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第三章 第四部 女神の秘密
6 月虹隊長より侍女頭へ
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「ってことになったし、そんじゃ話続けてくれ」
トーヤがそう言うと、光が、
『先ほどの衝撃で場が揺らいでいます。まだ少しの間は大丈夫でしょうが、今日はここまでにいたしましょう』
と言った。
「そうか」
トーヤも大人しくそう言う。
『ここでのことは、この場にいる者だけのことに。他の者には他言無用です』
光はそう言うとゆらりと揺らぐ。
「そんじゃそっちは頼むな!」
急いでそう言うトーヤに、
「ええ、分かりました」
ミーヤが急いでそう答えると、その言葉の向こうにトーヤの姿も揺らいで消えた。
気がつけば元の部屋の中、今、ミーヤの腕の中には倒れるように身を預けているアーダがいた。
「アーダ様」
まだ呆然としてるアーダにミーヤが声をかけた。
「あ、はい」
アーダはさっき見た褐色の肌に流れる美しい銀の髪の持ち主、エリス様と呼ばれていたその人を見た衝撃からまだ立ち直れないでいるようだった。
「本当なら今すぐにも説明してさしあげないといけないのは分かっているのですが、私とダルはすぐにキリエ様のところに行った方がいいと思います」
「え?」
「さっき、あの声がおっしゃっていたこと、あそこでのことはあそこに呼ばれた者だけのことに、と。あの言葉が気にかかります」
本当なら認めたくはないことではあったが、自分の感情でだけ動くわけにはいかないとミーヤは覚悟をしていた。
「あまり長く、この部屋にこの顔ぶれでいない方がいいと思います」
「なるほど、分かりました」
アランがすぐに理解する。
「アーダさんとハリオさんは何も知らない、そうした方がいい、そういうことですね」
「はい。上の方たちには知られぬ方がいいかと思いました」
「なるほど」
ディレンも理解したようだ。
「ダル、行きましょう。アランと船長はできる範囲でお二人にお話を。そしてアーダ様」
ミーヤはまだ視線が泳いでいるアーダの手をしっかりと握り、
「しっかりなさってください。そして、キリエ様とルギ隊長と、それから」
そこまで言うと、もう一度覚悟を決めたようにこう口にした。
「マユリアとラーラ様にも、アーダ様が今度のことに関わっていることを絶対に知られないようになさってください、お願いいたします」
そう言い置いてダルと共に部屋を出ていった。
「ダル、町で聞いた噂をキリエ様に報告するために宮に来たと。そしてアランの部屋には外から来た船長とハリオ様がいらっしゃるので様子を見に来た、そういうことに」
「分かった」
ダルもミーヤの言ったことを理解している。
「キリエ様には月虹隊隊長としての報告に行く」
「ええ」
2人が早足で侍女頭の執務室へ向かい、当番の侍女に取り次ぎを頼むと、それほど待たずにキリエの執務室へと通された。
「お忙しいところを失礼いたします」
ミーヤがそう言い、2人が揃って頭を下げる。
「どうしました」
キリエが自分も立ったまま、2人に頭を上げるようにだけとだけ言って尋ねる。
「はい、ダル隊長がここ数日宮へお入りになれなかったということなのですが、その間、町で聞いた噂をご報告に上がったとこのことでご一緒させていただきました」
今は公式の場である。
月虹兵付きの侍女が侍女頭に月虹隊隊長の用向きを伝えに来た。
キリエもミーヤも、そしてダルもその立場をよく分かっている。
「報告ですか。では、少し落ち着いて聞きましょう」
キリエはそう言って当番の侍女にお茶の用意をさせ、そこでようやく2人に椅子を勧め、自分も上座に腰をかけた。
少しして当番の侍女が持ってきたお茶と茶菓子を置いて下がる。
「報告を」
「はい」
侍女頭に促され、月虹隊隊長が報告を始める。
「一昨日の午後、宮へ参ったところ、いきなり宮は封鎖だと言われて入ることができませんでした。理由を聞いても警護の当番の衛士は何も言えぬとそれしか言いません。仕方なく王都へ戻り、何かあったのではと色々と調べてみたのですが、その時には街は平穏で、何も異常はありませんでした。そして昨日、もう一度宮へ参りましたがやはり入れてもらえず、もう一度また王都を見て回った時に、こんな噂を耳にしました」
「どのような噂です」
「はい」
ダルが一呼吸置いてから言葉を続ける。
「それが、前王陛下が王宮よりお姿を消された、そのような噂でした」
キリエは表情を変えず、黙ってダルの言葉を聞いている。
「以前、街では国王陛下が無理やり前国王陛下をご譲位に追い込み、そのために天変地異が起こっている、天がお怒りだ、そういう噂が流れていました。そして月虹隊にはそのことを宮へ届けてほしい、そんな投書がたくさん届いている、そう報告をいたしました。そのことともしかしたら関係があるのではないか、そう考え、本日参りましたところ、警護隊のルギ隊長にやっと入れてもらうことができました。そして、宮では王宮に不審者が忍び込んだ、それを理由に封鎖を行っていると侍女ミーヤから聞きました。もしや、王宮が探していらっしゃるというのは、前国王陛下ではないのでしょうか」
ダルの質問に侍女頭は何も言わず、黙ったままだ。
トーヤがそう言うと、光が、
『先ほどの衝撃で場が揺らいでいます。まだ少しの間は大丈夫でしょうが、今日はここまでにいたしましょう』
と言った。
「そうか」
トーヤも大人しくそう言う。
『ここでのことは、この場にいる者だけのことに。他の者には他言無用です』
光はそう言うとゆらりと揺らぐ。
「そんじゃそっちは頼むな!」
急いでそう言うトーヤに、
「ええ、分かりました」
ミーヤが急いでそう答えると、その言葉の向こうにトーヤの姿も揺らいで消えた。
気がつけば元の部屋の中、今、ミーヤの腕の中には倒れるように身を預けているアーダがいた。
「アーダ様」
まだ呆然としてるアーダにミーヤが声をかけた。
「あ、はい」
アーダはさっき見た褐色の肌に流れる美しい銀の髪の持ち主、エリス様と呼ばれていたその人を見た衝撃からまだ立ち直れないでいるようだった。
「本当なら今すぐにも説明してさしあげないといけないのは分かっているのですが、私とダルはすぐにキリエ様のところに行った方がいいと思います」
「え?」
「さっき、あの声がおっしゃっていたこと、あそこでのことはあそこに呼ばれた者だけのことに、と。あの言葉が気にかかります」
本当なら認めたくはないことではあったが、自分の感情でだけ動くわけにはいかないとミーヤは覚悟をしていた。
「あまり長く、この部屋にこの顔ぶれでいない方がいいと思います」
「なるほど、分かりました」
アランがすぐに理解する。
「アーダさんとハリオさんは何も知らない、そうした方がいい、そういうことですね」
「はい。上の方たちには知られぬ方がいいかと思いました」
「なるほど」
ディレンも理解したようだ。
「ダル、行きましょう。アランと船長はできる範囲でお二人にお話を。そしてアーダ様」
ミーヤはまだ視線が泳いでいるアーダの手をしっかりと握り、
「しっかりなさってください。そして、キリエ様とルギ隊長と、それから」
そこまで言うと、もう一度覚悟を決めたようにこう口にした。
「マユリアとラーラ様にも、アーダ様が今度のことに関わっていることを絶対に知られないようになさってください、お願いいたします」
そう言い置いてダルと共に部屋を出ていった。
「ダル、町で聞いた噂をキリエ様に報告するために宮に来たと。そしてアランの部屋には外から来た船長とハリオ様がいらっしゃるので様子を見に来た、そういうことに」
「分かった」
ダルもミーヤの言ったことを理解している。
「キリエ様には月虹隊隊長としての報告に行く」
「ええ」
2人が早足で侍女頭の執務室へ向かい、当番の侍女に取り次ぎを頼むと、それほど待たずにキリエの執務室へと通された。
「お忙しいところを失礼いたします」
ミーヤがそう言い、2人が揃って頭を下げる。
「どうしました」
キリエが自分も立ったまま、2人に頭を上げるようにだけとだけ言って尋ねる。
「はい、ダル隊長がここ数日宮へお入りになれなかったということなのですが、その間、町で聞いた噂をご報告に上がったとこのことでご一緒させていただきました」
今は公式の場である。
月虹兵付きの侍女が侍女頭に月虹隊隊長の用向きを伝えに来た。
キリエもミーヤも、そしてダルもその立場をよく分かっている。
「報告ですか。では、少し落ち着いて聞きましょう」
キリエはそう言って当番の侍女にお茶の用意をさせ、そこでようやく2人に椅子を勧め、自分も上座に腰をかけた。
少しして当番の侍女が持ってきたお茶と茶菓子を置いて下がる。
「報告を」
「はい」
侍女頭に促され、月虹隊隊長が報告を始める。
「一昨日の午後、宮へ参ったところ、いきなり宮は封鎖だと言われて入ることができませんでした。理由を聞いても警護の当番の衛士は何も言えぬとそれしか言いません。仕方なく王都へ戻り、何かあったのではと色々と調べてみたのですが、その時には街は平穏で、何も異常はありませんでした。そして昨日、もう一度宮へ参りましたがやはり入れてもらえず、もう一度また王都を見て回った時に、こんな噂を耳にしました」
「どのような噂です」
「はい」
ダルが一呼吸置いてから言葉を続ける。
「それが、前王陛下が王宮よりお姿を消された、そのような噂でした」
キリエは表情を変えず、黙ってダルの言葉を聞いている。
「以前、街では国王陛下が無理やり前国王陛下をご譲位に追い込み、そのために天変地異が起こっている、天がお怒りだ、そういう噂が流れていました。そして月虹隊にはそのことを宮へ届けてほしい、そんな投書がたくさん届いている、そう報告をいたしました。そのことともしかしたら関係があるのではないか、そう考え、本日参りましたところ、警護隊のルギ隊長にやっと入れてもらうことができました。そして、宮では王宮に不審者が忍び込んだ、それを理由に封鎖を行っていると侍女ミーヤから聞きました。もしや、王宮が探していらっしゃるというのは、前国王陛下ではないのでしょうか」
ダルの質問に侍女頭は何も言わず、黙ったままだ。
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