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第三章 第四部 女神の秘密
2 魂の器
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『そのためにも話さなければなりません。今から半世紀ほど前にわたくしが感じた異変のことを』
「分かった、そんじゃとりあえず聞く。けど、とっととやってくれ」
『分かりました』
トーヤもそのまま黙り、光が一度瞬いて話を続ける。
『新しいシャンタルが誕生した後、いつもは次のシャンタル、次代様と呼ばれる赤子を宿す母の存在を感じます。ですが、その時にはその存在を一切感じませんでした』
「なんだと?」
思わずトーヤがそう言うが、
「悪い、黙るから続けてくれ」
そう言って光に譲る。
『二千年続く時の中で初めてのことでした。それまでも次の母、親御様と呼ばれる候補の者の存在を感じる感覚が薄くなっているようには感じておりましたが、それでも常に何名かはおり、その中から次の魂の種にふさわしい者を選ぶことができてはおりました。それが、数代に渡り、1名か2名しか感じることができません。それまでも世情に合わせてか、増えたり減ったりはしておりましたので、また増える時もあるだろうと思っておりましたが、その時には一つもその影が見えませんでした。そのことにわたくしはとても焦りを感じたのです』
聞いている者たちにはあまりよく分からないことではあるが、声が言う「焦り」に少しばかり緊張が走る。
『そして、次のシャンタルが誕生せねばならぬ時が近づいてきても、やはり何も現れない。これは、シャンタルを受け取る者を宿す力が弱くなっているからであろう、それを認めぬわけにはいかなくなりました』
沈黙の中、静かに光だけが流れ続ける。
『魂の種は神の国にあり、そこから人の世に降りてくる時を待っております。その中から次のシャンタルにふさわしい種を選び、宿るにふさわしい肉体を宿す母を選ぶ。そうしていつも次のシャンタルは誕生していたのです。それがいつまで待っても宿るべき母の存在が見えてはこない、種が降りるべき先が見えないのです』
「なんか、よくわっかんねえ!」
ついにたまりかねたベルの口癖が出る。
「おい、黙れって」
「だってよ、兄貴、こんなの分かりました、そうですかって聞いてられる話じゃねえぜ!」
「いや、それはそうだが」
確かに妹をなだめるアランにしても、どう受け止めていいのか分からない話ではある。
「なあ、あんた」
さすがにトーヤが口をはさむ。
「このバカにも分かるように、もうちょい分かりやすく説明してやってくれねえかな、頼む」
「誰がバカだよ! そんじゃトーヤは分かってんのかよ!」
「いや、俺もよく分からん。だからもう一度説明してくれって言ってんだよ。三度目がなくて済むように、おまえにも分かるようにな」
「むうっ!」
ベルがあからさまに不満の意を表すが、トーヤが自分もよく分からないことを認めたことと、確かに分かるように言ってもらった方がいいと思ったことからそのまま黙る。
「つまりあれですか」
ディレンが落ち着いた声で光に尋ねる。
「いつもだったら新しいシャンタルが産まれたら次に産まれてくるシャンタルが待機してるはずなのに、その時にはいつまで経っても次のシャンタルが産まれる気配がないので次の準備ができなかった、そういうことですか」
『その通りです』
光がディレンに答える。
「そのままほっといたらその時産まれたシャンタルで最後になってたかも知れない、そういうことですな」
『その通りです』
ディレンの言葉と光の答えに全員がざわめいた。
「あっさり言うなよな、それって大変なことじゃねえか」
トーヤが皮肉そうに少し笑いながらそう言う。
『その通りです』
「けど、今はまた次代様が控えてるよな。だから、結局その時は乗り切れたってことでいいんだな?」
『その通りです』
「それ、どうやって乗り切った」
トーヤの言葉に光は一瞬だけ弱く瞬いたが、
『それを今から話さねばなりません』
そう言って、また話を続ける。
『ディレンが申した通り、そのままではその時のシャンタルが最後のシャンタルになってしまう、そのような事態でした』
「最後のシャンタル」という単語にみながあらためて危機感を覚える。
『わたくしたちは考えました。いかにしてこの危機を乗り越えるかを。そして一つの結論を出しました。魂の種を受け取るべき清らかな器を用意することを。その器に魂の種を入れ、新しいシャンタルを誕生させることを』
驚くような話であった。
「器ってなあ、なんだよ!」
思わずベルがそう言って立ち上がる。
「器って、いれものってことだよな? なんだか聞き捨てならねえ言い方じゃんか!」
ベルはこの三年を共に過ごした仲間のシャンタル、宮で出会ったラーラ様とマユリア、そして当代シャンタルのことを考えると、怒らずにはいられなかった。
「それって人のことだろが! それをいれものだあ? おれの仲間やその家族をいれもの扱いすんなよな!!」
「おい、黙れ」
トーヤがそう言っていきり立つベルをなだめるが、
「でもな、俺もこの馬鹿と一緒だ、あんまりいただけた言い方じゃねえよな」
「あやまれよ!」
ベルが涙を浮かべて光に抗議する。
『ごめんなさい』
驚いたことに光が素直に謝罪をした。
「分かった、そんじゃとりあえず聞く。けど、とっととやってくれ」
『分かりました』
トーヤもそのまま黙り、光が一度瞬いて話を続ける。
『新しいシャンタルが誕生した後、いつもは次のシャンタル、次代様と呼ばれる赤子を宿す母の存在を感じます。ですが、その時にはその存在を一切感じませんでした』
「なんだと?」
思わずトーヤがそう言うが、
「悪い、黙るから続けてくれ」
そう言って光に譲る。
『二千年続く時の中で初めてのことでした。それまでも次の母、親御様と呼ばれる候補の者の存在を感じる感覚が薄くなっているようには感じておりましたが、それでも常に何名かはおり、その中から次の魂の種にふさわしい者を選ぶことができてはおりました。それが、数代に渡り、1名か2名しか感じることができません。それまでも世情に合わせてか、増えたり減ったりはしておりましたので、また増える時もあるだろうと思っておりましたが、その時には一つもその影が見えませんでした。そのことにわたくしはとても焦りを感じたのです』
聞いている者たちにはあまりよく分からないことではあるが、声が言う「焦り」に少しばかり緊張が走る。
『そして、次のシャンタルが誕生せねばならぬ時が近づいてきても、やはり何も現れない。これは、シャンタルを受け取る者を宿す力が弱くなっているからであろう、それを認めぬわけにはいかなくなりました』
沈黙の中、静かに光だけが流れ続ける。
『魂の種は神の国にあり、そこから人の世に降りてくる時を待っております。その中から次のシャンタルにふさわしい種を選び、宿るにふさわしい肉体を宿す母を選ぶ。そうしていつも次のシャンタルは誕生していたのです。それがいつまで待っても宿るべき母の存在が見えてはこない、種が降りるべき先が見えないのです』
「なんか、よくわっかんねえ!」
ついにたまりかねたベルの口癖が出る。
「おい、黙れって」
「だってよ、兄貴、こんなの分かりました、そうですかって聞いてられる話じゃねえぜ!」
「いや、それはそうだが」
確かに妹をなだめるアランにしても、どう受け止めていいのか分からない話ではある。
「なあ、あんた」
さすがにトーヤが口をはさむ。
「このバカにも分かるように、もうちょい分かりやすく説明してやってくれねえかな、頼む」
「誰がバカだよ! そんじゃトーヤは分かってんのかよ!」
「いや、俺もよく分からん。だからもう一度説明してくれって言ってんだよ。三度目がなくて済むように、おまえにも分かるようにな」
「むうっ!」
ベルがあからさまに不満の意を表すが、トーヤが自分もよく分からないことを認めたことと、確かに分かるように言ってもらった方がいいと思ったことからそのまま黙る。
「つまりあれですか」
ディレンが落ち着いた声で光に尋ねる。
「いつもだったら新しいシャンタルが産まれたら次に産まれてくるシャンタルが待機してるはずなのに、その時にはいつまで経っても次のシャンタルが産まれる気配がないので次の準備ができなかった、そういうことですか」
『その通りです』
光がディレンに答える。
「そのままほっといたらその時産まれたシャンタルで最後になってたかも知れない、そういうことですな」
『その通りです』
ディレンの言葉と光の答えに全員がざわめいた。
「あっさり言うなよな、それって大変なことじゃねえか」
トーヤが皮肉そうに少し笑いながらそう言う。
『その通りです』
「けど、今はまた次代様が控えてるよな。だから、結局その時は乗り切れたってことでいいんだな?」
『その通りです』
「それ、どうやって乗り切った」
トーヤの言葉に光は一瞬だけ弱く瞬いたが、
『それを今から話さねばなりません』
そう言って、また話を続ける。
『ディレンが申した通り、そのままではその時のシャンタルが最後のシャンタルになってしまう、そのような事態でした』
「最後のシャンタル」という単語にみながあらためて危機感を覚える。
『わたくしたちは考えました。いかにしてこの危機を乗り越えるかを。そして一つの結論を出しました。魂の種を受け取るべき清らかな器を用意することを。その器に魂の種を入れ、新しいシャンタルを誕生させることを』
驚くような話であった。
「器ってなあ、なんだよ!」
思わずベルがそう言って立ち上がる。
「器って、いれものってことだよな? なんだか聞き捨てならねえ言い方じゃんか!」
ベルはこの三年を共に過ごした仲間のシャンタル、宮で出会ったラーラ様とマユリア、そして当代シャンタルのことを考えると、怒らずにはいられなかった。
「それって人のことだろが! それをいれものだあ? おれの仲間やその家族をいれもの扱いすんなよな!!」
「おい、黙れ」
トーヤがそう言っていきり立つベルをなだめるが、
「でもな、俺もこの馬鹿と一緒だ、あんまりいただけた言い方じゃねえよな」
「あやまれよ!」
ベルが涙を浮かべて光に抗議する。
『ごめんなさい』
驚いたことに光が素直に謝罪をした。
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