かに嘘はつけません。それで、どうしても言えないことには沈黙を貫くしかないんです」
「そう言ってましたね」
「ええ。八年前に、マユリアやラーラ様、そしてキリエ様もそうして苦しんでいらっしゃいました」
「じゃあ、それでいこうってことですか?」
「そうなんですが」
「うーん、でもなあ」
アランが腕を組んで考える。
「アーダさん、ちょっと気が弱そうだからなあ。それでいけるかなあ」
「そうなんです。それで、ちょっと思いついたことが」
「なんです?」
「アーダ様は何も知らずにエリス様の世話係になられたんです。それがこんなことになってしまって、少し気持ちが不安定になってらっしゃいました。それを逆に利用できないでしょうか」
「逆に利用?」
「はい」
ミーヤが厳しい顔で続ける。
「沈黙を貫くことは難しくとも、怯えていただくことならできるのではと」
「ああ」
アランも合点がいったという感じでうなずく。
「なるほど、知らん顔はできなくても、怖がることならやってもらえるかも知れませんね」
「はい」
「それはそれでなかなか難しいかも知れませんが、まだいけるかも」
「はい」
「じゃあ、ミーヤさんが控室に戻ったら、アーダさんにはこっち来てもらってください」
「お願いいたします」
そう話は決まり、アーダも「それならばできるかも」と承諾をした。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説



もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる