211 / 488
第三章 第四部 女神の秘密
4 神の身、人の身
しおりを挟む
「ラーラ様が、マユリア、女神様……」
脱力したようなリルの声がした。
「ってことはラーラ様は神様ってこと? 普通の人に見えたけど……」
毒気を抜かれたようにベルが静かにそう言う。
『いいえ、ラーラ様と呼ばれる元シャンタルにして元マユリア、その身はすでに人なのです』
「わけ、わっかんねえー!!」
ベルがそう叫んだが、誰も止める者はいない。
「なあ、どういうこったよ! うちのシャンタルもちびシャンタルも、みんなが母さんって思ってるあのラーラ様が本物の女神様って、どういうことなんだよ!」
『神は人になることができます。アイリス女神は知っていますか?』
「あ、うん、トーヤに聞いた。剣士が好きんなって、人の世界に残って国作ったって剣の女神様だよな」
『その通りです』
光がベルを包み込むように優しく震える。
『アイリスは神の身でありましたが人の世に残って人となり、人しての生を終えて今は彼の地で眠りについております』
「えっと……、それ、女神様は人間になって死んだってこと?」
『その通りです』
「やっぱわけわかんね、いで!」
絶叫するベルをトーヤがはたいた。
「いいからちょっと落ち着け。けどおまえのおかげでなんか分かった気がする」
はたいた手でそのままベルの頭を撫でる。
「つまり、ラーラ様の体は元マユリアの体だけど、今はラーラ様って人間の体、普通の人と変わんねえってことだな」
『その通りです』
「分かった」
トーヤが何を考えているのか分からない無表情で静かに言うと、続けて尋ねた。
「そんじゃ、ラーラ様はこの後、普通の人として生きててなんも問題ないってことでいいんだよな?」
答え如何によっては、そんな冷たい目を光に向ける。
『ラーラの今後についてはそのまま、ラーラとして人の時を進むことで何も問題はありません。ですが、誕生の時にやはり多少の問題はありました』
「ほう」
トーヤの目の光は緩まない。
『仮にも神の身を宿すということ、それを可能とする母を探すにはやはり色々な条件を必要としたのです。そうして選ばれた、浮かび出てきたのはリュセルスよりはるか東、シャンタリオの東の端に位置するある町にいた商人の妻でした』
ラーラ様が一度だけ、宮に残って侍女になる、との手紙をやり取りした家族、その母の話である。
『その者はすでにそれなりに長じた6人の子を持つ母でした。とても母性の強い、母たるにふさわしい魂を持つ女性でした。その母は遠い町から長い日数をかけてシャンタル宮へ参り、年の離れた最後の子となるラーラを、高齢故か難産の末に出産いたしました。産後の肥立ちも良くはなく、遠くの故郷に戻るために宮を出るまでにもかなりの月日を要し、やっと故郷に戻った後も、ほとんど寝たり起きたりの状態となりました』
それだけ、人の身で神を産むというのは負担が大きいことであったのか。
『そして完全に健康に戻ることはなく生を終えたので、ラーラの家族は、末の妹が神であることに思うところがあったようです。ラーラは家族と、宮に侍女として残るとの手紙を一通やりとりしただけで、完全に縁が切れています』
「それが多少の問題かよ……」
トーヤの目は冷たい光をたたえたまま。
「人一人、そしてその家族の生活をそんなにまでしても、守らなきゃいけないもんだったのか、それは」
光は悲しそうに瞬くだけで何も答えない。
「まあ、でも、言ってもしゃあないわなあ、あんたら神様と俺ら人はちょっとばかり考え方が違うようだし、ここでうだうだ言ってても時間の無駄だ。続きを頼む」
トーヤの両手がきつく握りしめられているのをみなは見ていた。
『ラーラのことです』
光はゆっくりと続ける。
『その生母ゆえか、それともわたくしと長い年月を共にして、侍女でありながら母のような役割をも果たしてくれてもいたからか、母性がとても強く、シャンタルではなく、マユリアではなく、シャンタルの母という想いの強い人となりました』
「ああ、そうだな」
トーヤも思い出していた。ラーラ様と初めて会った時のあの感覚、まるで自分が小さな子に戻ったように、一生懸命母に話を聞いてもらう子のように話をしたことを。
「確かにラーラ様は母だよ、それ以外のことは思いつかねえ。あの人が神であった、そんなこと思えもしねえ、そんな人だ」
トーヤの言葉にラーラ様を知る者はみなうなずいた。
『マユリアの神としての肉体は、今はラーラという人の肉体としてこの世にあり、そしてその生を終える時には、この地の土に返ります。ラーラはシャンタルの母としてその生を終えることでしょう』
「ってことはだ」
トーヤが感情を出すことなく、淡々と言葉を続ける。
「一度人になっちまったら、その神様はもう神様に戻ることはねえってことだな?」
『その通りです』
「アイリス女神もマユリアも、そんだけの覚悟を持って、神様って自分を捨てて人になった、そういう話がしたかったってことか」
『その通りです』
「んで、そんだけして無理やりシャンタルを産ませたわけだが、その後はどうなった? そんでそれがなんで今につながってる?」
やはり冷たくトーヤが続ける。
脱力したようなリルの声がした。
「ってことはラーラ様は神様ってこと? 普通の人に見えたけど……」
毒気を抜かれたようにベルが静かにそう言う。
『いいえ、ラーラ様と呼ばれる元シャンタルにして元マユリア、その身はすでに人なのです』
「わけ、わっかんねえー!!」
ベルがそう叫んだが、誰も止める者はいない。
「なあ、どういうこったよ! うちのシャンタルもちびシャンタルも、みんなが母さんって思ってるあのラーラ様が本物の女神様って、どういうことなんだよ!」
『神は人になることができます。アイリス女神は知っていますか?』
「あ、うん、トーヤに聞いた。剣士が好きんなって、人の世界に残って国作ったって剣の女神様だよな」
『その通りです』
光がベルを包み込むように優しく震える。
『アイリスは神の身でありましたが人の世に残って人となり、人しての生を終えて今は彼の地で眠りについております』
「えっと……、それ、女神様は人間になって死んだってこと?」
『その通りです』
「やっぱわけわかんね、いで!」
絶叫するベルをトーヤがはたいた。
「いいからちょっと落ち着け。けどおまえのおかげでなんか分かった気がする」
はたいた手でそのままベルの頭を撫でる。
「つまり、ラーラ様の体は元マユリアの体だけど、今はラーラ様って人間の体、普通の人と変わんねえってことだな」
『その通りです』
「分かった」
トーヤが何を考えているのか分からない無表情で静かに言うと、続けて尋ねた。
「そんじゃ、ラーラ様はこの後、普通の人として生きててなんも問題ないってことでいいんだよな?」
答え如何によっては、そんな冷たい目を光に向ける。
『ラーラの今後についてはそのまま、ラーラとして人の時を進むことで何も問題はありません。ですが、誕生の時にやはり多少の問題はありました』
「ほう」
トーヤの目の光は緩まない。
『仮にも神の身を宿すということ、それを可能とする母を探すにはやはり色々な条件を必要としたのです。そうして選ばれた、浮かび出てきたのはリュセルスよりはるか東、シャンタリオの東の端に位置するある町にいた商人の妻でした』
ラーラ様が一度だけ、宮に残って侍女になる、との手紙をやり取りした家族、その母の話である。
『その者はすでにそれなりに長じた6人の子を持つ母でした。とても母性の強い、母たるにふさわしい魂を持つ女性でした。その母は遠い町から長い日数をかけてシャンタル宮へ参り、年の離れた最後の子となるラーラを、高齢故か難産の末に出産いたしました。産後の肥立ちも良くはなく、遠くの故郷に戻るために宮を出るまでにもかなりの月日を要し、やっと故郷に戻った後も、ほとんど寝たり起きたりの状態となりました』
それだけ、人の身で神を産むというのは負担が大きいことであったのか。
『そして完全に健康に戻ることはなく生を終えたので、ラーラの家族は、末の妹が神であることに思うところがあったようです。ラーラは家族と、宮に侍女として残るとの手紙を一通やりとりしただけで、完全に縁が切れています』
「それが多少の問題かよ……」
トーヤの目は冷たい光をたたえたまま。
「人一人、そしてその家族の生活をそんなにまでしても、守らなきゃいけないもんだったのか、それは」
光は悲しそうに瞬くだけで何も答えない。
「まあ、でも、言ってもしゃあないわなあ、あんたら神様と俺ら人はちょっとばかり考え方が違うようだし、ここでうだうだ言ってても時間の無駄だ。続きを頼む」
トーヤの両手がきつく握りしめられているのをみなは見ていた。
『ラーラのことです』
光はゆっくりと続ける。
『その生母ゆえか、それともわたくしと長い年月を共にして、侍女でありながら母のような役割をも果たしてくれてもいたからか、母性がとても強く、シャンタルではなく、マユリアではなく、シャンタルの母という想いの強い人となりました』
「ああ、そうだな」
トーヤも思い出していた。ラーラ様と初めて会った時のあの感覚、まるで自分が小さな子に戻ったように、一生懸命母に話を聞いてもらう子のように話をしたことを。
「確かにラーラ様は母だよ、それ以外のことは思いつかねえ。あの人が神であった、そんなこと思えもしねえ、そんな人だ」
トーヤの言葉にラーラ様を知る者はみなうなずいた。
『マユリアの神としての肉体は、今はラーラという人の肉体としてこの世にあり、そしてその生を終える時には、この地の土に返ります。ラーラはシャンタルの母としてその生を終えることでしょう』
「ってことはだ」
トーヤが感情を出すことなく、淡々と言葉を続ける。
「一度人になっちまったら、その神様はもう神様に戻ることはねえってことだな?」
『その通りです』
「アイリス女神もマユリアも、そんだけの覚悟を持って、神様って自分を捨てて人になった、そういう話がしたかったってことか」
『その通りです』
「んで、そんだけして無理やりシャンタルを産ませたわけだが、その後はどうなった? そんでそれがなんで今につながってる?」
やはり冷たくトーヤが続ける。
0
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ねぇ、それ、誰の話?
春風由実
恋愛
子爵家の三男であるアシェル・イーガンは幼い頃から美しい子どもとして有名だった。
その美貌により周囲の大人たちからは、誰からも愛されて育つ幸福な子どもとして見られてきたが、その実態は真逆。
美しいが故に父親に利用され。
美しいが故に母親から厭われて。
美しいが故に二人の兄から虐げられた。
誰も知らない苦悩を抱えるアシェルは、家族への期待をやめて、早く家を出たいと望んでいたが。
それが叶う日は、突然にやって来た。
ウォーラー侯爵とその令嬢ソフィアが、アシェルを迎えに現れたのだ。
それは家に居場所のないアシェルの、ちょっとした思い付きから始まった行いが結んだ縁だった。
こうして王都を離れ侯爵領でのびのびと健やかに成長していったアシェルは、自分が美しいことも忘れていたくらいだったから、自身の美貌の余韻が王都の社交界にて壮大な物語を創生していたことに気付けなかった。
仕方なく嫌々ながら戻ってきた王都にて、大事な人を傷付けられて。
アシェルは物語を終わらせるとともに、すっかり忘れ去っていた家族たちとも向き合うことにした。
そして王都に新しい物語が創生する。それは真実に則った愛の物語──。
※さくさく更新して完結します。
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる